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too-noy 2016-7-31 11:21
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プロ ローグ
時系列はリユートによる邪龍討伐の数日前にさかのぼる
——恋という概念を初めて知ったのは一年前に読んだ物語の中でだつ
た0
私の名前はリリス。姓はない。
性別は女。年齢は十五歳。
胸は……まな板という形容がふさわしい。
身長は百五十センチに満たず、ちんちくりんという形容がこれほど似 合う女もいないだろうと自分でも思う。
ちなみに、私の仕事は龍王様の図書館の司書だ。
基本は脳味噌までが筋肉なのが龍族の特徴で……故に、この仕事は純 粋に暇だ。
他にやる事もないので、暇つぶしには丁度良いという事で私が本に興 味を持つのも必然だったのだろう。
魔術書や学術書等は一ぺージを理解するのに時間がかかる。故に私は そういった書物を好んで読む。
が、時には英雄譚のような物語に手を出す事もある。
初めてそういった類の本を読んだのは一年前だろうか。
そういったヒロィックな物語には必ずヒロィンが登場し、恋に落ちて ハツピーエンドとなる。
何冊かそんな話を読んだ事があるから、私も恋という概念を言葉では 理解できる。
しかし、経験のない事を概念……あるいは知識として以上に深く理解 する事は非常に難しい。
けれど私も一応は女だ。
恋するこ女という気持ちが、あるいはその精神状態が一体全体どうい うモノなのかを、上辺だけの知識ではなく実際に知りたいとは思う。
「........亦心愛..か」
埃っぽい室内。
いつもの如く、眠たげな瞳で魔術書に目を通しながら私はそんな事 をひとりごちた。
そしてなぜかあの人の事が脳裏に浮かぶ。
「.....全く、あの人は何をしているのだろう」
リユートが龍の里を飛び出して行ってからニ年が経った。
あの後、龍の試練で父さんを屠ったリユートは龍の里における私の後 見人というか……身元引受人となった。
で、そのまま彼は一人でどこかに旅立ってしまったのだ。
『……一緒についていきたい』と言う私にリユートは首を横に振った。 リユートが言うには私が強くなるためには今現在のこの環境が最適だ
と言う。だからこそ、リユートの旅路には同行させないのだと。
確かに、そこらの魔法大学院であれば厳重管理されているような貴重 な魔術書の類が、そこらに無造作に置かれているような状況は……世界 広しと言えどもあまりないだろう。
そして去り際に彼が私に残した言葉が三つある。
一つは、ニ年後に必ず戻ってくるという事。そしてその際には言い付 けを守っていれば、リユートについていっても良いという話だった。
二つ目、私に一通りの魔術の基礎知識を身に付けておくように……と ぃう事。
そして最後の一つは……。
ゴーン。ゴーン。
と、その時、館内に鐘の音が響き渡った。
それは夕没を告げる合図で、私の就業時間が終了したということを意 味する。
椅子から立ち上がり、書類を片付けていく。
龍王の大図書館は龍の里の住民登録その他の雑務も行っているが…… 先述のとおりに基本は暇だ。
受付カウンターの下に置かれているナップザックからサンドイッチと 水筒を取る
一口かじり私はサンドイッチの端をロに含んだまま立ち上がつた。 もぐもぐと咀嚼。
戸締りを終え、周囲を軽く一瞥し、歩き始める。
——歩く先は出口ではなく、図書館の奥だ。
幾層もの埃が積もる、そんな長い長い廊下を延々と歩く。 突き当たりにあるのは、幾重もの防性魔法に守られた堅牢なる鋼鉄の ドアだ。
懐から鍵を取り出し、私は重苦しい音と共にブ厚いドアを開く。 開いた先は螺旋階段となつている。そのまま私は下方に向けて歩を進
めていく。
どれほど歩いただろうか。途中、先ほどと同様のドアに再度遭遇す
る。
今度は鍵ではなく掌をドアにピタリとくつつける。
---指紋認証という奴だ。既に、この階層はセキュリティーという意
味では洒落にならない領域に達している。
更に螺旋階段を降り、再度似たようなドアと遭遇する。
「司書リリス」
言葉と同時にロックが解除される……これは声紋認証。
更に私は螺旋階段を降りていく。
どこまでも、どこまでも降りていく。
そうして私はようやく迪り着いた-------ここは龍王の大図書館の最下層
で、最も厳重に管理されている区域だ。
私は懐に手を入れる
最後のドアのロックを外す鍵は……龍王様から直々に賜った……許可 を意味する宝珠による認証なのだ。
「..良し」
一呼吸置いて、掌に取った龍王の宝珠をドアにかざす。
と、ひとりでにオリハルコン製のドアが開かれていく。
そこまでの厳重なロックの全てを突破し、よぅやく私の目の前に広が る空間。
それは一辺が五メートル程度の立方体で……端的に言えば小部屋だ。 具体的な内装としては中心部に机が置かれていて、厚さ三十センチ程 度の本が置かれているといぅ形。
椅子に座ると同時にブ厚い本を手に取る。
---秘術書:エクシオ•ドラグディンゲン。
言うまでもなく、このセキュリティーの全てはこの書物のためだ。
平たく言えば、コレには龍族の生み出した魔術の極限が記されている 訳で、故に最上位のセキュリティーで保護されている。
魔術とは通常、汎用魔法とオリジナル魔法の二種類に大別される。
例えば炎系で言えば沉用魔法はファイア^ —ファイア^—ボ^—ルフレ ア、ハイフレアとなつている。
基本魔法と呼ばれる領域はファイア^ —とファイア^ —ボ^—ル。
そしてフレアとハイフレアがそれぞれ上位魔法、最上位魔法となつて いて、一般的に汎用魔法と呼ばれる領域はそこまでとなる。
一般的に強者と呼ばれる領域の魔法使いになりたいのであれば……ハ イフレアを使えれば十分だ
それを扱う事ができるレベルであれば、冒険者ギルドでベテランと肩 を並べても、それなり程度の活躍ができるだろう。
しかし、一般的な強者ではなく、個人として戦術兵器と呼ばれるよう な……つまりは英雄の領域になつてくると話は違う。
そこから先は汎用の魔術ではなく、オリジナルで開発された術式を身 に着ける必要があるのだ。
そこで、そういった術式の取得法が問題となってくる。
汎用魔術であれば、ある程度の基礎ができていれば……後は努力の問 題で、適性さえあればモノにはできる。
実際、元々、私は父さんに魔術師として仕込まれていたし、ここニ年 は魔術書にずっと目を通していた。
故に、全分野での基本魔法は既に習得済みとなっている。
が、上位魔法や最上位魔法で言うのであれば……純粋に私のレベルと ステータスが足りていない。
故に、その領域であれば使えないものが大半だ。
が……少なくとも知識としては習得しているので、ステータスの使用 条件を満たせばすぐに扱う事はできる。
---そして今、私がこの部屋でやっている事。
それは汎用魔術の最上級魔法の……更に上の領域の魔術知識——つま りはオリジナル魔法の習得だ。
一般的にオリジナルの魔法を身に付けるために、最もポピユラーなの は大魔導土に師事する事だ。
魔術にも流派があり、オリジナル魔法とはそのものズバリで武術の秘 伝に近い物がある。
物凄く単純化して説明するのであれば、それは高位の内弟子の中での み共有されて身内だけで更に研ぎ澄まされていくよぅなシロモノであ る。
オリジナル術式と言えば流派一門の歴代の高弟達の血と努力の結晶な のであり、門外不出となるのも当然の事だ。
身に付ける事が至難の技である事は当然として、そもそもの魔術書に 迪り着くまでの下積みが必要であり、相当な時間がかかる。
そして、私の目の前にあるこの魔術書も当然、本来は閲覧するには相
当の権限が必要なものだ。
基本的には龍族は肉弾戦がメィンだ。
だが、地龍族の一部には変わり者が——私の父さんもそうだったのだ けれど——存在する。
この魔術書はそういった有志が作り上げた術式の体系が記された、門 外不出のものであるのだ。
必然的に、私程度の者に本来は閲覧の許可は出ない。
が、リユートと龍王様でこんなやりとりがあった。
『おい龍王』
『なんだい? リユート?』
『リリスにエクシ才•ドラグディンゲンの閲覧権限を与えろ』
『ふむ。おかしな事を言う……っていうか命令口調か……ハハっ。まあ いいや。で……アレは龍魔術だから普通の人間には扱えないよ? 龍と 人間では脳の構造が根本的に違うからね。必然的に魔法を組む際の脳内 術式も展開の仕方が全く異なる』
『まあ、そうだろうな。パソコン用に組んだプログラムやらアプリやら がスマートフオンで動くわけがないって理屈だな』
『プログラム?』
『いや、気にしなくていい』
『ふむ。まあそれはいい。エクシオ•ドラグディンゲンの閲覧権限を与
えるのは構わない。けれど、魔法としての質は格段に落ちるが-----------------<間
でも扱えるオリジナルの高位魔術書は図書館にはいくつもある。そう いった魔術書の閲覧権限でいいんじゃないのかい?』
『いや、それじゃあ困るんだ』
『困る?』
『リリスは俺についてきたいって言ってるんだよ』
『ふむ?』
『だったら龍魔術程度は使ってもらえないと……俺が困る』
『ハハッ……龍魔術程度ときたか……これは良いね。分かったよ……確 かにここで学ぶ事ができる中では最強の魔法だ。種族の壁をどうやって
突破させようとしているかは分からないが……好きにするが良い』 それから、私は一日も休まずに仕事を終えてからの時間……深夜まで この作業を毎日行っている。
つまりは、図書館に泊まり込み、秘術書に記されている魔術式の一文 字一文字を脳に植え込んでいくという作業をしているという訳だ。
そう---毎日毎日気の遠くなるような程の時間、言いつけを守って、
ずつとずつと同じことをしているのだ。
ぺージを繰り、そして一呼吸ついた。
「..脳に術式をィンプットする事はできるが.........しかし私は龍ではな
ぃ」
膨大な量の情報——既に概ね七割方は魔法式として頭の中に入ってい
る。
私もある程度の魔術知識があるから分かる。
この魔術書に記載されている術の数々は、極大魔法と言っても差支え のないレベルのものばかりだ。
しかし……やはり私は龍ではないのだ。
魔法式という名の定型句を脳内にィンプットしたとしても、脳内の魔 力回路でシステムエラーとなり……魔力は途中で飛散し、術として外部 の物理法則に干渉することはない。
それは犬や猫に声帯を駆使して言語を喋れと言う程の無茶。
理論上、私が龍魔術を行使する事は不可能なのだ。
「……これに一体何の意味があるというのだろう」
そこで私は溜息をついた。
が、すぐに首を左右に振る。
何度も繰り返した自問自答。リユートがやれと言ったからそれに従う しかない。
どの道、私には他にやる事もない。
あの日、リユートは私を置いて........一人で旅立ってしまった。
日く、『ニ年後に必ず戻ってくる』とのことで、課題をクリアーして いれば一緒に連れていってやっても良いとの話だった。
それから七百六十日余りが経過した。
約束のニ年はとっくに過ぎている。
------今思えば、あの言葉は私を言いくるめるための方便だったの
だろう。
父さんを屠った時に、彼が欲しかったのは……結局のところスキル: 神龍の祝福だけだったのだ。
あるいは、あの時のその場の勢いで『連れていってやる』みたいなこ とを言っていたが、冷静になって考えも変わったのだろう。
私の事が邪魔になって……とはいえ、ストレートに『やっぱり連れて
いけない』と切り捨ててしまうのもやりづらいという事で..........そして訪
れたのが現況だ。
「..ふう」
約束のニ年が過ぎてから、ここ一か月余り……私の日常は溜息に覆い
尽くされている。
「……期待なんてさせずに……課題なんて出さずに……切り捨ててくれ れば良かったのに」
生まれた時から不運続きで物心ついた時には既に奴隸だった私。 父さんが死んでから本当に……凍て付いてしまった私の心。
ぁの日……彼が『来るか? 一緒に』と尋ねてくれた時、何故だか私 の心に光が差し込んだ気がした。
そして彼と共に見る外の世界を想像して……不覚にも胸が躍ってし まつたのだ。
そんな事を思い出していると、視界が涙で霞んでくる。
目から出た涙が零れないょぅに私は天井を見上げる。
「……バカバカしい。本当に……バカバカしい。来るはずのない男の言
いつけを守って七百六十日.......毎日毎日....本当に....」
魔術書を閉じて私は立ち上がった。
そして、ぅんと額き決意する。
——再度……私は心を凍て付かせよう。心が動かなければ期待もしな い。期待をしなければ傷付かないし落胆もしない。
うん。
私はこの図書館でずっと生きていこう。
どうせ生きる事なんて死ぬまでの暇つぶしだ。ここなら暇つぶしには 困らない。
死ぬまでの全ての時間を読書に費やしても……蔵書の一割に目を通す 事もできないだろう。
「……バカバカしい。本当に……バカバカしい」
ドアに向かうと同時に頰を涙が伝った。
ローブの裾で涙をぬぐってドアノブに手を伸ばす。
と、その時こちら側からではなく、逆側からドアノブが回され---------------------ド
アが開いた。
「……あっ」
私の言葉と同時、あっけらかんとした能天気な声が室内に響いた。
「少し遅れた。今日でニ年と……一か月と少しだな」
背丈が大分伸び、体付きもガッシリとした風に見える。
けれど屈託のない笑顔は私の記憶にある少年と完全に一致した。
「........リユ1ト?」
「いきなりだが本題に入らせてもらぅ。お前に出した課題だが……魔術 は使えるか?」
本当に呆れた。
龍の里に来たのも突然なら、出ていったのも突然。
そして帰ってきたのも突然で、挨拶をする間もなくいきなりの単刀直 入。
本当に忙しい男だ。
「……基礎なら……全部。ステータスさえ満たせば……上位も最上位も 含めて汎用魔法は全て扱える」
「龍魔術は?」
「……アレは私には使えない」
「そんな事は分かってる。使える使えないの問題じやなくて……どこま で習得している?」
「……私の種族が龍族なら……そしてステータス条件を満たせば……七 割方の術の行使は可能」
「良し」
ニッコリと笑ってリユートは私の頭を無遠慮にワシワシと撫でまわし た。
リユートに触れられると同時、私はどぅしていいか分からなくなっ て その場で固まってしまぅ
まつ毛を伏せると同時に頰が瞬時に熱を帯びていく。
恐らく私は今……猛烈に赤面している。
「後、アイテムボックスのスキルはどうなつている?」
それは課題とは言われていなかったが、余力があれば習得しておいて 欲しいと、あの日に言われていた事項だ。
「……指示通りにそれは鍛えに鍛えた。スキルレベルはマックスで…… 今なら少量であれば……ボックス内の時を止める事も可能で生鮮食品の 運搬もできる。ちなみに通常運用であれば一トンまでなら収容可能」 「上出来だ」
リユートは嬉しそうに笑い、更に乱暴に私の頭を撫でる。
本当に乱暴だが、何故だかそれが非常に心地好い。
胸が締め付けられるように高鳴り、爆発しそうな程にドクンドクンと 脈打つのが分かる。
「リリス。良く頑張ったな」
褒められた。
その瞬間に頰だけではなく、上半身全体が火照りそうなほどの熱を帯 びた。
「アィテムボックスの関係は、村人である俺には才能限界の関係でどう にもできなかったから……助かるよ」
「...ねえリユート? 聞いてもいい?」
「なんだ?」
「どうしてこんなに時間がかかった? どうしてすぐに……一緒に連れ ていってくれなかった?」
「俺自身がまずは強くならなくちやいけなかった……俺の行く道は全て 危険な場所だ。だからまずはお前を守れるように……俺自身がな」
「...うん。それで?」
「それでって言うと?」
「強く……なれた?」
うんと頷きリユートは自信に満ちた表情を作る。
「そう思ってなかったら、お前を迎えに来ちやいねえよ」
迎えにきたというフレーズで、更に私の胸の鼓動は一段と高鳴ってし まう0
本当に頭の中はパニックで……何と言っていいか分からない。
でも、確かな事が一つある。
——報われた。
この図書館で……このニ年間私がやってきた事、その全ては今この瞬 間に報われたのだ。
「あと...リリス?」
「..何?」
「お前のために探していて、そしてようやく手に入れた指輪だ。受け 取ってくれるな?」
「..?」
懐から指輪を取り出したリユートは私の左手を手に取った。
そして中指に指輪を嵌める。
「..え?」
本当にどうしていいか分からない。
左手の中指の指輪……これはこの大陸では婚約の指輪である事を意味 る
もう、本当の本当に、何がなにやらわけが分からない。
リユートの笑顔と頭を撫でられる感覚。そして左手中指に嵌められた 指輪。
頭がフットーしそうになりそうな中、ただ一つだけ私は理解してい た。
断言しよう。
私は今、これまでの人生で一番嬉しい。
うん。本当に.......報われたのだ。
そんな私の心境を知ってか知らずか、リユートはあっけらかんとロを 開いた。
「それじゃあ行くぞ?」
「..どこに?」
「邪龍の討伐だよ。これから俺の生まれた村に戻る。龍王の預言による と、俺の幼馴染が……独力では確実に死ぬらしい。だから助けに行く」
「..え?」
「で、そっから先はちよいっとハードだ。俺が今まで旅していた場所が どこか分かるか?」
「..人類の生息圏外?」
「そぅだ。魔族や魔物の総べる魔界だとか呼ばれる場所か、あるいは、 ほとんど誰も足を踏み入れたことがない極地だとか秘境だとか言われる 場所だな。このニ年間俺が巡っていたところはSランク級冒険者でも回 れるよぅなィージーモードの場所だったんだが……今回はちよっとへ ヴィーな箇所まで潜る。世界中を巡って徹底的に俺とお前を鍛え上げ る。そして……一年後」
「……一年後?」
「十六歳になった俺の幼馴染は魔法学院に入学するんだよ」
「..それで?」
「そして、俺もお前も一緒にそこに入るんだ。陰から勇者をサポートす るために」
はは……と私は呆れ笑いを浮かべる。
龍の里を出た時点でリユートは、Cランク〜Bランク級の、十分に強 者と言える冒険者程度の実力は身に付けていた。
そして今の会話からすると、たつたニ年でAは愚か、Sランク級の壁 を突破したよぅだ。
Sランクと言えば個人で戦略級の戦力を有する事を意味していて、田 舎の小国であれば単独で壊滅させる事が可能な程度の、無茶苦茶な戦力 である事を意味する。
どぅにも私を取り巻く環境は、想像もつかない状態にまでスヶールが 大きくなつているらしかつた。
「お前を迎えに来るのが遅れた通り時間は切迫していてな……悪いが夜
明けまでに荷物をまとめてくれないか?」
「……了承した」
本当に忙しい男だ。
嵐のよぅに現れて嵐のよぅに過ぎ去っていく。
私もボヤボヤしていると......この男についていけずにすぐさま振り
落とされてしまうだろう。
そんな事を思いながら私は笑みを作り、そして思った。
——恋という概念を初めて知ったのは一年前に読んだ物語の中でだつ
た0
確かに知識として知ったのは物語の中で……だと思ぅ。
けれど、ニ年と少し前のあの日あの時、彼と出会った時から、既に私
はその概念を感覚として完璧に理解していたようだ
名前
11
sK
職業 年齢 状態
レベル
HP M P
攻撃力
ヒュ^—マン
魔術師 十五歳
魅了 (重度)
8
3
6 5 0/ 650 2 11 o o y/ 2 11 o o lx o 5
防御力:15 o 魔力:4 2 o 回 避:3 5 o 強化スキル
【身体能カ強化:レべル10(MAX)】
通常スキル
【初級護身術:レべル10(2八><)】
魔法スキル
【魔カ操作:レべル10(MAX)】
【生活魔法:レべル10(3八><)】
【初歩攻撃魔法:レべル10(2八><)】
【初歩回復魔法:レべル10(“八><)】
【中級攻撃魔法:レべル10(2八><)】
【中級回復魔法:レべル10(“八><)】
【上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限にょり使用不可)】
【上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【龍魔術:レベル7 (種族及びステータス制限により一部を除き使 用不可)】
特殊スキル
【アィテムボックス:レべル10(MAX)】
【神龍の守護霊:レべル10(MAX)】
^©Soddba o m
"I om a villager, what about it?"
S會ory by Aro會〇 Shiroishi, llliisfro會ion by Fomy Siroso
Contents
プロローグ.................5
リリスと奴隸紋..............29
幕間 〜図書館の司書の独白前編〜....165
魔女からの依頼.............167
陽炎の塔................233
幕間 〜図書館の司書の独白後編〜....042
エピローグ...............347
あとがき
362
目次
too-noy 2016-7-31 11:15
プロ ローグ リリスと奴隸紋
~~〜図書館司書の独白前編〜 魔女からの依頼 陽炎の塔
~~〜図書館司書の独白後編〜 エピローグ
邪龍を討伐し、コーデリアと別れた俺とリリスは大陸北西部へとのび る大きな街道を歩いていた。
この街道は北西の港町と大陸内部を結んでいて、海路経由の交易品 や、あるいはサバやサーモンなんかの海産物の燻製などの運搬に使用さ れる。
したがって、道は整備されているし人通りも多い。
所々に宿場街や屋台なんかも出ているし、旅路には便利な事この上な
、o
V
ちなみに、港町なんかでは内臓の塩漬け……つまりは塩辛だな。 そんなのがあつたりもするらしい。
米と一緒にかっこむ事ができないのが残念だが、白ワィン辺りと一緒 に頂くと凄く美味しそうだ。
金銭的に余裕ができれば、いつかそういう事もやってみたいとは思っ ている。
と、まあそんな事を考えながら街道を歩いていたんだが、不機嫌そう にリリスが眩いた。
「……聞いていない」
「聞いてないって?」
「……幼馴染の勇者が女だなんて聞いていない」
まあ、一言ってなかったからな。
ってか、あの後は本当に大変だった。
コーデリアはコメカミに青筋を浮かべているし、リリスはジト目で俺 に責めるような視線を送ってくるし……。
その場の空気にいたたまれなくなった俺はリリスを抱えて逃亡して、 修行の旅の続きをしているという訳だ。
「そんなに怒るなってリリス。別に幼馴染が女だって隠していた訳じや ねーんだしさ」
「……やはり私は陰から勇者をサポートするなんて反対。北の勇者の事 なんて私は知らないし、人類に迫る破滅的大厄災なんて私やリユートに
は関係がない」
「そういう訳にもいかねーんだよ」
龍王日く、俺がコーデリアを助けた事によって、前回の歴史とは状況 が既に、かなりの程度で変わってしまっているらしい。
元々はゴブリン事件をきっかけにしてコーデリアの勇者としての自覚 が生まれ、彼女は自分を苛め抜く形での尋常ではない修練に打ち込むよ うになるはずだった。
が……今回、俺のせいでそれは行われなかった。
先日、邪龍アマンタの時に、今現在のコーデリアの状況は実際に確認 したんだが……。
元々の歴史ではアマンタはコーデリア単独で退ける事ができた。
が……実際に俺が見たアマンタとコーデリアの力量差は相当なもの だった。
恐らく コ^—デリアが二人いてようやくいい勝負ができるんじやな かろうかという風な有様だったのだ。
---間違いなく 俺が知っている十五歳当時のコ^—デリアよりも今
のコーデリアは弱い。
けれど、そんな事情を周囲は知らずに、既定路線どおりに彼女を人類 の決戦兵器として今後扱っていくだろう。
歴史が変わってしまった今では、コーデリア単独で物事を解決する事 は非常に難しいだろうと思う。
「やれやれ全く……面倒な事だ」
「••::面倒であれば止めればいい」
「だから、そういう訳にはいかねーんだよ」
リリスは頰をプクリと膨らませて左手の中指をこちらに見せつけるよ うにかざした。
そして俺を睨み付け、詰問するかのようにロを開いた。
「……そもそも私は指輪を貰っている。左手の中指に貰っている。こん
な事は聞くまでもないが.......私と幼11染のどちらが大事?」
何やら勝ち誇った表情のリリスに、俺は首を傾げながらこう言った。 「ぁぁ、その指輪な。夜魔の指輪っつって、他者からのMP吸引が可能 になるとんでもないレアアィテムだ。絶対に失くすなょ?」
そこでリリスはキョトンとした表情を浮かべた。
「..え?」
「ん? どうした?」
「……MP吸引……って……レアアィテム……って……いや、でも、左 手の中指……」
「ん? 別につける場所は右手の中指でもいいぞ?」
そこでリリスは何かに気付いてその場でしゃがんで頭を抱え込んでし まつた。
「おい? どうしたリリス?」
リリスに向かって俺は歩み寄る。
そうして立ち止まったところで---------俺はリリスが泣いている事に気付
ぃた。
それも涙をにじませるとかの微妙な感じではなく、大粒の涙をポロポ ロ零す感じのマジ泣きだった。
「おいリリスっ!!なんで泣いてるんだょ!?」
リリスが立ち上がると同時、俺の頰に思いっきり平手打ちが炸裂し た。
「.....常識が.....なさ過ぎる.....」
何故だか分からんが思いっきり殴られた。
ったく……指輪にいったい何の意味があるってんだ?
左手の薬指って訳でもあるまいし。全く、女心って奴は良く分から ん。
と、俺はそこで進行方向に向き直り、異変に気付いた。
延々と続く街道を道行く人々が全員——道の中央を避けて脇に寄り始 めていっていたのだ。
「ん? どぅしてみんな脇を通ってるんだ?」
そこでリリスは不快の色を隠しもせずに吐き捨てた。
「……リユートは本当に常識を知らないょうだ。左手中指の指輪の意味 も知らないし……今の状況も分かっていない……頭が……痛い……」 「まあ基本は田舎暮らしだったから指輪なんてつけてる人もいなかった し……龍の里に暮らし始めてすぐに魔界やら未踏の極地やらを飛び回っ ていたし……」
「……それは私も同じ事。物心がつけば私は奴隸で、そしていつの間に か龍の里に住んでいた」
「じゃあ何でお前は常識を知ってんだょ?」
「……私は龍の図書館の司書。常に本に囲まれて暮らしてきた」
「俺はスキル:數智で前回の人生の時は本を読みまくってたんだが な?」
「……リユートは自分が強くなるという観点でしか読む本を選んでいな い。だから常識がない」
「なるほど。で.....どうしてみんな脇を通ってるんだ?」
「……大貴族の一団が後方から来ている」
「何だありゃあ?」
従者に先導された馬車が数台。それぞれの馬車を囲うように騎乗した 甲胄の男が十数名。
更にそれを囲うように歩兵と雑用番と思われる平服の連中。
人数の総数は五十〜百名程度だろうか。
その中心には一際煌びやかな馬車がームロ。
恐らくそこに大貴族とやらがいるのだろう。
「……王族かそれに近しいレベルの人間が長距離の移動中だと思われ る」
「いや、大袈裟すぎねーか? 下手すれば百人近くいるぞ?」
「そんな高貴な人間が……武装した野盗集団なんぞに万が一にも襲われ ないためにあの規模にしている。あるいは自らの権威と威光を示すとい う意図もあると推測される」
無駄に煌びやかな馬車と大袈裟な人数を見て、俺は溜息をついた。
それに、従者の人件費を考えるとそれは正に冗談のような金額だろ
Aっ。
こういったところに血税が使われている訳で……と、生まれ故郷のク ソ田舎に残してきたこっちの世界での父親と母親を思う。
どれだけ働いても朝から晚まで働き詰めでも暮らし向きは良くはなら ない訳で……。
と、そこで道を通っていた人達は、歩みを止めて平伏を始めた。 表情が引き攣っている事から、道を空けないと貴族の不興を買うか何 かでタダではすまないのだろう。
「俺も平伏しといた方がいいのか?」
「••::好きにすればいい」
「好きにすれば......っつ^~と?」
つっけんどんにリリスは言い放った。
「……大貴族の不興を買ってボコボコにされようが、あるいは不敬罪で 投獄されようが.......好きにすればいい。リユートの寧なんて.............私はも
う知らない」
「ボコボコにされればいいって..........」
本当に怒ってやがるなこいつ。
ってか、こいつってこんなに感情を露わにするょうなキャラだった か?
いや……この場合はそれほどまでに俺がリリスの逆鱗に触れちまっ たって事だょな。
そうして俺は地面に膝をついて平伏した。
「...リユート? I
「どうしたんだ?」
リリスもまた、俺に追従しながらその場に膝をついた。
「……意外に素直で驚いた」
「権力者相手に大立ち回りするってのもな……」
そこでリリスは降参だとばかりに両手を挙げた。
「...貴方はSランク級冒険者の実力を持っている。こんな小国の大貴
族程度なら……文字通りに力で何とかなる可能性は高い」
「そうなのか?」
強くなったとは思っていたが、今の俺はそのレベルなのか。
何というか感慨深いな。
とは言っても力で貴族を何とかしてしまっては、それはただの犯罪者 なりテロリストだろう。
その場を何とかできたとしても……次は国家で、その先は国家連合 で、最後には世界の敵と認定される。
正直なところ、流石にそこまでの包囲網を敷かれてしまうと、どうに かできる自信はないな。
そうなってくると、やはりここは平伏しておくのが正解だろう。
と、そこで馬車の内の一つが俺の眼前で停止した。
「..?」
怪訝に顔を上げてみると、馬車の中からでっぶりと肥え太ったチョビ ヒゲの中年男が降りてきた。
宝石で彩られた豪奢な衣装。
男は俺の眼前に仁王立ちを決めてこう言った。
「そこの女....面を上げろ」
言われたとおりにリリスは顔を上げる。
そこで男は醜く表情を破顔させ、リリスの顎を親指と人さし指で掴ん
だ。
「ふむ……貴様は……逃亡奴隸か?しかも性奴隸だな?」
「……何故その事を?」
そのまま男はリリスの右手を掘む。
「馬車に乗れ。街で奴隸商会に引き渡す。そして道すがら……可愛がっ てやろう。いや、状況によっては貴様の身請けをしてやってもいい」 強引にリリスを立たせる。
男はそのまま引きずりこもうという勢いで、リリスを馬車に向けて 引っ張っていく。
そうしてリリスは俺に助けを求めるように視線を送ってきた。
そういえば、奴隸紋の関係の処理は何もしてなかったな……と俺は溜 息をついた。
逃亡奴隸が捕まった場合は奴隸商会を通じて、本来の奴隸の持ち主へ と返還される事になっている。
確か、奴隸紋による制約……というかそのままの意味で呪術の類なん だが、逃亡奴隸は『奴隸商会に連れていく』と宣言した者の命令には、 その目的を遂行するに正当な範囲で逆らえないという文言があったはず だ。
「おい、オッサン.....ちよっと待てよ」
俺の言葉に中年男が振り返り、面倒くさげにこう言った。
「何だ? 下郎? 俺がファシリア王国の国王陛下の弟------------大貴族と
知って....ロを利いているのだろうな?」
あんまりな言い方に俺はあんぐりと大口を開いた。
「幾つか聞きたい。まず、どうしてリリスが奴隸だと分かった?」
「たまには...下郎の者と話をするのも見聞を拡げる意味では有効か。
よかろう、質問に応じてやろう」
隠す気もない嘲りの視線。
なるほど、ファンタジー世界なだけあって……貴族様は中々にファン タジーな性格に捻じ曲がっていらっしやるようだ。
「俺は大貴族だ。そうであれば大量の奴隸の所有者でもある。そうであ れば……当然に持っている訳だ」
「持っている? 何を?」
そんな事も知らないのか、という風に中年男は俺を鼻で笑った。
「奴隸紋の探知機だよ。俺の性奴隸の飼い方はかなり荒っぽいので な……逃亡奴隸が多数出る訳だ」
「……なるほど。で、もう一つ聞きたい事がある。身請けとは……どう いう事だ?」
「通常、逃亡奴隸を発見した場合、商会に引き渡して幾らかの謝礼を受 け取って奴隸は持ち主の下に返還される。ただし……長期間行方不明と なっている奴隸の場合は所有権の所在が曖昧になるのだよ」
不動産所有権の時効成立みたいなもんか?
まあ、何となく言わんとする事は分からんでもない。
「..で?」
「そうして逃亡奴隸は奴隸商会に引き渡される前に、女であれば味見を される訳だ。そこで今回の場合であれば俺のような立場の者が……気に 入る事もあるだろう? 特に、この奴隸は最上級の上玉……大貴族であ る俺でも滅多にここまでの上モノはお目にかかれない」
リリスに舐め回すような視線を男は送る。
下力ら上までをしやぶりつくすような感じで見ていて非常に不愉快
だ。
まあ、確かにリリスは相当に可愛い。
コ^—デリアのような思わず肩を呑んでしまうような芸術品的な意 味での美人ではない。
そうだな。芸術品と言うよりは、どちらかというと可愛いらしい感じ の容姿だ。
例えるならコーデリアは綺麗系の正統派女優みたいな感じで、リリス はアィドルグル^—フにロリ系でいそうな感じ.............。
と、そこで俺は吹き出しかけた。
リリスみたいな終始仏頂面の奴が、流石にアィドルグループにはいな いだろう。
いや、そんな感じの見た目ではあるんだけれども。
まあ、どちらも美形なのは間違いないがベクトルは全く違う。
「で、気に入った場合はどうなるんだ……?」
「過去に奴隸商会で何度も何度も揉めたらしいな。逃亡奴隸を見つけた 側が『金を払うから奴隸を寄こせ……!』『いや、この奴隸は俺のもん だから!』『でも、逃亡の途中に見つけたのは俺だろうが!』と、まあ そんな感じな訳だな。いやはや、性奴隸と言えどもそこは男女の仲だか らな、嫉妬や独占欲、あるいは純粋に恋心が絡んで……色々あったらし ぃ」
「..で?」
男は三本指を立たせた。
「三年ルールが設けられたのだ。逃亡後三年以上経過しているのであれ ば、金貨十枚を支払えば身請けができるとな」
ちなみに、この世界での貨幣価値は金貨一枚が日本円で言う百万円に 相当する。
一千万円での身請けという事だから、それは結構な金額だ。
「大貴族様よ……悪いんだが、この女奴隸を連れていくのは止めてもら えないか?」
「ふむ? そりやあまたどういう理由でだ?」
「この女奴隸を見つけたのは俺だ。そして街の奴隸商会に連れていく最 中だったんだよ。それで金貨十枚で身請けをする予定だったんだ」 「貴様のような下郎がそのような金を持っているとは思えん/?)'?」 懐から袋を取り出してロを開く。
そこには宝石がたんまりと入っている。一つで最低でも金貨十枚程は するような代物の数々で--------中年男は大きく目を見開いた。
「あいにくだが、俺は結構金持ちだ」
「……確かに見かけによらず……結構持っているようだな」
チョビヒゲをさすりながら男は何やら思案している。
そうして、リリスの腕を掴んで馬車に向けて再度引っ張り始めた。 「あいにくだが、貴様のような下郎の言葉は聞けぬ」
「おい、待てよー.オッサン!先に見つけたのは俺だって言ってんだ ろうがよー.」
男は首を左右に振って俺を睨み付ける。
「俺はこの女奴隸を味見すると決めたのだ」
「んなもん知るかよ。勝手に決めてんじゃね^^ぞ!」
男は立ち止まり、そして俺に向けて断言した。
「大貴族がそうすると決めたのだ。これは決定事項である!いい加減 に頭が高いぞ……下郎がっ!平伏せよっ!これは命令である!」
と、そこで俺は気が付いた。
中年男の股間……ズボン越しに勃起しているのがハッキリと分かる。
「確かに、こいつは性奴隸の紋が刻まれているかもしれねーけどさ」 俺の言葉を既に中年男は聞いていない。
性欲のスィッチが入つてしまつているのだろう、鼻息を荒くして今に もズボンを脱ぎ出しそうだ。
馬車に引きずり込まれれば一分以内にコトが開始されるだろう。
ああ、とそこで俺は軽い頭痛を覚えた。
「こいつはモノじやねえんだよつー.」
気が付けば中年男の顔面に、俺の挙が吸い込まれるようにめり込んで ぃた。
「そぎや....ぶっ!」
大きくのけぞり ーメートル程吹っ飛ぶ。
そしてゴロゴロと肉ダルマがニメートル程転がり、ようやく勢いが弱 まり停止した。
「ひやっ! ひやっ! ひやあああああああああああああああ 寝たままの姿勢。
上半身を起こした大貴族の額に紫色の特大のタンコブが見る間に膨ら んでいく。
恐らく、額の骨に軽くヒビが入ったはずだ。
「きさ、きさ、きさまっ! 俺に! 俺に! 大貴族に! 何を! 何 をしている!」
俺は頰をポリポリとかきながらこぅ言った。
「殴った。以上だ」
痛みも忘れて、ポカンとした表情を大貴族の豚は浮かべる。
「殴ったって....開き直られても.....」
そぅして、気が付けば俺は取り巻きの--------騎乗した騎士達に四方を囲
まれた。
その総数は五名程度か。
一瞬だけ、闘気と同時に殺気を解放する。
馬達は野生の本能からか状況を正確に理解したようだ。
証拠に、怯えの色を混ぜた大音響の嘶きと共に、手綱を握る騎士達 のコントロールを無視し——騎士達を乗せたまま、四方八方に散って ぃった。
「おい、騎士共!どこに……どこに行く! 馬すら御せぬとは何事 か!」
ぶっちゃけ、そりゃあ無茶振りってもんだ。
俺が馬ならやっぱり逃げてるからな。
と、そこで大貴族を庇うように、その眼前に上半身裸の浅黒のマツ チヨが現れた。
そこで大貴族は安心したかのように表情をほころばせた。
「ふふっ!待ちわびたぞ……最強の挙闘士……冒険者ギルドでも猛者 中の猛者にしか与えられぬBランク級……しかもその上位にランキング される冒険者メリツサよ! 今すぐにこの狼藉者をひっとらえろ!」
大貴族の説明台詞に、マツチヨ男はコクリと頷いた
そして無言で俺に向けて構えを取った。
「糖えからしてキックボクシング..........いや ムエタィに近いか?
で...構えたって事はもう、こっちから仕掛けても良いのか?」
俺の言葉を受け、マッチョ男ではなく、大貴族が応対した。 「キックボクシング? ムエタィ? 何の事だ……?」
「一一一一口っても分かんねーだろうから説明しねーょ」
「ふふ...まあ良い.....お前、こやつの通り名を知っておるか?」
「通り名?」
ニヤリと笑って、大貴族はこう言った。
「——人呼んで、鮮血の絶対領域」
「..?」
「こやつの手足の届く距離……概ねニメートル半径は、こやつの絶対領 域と呼ばれている」
「つまりは制空権に入った瞬間に……?」
満足げに頷き大貴族は言った。
「全ての者は血塗れだ」
「なるほど……カウンターの名手か……で、手足の届く範囲……だった よな?」
先程から、メリツサと俺は小刻みに距離と間合いを取りあっていた。 そして現在の距離差は十メートル程度。
俺は不敵に笑い、地面に膝をついてクラウチングスタートの姿勢を取
る。
そこで、今まで無表情を貫いていたメリツサの表情に笑みが走る。 そぅして、大貴族の笑い声が周囲に響いた。
「ふはは!真正面からメリツサに挑むだと? 挙闘士の恐ろしさを知 らぬと見える——それでは、超絶技の領域にまで達した……規格外の力 ウンターのいい的だぞ?」
大貴族は大笑いしながらメリツサに視線を送り、メリツサもまた半笑
いで大きく頷く。
どうやら、俺の行動が無謀だと取られたらしい。
そうして、俺は呆れたように口元を吊り上げる。
いや、事実として俺は呆れているのだ。
--なるほどさすがはBランク級で止まつている冒険者だ俺を相
手にするなら、ちょいつとばつかし無能に過ぎるだろ。
「彼我の実力差も分からねーか……俺にカウンターを喰らわせるなんざ 二十年早いぜ?」
小声で独り言ちると俺はスタ^—トダッシユを決めた 手加減をして音速突破は止めておく。今回は身体能力強化関連の術式 は使用しない。
一瞬で距離を詰めて、そして俺は感嘆の溜息をついた。
「へえ……」
前言撤回。
Bランク級もそこまで捨てたもんじやない。
実際、身体強化なしとは言え、俺の速度は新幹線位は出てるはずなん だけどな。
こいつ——的確に反応しやがった。
そうして、メリツサの右ストレートが俺に向けて繰り出された。 軌道を読むに、多分、俺の顔面に綺麗に当たるルート。
「……だが、おあいにくのょうだな」
直撃を受ける前に、右斜め三十度の方向に俺は飛んだ。
直線状に、くの字の軌道を取る。
そうして----俺はメリツサの真横を経由し、その背後を取った。
「よいしょつと!」
大声と共に俺は飛び上がり、回転蹴りを放った。
ソバット。
加減された打撃は——後頭部に綺麗に決まり、瞬時にメリツサは白目
を剥いてその場で倒れた。
ドサリと、重たい音と共に、メリツサは地面に沈んだ。
しばしの沈黙。
状況を上手く把握できなかったらしい大貴族様は、概ね十秒の時間の 後に、ようやく状況を認識して、こう声を出した。
「あわ...あわわ.....」
そうして俺は、怯える大貴族に向けてウインクをした。
「で...どうする? I
「フアつ....フアつ....」
俺は満面の笑みで……まあ、狂気にも見えるような突き抜けた笑みを 浮かべて大貴族に迫る。
大貴族は腰を抜かしてその場でプルプルと震え始めた。
と、そこでジヨロジヨロと嫌な音が聞こえた。
そして地面に広がる染み。汚いなこいつ……漏らしやがつた。
蒼白な表情の大貴族に向けて、なおも俺はスマイルを崩さない。
「でさ……こいつは性奴隸の紋は刻まれているかもしれない」
リリスを指さし、俺は溜息をついた。
俺の言葉に、泡を吹きながら振り絞るように大貴族は声を出した。
「ひやつ....ひやつ....」
「けれど、決してモノじやねえ。というか……こいつは俺の……俺の大 切な奴等の一人なんだよ。ある程度の侮辱までは我慢ができるが……性 的な狼藉は……誰が許そうが、俺が許さねえ」
そうして俺は右手を突き出し、大貴族の鼻の先端にもつていく。 「二度と手を出すな膝野郎!」
デコピン。
ただし、その速度は尋常ではない。
パキョンつとコントのような音が鳴る。
同時に、鼻骨を粉砕。即時に濁流のように鼻血が溢れ出る。
「あびやっ……あびやびやああああああああああああああ----------------」
聞くに堪えない重低音と共に、俺は立ち上がる。
そうしてリリスの手を引いて道を歩き始めた。
大貴族の私兵達が行く手を阻む。
その総数は十名を超える。
運が悪く俺の正面に立っていた二人——その顎に優しくデコピンを決 める。
その効果は素人の成人男性がボクサーの世界ランカークラスから、顎 に綺麗に全力の打撃を喰らった程度だと思ってくれればいい。
不可避の速度で放たれた軽い打撃で、脳がシヱィクされた歩兵二人は そのまま糸の切れたマリオネットのようにクシャリと地面に倒れた。 未だ意識ある歩兵達に戦慄と恐怖が拡がっていく。
「-----どけよ」
ドスを利かせた声がトドメとなり、俺の眼前には、モーゼの十戒の伝 承のように道が出来た。
rおばX……お……め......え>又........お……ま.....え...X.……
は一体....?」
背後から、鼻から血を流しすぎて……半ば呼吸困難に陥った大貴族の 声が聞こえた。
「ん? 俺か?」
そぅして、俺は後ろに向けて手を振りながらこぅ言った。
「——俺は世界最強の村人だ」
大貴族のォッサンを殴り倒してからニ時間後。 俺とリリスは街道を歩いていた。
で、俺は今、困っている。
何故かと言うと先ほどからリリスが俺の手に絡み付いて離れないの だ。
指と指を絡めて手を握ってきたり、あるいは俺の腕にしがみ付いてき
たり....うつとうしい寧この上ない
「リリス?」
「……リユートは言った。私を大切な人……だと」
「いや、まあ、大切な奴等の一人だとは言ったょ?」
「..クフッ.....クフフつ......私は....リユ■—トの大切な.......クフ
フ……」
「リリス?」
「……リユートは言った。確かに言った。私を……大切な人だと……ク フつ……クフフフフつ……クフフつ……やはり中指の指輪……意味……
リユートは知っている........恥ずかしいから知らないふりをしていただ
け...クフフつ.....」
真面目に、リリスの様子がおかしい。
むしろ、ちよつと怖い。
まあ、それは良しとして……。
「奴隸紋はどうする? 被対象者の実力がほぼ無視された状態での洗脳 の呪術刻印だ」
「……今の買主……私は移送中に龍の里に行ったから、顔も見た事がな い……金貨十枚で身請けはできるという話。そうならばリユートが私の 主人となればいい」
「つつーと、どういう事だ?」
大真面目な顔で頷くリリス。
俺はそこで小首を傾げた。
「何言ってんだお前? 意味分かんねーんだが……」
見る間に、リリスの頰がリンゴ色に染まっていく。
too-noy 2016-7-31 11:15
「……朴念仁」
顔全体を真っ赤に染める。
そして、一大決心をしたかのように、リリスはこう言った。
「.....奴隸紋……それをリユートとの絆にしたいから。好きにすれ
ばいい私の全てを........リユ^—トの思うがままに.......」
俺とリリスの間に訪れる沈黙。
リリスは熱を帯びた艷っぽい湿った視線を俺に送ってくる。 しかし、俺はどうしていいか分からない。
見つめ合ぅ事数十秒。
遂に耐え切れなくなった俺はリリスに素直に疑問をぶつけてみた 「いや本当に意味わかんねーんだが」
そこでリリスはやれやれと肩をすくめた。
「……理解されなくていい。けれど、私がそれを望んでいると、その事 だけは理解してほしい」
「そうかよ。好きにしろ。ただし、買受けするにしても……制約関連は どうなるんだ?」
「……再契約扱いになると思うからリユートの好きにできるはず」
制約関連。
それは奴隸としての使用条件みたいなもので、労働奴隸はまだマシな 部類で、性奴隸になると最底辺の扱いとなる。
まあ、要は……どこまで無茶をしていいかという、そういう基本的な 約束事のようなものだ。
「当然の事だが、そのあたりについてはほとんど白紙にしておくぞ?」 そこで、リリスは不機嫌に片頰を膨らませた。
「.....私はリユートに......過度な制約を........束縛を.....された
い...そうする事で私は袢を感じる事ができる...........」
「ん? 何か言ったか? 今、物凄く地雷女みたいな台詞が聞こえた気 が...」
「……いいや、何も言っていない。リュートがそぅしたいなら。私はそ れでいい」
そこで、あまりにも小声で俺には良く聞こえなかったのだが……リリ スは何かを眩いていた。
「……しかし、まさに僥倖。ベストタィミング。幼馴染の勇者に…… これで一歩リ^ —ド ところでリュ^—ト?」
「何だ?」
「……どぅして私達は港町に向かっている? 船でどこかに移動する の?」
「いいや」と俺は首を左右に振って言葉を続けた。
「陽炎の塔って知ってるか?」
「代々の勇者が使用してきた聖剣の安置されている場所と聞いている。
恐らくは……近い将来にコーデリアHオールストンが装備する事になる 剣」
「ああ、その通りだ。そして俺の狙いはニつある」
「ニつ?」
「一つは港町ターレスの近く……まずは人界でリリスを短期間で、人類 の生息圏外でも通用する最低限のラィンまで鍛え上げる。そしてもぅ一 つは……陽炎の塔だ」
「……安置されている勇者の……神託の聖剣を盗み出すつもり?」
俺は呆れ笑いと共にリリスの問いに応じた。
「神託の聖剣って言っても対魔法の属性がついてる程度のアーティ ファクトだ。俺が使ってるエクス力リバーの神殺し属性の方が遥かに有 用だし、将来のコーデリアの装備をわざわざ盗む必要はねーょ」
とは言っても、人界で手に入る剣の中では最高クラスの性能なのも間 違いない。
そんなものを盗み出したら更にコーデリアが弱体化しちまぅ。
どっちかって言ぅと、是が非でも聖剣はコーデリアの腰の鞘に収まっ てもらわないと困るのだが。
---まあそれはおいといて。
そんなこんなで俺達はそこそこの規模と活気を誇る港町ターレスに迪 り着いたのだった。
魔界には二種類ある。
亜人である魔族が総べる地域と、獣に近い生態を持つ魔物が無秩序に 闊歩している地域だ。
そして、今現在のこの場所は魔族が総べる地域と、人間が総べる地域 の境目となつている。
言い換えるのであればここは人間の勢力圏と魔族の勢力圏の狭間に存 在する緩衝地帯だとも言える。
魔族は人間よりも平均的に個体の魔力が強い。
そして、人間よりも建前に縛られずに、欲望に忠実である事を抜きに すれば、基本的には人間と変わらない。
人間のそれと比べれば相当に自由ではあるが、社会形成のための最低 限の法律もあるし、殺伐とはしているが最低限の秩序もある。
が、ここは境界の世界。
人間界の法律も、魔族の法律すらも通用しない無法地帯だ。
^^そんな境界の土地に所在する都市:ヴィシユメール。
例えば、この都市におけるカジノ。
そこでは金が無くなれば、奴隸契約書に自らの名前をサィンすれば、 男であれば労働力、女であれば美貌に見合った金をすぐに貸してくれ る。
例えば、娼館や奴隸市場。
そこでは、男でも女でも、大人でも子供でも、亜人でも魔物でも、あ るいはそれが絶滅危惧種の獣であっても……金さえ出せば何でも買え
る。
酒場に入れば、人間の国では単純所持ですぐさま打ち首になるよぅな ドラッグがアルコールと一緒にメニユーに並んでいて、常にドラッグ パーティー状態だ。
武器屋に入れば呪いの武器やら、禁術指定の魔術の込められたモノや らで溢れている。
まさに無法地帯。
ただし、強盗や殺し、あるいは強姦の類はご法度となっている。 何故かと言ぅと理由は簡単だ。
ここは人間の金持ちと魔族の金持ちが金を出し合った結果産まれた、 一大レジャー施設なのだ。
街を支配するのは自警団による暴力を背景とした商組合。
金のために有益であれば、最低限のルールもまた、必然と定められる のが道理。
そして、そんな享楽と堕落に支配された暗黒街の目玉の一つが——円 形闘技場となつている。
そこは半径二百メートル程のコロツセウムだった
客席に囲まれた四角い石製のタィルで表面をコーティングされた円形 の試合場。
それは大人数の戦闘も考慮されていて半径五十メ^—トル程度とかな り広ぃ。
昼下がりの陽気の下、満員の会場の熱気は更なる高鳴りを見せてい た。
客席には二種類ある。
入場無料の自由席と、相当な値段を取られるが相応のサービスが受け られる観覧席だ
自由席の客層は最悪だ。
鉄火場の様相ゆえに一日で全財産をスってしまうような者も多いよう な有様で----皆一様に目を血走らせている。
客層としてはポロを纏った、宿無しの日雇い人夫の類も多く、その場 にいるだけで、中々に臭いも強烈だ。
しかし、観覧席となるとかなり様子が異なる。
シャンデリアと赤絨毯に彩られた部屋の中。
談笑に興じているのはナィスミドルの紳士や淑女。
皆が一様に立派な身なりの、国に帰れば大貴族や大商人といった風情 の連中ばかりだ。
だがしかし、そんな彼等のお目当てはただの殺戮ショーであり、どれ ほど肩書や服装が立派だろうが……ロクなものではない。
流石に彼等も趣味が悪いのは承知の上のようで、仮面を被ったり等の 最低限の変装は施している。
設備が豪華なだけに、半ば仮面舞踏会の様相を呈しているような室 内——全員の視線が試合場に向けられた。
視線の先。
試合場に現れた燕尾服と黒ハットという服装の男が、中央へ向かって 早足で歩いていく。
「レツデイイイイイイイイイイイイイイイッス&ジェントルマアアアア アアアアアアアンツー.お待たせしましたつー.それではああああああ あ本日のメインイベントを始めますつ!!」
風系魔法の応用で音声を増幅しているらしく、広大な闘技場の全てに その声が響き渡る。
「挑戦者!西の勇者……聖槍のオルステッドHョーグステンっー.ニ 十二歳っ!当代勇者の中では唯一成人しており、そのままの意味で戦 略兵器でございますっー.」
会場全体が沸き立った。
重低音が響き渡り、会場の外にまで伝わりそぅな程の熱気が巻き起こ る。
「史上最年少のSランク級冒険者認定は伊達ではありませんっ!前々 回の鮮烈なデビユー戦では数々のルーキーを瞬殺してきた闘技場の番
犬……討伐難度Aランク級の魔物:ケルべロスを……逆に瞬殺っ! 一 刀のもとに屠り去りましたつー.」
燕尾服の男が更に続ける。
「更に続くニ戦目-----Fニ戦全勝全殺のSランク級冒険者.......東方の
狂戦士:カジワラの刀を破壊し、勝者には相手を嬲る権利が与えられて
いるこの闘技場では珍しい------無血決着っ!虫唾の走るフヱアプレイ
精神で会場を覆い尽くさんばかりのブーイングが起きた事は記憶に新し ぃっ!」
そこで会場に、前回を彷彿とさせるブーイングが鳴り響いた。
「そして本日---当初契約により三戦目で王者への挑戦となり........同時
にこれがオルステッドの最終試合となりますっ!さあ皆さまお待ちか ねつ!ここで王者の登場となりますつ!」
会場のボルテージはここでマックスに達する。
何かが爆発したかのよぅに空気が震え、そして膨張し、炸裂音にも似 た歓声が一気に沸き上がった。
「六十七戦無敗! Sランク級を超えし者••::銀髪の魔剣士:エスリ ンHマクベスつ!」
割れんばかりの歓声を受け、燕尾服の男は更に言葉を続ける。
「今回は通常の対戦では賭けが成立しないので、王者側のハンディ キャッフ戦となります!!」
燕尾服の男の発言に眉を顰める、オルステッドはやれやれとばかりに ひとりごちた。
「勇者相手にハンディキャップか……私も本当に舐められたものだ」 そして試合場に大男二人が何かを抱えて登場した。
「ソレは……なんだ?」
大男二人が運んできたモノを見て、勇者オルステッドの表情が凍り付 いた。
——それは二十代後半の妙齢の女性だった。
豊満な胸とくびれた腰。
そして妖艷と言える艷めかしく肉々しい曲線を携えた臀部は女をア ピールするには十分過ぎるだろぅ。
銀髪の腰までの絹髪が彩る褐色の肌——薄布を身にまとっただけの彼 女には武器や防具の類は見当たらない。
「ソレとは……この女性……王者の事でしょぅか?」
燕尾服の男に引き攣った表情でオルステッドは尋ねる。
「だってソレには……手足がついていないじやないか」
だからこそ、オルステッドは驚愕しているのだ。
何しろ、本当に彼女には四肢が無く、今現在……大理石の床の上に文 字通りに仰向けで転がっているのだから。
「今回のハンディは四肢の全損ですっー•」
会場の熱気は最高潮に達した。
「当闘技場には優秀な医療魔術師が控えております!特殊な魔法で綺
麗に切断させておりますので、数時間のうちに治療をすれば-------------王者の
四肢はすぐに復活する事をお約束しましょうっー.」
血液の付着した包帯が彼女の四肢に巻かれており、それは細工が—— ほんの少し前に行われただろう事を意味している。
絶句したオルステッドは呆けた表情で王者:エスリンHマクベスに問 い掛けた。
「……聞く限り、貴方は剣士との事だが……四肢全損の状態で……この 私とどうやって戦うつもりだ?」
そこでエスリンは不敵に笑った。
「痛み止めのマンドラゴラのトリップで……多少は酔っばらっているケ ドね……? 私がアンタみたいな坊やに四肢が無い程度のハンデでどう にかされるって? こいつはとんだお笑い種ね」
「しかし、いくら何でもそれは……」
「私は強過ぎるんだ。普通にやってれば賭けが成立しないってもんで、
大体はハンデイキャップで……こういうスタイルなのさ」
「しかし……ダルマのような状態で……そこから何ができると?」 そこで試合開始の鐘が鳴った。
すぐさま、鐘の音を搔き消さんばかりの勢いで観客達が吠える。
「..ふふっ」
エスリンは笑いと共に腹筋で体躯を起こし、そして尺取り虫のように 飛び上がった。
「上半身のパネだけで.....跳んだ?」
が、オルステッドは冷静沈着そのものという風な落ち着いた動作で槍 を構える。
そうして迫りくるエスリンに対して迎撃の姿勢を取った。
「それなりの速度だが……甘いな。というか……正直失望した」
「失望? 何にだい?」
「確かにその体で動ける事は驚愕に値するが……ただそれだけだ。そも そも貴方と私にハンデイキャップが必要だったのかどうかも甚だ疑問
だ。貴方の動きは全てが予測される範囲内で……私の想定と反応速度を 超えてはいない」
槍をしごいてオルステッドはエスリンを完璧にとらえる。
「終わりだ……」
しかし、オルステッドの槍は空を切った。
「えっ?」
それはつまり-----残像を残してエスリンが消えたという寧。
「痛っ!」
と、同時にオルステッドは全力で前方に向けて跳躍する。
十メートル程前方に跳んだオルステッドはすぐに後方を向き直る。 「何をした?」
首の右方から濁流のように血を垂れ流すオルステッド。
彼の疑問に答えるように、つい先刻まで彼が所在していた空間の地面 に転がったエスリンは、赤い肉塊を吐き出した。
「……背後に回って頸動脈近辺の肉を食いちぎっただけさ」
「なっ...?」
と、同時にエスリンは再度……消えた。
「どんな手品を使って移動しているかは分からないが……そこだっー.」 右後方に向けてオルステッドは槍を繰り出す。
「手ごたえありっ! って……そんな馬鹿なっー.」
槍はエスリンに直撃していたが、そこで信じられない事が起きた。 空中で、歯だけでエスリンは槍の穂先を白羽取りしていたのだ。
「くそおおおっー.何なんだお前はっ!?」
そのままオルステッドは槍を振り回してエスリンを引きはがした。 明後日の方角に回転しながら飛んでいくエスリンは、やはり不敵に笑
Aっ。
「ふふっ----今のを避けるとは思わなかった。人間の勇者如きが----------------よ
くぞ私にそこまで食い下がったよ」
ゾヮゾヮとオルステッドの肌が粟立っていく。
それもそのはず、会話の途中で音の発生源が右斜め前方十二メートル
程から、自分の左耳元——数センチに変わったのだから。 「でも、これで終わり」
「うっ...うっ....うわあああああああああああああああ」
そして再度オルステッドの首筋に走る鋭い痛み。

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今度は左の頸動脈が持っていかれた。
これ以上の戦闘は不可能と判断し、オルステッドは両手を挙げた。
「……降参だ」
地面に転がる女を見下ろしながらオルステッドはそのまま両膝をつい た。
「あら? 戦闘中に両手を挙げるなんて.........不用心ね?」
オルステッドの両手首にほぼ同時に鋭い痛みが走った。
そして気が付けばエスリンは地面を転がりながら肉塊を吐き出した。 「くっ……手首の動脈までも……何が起こっている? 攻撃が全く見え ない……時間停止でも……時を操っているとでも言ぅのか?」
「ふふ。死に行く者にそれを言っても……仕方がないさね」
ドサリ……とオルステッドはその場に崩れ落ちた。
先程から、噴水と表現しても差支えのないレベルで失血しているのだ から無理もない。
オルステッドを中心に、大理石の床に血の湖が広がっていく。
と、そこでエスリンの背後から呆れたような声が発せられた。
「そやつは一応は勇者じや。年齢は二十ニ歳と大分成長しておるが…… それでもまだ伸びしろはある」
年の頃なら十歳と少し程度。
ツギハギだらけのクマのヌイグルミを両手で抱き、ゴシックロリータ 風の黒を基調にした仕立ての良い服。
どこまでも細い四肢は触れれば壊れそうな程にきめ細やかで繊細。加 えて膝までの金の絹髪。
そんな少女は甲高い言葉でエスリンに向けて言葉を続けた。
「まあ……現状はSランク級下位とは言え.............境界再編の際、亜人
や魔族も含めたヒト種の鬼札になりうる決戦兵器じや。それをこのよう な形で費消するのも……な」
「魔界の禁術使い……マーリン=オニキス……」
床を転がり、エスリンは上半身を起こした。
そして不満そうに _身がマ^—リンと呼んだ少女を晚み付けた。
「なんじや? 気に喰わんならワシが相手をしてやっても良いぞ?」
「冗談はよしておくれ。アンタと私では相性が最悪で……できればこっ ちはアンタとは二度と関わり合いになりたくないんだからね」
マーリンは掌をオルステッドに突き出した。
と、同時にオルステッドは淡い緑色の粒子に包まれて---------------傷が見る間
に塞がっていく。
「お主の四肢欠損も回復してやろうか? エスリンよ」
「どうして私が借りなくてもいい借りを、アンタに作らなくちやいけな いんだい?」
「全く変わらぬのう……。そうじや、それはそうとこの前、面白い十五 歳の子供と出会うたのじやがな?」
「面白い子供? 十五歳……ひよっとして勇者の中で最年少……北の勇 者の女の子の事かい? アンタの趣味にどうこう言うつもりはないけれ ど、お節介焼きで今まで面倒に巻き込まれてきたんじやなかったのか
ぃ?」
「いいや違う。勇者ではなくてじゃな……ただの村人じゃよ」
「村人にアンタが興味を示したってのかい?」
「さすがにただの村人と言うには語弊があるかの。まあ、少なくと も……半年ほど前の私の知っている彼は……せいぜいがAランク級の中 位つてところじやな」
「十五歳の村人でAランク級の中位か..........よくぞそこまで.......と言って
あげたいところだけどねえ.........」
「けれど?」
「眼中にないさね……そんな雑魚」
「いやいや、それはあくまで半年前という話で、奴ならば今はSランク
の中位か.....あるいは上位まで来ておると思うぞ?」
「半年でそこまで……まあ、確かに成長速度はとんでもないけど、現時 点では私やアンタからすると雑魚には変わりないさね」
「ふふ……しかし、いつか奴は……まず間違いなくワシの領域まで来る
じやろうな。まあ良い、一つ預言をしておいてやろう」
「預言?」
頷きながら甲高い声でマーリンは続ける。
「そう遠くない未来にお主はその村人と必ず出会う」
「つていうと.....どうしてなんだい?」
「奴の当面の目的は陽炎の塔じゃからじゃよ。そして目的は……聖剣の 間ではなく更に奥にある」
「……なるほど。それじゃあ私と確実に出会うだろうね? そしてそれ を教えたのは......」
「そう。ヮシじゃよ。いや……正確に言うのであれば奴は眉唾の知識と してはソレは知っておった。結果的にはヮシが情報の信頼度を最高レべ ルにまで補強してしまつたという事じゃな」
「確実に死ぬというのに……何故?」
「穢れのない瞳で……強くなる方法をヮシに尋ねてきたからの。奴が魔 術師なら……ヮシの知識を数十年かけて仕込んでも良かったのじゃが、
奴は剣士じや。で、あれば……手っ取り早く人間を辞めるのであれば、 陽炎の塔じやろう? そう……お主のようにな」
「……弟子に取ってもいいって……人間嫌いのアンタがかい? それほ ど気に入っているのなら……絶対の死地を何故教えたのかね? 全 く……理解に苦しむさね」
フフっとマーリンは自嘲気味に笑った。
「本当に何故じやろうか……でも、思ったものは仕方がない」
「思ったって.....何を?」
「リユートなら、お主に勝ってしまうかも............とな」
一笑に付し掛けたが、そこでエスリンは真面目な表情を作った。
「私が負けるとは思わないが.........けれど少なくとも.......アンタがそう思
う程度の相手ではある........ということかい?」
「現時点で奴にお主が負けるとは……さすがにヮシも思わんが……」
ともあれ.....とマーリンは言葉を続けた。
「生物としてのランクを一つ上げるための試練。強くなるための道とし
てこれほど分かりやすいものはないからの。必ず近い将来にリユート= マクレーンはお主のところに迪り着く」
魔界と人間界の境界の闘技場において、四肢欠損のハンディキャップ 戦をもってすら不敗を誇る絶対王者エスリンHマクベス。
そして地上最強の村人:リユート=マクレーン。
——接触の時は近い。
ターレスの港町。
ヵモメが宙に舞い、どこまでも青い晴天の下、気の荒い漁師や荷運び 人夫の怒声が飛び交う。
サバ街道の始発地点でもある——にぎわう港を横切って俺達は街の中 央に向かう。
多くなる人通りに比例して石畳の道が広くなっていく。
道を挟む建物も立派なレンガ造りの建物に変わっていく。
串焼きや雑貨の屋台がチラホラ見えるようになった辺りで、俺達の目 にその店が飛び込んできた。
看板にはアムリス宝石商と書かれていて、かなり古ぼけている外観を した二階建てのレンガ造りの建物だ。
聞くところによると、この店は街唯一の宝石商ということだ 俺達はノックと同時にその店に入つた。
——数分後。
柔和な笑みを浮かべながら髭面の店主がロを開いた。
「はは、冗談を言っちゃいけねえ」
俺が小袋からぶちまけた宝石の内の一つをつまみながら店主は続け た。
「これはブラックオパール……つて言いたいんだよな? 本物なら一粒 で買い取り価格は金貨十枚だぜ?」
そこで半笑いになりながら、店主は赤ちゃんの挙サィズの紫の宝石を 手に取った。
「で、ブラックオパールが一番安価な品物ときたもんで……後は本物な ら目玉が出るよぅなシロモノのオンパレードだ。例えばこれは特大のア
メジストって言いたいのか? このサィズだと世界的なオークションで 取引されるよぅなもので、こんな場末の宝石商じゃあ値段もつけられな ぃ」
更に店主は言葉を続ける。
「龍宝珠に金剛石、ブルークリスタルにオリハルコンの細工を施した指 輪……どこぞの王室の歴代の隠し財産なんだよ。それを薄汚いガキ共が 小汚い袋にミッチリつめて持ってこられても……な」
これを見つけたのは極地の深部……古代文明の旧都だ。
王族か大貴族か……とりあえず金持ちが残した蔵っぽいところから拝 借したので、マジモンなのは間違いない。
「いやいやいや、信じられない気持ちも分かるけどさ。本物なのは本物 なんだよ」
そこでリリスも俺に口添えをした。
「……リユートは嘘をついていない。この中で一番安い宝石……ブラッ クオパールを通常の仕入れ価格の半分の金貨五枚でいいから……買って
もらえればお互いに助かるはず」
リリスの言葉を鼻で笑い、店主は眉間にシワを寄せた。
「いい加減にしないと衛兵呼ぶぞ……クソガキども」
「..全く。どこまでも分からず屋..........これは本物だと言っている」
「だから衛兵呼ぶぞってんだよ、クソガキ共っ!」
そこでリリスも眉間にしわを寄せた。
「……衛兵を呼ばれる筋合いがない。宝石商に宝石を売りに来て何の問 題がある?」
店主は店の奥に控えていた雑用の十二歳くらいの小僧に声をかけた。 「おい、お前丨こ 「は、はいつー.」
「今すぐ衛兵を呼んでこい!」
小僧が走り出しそぅになったところで、俺の頭痛はマックスになっ た。
とりあえず、俺の脇を通り過ぎそぅになった小僧の首を掴んで持ち上
げる。
「すまないな。衛兵は勘弁してくれや。後.........リリス? 宝石を片付け
てくれ」
そこまで言って小僧を床に降ろす。そして店主に向けて頭を下げた。 「これ以上は止めておくよ。すまなかったなオッサン」
そこで店主はフンと鼻を鳴らした。
「偽物を掴ませるにしても、もう少し現実的にやるんだな? まあ、俺 のような目利き相手では何をどうしようが本物を持ってこない限りはど うにもならんがな! ハツハツハツハー.」
今にも嚙み付かんばかりにリリスは店主を睨み付けるが、俺は彼女の 手を引いて店を後にした。
宝石商からの帰りの道すがら、俺は屋台で何だかよく分からない肉の
串焼きを三本買った。
ニ本は俺で一本はリリスだ。
「どぅやら高価過ぎたみたいだな……」
「……しかし偽物ではない」
「でも……そりやあ、偽物と思われるだろ」
現代日本でも、質屋に数億円とか数十億円の宝石を、中学生か高校生 の子供が持ち込んでも相手にされない事態は十分に想定される。
だから、そこには俺も疑問は思わない。
「……でも……偽物ではないのだから」
しかしリリスは本当に不満げな表情だ。
「だからさリリス? そこはこの際……問題じやねーんだって」
そこで俺は串焼きをロに入れた。
美味い。
何の肉だか分からない謎肉だが、カップ麵に入っている系の……良い 意味での謎肉だ。
「リリスも食えよ。これめっちゃ美味いぞ?」
ふむ……としばし考えてリリスは串焼きをほおばつた。
「.....美味しい」
「な? 美味いだろ? 感動モノだよな?」
そこでリリスは不思議そうな顔をした。
「••::感動? 確かに美味しいのは美味しいが、それは普通に美味しい という意味」
「舌が肥えてるんだなお前?」
「……私の生活は……基本は質素なハズ」
まあ、それはさておき......と、俺はその場で頭を抱えた。
「不味ったな……どうやって金を工面しようか」
現実的に、すぐに金を作るのは難しそうだ。
帝都や王都のオークションなりに出品すれば、流石に偽物扱いはされ ないだろうが、そこまでの往復と手続きの時間が惜しい。
コ^—デリアが魔法学院に入学するまで既に一年を切っていて時間が
ないのだ。
元々、しばらくの間はリリスのパワーレべリングの予定だった。
最低限の実力を身に付けさせた後に頃合いを見て人界を出る。そして 魔界やら極地やらの最深部まで潜って、超高ランクの魔物を狩りまくる 予定だった。
で、そのためにはリリスの持つアイテムボックスは必要だ。
今までそこに挑戦しなかった理由の一つは純粋に実力不足だったから で、そこは既にクリアーした。
今なら挑戦できる自信もあるし、実際に実力もあると思ぅ。
そして二つ目はアイテムボックスのスキルを俺が持っていなかったか らだ。
食い物や水、そして生活物資の全てを現地調達ってのは、数か月に及 ぶ遠征の場合は現実的ではない。
現状、リリスはアイテムボックスのスキルをマックスまで上げてい る。
従って、今回は両方共にクリアーされた訳だが……。
「リリスを奴隸から解放する以前に、物資を買い込む資金すら作れない じやねーか……」
「..お金が作れないって.......何を言っている? そもそも龍王様から
貰った金貨はどぅした?」
そぅいえば最初に龍王から、かなりの枚数の金貨を貰った気がする。 「最初の装備を整えた後に速攻で捨てたよ」
「捨てた?」
リリスは目を大きく見開いた。
「街の中ならいざしらず、遠征中に金なんて嵩張るだけで何の役にも立 たないだろ? 金貨ってのは重いんだせ? そんなもんを持つ位なら水 を少しでも多く持っていくよ」
「……重たい? 金貨が?」
そしてリリスはポカンとした表情を浮かべた。
「..ん?」
「ん?•」
「.....ん?」
「ん?•」
眉間に人差し指をやり、リリスは深い溜息をついた。
「話が嚙み合っていない」
「だから、長旅には金貨は無駄な荷物だろぅ?」
「……それは分かる。確かにそれは分かる……が……リユートのMPa 無尽蔵なはずで……アイテムボックスの容量は……とんでもないはず」 「ん? 何が言いたい?」
「当然、所持しているアイテムは高価な物ばかりのはずで……高価過ぎ ないよぅな換金アイテムも幾らでも持っているはずで……いや、それ以 前に金貨を捨てる意味が分からない」
「..?」
「アイテムボックスとは一種の空間魔法であり重力魔法でもある。重力 係数は意味をなさず、質量の概念はあれども重量の概念は雲散霧消す
る。必然的に金貨程度の体積で嵩張るという発言は……」
ああ、その事か。
要は便利な四次元ポケットがあるんだから重いとか、そういう事は_ 係ないだろうという話だな。
それはまあその通りなんだが……。
「何のためにお前にアイテムボックスを鍛えさせたと思っているん だ?」
「...どういう事?」
「俺は基本は手ぶらだ。リュックサックに入っているのは水だけだ。極 限状態での命のやりとり……そんなサバイバルに金貨みたいなもんは邪 魔でしかなかったんだよ」
「...え?」
「だからアイテムボックスを俺は使えないんだって」
「呆れた……五桁を超えるMPを持っていて……アイテムボックスすら 使えないなんて。というか……貴方が持ち帰らなかった秘宝や魔物の素
材、そしてアーティファクトの数々は天文学的な金額になるはず」
「まあ、しやあないだろ」
心底呆れたという風にリリスは大口を開いた。
「.....いやそこを......しやあないで.....すませるの?」
「過ぎた事だろうに」
「..本当にどうにかしようと思えば........ある程度はどうにでもできた
はず。もったいない事この上ない」
「だから宝石は小袋に詰めてたんだがな。しかし、街に立ち寄るなんて 一年ぶりで……ずっと人里離れたところで野宿生活だったし……まさか 宝石の換金を断られるとは思いもしなかった」
「……それにしたってこんな高価な宝石の数々……少し考えれば分かる はず。本当にリユートは常識がない」
「だからまあ、それはしやあないだろつて」
「……仕方なくない。実際にそれで今……お金がなくて困っている」 互いに顔を見合わせて大きく溜息をついた。
「..ところでリユート? 貴方はさっき持ち物は水だけだと言った」
「ん?•」
「……食生活的な意味で貴方は普段はどんな生活をしていた?」
そぅだな....としばし俺は思案に耽る。
「魔物肉はたくさん食ったな」
「..魔物肉? イノシシとかそっち系?」
「それは大当たりの部類だな。他にも熊やらライオンやらの獣系は当た りの部類だ」
「ライオン系の魔物は不味いと聞く」
「いやいや、美味いぞ? 本当に喰って酷いのはゾンビ系だ」
そこでリリスは困惑の表情を浮かべた。
「..ゾンビ系? 食べる.......?」
つていうか、困惑どころか……あからさまに引いている。
どうにもこいつは、ゾンビという言葉で何かを勘違いしているらし
ヽ0 b
そこで、俺は苦笑しながら言った。
「ゾンビっつってもアニマルゾンビだぞ? さすがに人間のゾンビは喰 ゎなぃ」
「...ちょっと待つてリユ—^-」
「ん?」
「色々とおかしい」
「何が?」
「ゾンビとは生ける死体。つまりは腐っている」
「ああ、そうだが?」
「……人間のゾンビは論外として、そもそも……ゾンビは食べ物ではな
「とは言っても、喰えるなら...........どうしようもない時は食べるしかない
だろう?」
「...え?」
「貴重なタンパク源だからな」
「...話題を変えようリユ '—トがお金を持たずに...............それこそとんで
もない状況で旅をしていた事は理解した」
ドン引きの表情でリリスは言葉を続ける。
「けれど……いつもいつでも人間の勢力圏外を巡っていた訳ではないと 思う」
ああと頷き俺は言った。
「極々稀に……人界と魔界の境界の田舎なんかには立ち寄った事はある
よ」
「……そんな時はどんな宿に泊まっていた?」
「なんせ金が無かったからな……そんな田舎には換金施設なんてねー し……宿に泊まった事なんてねーよ」
「食事は?」
「喰わないか、あるいは残飯を漁つていた」
リリスは押し黙り、そして天を見上げて胸の前で十字を切った 俺はどうしていいか分からずに、ただその場で黙りこくる。
長い、長い沈黙の後、リリスは涙を浮かべて聖母のような優し気な微 笑を浮かべた。
「...リユー卜?」
「何だ?」
「……貴方は強い。それはもうとても強い。稼ごうと思えば幾らでも稼 げる。だからこれからは稼ごう。そして美味しいものを食べよう。そし て……たまには……フカフカとは言わない。せめて暖かいベッドで寝よ
Aっ」
「美味しいものか……ああそうだな。余裕ができたら食ってみたいな」 日本にいた頃大好きだった、母親の作ったカレーが何故だか脳裏によ ぎった。
と、そこで俺の腹の虫が盛大に自己主張を始める。
まあ、串焼きニ本で成長盛りの十五歳の体が足りるはずもないから仕 方ねーか。
「...リユー卜?」
「なんだ?」
「……少し贅沢して美味しいご飯を食べよう。大銀貨数枚程度なら私は 持つているから」
大銀貨って言うと日本円で言うと一枚十万円位か..................。
とりあえず当面の生活には困らなさそうだなと思つたところで、俺は 溜息をついた。
完全にヒモじやねーか……我ながら情けない……と。
龍昇軒。
中華っぽい名前の店だが、普通に洋食系のレストランだ。
鶏肉やらトカゲ系のソテーが有名な、そこそこの格式の店との話だ。 そこで実食……ってなもんで、鶏肉のソテーとパンを搔っ込みながら 俺は思わず叫んだ。
「美味えなこれ!」
「……そりやあ……アニマルゾンビに比べれば美味しいだろう」 「いやいや、ラィオンの肉に比べても全然美味いぞ!」
「...え....あ.....う.....う ん....そり やあ.......ま
あ..................鶏肉だから」
何とも言えない表情をリリスは作る。
「そぅいや、お前はゾンビは食った事がねーのか?」
「……先程から言っているがゾンビは食べ物ではない。腐っている」 さっきから、リリスが俺を見つめる視線が若干冷たい。
ドン引きしているらしい事は分かるが..........さすがにそこまで言われる
と心外だ。
「お前な……ちよっとゾンビを馬鹿にし過ぎじやねーか? そもそもお 前な? 発酵食品って知ってるか?」
「……発酵食品?」
「チ^ —ズやら漬物やら....広«の意昧ではヮィンなんかの酒もそぅなる
のかな? そぅいった食品はとても広い意味では……腐っているっての と同じなんだよ。で、何が言いたいかっつーとな? つまりはある意味 ではゾンビ食と通じるところがあるんだよ」
「..ゾンビとチーズは違う」
即答された。
まあ、そうだろうな。
かなりの無茶があったのは俺も分かっていた。
「..ねえリユート?」
「なんだ?」
「……今後リユートに何かがあって……例えばお金がなくなったとし て。腐肉や残飯を食べざるを得なくなった時」
まあ……戦闘で脊髄やらの神経系をやられれば十分に可能性のある話 ではある。
思いつめたような表情のリリスに俺は恐る恐る尋ねた。
「で?」
「……そんな時は私に言って欲しい。幸いにも私の見た目は良い。そう であれば、私はどんな事をしても貴方を養うから」
「..え?」
無言の俺に対し、リリスは微笑を浮かべた。
「……私達の未来が金運に恵まれなかったとして……やはり基本は清貧 でいきたい。貧しければ私も勿論手伝ぅし、共働きも当たり前。でも、 それでどうにもならないなら……文字通り私はなんだつてやる」
too-noy 2016-7-31 11:14
何やら決意を込めた瞳でリリスは俺をじつと見つめてくる。
見つめ合ぅ俺とリリス。
正直、リリスが何を言ってるのか分からない。
それに妙に艷っぽい視線で俺の方を見てるし、私達の未来とか言って
るし……何なんだこいつは。
正直、反応に困る。
どぅしたもんか……と困っていたその時、背後の席から酔っ払いの声 が聞こえてきた。
「お前、知らないのかっ!?」
あまりにも大きな声だから思わず振り向いて確認しちまった。
見ると、酔っ払いのスキンヘッドの剣士と、長髪の魔術師が酒をあお りながらクダを巻いている最中だった。
いかにも駆け出し冒険者といった風な若者の二人組で、酒も回ってか なりご機嫌な様子だ。
といぅか、飲み過ぎだな。
顔を真っ赤にしてロレツも所々怪しい。
「知らないのかって......何をです?」
「奴隸紋にも十年の消費期限ってのがあるんだょ」
ん? 何だって? 今、あの剣士は奴隸紋の消費期限と言ったのか?
タイムリーな話題だけに、これは聞き捨てならないな。
俺とリリスは互いに頷き、同時に聞き耳を立て始めた。
「そもそも、奴隸紋というのは契約の魔法陣の一種だ」
「魔術師の私に剣士の貴方が説法ですか?これは滑稽だ」
剣士の言う通りに奴隸の紋章は契約魔法の一種だ。
それはもう強烈なレベルでの呪いの刻印となる。
「とはいえ魔術師のお前も消費期限十年ってのは知らないだろう?」 「確かに理論上、いかな契約の刻印でも……魔法陣に長期間にわたり魔 力供給を受けなければ……術式の消滅の可能性は高いですね」
本来、主人と奴隸は魔法陣を通じて微弱につながっている。
主人の扱う魔法陣が奴隸に刻まれているという形で、奴隸紋には主人 から極々微弱な魔力が供給されるという代物なのだ。
「ただし-——J
魔術師の言葉を剣士が制した。
「言いたい事は分かる。逃亡奴隸の末路なんて決まっている。人里で暮
らせば連れ戻されるし人里で窘らさないなら.............十年も経てば野塞れ
死にだ」
男の意見に俺も同感だ。
まあ、リリスは龍の里に連れていかれて保護者も有りっていう、そん な特殊な環境だから普通に生活できていた訳だしな。
そしてリリスの奴隸紋は今現在、主人と物理的な距離という意味で離 れ過ぎている。
故に魔力の供給が完全にストップされているという状態だ。
「で、この前場末の娼館で見たんだよ。元々は性奴隸として買われて、 極度の変態の飼い主のところから逃亡したって奴の話だな」
「それで?」
「奴隸紋を隠して娼館で働き始めたのはいいが、すぐに事故で顔全体に 火傷を負った。で、その事故が原因で逃亡奴隸だって事もバレたんだ が……顔が火傷で……飼い主からしても返品はノーサンキユーっていう レアケースになつた」
「その後……どうなったのですか?」
「飼い主から受け取り拒否されて、娼館としてもタダ飯を食わせる訳に もいかない。下働きをしながらその女は十年を娼館で過ごしたんだ」
「奴隸紋は?」
「奴隸の所有権の問題をクリアーしたとしても奴隸契約の更新に……幾 らかかるかお前なら分かるだろう?」
「金貨で一枚はかかるでしようね……愚問でした。それで?」
まあ、契約更新はされずにその後は奴隸紋は放置されたって事だろう な。
「その後、その奴隸は廃人になったんだよ」
「..廃人....ですか?」
「ああ」と剣士は頷いた。
「最初の兆候として奴隸紋の色彩が薄くなり始める。それから概ねニか 月……紋章の消滅と共に最後っ屁とばかりに最悪の魔法が発動する。つ まりは脳がな……焼かれちまうんだよ」
「なるほど。恐らくは契約の時点で脳内に時限式の爆薬……そういった ょうな魔法術式がセットされるのでしょう。そうして条件達成と同時に 魔法が発動すると。それにしても……最悪の方法での逃亡防止措置です ね」
剣士は大きく頷き、そしてエール酒をあおった。
「その女は神経系統の全てが焼かれてしまって……涎を垂れ流して…… 呼吸と排泄しかできなくなった。飯も喰えないってなもんで……すぐに 衰弱死したらしいな」
「ところであなたは、どうしてそんな話を詳細に知っているんです か?」
そこでガハハと剣士は醜悪な笑みを浮かべた。
「いや、やったからな」
「やつた....とは?」
「衰弱死するまでの間、何故に娼館がそんな奴を外に放り出さずに世話 をしたと思ってやがる? 最終的にその女は、その状態になったからこ
そ……性奴隸としての役目を勤め上げる事ができたんだょ」
そこで魔術師の男は忌々し気に首を左右に振った。
「世の中には……色々な性癖があるのですね」
「まあ、当然の事だが捨て値だったがな。珍しい状態ってだけじやなく て……更に言えば無茶苦茶にしてもいいってなもんで結構人気があった みたいだ」
「衰弱死は、食事が喉を通らないという影響じやなくて……」
「客が無茶苦茶したんだろうな」
そうして剣士の男が発するゲラゲラと品のない笑い声が酒場内に響き 渡った。
と、そこで-----俺とリリスの目が合った。
「ところでリリス?.」
「..何?」
「お前はいつ頃……逃亡奴隸になったんだ?」
「……良く覚えていない。物心がついた時から私は奴隸で……いや、で
も……奴隸紋を刻まれたのは少し大きくなつてからのような気もする」 「奴隸紋を見せてくれないか?」
「...うん」
リリスは胸元をはだけさせる。
よくよく見てみると、奴隸紋はわずかだが------------------けれど確かに--------擦れ
たように見えた。
「あっちやあ……これは間違いないな」
「……うん。最近……薄いなとは……思っていた」
「ちなみに薄くなり始めた時期は?」
「……概ね一か月前」
十年か。
色々な時系列を逆算するとまあそんなもんなのかもしれね^—な 「さっきの連中が言うには薄くなり始めてから脳が焼かれるまでニか 月」
「……つまりは残り一か月」
それまでに俺がリリスの所有権を買い戻して、その後に……紋章の除 去までを行わなければならない訳だ。
「参ったな……こりやあ急がないといけねーな」
多分この情報はマジだろう。
そういえば昔に俺が數智のスキルで見た本の中にそういう記述があっ
たような気がするし......。
店員を呼んで会計を済ませる。
そのままリリスの手を引いて俺は早足で歩き始めた 「金貨十枚が必要か……さて、どうしようか」
と、言いながらも俺とリリスの進む先に一切の淀みはない。
「まあここしかね^—よな.......極力目立たない方法で......どうにかなん
ねーかな....」
当面の間の俺達の目標はニつだ。
一つは金貨を十枚貯める事。
そしてもう一つはリリスのパワーレべリングを行う事。
その両方を満たす上で、手っ取り早い方法と言えばコレしかない。
そういった経緯で------俺達は冒険者ギルドのドアを開いたのだった。
ターレスの港町。
中央大通りに面した三階建ての赤レンガの建物。
それがこの街の冒険者ギルドだ。
この街の大通りで一番大きな建物が四階建てとなっている。
まあ、三階を超えると高層建築物だと言ってもいいだろぅ。
周囲の建物も大商会や官公庁関連の施設で、間違いなく一等地と言っ たところだ。
入口から受付カウンタ^—までは十メ^—トル程度でそこまでの間には 依頼募集の掲示板が所狭しと並んでいる。
「ん^— ボクちやん達には冒険者はちょ^—っと早いかな?」
ギルドの受付嬢は涙袋が色っぽい、赤毛にショートカットのお姉さん
だった。
「ポクちやん達……見たところ十五歳位よね? 魔法学院や騎士学校の 入学年齢にも達してないでしよう?」
参ったな……と俺は尋ねた。
「ギルド登録の一番下の年齢は十二歳じやなかったか? あんたとして も文句はないだろうに?」
「ああ、その規定はね……駆け出し冒険者が安全な場所で、果実の採取 みたいな誰でもできるような仕事をする場合に、弟や妹を連れていくよ うな状況を想定されたものなのよ。まあ、要は引率者前提ってヮケ。だ から、悪い寧は言わないから止めときなさい?」
「って言われてもなあ……」
「仮に登録するにしてもポクちやん達が生き残るには.............引率者が必
要ね。そして力ある冒険者は生き残るすべに長けている。つまりは戦場 では足手まといは必要ないという事は十分に分かっている人達ばかり よ……貴方達の相手なんて誰もしてくれない」
「何が言いたい?」
「お姉さんが保証してあげる。断言するけど死ぬわよ貴方達」
「……だからそれで構わないと言つている」
リリスの言葉に受付嬢はバンとカウンターテーブルを叩いた。
「ダメですつー.命は大事なのよ!?お姉さんがそんなことは許しませ ん!」
「お……おう……」
あまりの剣幕に俺達は気圧される。
「先輩冒険者への何か強力なコネか、あるいは何か特殊なスキルでも 持つているのかな? そうじやないなら誰も相手にしてくれないから本 当に止めときなさいな。お姉さんは、そんな死亡確定の若人の登録なん て承認しません」
んー。真面目に心配されているなこれは。
純粋に善意から来ているものだろうし...........はてさてどう回答すれば良
いのだろうか。
「……レアスキル」
ボソっとリリスは眩き、そして俺はボンと掌を打った。
「……私はアイテムボックスのスキルを所持している。スキルレベルは マツクス」
「え...?」
受付嬢がポカンとした表情を浮かべる。
まあ、そりやあそうだろう。
軍隊同士の戦闘で局地的であれば、戦局をひっくり返す事ができると 言われているBランク級のパ^—テイ^—
そのレベルであればそれ位のスキル持ちは珍しくはないが……その次 元でもあくまで珍しくはない程度のスキルなんだからな。
「それって....ベテランクラスの冒険者パ^~テイ^—からでも.........引く手
数多……って言いたいのかな?」
まあ、実際にそういう事だ。
アイテムボックスのスキルは純粋な魔法の能力では無く、理論解析で
あるだとか、そちらの方面が如述にスキルレベルに現れる。
これは幼少の頃からリリスを魔術師として仕込んでくれた龍の親父さ んが……本当に彼女を丁寧に育ててくれた事と、そして彼女自身の非凡 な魔術的知能を表している。
まあ、何しろ十五歳にして、使える使えないは別にして全ての汎用魔 法と、龍の秘術の七割がたを既に頭の中に入れてんだからな。
汎用魔法の魔術式の全習得だけで魔法大学院の生徒のレベルに達して ぃる。
そして龍の秘術に至っては、そこらの魔法大学院の教授が土下座する レベルだろう。
まあ、それ位はしてもらえなければ俺が困る............というか足手まとい
なので、最低限の課題としてそれを出していたのだが、見事にリリスは そこは超えてきた。
とはいえ、その道のりは簡単なものではない。
たったニ年でどれほどの魔術の深淵まで迫れと……そういう無茶振り
をした自覚はあるし、達成不可能な状況も想定してきた。
だが、リリスは才能と努力でそれを超えてきた。
そういう意味では本当に可愛い奴だとは思う。見た目も小動物っぽい しな。
「おい、今お前……アィテムボックスのスキル……それもマックスって 言ったのか?」
俺とリリスの背後から近寄る影がニつ.........どうにも酒臭い。
振り向くと、そこには見知った顔がいた。
スキンヘッド剣士が一人に長髪の魔術師が一人。
共に二十になるかならないかという風で比較的に若く、いかにも駆け 出し冒険者といった感。
っていうか、周囲もかなりざわついている。
どうにもリリスの『アィテムボックスのスキルマックス』という発言 は刺激的に過ぎたらしい。
「お前等、さっきの酒場で飯を食ってた小僧共だな? 少し話があるん
だがいいか?」
「ああ、そのとおりだが……お前はまだ酔ってるだろ? 生憎だが酔っ 払いの相手はしないせ?」
「先輩に意見するとはとんでもねえ野郎だな。黙って言ぅ事を聞けよ」
ああ、出たよ。体育会系。
それも、悪い方の体育会系だ。
体育会系にも色々とあるし、そしてそのノリが色んな局面で有効なの も知っている。
が『先輩に意見するとはとんでもねえ野郎だな』この発言で体育会系 の一番悪い部分が全部出ている。
そもそも俺はまだギルドに登録されてねーし、先輩後輩もクソもねえ だろぅ。
淡い頭痛を俺が覚えた時、リリスの肩を剣士の男が掴んだ。
「おいお前? アィテムボックスが使えるんだって?」
リリスは億劫そうに頷いた。
「良し。じやあ決定だ!」
「……決定?」
「俺は剣士だ。前衛で戦う」
「……そんな事は見ればわかる」
剣士の男は相方の魔術師を指さした。
「そしてこいつは魔術師だ。後衛で範囲魔法なんかを扱う主力砲台だ」
「……それも見ればわかる」
「俺達の仕事は……魔物狩りがメィンになる」
「..それで?」
「何日も森に籠るんだ。で、持ち運べる荷物がどうしても少なくなる。 水や食料や寝袋なんかも相当な量になるし……いかんせん効率が悪いん だょ」
「……だから……それがどうしたのだと……尋ねている」
男達二人はリリスの足元から頭頂までを舐めるように眺めた。
「今日ギルドに登録しようって駆け出し以前のメスガキを一匹……飼っ てやろうって言ってるんだ。報奨金の取り分は九対一だ。九が俺らで一 はお前だ」
剣士の言葉を魔術師が続ける。
「感謝しなさい。先輩に面倒を見てもらうような場合、報奨金から取り 分が出る事自体が珍しいのですからね。ちなみに貴方のツレは当然なが ら必要ありませんので」
ぉいぉいぉいぉい。
無茶苦茶言ってやがるなこいつら。
まあ、要はレアスキル持ちのリリスを安くこき使おうって話なんだろ
Aっ。
そうして剣士の男はリリスの右手を掴んだ。
「という事で決定だ。新たな仲間の加入に乾杯といこうか................飲みなお
しだ」
「ええ、そうしましよう。そして……感謝なさい。酒代は我々が持ちま す」
「おい、メスガキ? 高いモノは注文するなよ? 後……ションベン臭 そうなガキだが、まあいい。店に着いたら俺の横に座って酌をしろ」 「ははは。酌だけじやなくて安酒でベロンべロンまで酔わせて、最後は 無理矢理に尺八もさせる気でしように」
「お、バレたか?」
「貴方のロリコンは筋金入りですからね」
「ハハハっ—.違いねえや」
そこでリリスは忌々し気な表情で男の手を振り払う。
「お?」
そして続けざま吐き捨てるように眩いた。
「……ロが臭い……失せろ生ゴミ共」
ひよっとこのような表情を男達は浮かべ、そしてリリスにこう尋ね た。
「おい、メスガキ? 今……何て言った?」
「……貴方達が非常に不愉快なので、今すぐに私の半径二十メートルか ら消えていただければ助かると言ったつもり。そして、それを分かりや すく端的に言い換えた言葉が先ほどの言葉で、『……ロが臭い……失せ ろ生ゴミ共』という具合になる」
リリスの言葉を聞いて、剣士の男のコメカミに青筋が浮かんだ。
「俺はEランク級の上位の冒険者だ! お前らのような駆け出しのFラ ンクじやねーんだよ! 舐めてんじやねえぞっー.」
要約すると一般人に毛が生えた程度の実力の持ち主という事だ。 見たところ、単独だとゴブリン十匹も相手にできないと思う。
対するリリスの魔術師としての腕前は冒険者ギルド換算でDランク級 の中位というところだろう
普通の魔法を普通に使えて、普通に戦える程度の能力だ。
魔法学院を卒業して、冒険者としてのキャリアを数年積んだ有望な若 手……と、まあそういった程度のレベルのはずだ。
当然、剣士の男とガチンコでの殺し合いをした場合は、リリスの方が 幾らも上だろう。
が、こういった街中で抜刀や、ましてや魔法の行使はご法度となって ぃる。
と、なれば暄曄の方法は殴り合いになる訳だが……。
「待ちなさいな。装備を見る限りこの娘は魔術師……さすがに剣士の貴 方が出るのはアンフェアでしょう」
魔術師の男が剣士とリリスの間に割って入った。
「とはいえ……我々に無礼なロをきいたのです。多少の痛い目は覚悟し てもらいますよ?」
そう言うと魔術師はリリスの首根っこを掴んだ。
「とりあえず表に出なさいな」
そのまま外に引きずろうとした時---------男が床に叩き伏せられた
「へえ……本当に親父さんにそれなりに仕込まれてんだな」
リリスのやった事は簡単だ。
首を掴んできた相手の右手を、自分の両腕で持つ。
そのまま体躯を回転させながら体重を乗せて捻りあげ、相手の手首と 肘の関節を極める。
徒手空挙の護身術の、定番立関節技なんだが、そこからがエゲつな
、o
V
早業で地面にそのまま落とすと同時に、肘を折った。
ボグリと嫌な音と共に魔術師は地面にひれ伏し、驚愕の表情を浮か
ベ——
「ぎゃあああああああああああああああああ------------------」
まあ、折れてんだから当然痛い。
リリスは立ち上がり、剣士の男を睨み付ける。
「...貴様もかかってこい。私は怒っている」
いやいやリリス!それはちょっと無茶だぞ?
さすがに近接職に肉弾戦を挑むのは不味い。
ってかこの馬鹿……と俺は絶句した。
リリスの掌に魔力が集まっている。そしてそれが意味する事はただ一 っだ。
---こいつ室内で魔法をぶっ放す気だ!
無茶苦茶しやがるな……と俺は呆れ顔を作った。
いや、逆に言うとそこまでリリスがキレちやってるってのもあるのだ ろう。
リリスは龍の里で育っている。
従って、俺以外の人間との接触もほとんどなかったし……まあ、ある 程度困ったちやんなのは仕方ないのだろう。
「さて、どうするか」
このままリリスが魔法を使用した場合、ルール違反なのだから衛兵を
呼ばれるのは自明の理だ。
そして最悪の場合は牢屋にブチこまれてしまって面倒な事になる。 脱獄は簡単にできるだろうが、それはそれで更に面倒な事になる公算 が高い。
「仕方ねーな……」
俺がリリスに軽く一撃入れて意識を奪うのが正解だろうな。
そして強制的に魔術発動をストップさせちまおう。
あんまり女は殴りたくねーが、今回の場合は……まあしやあねーだろ
Aっ。
「..え?」
と、その時、リリスが困惑の表情を浮かべた。
まあ、そんな表情を浮かべるのも無理はない。
何しろ、瞬く間に掌に集まったリリスの魔力が雲散霧消していってん だからな。
「さすがは冒険者ギルドだな。少し..........甜めすぎていたか」
要は、今現在の喧嘩の見物人の中に、相当な魔術の使い手がいたとい う事だ。
そしてそいつがリリスの魔術式構築に割り込んで発動を阻止したとい う話。
まあ、俺としてはありがたいが、リリスからすると大迷惑もいい所 だ。
「......くつ」
リリスからは強気の表情が消えて、焦りの色が混じっている。
自分でもガチンコでの殴り合いでは分が悪いと悟っているのだろう。 それは剣士も重々承知のようでニヤケ面と共にリリスに歩み寄り、大 きく挙を振りかぶった。
完全なテレフォンパンチだ。
ひらりと躱すと、リリスはカウンター気味に男の鳩尾に全体重をかけ て肘で当身を行う。
「攻撃が軽いんだよ!このメスブタっ!」
まあ、この状況ならリリスが取るべき行動はカウンターではなく、立 関節か投げかのニ択だったと俺も思う。
この筋力差で打撃という選択肢は有りえない。
つってもリリスは魔術職なので……そこまでの判断能力を求めるのも 酷って奴か。
そうして、リリスは男に羽交い絞めにされる。
そのまま持ち上げられて、投げっぱなしジャーマンの要領で延髄から 床に叩き付けられた。
「あっちやあ……こりやあまた綺麗に貰っちまったな」
強烈な爆音と共に、リリスは床に転がった。
そして打ち上げられた魚のようにその場に横たわり、小刻みにピクピ クと痙攣していた。
「へへっ……こっちは相方の手を折られてるんだぜ?」
横たわるリリスの腹に男はサッ力ーボールキックを加えた。
ゴロゴロとリリスは転がり、壁に激突する。
「まだ、こんなもんじや終わらせねーからな!?」
挙を鳴らしながらリリスに向けて歩みを進める剣士に俺は声をかけ た。
「おい、そこの生ゴミ」
「生ゴミ?」
「鳥ガラみたいに細い魔術師の少女相手に、本気出しちやうような近接 職のガチムチ野郎は生ゴミと呼ばれても仕方ねーだろうがよ。まあい
い...ここで止めるなら見逃してやる」
そこで剣士はニヤリと笑った。
「見逃してやる? 何を言ってるんだ? 女が戦っているのに何もしな かった……いや、何もできなかった腰抜けのガキが今更何を言ってやが んだよ?」
「これはリリスとお前らの暄曄だ。だから俺は黙ってたけどさ……」
ファックサインを決めて俺は吐き捨てるように言った。
「勝負がついてるのに追い打ちをかけるなら話は別だ。相手してやるか らかかってこい」
キヨロキヨロと剣士は周囲を見渡した。
「かかってこい? 誰に言ってやがるんだ?」
「テメエだよテメエ。頭ハゲてるだけじやなくて脳みそまでスカスカ か?」
剣士はスキンヘッドのコメカミに青筋を浮かべる。
「いい度胸だ小僧。しかし……お前みたいなヒヨロガキ相手に俺も舐め られたもんだな?」
何かを思い付いたという風に剣士はボンと掌を叩いた。
「いい寧を思い付いた」
「いい事っつーと?」
「さっきのメスガキの攻撃……それはもう軽いもんだった」
「まあ、本職がこいつは魔術師だからな。純粋に腕力が足りちやいねえ
な」
「お前も見た所ただのヒョロガキだ。そしてそんな奴相手に本気を出す のは……さっきお前が言ったみたいに確かに大人げねえわな。そこで提 案だ。最初の一発だけは攻撃を受けてやる」
剣士は顔面をこちらに差し出してきた。
なるほど。どうにも圧倒的な力を誇示した後に俺を叩き潰したいらし
、o
V
「ああ、そりやあどうも」
そういう事なら遠慮なくいかせてもらおう。
シュンっと挙が風を切る音と共に、鼻っ柱に綺麗に右ストレートが突 き刺さった。
ニュチュリと挙に伝わる嫌な感触。
鼻骨を粉砕された男は——七メートル程吹き飛びギルドの壁に激突し た。
叩き潰され、へばりついた虫のように一瞬壁に張り付きそして重力に
従い床に落ちた。
まあ、所詮はEランク級冒険者だ。
この程度の相手ならここで殴り倒してもそこまでは目立たないだろ
Aっ。
魔法学院に入学して陰からコーデリアを見守る関係上..............俺とリリス
が今の時点で有名になってしまうと色々と後でややこしくなっちまいそ うだから、その辺りは今後も気を付けないと。
パンパンと掌を叩いて、俺はリリスを小脇に担ぎ、そしてカウンター に向かった。
「で、登録したいんだが……」
「は、は、はいつ......かしこまりましたー.」
急に受付嬢は態度を変えた。
どうやら俺を命知らずのガキではなく、一人前の冒険者だと認識を改 めたようだ。
と、その時背後から男が声をかけてきた。
「ふっ……謙虚だね」
見ると右目を眼帯で覆った、白髪の青年がその場に立っていた。
「ん?•」
「君は恐らく力を隠している」
見た目は二十代半ばと言った所。
眼帯の奥から発せられる只者ではないオーラ。
俺は気圧されながら応じた。
「お前が何を言っているのかは分からねーが……何か俺に用事が……あ るのか?.」
微かに緊張した俺の表情を目ざとく見抜いたのか、白髪の男はニヤリ と笑つた。
「力を隠しているという事実を見破られて驚いているようだね? 全 く……その若さでその力量……末恐ろしい子だ」
断定的な物言いに、ゾクリと俺の背筋に冷や汗が流れる。
「どういう事だ?」
「本来……君はFランク級冒険者から始めるような人材ではないはず だ。違うかい?」
どうやら完全に実力を見抜かれているようだな。
「..それで?」
「後……そちらの子の魔術式を途中で瓦解させたのは私だ」
なるほど。
戦闘中にリリスの魔法行使を止めたのはこいつか。
そうであればこいつが一定以上の実力者なのは、やはり間違いないだ ろう。
「てめえは一体何者だ?」
「ふ? 私かね? 私は……ギルメナス。人呼んで崇高の賢者」
「崇高の賢者……だと?」
「それよりも君こそ何者だい? 今さつき君が見せた動きから隠してい る力を推定すると……ひよつとすると君は、私と同じ領域に足を踏み入 れている可能性すらあるね」
同じ領域?
まさかこいつ.....Sランク級冒険者.......だと?
こいつは本当に誤算だ。まさかこんな田舎のギルドに戦略兵器にも数 えられるよぅな化け物がいるなんて。
まいつたな。
そぅいった連中とは修行中の今現在は、まだ関わり合いになりたくな
いつつ丨のに……。
「崇高の賢者……なるほどなそれでお前はそのランクでどの程度の位置 にいるんだ?.」
敵にしろ味方にしろ、身近にいる強者の情報は少しでも欲しい。
ギルメナスの力量が俺と同じSランク級として、はたしてSランク上 位相当の俺よりも上なのか、あるいは下なのか……それが問題だ。 「なるほど。まだ私の事を知らない者がこの街にもいるのか……まあい い。それじゃあ教えてあげるよ」
俺はゴクリとつばを呑む。
そして、ギルメナスは胸を張りながらこう続けた。
「私は崇高の賢者ギルメナス……Bランク級上位冒険者だ!」
言う程大した事ねーな!
ってか、Bランクかよ! 身構えて損しちまったぜ................。
ドヤ顔のギルメナスに対して、俺はその場でコケそうになった。
「後、ロの利き方は気を付けたほうがいい。見たところ君の実力はBラ ンク級の下位……そして君と私が同じ領域にいるのはほんの少しの間 だ。何しろ私は半年後にはAランクに上がっている可能性が高いから ね」
しかし、少なくとも力を隠しているかどうか程度の事は……冒険者ギ ルドの上位ランカークラスであれば見抜けるらしいな。
さっきのは雑にやり過ぎた上に、慣れない徒手空挙だったからある程 度は仕方ないにしても、こいつはまいつたな。
「ともかく、君に本当にBランクの実力があるなら……我々は遠くない 未来に再会するだろう」
「再会? どうして?」
ギルメナスはボンと俺の肩に掌を置いた。
「強者同士は惹かれ合うものさ。敵としてか、あるいは味方としてかは 別だがね。まあ、君の立場としては私と今度会う時は味方として……と 祈っておいたほうがいい」
「お……おう」
「それじゃあ……アディオス」
それだけ言うとギルメナスは背を向け、手を振りながらその場から 去っていつた。
---と、まあ、そんなこんなで俺達は冒険者ギルドにFランク級冒険
者として登録されたのだった。
その後、俺達はこの街での拠点となる宿を探して七日間の宿泊の前金 を払った。
リリスの持っていた金の四割がぶっ飛んだが、まあ、何をするにして も拠点が必要な訳だから仕方のない支出だ。
宿は海辺にある二階建てだった。
少しポロいが手入れは行き届いていて何ょり景色が良い。
後は風呂があるってのが本当にありがたかった。
基本的にこの世界の安宿ってのは風呂は無しで、体を洗うのにも水浴 びか、あるいは公衆浴場を使う必要があるからな。
そして---
---今現在、俺とリリスはギルド受付のロビーにいる。
何をしているかっつーと、依頼の張り紙がビッシリと張られた掲示板 と睨めつこをしているという状況だ。
「しかし……金を稼ぐつてのは大変だな」
俺の言葉にリリスが応じない。
見ると、彼女はまつ毛を伏せて申し訳なさそうにロを開いた。
「..すまないリユ丨ト」
「すまないつつ^ —と?」
「……元はと言えば、私が奴隸である事がいけない」
「それはお前には何の責任もない事だろうがよ?」
何言ってんだこいつ?
そんな俺の訝し気な視線に、リリスは首を左右に振って応じた。
「..そもそもリユートはリユートで自分の修行があるのに............金稼ぎ
なんて無駄な時間を……」
「そんな事なら気にすんなよ。俺も納得済みでやってる事なんだから」
「……気を遣わなくて良い」
「気を遣う? そんなもんは遣った覚えがないが……」
「..どぅせ私はEランクの剣士に負けた女。そんな女にSランク級の
実力者が気を遣わなくて……良い……こっちが惨めな気持ちになるだけ だから」
なるほど。
どぅやらこの前の暄曄でボコボコにされたのがショックらしい。
基本的にはマジメちゃんな性格なので、色々と考え過ぎて思いつめ ちゃってるって訳だな。
「だから気にすんなって。お前にはお前の役目があるんだぜ? アイテ ムボックスとかさ」
「..アイテムボックスを多少使えるくらいで...........その埋め合わせはで
きない」
思いつめた表情で言葉を更に続ける。
「いや、だから今後の旅にはアイテムボックスが必要になってくる場面 が...」
「……私はEランク級の駆け出しの冒険者に負けた女。それに……金銭
的にも負担をかける疫病神……」
ああ、こりゃダメだ。
目が……虚ろだ。
よくよく見てみると目にクマもできていて、見た目的にも精神的にも かなり追い詰められているのが分かる。
「いや、だからさ.....」
「……リユートも正確に認識しておいたほぅがいい。私はEランク…… 駆け出しの冒険者に負けた女。そして貧乏神だ」
面倒くせえなコィツ。
とはいえ、まあ仕方ないのかもしれない。
物心がついた時から奴隸として過ごし、しばらくすると龍の里で育つ た。
強者が溢れる龍の里ではリリスはそれこそ弱者だし、自分に対する自 信が持てないのも分かる。
外の世界に出て色々と不安になつている事もあつたと思ぅ。
多分、情緒不安定な状態で、精神的な自己防衛機能が働いて、さっき のチンピラ連中に無駄に攻撃的な行動を取ったってのもあるんだろう。 で、結果として売り言葉に買い言葉で互いに暄曄を売って買う形。
そんでもって挙句に負けちまったんだから...............まあ、何というか精神
的に参ってしまうのも分からんでもない。
「……それで……どの依頼を受けるの?」
ふーむ……。
とりあえず討伐系の依頼をざっと見てみる。
•難易度B :ゥォータイガー討伐依頼(討伐部位:ゥォータイガー の牙一セット)
•難易度C :オーガジェネラル討伐依頼(討伐部位:オーガジェネ ラルの角一セット)
•難易度C :レッサーヴァンパイア討伐(討伐部位:レッサーヴァ ンパイアの眼球ニダース以上))
•et c...
ふむ。
単純に害獣駆除の依頼って寸法だな。
依頼主は様々で、例えばゴブリンなんかは地方領主が依頼主だ。 ざっとみたところでBランク級は一件しか依頼がないよぅだ。
そこで気になるのは報酬だ。
難易度Bのゥォータイガーで大銀貨五枚。
そしてレッサーヴァンパイアで銀貨八枚となつている。
「……それで……どの討伐依頼を受けるの? 目標額は金貨十枚。 ゥォータイガーの討伐であれば大銀貨五枚を稼ぐ寧ができる」
俺は呆れ顔でリリスに言った。
「お前、ついさっきの受付嬢の説明聞いてたのかよ? 俺らはFランク 級冒険者だぞ?」
「……聞くには聞いたが頭には残っていない」
そういえば暄曄に負けてからのリリスは上の空状態だった。
too-noy 2016-7-31 11:13
実際に右から左に説明は抜けていたのだろう。
「要は、俺らは半年も仕事を受けなければ登録も削除されるような底辺 中の底辺なんだよ」
「..それで?」
「俺らが受ける事ができるのはせいぜいがEランク難易度までだ。理由 としては危険過ぎるからって話で……そんでもって、上に上がるなら依 頼をこなして実績を積まないといけない」
「……なるほど」
「まあ、高ランク冒険者の付き添いの雑用みたいな名目であれば、パー ティーとしては依頼を受ける事はできるだろうけどな」
そこでリリスは閉口した。
「……Eランク級の難易度の討伐依頼は……一番高いのでも一ダース単 位を討伐して銅貨二百枚。これではとても間に合うものではない」
高ランクの魔物の討伐は数十万円と、それなりに高給みたいだ。
が、しかし、討伐依頼全般にも言える事だが、まずは獲物を探すとこ ろから始めて……と、そういつた段取りをとる訳だ。
命を張るって事を考慮すると、冒険者稼業ってのも楽じやねーんだろ うな....という気はする。
「一か月という短期間で金を作るなら討伐依頼は今のところ避けた方が
いいだろうな。なら.........こういうのはどうだ?.」
素材採取依頼の方を見てみると、リリスの視線もそちらに移った。
「……採取依頼?」
•難易度F :薬草(買い取りは百グラム単位:単位当たり銅貨十 枚)
•難易度F :虹色の果実(買い取りは個数単位:単位当たり銀貨一 枚)
•難易度0:キラ^ —ビ^—の巣(蜂蜜百グラム単位:単位当たり銀貨
一枚)
•難易度B :マンドラゴラ(買い取りは百グラム単位:単位当たり 大銀貨一枚)
「虹色の果実ってのは……まあ高級な果物なんだがな」
「..そんな事は知っている」
七色の毒々しい南国風の見た目で、味は一言で言えばマスクメロン
だ。
俺も数える程しか食べた事はなく、村人風情がそう簡単に口にできる 代物ではない。
「難易度Fなのに、えらく買い取りの値段が高いだろ?」
「……恐らくは難易度とは採取に伴う危険度の事をさしている。事実、 この果実はどこにでも生息する植物から採取可能。ただし……」
「非常に数が少なくて見つけにくいって事か?」
「..そういう寧.....でどの依頼にするつもり?」
「金稼ぎだろ? だったら-------」
俺は虹色の果実の採取依頼の張り紙を手に取った。
「--これしかないだろ?」
「……採取依頼? それも.........虹色の果実?」
困惑の表情のリリスだが気持ちは分かる。
日本で言えばそこらの山に入って松营を採ってこいっていう位の無 茶な依頼なのだ。
だからこそ買取価格も破格なモノで、依頼を出している方としても 採ってこれればラッキー程度のモノだ。
この依頼は受注制限も期限もなく、冒険者としても討伐依頼や他の採 取依頼とセットで受けるようなもので、やはり取ってこれればラッキー 的なモノなのだ。
が、今回はこれをメインに行く。
なんせ、俺にはちよっとした裏技があるんだよな。
「と、いうことで買い出しに行くぞ」
「……買い出し? 携帯用の保存食?」
「いいや違ぅ」
ニヤリと笑って俺は言葉を続けた 「石鹼だょ」
「……石験?」
翌日の早朝。
俺達は山を登つていた。
ターレスの港町は坂道が多く……と言ぅより海と山に囲まれた地形に なつている。
日本で言えば横須賀やら神戸やら長崎っていぅ風な地形で、港町には
何故だかこういう立地が多いと思うのは俺だけだろうか。
まあそれはそうとして山を登り始めてから既に三時間と少しが経過し た。
獣道を搔き分けて、少しだけ樹木が開いた場所を見つけた。
大岩に腰を落ち着け、小休止を取ったところで、リリスはアィテム ボックスから水筒と黒パンを取り出した。
「..リユー卜?」
不満げな表情を浮かべてリリスがそう尋ねてきた。
「何だ?」
「……何故にあんなに大量の石験が必要だった? それに巨大な寸胴
まあ、昼と夕方の二食分の黒パンを買って、有り金の残りの全てをは たいて全力で石験を買い込んだからな。
これで俺らは正真正銘の無一文だ。
宿屋は食事付きではないし、虹色の果実を採取できなければ明日以降
に食べるメシもない。
「今回見つかるかどうかは分かんねーが……運良く湖に遭遇できれば使 わなくちゃならなくなるからな」
「..湖? まさか水浴びの時に石験を使うつもり? 私達にはお金が
ないのに……そんなくだらない事をするつもり? なけなしのお金を 払って……それで……こんな食料しか買えていないのに……」
「水浴びじゃねーけど……ってか、こんな食料って……何か問題があっ たのか?」
リリスは先ほど 一口だけかじった黒パンをこちらに差し出してきた。
「……白パンを食べたいとは言わない。しかしいくらなんでもこれは酷 ぃ」
リリスから受け取り 一口かじってみる。
「確かに不味いな」
「……不味いとかそういう問題ではない」
パンを割ってみる
「中が……若干ヵビってるな」
右半分はヵビで喰えた代物ではないが、左半分はヵビが少ない。
ひょっとして……と思って俺は左半分のパンを更に割ってみる。
見てみるとその左側のヵビの量は更に少なくて、良く良く見ないと分 からない程度のものとなっていた。
「うん。左側の二分の 一くらいは……見た目的にギリギリセーフだ ぜ!」
「..セ^—フではないっー.ヵビが生えているっ!」
リリスが声を荒らげた。
ってか、リリスが半ギレになってるって珍しいな。
「ああ、確かにセーフではないかもな。味だけで言えばアニマルゾンビ の方がまだマシだ」
砂を喰ってると言うか何と言うか、まあそんな感じの昧だ。
「..ヵビの生えているょうなものは食料とは言わないっ!」
「まあリリスはこれを喰っとけ」
懐から俺は小袋を取り出してリリスに放り投げた。
「..これは?」
「お前と合流する前……一週間ほど前かな? 盗賊に襲われていた行商 人を助けた時にお礼に貰った。残りも少ないが、まともな食い物である 事は保証する」
「……しかし私がこれを食べてしまうとリユートは食べるモノがない」 「俺には黒パンがあるからさ」
「……だからそれはカビが生えている。お腹を壊してしまう」
「状態異常耐性のスキルも持っているし、そんなに簡単に食い物で当 たつたりしねーよ」
「……だから食べられればいいとか、当たらなければいいとか……そう いう問題ではない」
「って言われてもな」
リリスは頭を抱え、俺は肩をすくめる。
「……しかしリユート……お金を稼ぐにしても虹色の果実を貴方は本当
に採取できるつもり? どれほど採取が難しいか知っている?」
「非常に甘い果実で高級食材として高値で取引される。どこにでも生え
ているラ^—ネットの樹に実をつけるが.........とにかく数が少ない。と言う
よりは鳥や動物が先に全部食べちまうんだな。なんせ七色に輝く毒々し い果実で……森の中では目立って仕方がない。だから、人間が手に入れ られる可能性があるのは七色に染まる前の熟しきる前の緑の状態の時 だ……だが、ここで問題が生じる」
驚いたという風な表情のリリスに俺は呆れ顔で言った。
「おいおい、俺は農作業のエキスパートだせ? それくらいは知ってて 当然だ。で、動物にも発見されていないような緑色の状態……葉っぱと
実の色が同じで、ひっじよ----------に発見するのに難儀するんだよな」
「……そういう事。果実が熟してない事自体については……常温で保存 していれば勝手に熟してくれるので問題はないが……見つける事が至難 の技。それこそ何かのついでに森歩きをしている一環で見つかれば幸 運……という風なようなものでそれ単独で仕事としてやるには……あま
りにも効率が悪い」
「まあ普通はそうだろうな」
「..?」
キョトンとした表情をリリスは作つた。
「だが、俺は普通じやねえんだよ」
「..どういう事?」
「まあ見てなつて」
まずは、スキル:索敵•気配察知•危険察知……レべル10を発動。 全てを同時展開させる事で融合させ、スキルを新生させる。 アドバンススキル:絶対領域……レべル10を行使する。
結果として、まあ、今の俺はィージス艦みたいなもんになつたと思つ てくれていい。
更に分かりやすく言うのであれば米軍の最新鋭レーダーシステム完備 みたいなもんつつー事だ。
周囲の状況半径五百メートル位なら、目視を必要とせずに何となく分
かるし、虹色の果実みたいな挙大の質量の実なら見落とす事はありえな
、o
V
「つて事で......ちよつとマラソンしてくるわ」
軽く手をあげると俺は寸胴鍋を片手に、音速に迫る速度で縦横無尽に 山を駆け回り始めた。
そしてニ時間後。
汗を垂れ流し、俺はその場に両膝と両手をついて大きく息をしてい た。
さすがに全力に近い速度で寸胴鍋を片手にニ時間は多少の無理があつ た。
「..ハァ....ハァ....ょぅやく.....ハァ....息が....ハァ.......落
ち着いて……きた……」
「……大丈夫?」
リリスの言葉の後、俺は大きく深呼吸を三度行った。
よし、これで完全に呼吸は戻った。
「本当に虹色の果実ってのは希少なんだな。ここいらの山は全部探索し たが……たったこんだけしか見つからねえ」
俺の発言に、リリスは驚愕の表情を浮かべた。
「寸胴鍋に……都合百個。あの街には高級レストランやホテルは数える ほどしかない。つまり……これは市場では暴落が起きるレベル」
まあ、採取時点で金貨一枚分だからな。末端価格なら金貨五枚分位 か?
滅多に取れるもんでもねーし、安く流れるなら多少は庶民のロにも入 るようになるだろう。
「しかし、ここから東方面の山は狩りつくしちまったな。が、まあ…… 西側はまだ見てない。石験を使う予定だった湖も見つからなかったし、 明日も同じ採取依頼を受けよう」
リリスは何かを言いたげだったが、諦めたように微笑を浮かべる。
「..うん。帰ろう」
その言葉で俺は歩き始めたのだが、リリスがその場から動かない。 「どうしたんだ?」
「……リユート? 気付いていないの?」
周囲の茂みや藪に向けて目を凝らすと、どうやら俺達は魔物の群れに 囲まれていたらしい。
「オークか....こんな所で出会うとは珍しい」
脳天気な俺の声にリリスは再度尋ね掛けてきた。
「……本当に気付いていなかったの? 貴方程の力を持つ者が?」
そりやあ、虹色の果実を探した時のようにゴブリンやオークみたいな 害獣を索敵する事も可能だ。
が、自動アラームとしては、あくまで俺は危険察知の能力を持ってい るだけだ。
危険になりえないものにまで反応しろつてのはまあ正直なところ かなりの無茶なオーダーだ。
で、奴さんの戦力は武装したゴブリンが二十体に、これまた武装した 豚の化け物……オークが十体。
「よつこいしよつと」
地面の大岩に腰掛けてリリスに言葉を投げ掛ける。
「俺はちょっと疲れちまったからな。とりあえず晚飯はオーク肉の丸焼
きって感じで.......後は任せるわ」
リリスはコクリと頷いた。
ゴブリンが樹木の陰から飛び出し、一斉にリリスに襲い掛かる。
リリスは無言で杖を取り出し、一言眩いた。
「...ファイア' —ゥォ■—ル」
言葉と同時に縦にニメートル、横幅七メートル、そして厚さ五十セン チ程度の炎の壁が現れてゴブリンの群れを包み込んだ。
「まあ、これは当然だな」
さすがに魔術師を名乗るからには範囲魔法でゴブリンの二十や三十は 瞬殺してもらわないと困る。
「が、問題はオークの群れだ」
いつでも助太刀できるように身体能力強化の術式を作動させる このオーク……個体でEランク級下位。群体でDランクの最下位と いつたところか。
ちなみにオークの討伐は銅貨五十枚で……それが十体だから都合銅貨 五百枚となる。
言い換えるなら銀貨五枚の稼ぎになる。
日本円で言うと日当で五万円。
まあ……冒険者稼業は危険と常に隣り合わせなので、これ位は貰って も当たり前だろう。
今度はオーク達が樹木の陰から飛び出し、一斉にリリスに襲い掛か
る。
先ほどのリピートとばかりにリリスは無言で杖を取り出し、一言眩い
た。
「...ファイア' —ゥォ■—ル」
言葉と同時にやはり先程と全く同じ形で縦にニメートル、横幅七メー トル、そして厚さ五十センチ程度の炎の壁が現れてオークの群れを包み 込んだ。
「ん'....やっぱり火力が足りてないょなぁ............」
オークの中で最も小さい個体はその場で蹲り、表面がいい感じに焦 げている。
この個体は文句なしで戦闘不能の状態だ。このままファィアーボール なんかを食らわせれば完全にトドメをさせるだろぅ。
だが、残りの九体は戦闘不能には至っていない。
「...ファィア' —ゥォ■—ル」
再度炎の壁が現れてォークの群れを包み込んだ。
「やはり火力が足りていねえな」
追撃を受け、バタバタと五体のオークが倒れるが、残りのオークの突 進は止まらない。
そして彼我の距離差は五メートルを切った。
そこでリリスの表情に焦りが生じた。
手負いの猛獣は危険ってのは良く言ったものだ。血走った目のォーク 達はそれこそ死に物狂いと言うか、半狂乱でリリスに向けて襲い掛かっ ていく。
範囲魔法はタメが長く、近接戦と言って良い範囲内では使い勝手が悪
、o
V
と言うか、そもそも魔術師が五メートル半径みたいなレンジまで近接 戦闘タイプの魔物に接近される事自体が大問題だ。
苦し紛れにリリスはタメの少ない魔法で応戦する。
ファイアーボールで一体撃破。ゥインドエッジでもう一体の片足を切 り飛ばす。
が、そこで終了だ。
「グフつ....フボアアアアアつ!」
遠心力を最大限に利用し、オークの両腕から渾身の力が込められた刃 が、猛烈な勢いでリリスの首に振り落とされていく。
「ここまでだな」
瞬き、あるいはそれ以下の時間。
俺はリリスとオークの間に割り込むと同時に裝裟切りに一閃し、斧ご と才丨クを一刀両断にした。
「南無っ!」
そして左後方に振り向きもせずに剣を振るぅ。
手ごたえに少しだけ遅れ、ドサリと骸が転がった音が周囲に鳴り響い た。
リリスの色白の肌が白を通り越して蒼色に染まっている。
あと少しでオークの斧に首を飛ばされるところだったので無理はない だろぅ。
微かに震えるリリスに俺は問い掛けた。
「リリス? 今のお前に足りないものは何か分かるか?」
「..何?」
「レベルだよ」
リリスの魔法の知識はそれはもぅとんでもないものだ。
が、彼女は身に付けた知識を実戦に使用するために……要求されるス テータスに全く応じる事ができていない。
「……レベル……そんな事は分かつている」
「..ん? どうしたリコ^_ト? 急にフリ■—ズして.........」
「..本当にどうした?」
「..静かにしろ」
そう言うと俺は口元に人差し指をやつた。
そして小声でリリスに言う。
「ようやく見つけたぞ。この近辺にアレの眷属がいるつていう情報が あつたから……この依頼を受けて、だから石験と寸胴鍋を買つたんだ」
先程から俺の背中に冷や汗が止まらない。
これは本当に間違いなく--------アレだ。
「..アレ?」
「ああ、アレだよ。さつき見つからなかつたのは……どうやら俺のスキ ルを潜り抜けるような気配隠匿のスキルを行使していたようだな。でか したぞリリス」
「..でかした? 私が?」
「お前とオークのドンパチで、アレは気配隠匿のスキルを弱めて、周囲 の警戒と索敵に力を注いだようだ。行くぞ……リリス」
「..?」
そうしてリリスを先導し、藪の中に入つた。
獣道を歩く寧数分
しばし無言のまま俺達は歩き続ける
葉と枝がこすれる音、足音と、呼吸の音。そして鳥の声。
静まり返った空間に、無駄な音は何一つない。
大自然の中で感じる緊張感。
何故だか五感が研ぎ澄まされていくような感じがして……この感覚は 嫌いじやない。
そして藪を抜けて視界が広がる。
と、同時にリリスはこう尋ねてきた。
「……この場所は?」
「見ての通りの湖だ」
彼女の指し示す指の先には半径十メートル程度の湖があった。深さは 膝位まで……と言った程度か。
そしてそこに卿蛛のような虫が浮いている
胴体の大きさはテニスボール程度で足の長さを合わせると直径で七十 センチ位はあるだろうか。
「……アレは何?」
「マッドゥォーターストラィダー……その奇形種で、更に突然変異体と いうレア中のレアだ。っていうか、この辺りは魔素が強くて突然変異種 が生まれやすい土壤にあるんだよな」
「..マッドウオーターストライダー?」
「まあ、要はアメンボの化け物みたいなもんだ」
「……それでリユートは何故に……アレを探していたの?」
「見ての通り胴体は挙よりも少し大きい程度だ。で、細長い脚を合わせ ても直径で ーメートルもいかない」
コクリとリリスは頷いた。
「ただ、見た目で判断すると即時で殺されるぞ」
「..どういうこと?」
「奴はな……少しなら地上でも移動が可能だ。こっちが陸上からちよっ かいをかけると基本的には水面から飛び上がって攻撃してくるんだ が……武器は六本の脚だ。で、脚は甲皮で覆われて非常に固い」
俺は服をまくりあげ、苦々し気な表情を作って腹の古傷を見せる。
「モロに喰らえば.......こぅなる」
「...?」
「半年前……俺はアレと同種の魔物と戦い、そして脚の一撃をまともに 喰らって生死を彷徨った。お前なら間違いなく即死だぞリリス」
ゴクリとリリスがつばを呑む音が聞こえる。
「そして...奴の防御力はちょっと驚くぞ........?」
「..防御力?」
「俺がエクスカリバーで全力で斬っても……かすり傷しかつけられない んだ」
「……神殺しの剣で……斬れない?」
「まあ、陸上に誘い出して動きが鈍った所をタコ殴りにしたんだが…… 奴を殺るために俺が繰り出した斬撃は……全部で三百を超えた。そして 俺が疲れた所にスキを突かれて、最後っ屁とばかりにまともに一撃受け て……ダブルノックアゥトってのが前回の顛末だ」
「……半年前とはいえ、リユートでそれならあの魔物はどれ程の力 を...J
「まあ、池から出てこないから人間にはほぼ無害だ。だからこそ実質的 には討伐難易度Sランクなのに……ギルドではAランクに設定されてい る」
「……なるほど」
「で……実際に生死の境を彷徨って……その時に考えたんだよ。楽にア レを倒せる方法はねーのかなーって」
「..どういうこと?」
俺はポンポンとリリスの頭を叩いた。
「お前のレベル上げに最適ってことだよ」
「..何を言つている?」
「ん?•」
「..リユートでもまともに傷すらつけることができなかつた魔物に私
がどうこうできる訳がない」
そりゃあそうだ。
だから俺もまともにやらせるつもりなんてない。
リリスの言葉を無視して俺は説明を続ける。
「で、俺の考えがハマれば……楽に倒せる方法は実際にあるんだ。基本 的には水たまりに毛が生えたような淀んだ湖に生息する奴だからな。条
件に合う確率は高いと思ったから探してたんだが-----------------ドンピシャだ」
「...どういう事?」
「話は変わるが経験値を得る条件は?」
「……どういう事だと聞いているのだが……まあいい。経験値を得るに は相手を倒し、息の根を止める必要がある。経験値の概念とは……それ はつまり相手の命……魂を喰らって自らの生命力にするという事だか ら」
「質問を変えよう。パ^ —ティ^—戦でのレベルが上がる条件は?」
「……その戦闘での貢献度による。前衛職や大火力魔法で直接ダメージ を与えるのは当然の事、後方支援でのサボートに徹しても、貢献の度合
いによって、きちんと経験値は入ってレベルは上がる」
この辺りは俺も理屈は良く分からんのだが……。
そもそも魔法が存在したり、基本的な物理法則の係数からして地球と はちよいちよい違うしな。
まあ、異世界というだけあってゲームっぽいシステムが採用されてい るのだろう。
「...リユートのさせようとしていることは何となく分かる」
「ん?•」
「……リユートが前面に出て、安全な所から私が攻撃魔法を使ってマッ
ドウォ^—タ^—ストラィダ^—に攻擊するという寧でもそれでは...................私
のレベルは上がらない」
「つつーと?」
「……戦闘に貢献したと言える実績を作る事ができない。何しろ私では 傷をつける事はできないのだから。確かにこれほどの格上の相手となる と、有効打を与える事ができれば私に入る経験値はとんでもない事にな
るのだろうが.....」
リリスの言うとおり、格上を倒せば一気にレベルが上がる。
そして格下を倒してもレベルは上がりづらい。
例えば、今の俺ならゴブリンを一億匹倒してもレベルは微動だにしな いだろう。
故にBランク級以上の冒険者にとってはレベル上げは至上命題となる 訳だ。
そもそもBランク級以上の冒険者が有効に経験値を得る事の出来る魔 物の存在自体が少ないし、そんな魔物は討伐例が少なく情報も少ない。
安全マージンを取りづらい状況になるので、普通はそこまでランクが 上がると高みを目指す事を放棄して格下狩りに徹する事になる。
そのランクであれば、安全圏で仕事をしても金なら唸る程手に入る し、それ以上を目指す必要がなくなるためだ。
と、まあ、そういった理由で俺は人間の生息域を越えて世界中で魔物 を狩ってきた訳なんだがな。
それはさておき、俺はリリスの肩をボンと叩いた。
「ところがどっこい、今回はお前ひとりでやるんだよ」
「……本当に意味が分からない。どういう事?」
「アメンボってのは何故に浮いているか分かるか?」
「……分からない」
ひよっとしたらリリスなら知つてるかもと思つていたが.............まあこん
な事は普通は知らないよな。
俺も日本でテレビで見なければ知らなかったし。
「油と水が……決して混じらないってのは知ってるよな?」
「..それは知っている」
「アメンボが水に浮かぶ理屈ってのはな、自らの足に油を纏わせる事が 原因になっている」
そこでリリスはボンと掌を叩いた。
「.....なるほど。油が水を弾いて表面張力が発生し浮力が生じると
いう事....それはギリギリ理解できる」
「確か……お前らの物理学のレベルって……重力の概念があるかないか レベルのはずだよな?」
うんとリリスは頷いた。
「……重力……確か二十年程前に確認された概念」
「リリスさ……お前ひよつとして……天才なんじやねーのか?」
「...まあ、小さいころから本だけは読んでいたから」
「あと、念のための確認だが、普通の人間はそんな事知らないよな?」
「……ここまでの会話は物理関係の学者じやないと理解できないとは思
う」
「それを聞いて安心した」
そういえばこいつは十五歳で汎用魔法の魔術式の全てが頭の中に入っ ているし、使えないだけで龍魔術も頭の中には入っている。
よくよく考えなくとも........天才なんだよな。
まあそれはいい。
理屈が通じるなら話は早いしな。
「要はアメンボが何故浮くか。話は単純で、奴らは軽い。そして油は水 を弾く性質がある。その性質から浮力を生み出して奴らは浮いている訳 だ」
「..だから、そこまでは分かると言っている」
そこで俺はニコリと笑った。
「だからさ....さっき色々買い込んだだろ?」
「……確かに無駄に石験を買っていた」
「アィテムボックスから……ありったけの石験を取り出してくれ。そし てこの寸胴に水を張る」
「..何をするつもり?」
俺は寸胴鍋に水を張ると、焚火の準備を始めた。
「まずは水をお湯にする。んでもって石験を溶かすんだょ」
はてな? といぅ表情を作ってリリスは小首を傾げた。
一時間程が経過し、三十リットルは入りそうな寸胴には、ぬるま湯の 石験水が張られていた。
そうして俺達は気配を殺しながら湖に近づいていく。
「...これで本当に倒せるの?」
「恐らくは……そうなるハズだ。最悪の場合は今の俺なら一人で楽勝で 倒せるから安心しろ」
よっこいしょっと……とばかりに俺は水際に寸胴を置いた。
「……しかし……理屈は分かるがこれで本当に倒せるとは思えない」 そして……半信半疑と言った風にリリスは寸胴を湖の中に蹴り落とし て沈める。
ドボンと音がする。
寸胴鍋の中の石験水が湖に溶け込んでいく。 五秒経過。
十秒経過。
十五秒経過。
そこでリリスは湖の中心を指さして絶句した 「……え」
あわあわとその場でリリスは放心状態に陥る 「ああそぅなんだよ」
「……本当に……にわかには信じられない」 ああと頷き、俺は言った。
「アメンボは----溺れるんだよ」
そうなのだ。
アメンボは足の油を溶かされると溺れるのだ。
まあ、昔テレビのバラエティー番組でやっていたのを覚えてただけな んだけどな。
明日使えるムダ知識じゃなくて……異世界でガチに使える有用知識 だったって才チだな。
「……しかし本当に呆れる。そういえば龍の里の地下迷宮でも……貴方 はこんな無茶苦茶なやり方で格上の魔物の連続討伐を行っていた」
リリスはクスクスと笑い、俺は肩をすくめた。
「って言っても、こんな冗談みたいなレベル上げは、そうは簡単にでき るもんじやね^ —けどな」
まず、これを思いついて実行までできるのは俺くらいだし、そもそも のアメンボが奇形な上に更にその中でも突然変異となっている。
人類の勢力圏外でSランク級冒険者に出会った際に、たまたま偶然に
アメンボの目撃情報を仕入れていたから、一回こつきりの裏技を使えた という事だ。
「まあこれでリリスの底上げは相当にできたと思うぜ?」
半信半疑という風にリリスは自らの右掌を眺めた。
「……やはりにわかには信じがたい」
「なんせSランク級の魔物を単独討伐したんだからさ」
「..これを討伐と言って良いのかどうか...........」
そして俺達は宿に戻り、翌朝冒険者ギルドの受付に向かうのであつ た0
名 前:リリス 種族:ヒユーマン 職業:魔術師
年齢:十五歳 状態:魅了 (重度)
レべル:38—68
H P : 650 \650 晷1 880 \1880 M P : 2100\2100 晷4 420\ 4420 攻擊力: 1 o 5 晷3 2 3 防御力:15 o晷3 61 魔 力:4 2 o晷1o 5 4 回 避:3 5 o —6 3 5 強化スキル
【身体能カ強化:レべル10(MAX)】
通常スキル
【初級護身術:レべル10(MAX)】
魔法スキル
【魔カ操作:レべル10(MAX)】
【生活魔法:レべル10(MAX)】
【初歩攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【初歩回復魔法:レべル10(MAX)】
【中級攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【中級回復魔法:レべル10(MAX)】
【上位攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【上位回復魔法:レべル10(MAX)】
【最上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【龍魔術:レベル7 (種族及びステータス制限により一部を除き使 用不可)】
特殊スキル
【アィテムボックス:レべル10(MAX)】
【神龍の守護霊:レべル10(MAX)】
「..え?」
「いや、だから虹色の果実百個だ」
「.....え?」
「いや、だから換金を願いたい。ああ、後はオークとゴブリンの討伐部 位で……すべての合計で金貨一枚と銀貨五枚と銅貨二十枚になるはず だ」
総合計で日本円で百五万ニ千円だ。これで目標金額まであと九百万円 を少し切る寧になる
ああ、そういぇば奴隸の所有権を買い取った後に、紋章契約の更新作 業も金貨一枚分くらいかかるんだったっけか。
まあ、とりあえずは所有権を俺にしないと、どうにもならん。
「ってか、換金額は多少多いが……Aランク級なんかの連中はこんなも んじやねーんだろう? 何をそんなに驚いているんだ?」
「いや、この依頼はですね……そもそも虹色の果実は狙って採れるもの
ではなくてですね......たまたま見つければラッキー的なもので..........せい
ぜいがーつかニつ位で……」
受付嬢の訝し気な視線が痛い。
目立ちたくないってのに不味ったな……。
正直な話、高ランク冒険者の討伐依頼に同行して俺が一人で魔物を乱 獲してしまぅのが、金を稼ぐだけなら一番効率が良い。
しかしそれはあまりにも目立つってなもんで採取依頼を選んだんだ が、これはこれで悪目立ちの原因になってしまったよぅだ。
「まあ、とりあえず換金お願いするわ」
「..はあ」
何とも言えない表情で受付嬢は俺の差し出したブツの品定めをしてい
「確かにこの分量ですと金貨が一枚に銀貨が五枚、銅貨が二十枚です ね」
報酬を受け取り、財布代わりの小袋に収納する。
ズシリとした重量感……つっても、まあ銅貨の重みが半分以上なんだ けどな。
受付嬢に頭を下げて、踵を返したところでリリスが俺に声をかけてき た。
「..とりあえすリユ■—ト?•」
「何だ?」
「……食料の買い出し……いや、その前に……まともな食事をしにいこ う」
「そうだな....俺もロクに喰っちゃねえしな。そういえばリリス? お
前は……何が食べたい?」
「……お腹いっぱいに肉が喰いたい」
見た目は菜食主義のモヤシ娘なんだが……実は肉食だったりするのか な。
まあ龍族は肉好きだし、里で流通してたのも油ギッシュな肉ばっかり
だつたつけか。
「ああ、俺も肉は嫌いじやねーぞ……とりあえず、少しだけ贅沢してい い店で昼飯を食べよう」
そこで、タイミング良く控えめな具合にリリスの腹が鳴った。
目を見開いて俺とリリスは見つめ合う。
そして互いの腹をさすりながら盛大に笑い合つたのだった。
さて、ここは前回のよぅな普通の居酒屋の昼間営業ではない。 れつきとしたレストランだ。
リリスはいいとして、俺の格好は質素だ。
R p G世界で言うと見るからにモブキャラで、モロに村人といった 風。
ドレスコードに引っ掛かるかとも思ったが、そこは杞憂に終わった。 基本的に、異世界の連中というか冒険者は金持ってる奴も貧乏な奴も 総じて服装には気を遣わない。
街の外で年中野宿やらをしている訳だから、汚さに対する耐性は相当 なものだ。
そういう意味で、ベテラン冒険者が矗貭にするこの店で、ドレスコー ドなど存在しないのも当たり前と言えば当たり前なのだろう。
ちなみに、この店のランチは二人で銅貨四十枚もする。
「まあ……高級ホテルのランチバィキングが食える値段だな」
デザートのフルーツタルトにフォークを伸ばしながら、空になった皿 を眺めて溜息をついた。
「……バィキング? 海賊?」
「いや、気にせんでいい」
まあ、実際問題、そこそこの高級店だ。
金を一刻も早く貯めなければいけない俺達が来ていい場所ではない。
「……美味しかった」
無表情でそう言い放つリリス。
こいつは基本的に感情を表情に出さない。
仏頂面で黙々と食べていたから最初はドキドキした。
そもそも、延々と食事について愚痴を言っていたリリスに気を遣っ て、ここに足を運んだのだからこいつが満足しない事には意味がない。
ちなみに、日本でもそうだがサービス料だけで結構な値段が取られる お店は、パンがサービス代に含まれているのでお代わりはタダだったり る
そしてお代わり自由というキーヮードが庶民にとっては魅惑のヮード であることはこの世界でも変わらない。
結論から言うと、リリスはパンを四回もおかわりした。
だから、まあ、本当に美味しいと思っていると受け取っていいんだろ
Aっ"
さて、残すはデザートのみといぅ所。
フオ^—クに刺さつたフル^ —ツタルトを迎え入れるべく ロを開いた時、 俺は不覚にもゲップをしてしまつた。
相手がリリスとは言え、一応は女の子と食事をしている時に、流石に これは頂けない。
「すまねえな」
しかし、リリスは口元に笑みを浮かべた。
「……ゲップは良くない。でも、私は少し嬉しい」
「嬉しい?」
「……親しくない間では油断はない。故にゲップもない。つまりは…… リユートと私の距離が近くなつているといぅコト」
「え...?」
「……だから遠慮しなくてもいい。ゲップでも……あるいはオナラで も……好きなだけすればいい」
「お……おう……」
恍惚の表情をリリスは浮かべるが、今、俺自身は今、ドン引きの表情 を浮かべていると思う。
と、それはさておき、その時俺は背後から肩を叩かれた。
「あっ……お前等……」
剣士と魔術師。
魔術師はどこかで高位の僧侶にでも回復魔法をかけてもらったのか、 リリスにやられた腕の骨折は完治しているようだ。
そして大柄な剣士の男は俺の胸倉を掴んだ。
「おい、お前?」
「何なんだよ」
「あれで勝ったと思ってんじやねーぞ? この前は俺は腹を下していて な? 実力の半分も出せなかったんだよ」
思わず吹きそうになってしまった。
負けた言い訳にしても、マシなのは他に幾らでもあるだろうに。
「要は俺に文句があるっていうか因縁をつけにきたんだな? 暄曄売っ てんなら買ってやるぜ? 今回も殴り合いでいいのか?」
そこで俺はリリスが微かに震えていることに気付いた。
どうにもあの時剣士にボコボコにされたことがトラウマになってい るようだ。
「殴り合い? 冗談言うなよここはレストランだせ? 暄曄ができるよ うな場所でもない」
まあ、そりやあそうなんだが前回はギルド内で大立ち回りしただろう
こ0
っていうか表に出ればいいだけの話だが、どういうつもりなんだろう かこいつは。
「そこで提案がある……腕相撲で勝負ってのはどうだ?」
「腕相撲? まあ別に構わねーが……」
そこでレストランの従業員が慌ててこちらに近寄ってきた。
「お客さまそれは......」
剣士はドスを利かせて従業員を睨み付ける。
「なんだってんだ?.」
怯えた表情を作りながら従業員はこう言った。
「この前も新人の冒険者に『教育的指導』と称して何度も腕相撲を試さ れていたではないですか。何度も何度も手を物凄い勢いでテーブルに押 し当てるものですから……」
「ああ、そんなこともあったな……で、だからなんだってんだ?.」
「テーブルも破損して使い物にならなくなりましたし、新人冒険者も手 の甲が複雑骨折……」
なるほどそういう訳か。
そこで俺は全てを理解した。そして俺が理解したことは相手も承知の ようだ
「へへ……いくら俺の体調が悪かったとは言え……お前のあの動きは尋 常じやなかったからな?」
ってか、お前じや全く見えてなかったと思うがな。
「まあ、要はお前は格闘家か何か……スピードタィプの近接職だろ ぅ? 剣があれば別だが、さすがに素手でのやりとりでは俺が不利
で...下手すれば不覚を取るかもしれねーからな」
魔術師がテーブルの上の皿を片付ける。
そしてドンと剣士の男はテーブルの上に肘を置き、腕相撲の体勢に 入った。
「俺は腕力で大剣を振り回す……パヮータィプだ。お前は確かにさっき 腕相撲でも『別に構わない』と言ったな? まさか前言撤回とか情けな い事は言わねーよな?」
「ああ、分かつたよ。やつてやるよ。ただし-----------」
俺はリリスの背後に回り、彼女の両肩に手を置いた。
「お前の相手はこいつだ」
too-noy 2016-7-31 11:12
「..え?」
「ハァ?」
リリスと剣士が同時にすっとんきよぅな声をあげた。
「……リユート? 何を言っているのかサッパリ理解できない」
リリスの震えが強くなる。
まあ、前回はこの男にジャーマンスープレックスからのサッ力ーボー ルキックつていう、えげつないコンボを喰らつてたしな。
「いい力らいい力ら」
「……しかし」
「危なくなったら俺が助けてやるから...........安心して思いっきりやれ」
「......でも」
「いいから俺を信じろ」
その言葉でリリスは、小動物のょうに震えながらもコクリと頷いた。 剣士とリリスがテーブル越しに向かい合う。
「へへ……その細腕だと一発で腕が折れちまうだろうせ? そんな事を させるロクデナシな男なんて捨てちまって……俺の女にならないか?」
「……黙れ、ゲスが」
無言でリリスは中腰になってテーブルに肘を置いた。
「全く...つれないねぇ……」
そして剣士は片膝をついて、肘をテーブルに置いた。
右手の掌同士でガッチリと組み合った所で剣士は俺に言葉をかけた。 「このお嬢ちやんの後はお前だからな?」
「そういう寝言は、こいつに勝ってからにするんだな」
そこでリリスが恨めしそうな声色でロを開いた。
「……私にはとても勝てると思えない。リユートにはリユートの考えが
あるのだろうが......さすがにこれはどうかと思う」
「まあいいから、思いつきりやつてやれ」
そうして俺は二人の間に立つ。
「合図は俺が行う。文句はねーな?」
リリスと剣士が同時に頷く。
「レディ……ゴ——」
二人の筋肉が緊張しこわばり、そして一気に互いが互いの力をぶつけ 合う0
そして-----
——勝敗が決したのは刹那の時間の出来事だった。
開始と同時、猛烈な勢いで片方の者の右手がテーブルに叩き付けられ
る。
「魔術師の女の子が……剣士に……腕相撲で……勝利?」
もちろん、勝ったのはリリスだ。
店員が目を白黒させている。
そして剣士の仲間の魔術師もロをあんぐりと開けて、ただただ呆然と している。
まあそりやあそうだろう。
「...え?」
やった本人自身が信じられないという表情でその場で佇んでいるんだ からな。
俺はその場で固まるリリスの耳元で小さく囁いた。
「お前はSランク級の魔物を討伐したんだぞ? さつきのでお前は…… ギルドランクで言うとDランク級からCランク級の下位程度までは一気 にレベルアップした。まあ、今後はそんなに簡単には上がらないが…… これがレベルアップだ。単純なパワーだけなら、今のお前はEランク級 の近接職にも勝てる」
さすがにガチンコでの殴り合いなら、スキルや熟練の問題でリリス じや勝つのは難しいだろうけどな。
まあ、ガチンコでの戦闘なら……魔法を使えばリリスはこの剣士を一 瞬で消し炭にできるんだけれども。
「こんな感じで俺と一緒にいればお前は強くなれるし、俺の役に立てる ようになる」
「……リユート……何が言いたいの?」
「お前には強くなつてもらわなくちや困るし、役に立つてもらわなく ちやいけない。今は確かに役立たずかもしれねーけど、お前ならすぐに
足手まといからは脱却できるだから..........何も気にする必要なんてね^—
んだぜ?」
少し頰を赤らめて、恥ずかし気にコクリとリリスは頷いた。
とそこで剣士の男が声を荒らげて叫んだ。
「これは何かの間違いだ!どんな手品を使いやがった!?ってか…… テメぇ……表に出ろ! 本当の暄曄ならお前なんざ……」
腹を下していたから俺に負けたつて言い訳の後は……手品ときました か...。
本当に言い訳が大好きな野郎だな。
「分かつた。俺と腕相撲をして勝てたらリリスと暄曄をしてもいい。つ てか……いい加減にゥゼえから俺が本気で相手してやんよ」
剣士は声を荒らげる
「俺はお前の相手なんざしてねえんだよ! そこのメスガキに用があ るつつつてんだろ------つー.」
「俺から逃げるのか?」
その言葉で剣士のコメカミに青筋がいくつも浮かんだ。
単純な野郎だ
「やってやるょ。まずは……テメエに教育的指導ってやつを教えてや
るつー•」
「言っとくが手加減しないせ?」
「それはこっちのセリフだ。泣いて謝っても手の甲がボロボロになるま で指導してやるょ」
俺と剣士は互いにテーブルに肘をつく。
「リリス? 開始の合図を頼む」
無言でぅなずき、そして数秒後にリリスはロを開いた。
「..はじめ!」
開始と同時に、二つの意味で粉砕してやった。
つまりは、俺は本当に言葉通りに思いっきり腕相撲をやってやったの
だ。
身体能力強化術式も全開で、その他の禁術も全てフルォープン状態
だ。
厄災級個体を圧倒できる領域の俺の……全力全開。
ってなもんで、必然的に音速を遥かに超える速度で、剣士の男の手の 甲はテーブルに叩き付けられた。
となると、やはり二つのものが粉砕される事になる。
一つはテーブル。これは、まあ当たり前の事だろう。
そしてもう一つは剣士の右手の甲の骨だ。これも……また当たり前の 事だ。
——複雑骨折というレベルではなく、文字通りの粉砕の粉微塵。
自然治癒は不可能で、相当な回復魔法の使い手をもってしても元通り という訳にはいかない。
握力が著しく弱まる事は当然の話で、恐らくこいつはもう二度と剣で 生きていく事はできないだろう。
とはいえ、治療をすれば一般生活を営む分にはそれほどのハンデを背 負うという訳でもない。
その程度には加減してある。
まあ、こいつに必要以上の力を持たせると周囲に迷惑しかかけねーだ
ろう。
世間様のために、冒険者稼業からはこれを機会に手を引いていただき たぃ。
この腕相撲は、そういった意味での俺からの——教育的指導だ。
「う...ぁ...ぐ...ぎや....ぎやああああああああああああつ!」
剣士の甲からは折れた骨が飛び出していた。
滝のように鮮血が流れているが、まあ同じ事を俺やリリスにしようと してたんだから自業自得だろう。
「ぐぎやつああああああああああああああああああああああ----------------」
「叫ぶのは構わねーが他の客に迷惑だ」
出口を指さして俺は魔術師の兄ちやんに声をかけた。
「相方を連れて......さっさと消えた方が身のためだぜ?」
「あ...あ....あ....あ....」
魔術師の男の顔に恐怖の色が滲んだ。
そのまま魔術師の男は、剣士の男に一瞥すらくれずに全力で出口に向 かって退散していく。
あの魔術師……一人でトンズラこきやがった。
そして、相方に見捨てられた剣士の男は、叫びとも言葉ともつかない 声で絶叫した。
「ぎゃっああああああああ……バ、パ、バケモ……化け物っ…… お、ォ、ォ……お……おた……おた……お助けっ……ひっ……ひっ……
ヒィ....つ! ヒィ-------------つ!」
どうやら......今回はようやく正確に実力差を認識してくれたらし
、o
V
と、そんなこんなで這いずる毛虫のように剣士は店から退店していっ た0
そこで俺は深く溜息をついた。
「これで一件落着なんだが............テーブル壊しちまったな」
店員に恐る恐る尋ねてみる。
「弁償....しなくちやまずいよな?」
店員の返事を待たずして、カウンターの奥から大男が現れた。
背の高いコック帽に白一色の料理服。
生やした髭は貫禄があり、年齢も五十代といったところ。
まあ、どう見ても料理長か、あるいは店長といったお偉いさんだろ
Aっ。
しかめっ面で大男は破損したテーブルの状況を見る。
そして仏頂面で不機嫌そうにこう言った。
「まあ、銀貨二十五枚といつたところだな」
「げっ....そんなにするのか? まあ、仕方ねえけどさ..............」
この店はレストランというだけあつて内装はそこそこ凝つている。 テーブルやら食器も........まあ、高そうだ。
参ったな……今日荒稼ぎした分の四分の一も吹き飛んじまった。 「今日の勘定に上乗せで支払うよ。迷惑かけてすまなかったな」
そこで不思議そうな表情を浮かべて大男----------コックは顎鬚をさすりは
じめた。
「お前さん……一体全体何言ってんだよ?」
「ん?•」
「今日の勘定はタダでいい。それから夜にもう一度来い。厨房スタッフ の全力をかけて銀貨二十五枚分の最高級料理を振る舞ってやる」 「どういう事だ?」
ニッコリと笑い、コックは親指を立たせた。
「あの客には俺らも困っていてな。正直……ス力っとしたぜ!そのお 礼だっ!」
ああ、なるほど。そういう事ね。
そういう事なら.....俺とリリスは顔を見合わせて頷き合った。
「今からギルドにいって依頼を受けてくるわ。そしてギリギリまで働い
てくる。多分.....店に来るのも遅くなると思ぅ」
「どぅしてわざわざ今からそんな依頼を?」
その問いに、俺の代わりにリリスが舌なめずりしながら回答した。
「……ギリギリまでお腹を空かせてギリギリまで胃袋に詰め込むため」 その言葉を聞いて、コックは何とも言えない表情で苦笑した。
——翌日。
冒険者ギルド受付に、右手を包帯でグルグル卷きにした男が立ってい た。
元々彼は冒険者。そしてその職業は剣士だ。
つい先日、相方の魔術師に愛想をつかされて、現在はソロプレィの身 の上となつている。
しかし、今回彼は冒険者として受付嬢に話を切り出した訳ではない。
「護衛依頼を頼みたい。金貨五枚ある。俺の全財産だ」
受付のカウンタ^—テ^—フルに金貨を差し置き剣士の男は受付嬉にそ う^一一一nった。
「護衛依頼……ですか?日数は?」
「Bランク級上位の冒険者を雇いたい。相場はどれ位になる?」
「帝都や王都なんかの都会であれば相場は比較的割安ですね。しかし、 ここは田舎……そういった高ランク冒険者がいないので……都会からわ ざわざご足労願う事になります。往復の日数も加味すると金貨五枚であ れば拘束時間は五日が相場となるでしょう」
舌打ちと共に男は言った。
「Bランク級上位の護衛って言ったら一日大銀貨五枚が相場……ク ソっー.ボッタクリもいい所じやねーか!しかし背に腹はかえられね
えっー.俺はあんな奴らに舐められたままでは終われねーんだよっー.」 と、その時……背後から剣士の男の肩がボンと叩かれた。
「お前は....?」
「俺はBランク級冒険者のメリッサだ。少し前まで大貴族お抱えの護衛 をしていたんだがね……故があってクビにされちまった。お前は運がい いと思ぅぜ?」
「護衛依頼を……受けてくれるのか?」
「ただし、一日で金貨一枚だ」
「やっはりボツタクリじやね,―か!」
メリッサはそこで首を左右に振った。
「さっき舐められたままじや終われねえって言ってたよな? お前さん の護衛依頼には恐らく……護衛の範疇を超えた手荒い真似も入っている んだろぅ? 五日で金貨五枚みたいな値段じゃあ……面倒な事案はBラ ンク級の上位の連中は普通は受けてくれねえぜ?」
「なるほど。さすがにBランク級冒険者……話が早いな。つまりは……
ある程度の乱暴事なら受けてくれるって話か?」
「そういう事だ」
「まあ……こんな地方都市でこれ以上の人材には出会えねえ……か」 そうして二人は握手を交わした。
そこで受付嬢は呆れ顔を浮かべた。
「で……依頼は成立したみたいですが……ギルドを通すのでしよう か? 通さないのでしようか?」
そこで剣士の男は受付嬢に向けて不敵な笑みを浮かべた。
「ギルドを通しちまうと上納金が抜かれる上に……依頼内容もお上品に せざるを得ないからな」
「それじゃあ密談は他所でやってくださいな。ギルド内でギルドを通さ ない仕事の話をするなんて非常識ですわよ?」
「おっと、そいつはすまねえな」
そうしてBランク級冒険者のメリッサと剣士の男は二人連れ添ってギ ルドを後にした。
---そして数日後。
俺の前に剣士の男が立っていた。
「..あれほどやられたといぅのに......まだ私達につっかかるとは」
心底呆れたといった風にリリスは溜息をついた。
石畳の薄暗い路地裏を歩いていた俺達の前に突然に現れた剣士の男。 そんな彼に対し、俺もリリスと全く同じタィミングで溜息をついた。 どこまで粘着質なんだよ……と驚愕の表情を浮かべざるを得ない。 「リベンジだよリベンジ!俺はな、お前等に舐められっぱなしじゃ終 われねえんだよ!」
そうして剣士の男は胸を張った。
「お前等も年貢の納め時だせ? なんせ……最高クラスの実力者を用意 したんだからな」
あ、リベンジって言ってもお前自身がやる訳じやねーんだな。
流石に実力差を認識してくれたみたいで俺も嬉しい限りだ。
そうして剣士の男は、少し先にある十字路を指差した。
「あの路地を左に曲がれば……俺の用意した最強の冒険者がいる」
自信満々の剣士の男を見て、俺は一抹の不安を覚えた。
「最高ランクの冒険者.......か」
となると、Sランク級か........。
そうであれば俺も本気を出さざるを得ないな 「ついてこいガキ共—.」
剣士の言葉に従い、俺とリリスは剣士の先導に従い歩いていく。 そうして路地を左に曲がった瞬間に、剣士の男は振り返り満面の笑み で^一一一nった。
「先生!お願いしますっ!」
そこには背中を向けた形........広背筋を見せつけたいのだろうか、とに
かく上半身半裸のムキムキマッチョがいた。
そしてマッチョは俺達に背を向けたまま、口上を述べ始めた。
「俺の名前はメリッサだ。今現在この街に滞在している冒険者の中では 最高クラスのBランク級……故があって少し暇になって小遣い稼ぎをし ているが.....」
そうしてメリツサはこちらに振り返る。
目と目が合ったと同時、メリッサの目が大きく見開かれた。
そして呆けた表情でこう言った。
「..ほえ?」
リリス辺りが言えば可愛らしいかもしれないが、オッサンが「…… ほえ?」とか言っても正直キモィ。
反応に困った俺は言葉を選びながらメリッサに語り掛ける。
「.....何と言うか……久しぶりだな」
無言で見つめ合う事数十秒。
「..あ...あ...う...」
メリッサが涙目になった。
「..でどうすんの?」
涙目のメリッサに、剣士の男は大きな声でこう言った。
「先生!お願いします!ボッコボコにやっちやって下さいっ!」 しばし何かを考え、メリッサは大きく頷いた。
「ああ、任された」
へえ……圧倒的な実力差は知っているだろうにどうやら……やる気ら しぃ。
なんだかんだで、さすがはプロってところか。
「やるって事でいいんだな?」
互いに向かい合う。
遥か格下とはいえ……腐ってもBランク級だ。舐めプレィが過ぎると ちょっとばっかし痛い目にあう可能性はある。
だから俺も手は抜かない。
俺はここからの展開で何が起きても対応できるょうに、バックステッ プで十分に距離を取る。
メリッサは軽く前傾姿勢を取る。
そしてすぐさまに上半身を大きく仰け反らせた。
ヘッドバットか? それにしては距離が遠いが……このままでは俺に は絶対に頭突きは届かないぞ?
どうするつもりなんだ……そんな訝し気な俺の視線を受け、メリッサ は大きく息を吸い込んで、その場で頭を床に向けて振り落とした。
「すいませんでした^----」
土下座。
ヘッドバットの動作を応用した——綺麗でそして力強い土下座だつ
た。
並の冒険者や魔物であればその土下座の動作——ヘッドバット——に 巻き込まれれば一撃で命を落とすよぅな……それほどまでの攻撃的な動 作による——土下座。
俺はあんぐりとロを開く。
するとメリッサは地面に額を大袈裟にこすり付けた。
そしてすぐに立ち上がり、メリッサはダッシュで剣士の男に突進す る。
剣士の男の両肩に手を置くと、すぐにメリッサは男を無理矢理に地面 に這いつくばらせる。
「先生っ!?」
「この御方に謝るんだ!今すぐに!」
「先生!?どぅしたんですか? 俺は先生に金を払つてるんですよ? さあ早く! こんな奴なんてやつちゃつてください!」
「金をもらつているから……お前に土下座をさせているんだ! いいか ら謝れ!すぐ謝れつ!」
「どういうことなんですか先生!俺は先生に護衛依頼を……」
「謝るのが……この場合の一番の護衛なんだよこのマヌケつー.」
「え? 先生!!」
そうしてメリッサはコメカミに血管を浮かべ、半泣きで鼻水を吹き出 しながら絶叫した。
「--金貨数枚で命をドブに捨てる事なんてできるかドアホつー.」
そのままメリッサは新人冒険者にローキックを入れた。
護衛依頼を受けている者が、護衛対象者に蹴りを入れるという暴挙。 しかし、この場合はメリッサの言う通りに、雇い主へのローキックが きちんとした護衛になつているのだから皮肉なものだ。
「何て言うか……お疲れ」
「すいませんでした! この馬鹿には私から言い聞かせておきますん でつ!」
「お……おう……」
俺はリリスを連れて、やや脱力気味にその場を後にしたのだった。
——こぅして剣士の男は俺達には二度と近寄る事はなくなつた
幕間〜図書館の司書の独白前編〜
ここは龍王の大図書館。
相も変わらず司書の仕事は暇だ。
ほこり臭い室内......受付ロビーのいつもの自席で、私は本に目を通し
ながら物思いにふける。
私が冒険者稼業から足を洗って、どれほどの時間が経過しただろぅ か。
伝え聞くところによるとあの男----------リユートは世界を騷がし続けてい
るらしい。まあ、あそこまで馬鹿げた力と向上心を持つなら当たり前の 話なのだろぅ。
そして、天井を見上げて何とも言えない表情を作った。
——確かに私はそれなりの力量を誇るには至った。
でも、結局のところ、私は才能の壁を超えられなかったのだ。
確かに、私はリユートと同じ道……最強へと至る道を歩みたかった。 でも、私は自身の限界を感じて、リユートの向かう最強へと続く道か ら身を引いた。
だから、私は今、龍王の大図書館で司書を務めている。
昼食後には、差し込む陽気に誘われてゥトゥトと睡魔が襲ってくるよ うな……そんな、呆れる程にゆるやかで優しい時間。
うん。こんな日々も悪くない。
でも……やはりどこか寂しい。
とは言っても、今の私にはどうにもできないのもまた事実。
さて、何の話だっただろうか。
ああ、そうそう私が冒険者稼業から足を洗うようになった陽炎の塔で の出来事について……だったか。
豪勢な食事をご馳走になった翌日。
俺とリリスは、もたれる胃をさすりながら冒険者ギルドのロビーで掲 示板を眺めていた。
「美味しそうな依頼ってのはないもんだな」
「……目立たないという制約を取っ払ってしまえば……リユートであれ ば金貨十枚は……Sランク級の難易度の討伐依頼一回で完了できると思 う」
「そもそも俺らじや、そんな難易度の高い依頼は受ける事ができないだ
ろうよ。個々人でBランク級上位の冒険者..........そうだな.....パーティー
戦力としてAランク級でどうにかってレベルだぞ」
まあ、最悪の場合はその手段も視野には入れないといけねーのも事実 だ。
ただ、そうなると冒険者ギルド界隈で俺の名前が知れ渡ってしまい、 魔法学院で陰からコーデリアを守るという事が難しくなる。
と、その時、妙齢の女がリリスの肩を叩いた。
「……誰?」
爆乳……と表現すればいいのだろうか。
その女性は肌色の面積の多い、黒を基調とした露出系の服を身にま とつていた。
そして、赤髪の頭には、魔女のような黒帽子が乗っかっていた。
ただ、それは良いとして、とにかくオッパイが大きかった。
ただひたすらに大きかった。
別に俺はオッパイ星人ではない。
でも、コーデリアは一般的な大きさで、リリスに至ってはない乳だ。 そこを前提として再度言う。
このお姉さん、オッパイ大きい。
うん。
正直な話、景観として悪くない。
「虹色の果実の依頼を終了させたのは貴方達ね?」
そう言うと、爆乳のお姉さんはバッテンが書かれた依頼の張り紙をは がした。
見ると、確かに虹色の果実の採取依頼については、当面の間は採取し たとしてもギルドでの買い取り不可と記載されていた。
リリスの予想通り過剰供給の結果、果実の値崩れが起きて市場は大混 乱しているようだ。
「……だから何? そして貴方は……誰?」
リリスの言葉にお姉さんは艷めかしい仕草で腰をくねらせる。
「私は……見ての通り魔女よ」
なるほど。
やはり露出系の爆乳魔女ということらしい。
「で、その魔女さんが何の用事だ?」
「虹色の果実の値崩れって、坊や達の仕業ってことで間違いないの ね?」
「まあ、否定はせんが……それがどうしたってんだ?」
「見た所、貴方達はただの子供じやないわね。思うに……貴方達のどち らかは植物を探すのに最適なスキルを持っている」
「それについても否定はしない」
「通常では有りえない数の虹色の果実の乱獲。探索系のスキルを持って いて、なおかつ植物鑑定を相当に高いレベルで持っていると想定される けど....」
まあ、レベルを最大限まで上げた探索系スキルを複合させ、新種の上 位スキルとして行使した訳だ。
Aランク級以上の冒険者なら、上位スキルを使える奴はたまにいる。 が、まさか俺らみたいなガキがそれを使っているとはこの女は想像す らしていないだろう。
戦闘機で言えば、例えばこの世界の技術水準を第二次世界大戦としよ
Aっ。
そんな目視の時代の技術レベルが常識の所に、数百キロ先の的にトマ ホ^—クミサィルをピンポィントでぶちかますようなレ^ —ダ^—技術を俺は
持ってる訳だからな。
「そろそろ本題に入ってもらっていいか? 俺達には時間がないんだ」 「まったく……せっかちねぇ? 口説くのと果てるのが早い男は嫌われ るわよ?」
「時間がないって言ってんだろ?」
「ズバリ言ぅとね。お姉さんは魔法大学院の主任教授で専攻は錬金術 よ。で、マンドラゴラを探しているの」
「なるほど、それで俺達に声をかけたって訳か」
マンドラゴラってのは、朝鮮人参に人面がついているみたいな植物 だ。
見た目的には地球上で伝わっている、ファンタジー素材そのままな感 じをィメージしてくれれば大体オッヶーだ。
毒性と麻薬成分と薬効成分の強い植物で、錬金術師や薬師ご用達の合 成素材となっている。
希少性の高い代物で、市場には滅多に出回らない。
ちなみに希少性が高いというのには理由がある。
植物を抜く際にマンドラゴラが叫び声をあげて、それを聞いた者は絶 命するから採取難易度が高く、供給が少ない……というベタな話ではな
、o
V
なんせ、この世界ではマンドラゴラは抜かれても叫び声をあげない普 通の植物なんだからな。
問題は麻薬成分が強いって所で、そのままの意味で麻薬に加工するの も簡単だ。
故に、需要に供給が追い付いていない。
まあ、説明するまでもないが、マンドラゴラの麻薬利用は非合法だ。 「そうよ。坊やの知っている通りマンドラゴラの需要は非常に高いわ。 乱獲が進んで、人里近辺ではほとんど絶滅してしまった」
「麻薬中毒者共が血眼になって野山を探し回って、百年程前まで は……それはもうとんでもない事になってたらしいな。虹色の果実より は見つけやすいとは言っても、マンドラゴラを効率的に発見するにはそ
れなりの経験と知識が必要で……その上で見事に全て採取しつくしち まつたんだから採取の仕様もない」
「そのおかげで、錬金術や薬の研究がマンドラゴラ関連ではほとんどス トツプしてしまつているの」
「で……発見された群生地はどこなんだ?」
そこで魔女は感嘆したよぅに口笛を吹いた。
「話が早くて助かるわ」
「世間一般的にはマンドラゴラは半ば絶滅種みたいな扱いをされている が、乱獲が行われていない魔物の生息域の深部では普通に生えてるもん だからな」
魔女は右手人さし指を立たせ、鼻と唇に押し当ててウィンクをした。 「マンドラゴラをィケナィ遊びに使つちやぅ悪い子達は今もいるか ら……くれぐれもロは謹んでね?」
「で場所はどこなんだよ?」
「マンドラゴラの群生地が偶然発見されたんだけど……場所にちよつと
問題があってね」
「問題っつーと?」
「アラケス火山の中腹に群生地があるんだけれどね? 普通に行くなら 周囲の森林を抜けて岩場に出るんだけど……その森林はバジリスクの巣 の真っただ中にあるのよ」
「バジリスクっつーと……討伐難度はBランクの下位だよな?」
「ああ、そこは安心していいわよ。坊や達の護衛はちゃんと用意してい るから。貴方達はマンドラゴラの採取だけをすればいい」
「護衛?」
魔女はギルドロビーの端に目をやる。
壁際に設置されたテーブルに座っている---------見ただけで屈強と分かる
男達が俺達を見て笑った。
その中でも一際の巨躯を誇る大男。
三十代半ばと思われる筋肉ダルマはロビー中に響き渡るよぅな馬鹿で かい声でこぅ言った。
「おいおい、これはまた頼りねーなー.このガキ共がマンドラゴラ探し をするってのか? 年齢は幾つなんだよ?」
髪色は茶髪だが、どことなく赤龍のオッチャンを思わせる風貌。 というか、双子じやねーかと思うような見た目だ。
顔が似てるだけじやなく、脳味噌まで筋肉っぽい感じの過剰なまでの 筋肉のつき方。
実はこいつは赤龍族だと言われても俺は何の疑問も抱かないどころ か、逆に納得するだろう。
と、それはさておき、魔女は困り顔でこう答えた。
「貴方達のお仕事はマンドラゴラ探しではなく、マンドラゴラを探す事 ができる者を危険地域まで護衛する事よ。マンドラゴラが見つかっても 見つからなくても、貴方達には報酬を支払うから安心なさいな」
そこで俺は魔女に問いかける。
0け^は?」
「白鳳血盟って言う名前の冒険者のパーティーよ。あの一番大きい男の
職業は戦士でリーダーを務めているって話ね。パーティー戦力で言ぅと Aランク級の四人組。で……彼等は個々人の戦力でもBランク級の中位 から下位の凄腕揃いよ」
「そんな奴らに護衛を頼むってーと、とんでもない依頼料になるんじゃ ないか?」
「ふふ。貴方達はそんな事は気にしなくていいのよ。まあ、元々彼らは バジリスクの討伐依頼を受けていて、そのついでって事になってるから 相場よりは相当に安いわ」
「なるほどねそれにしてもAランク級のパ^~~ティ^—か...........」
そこで俺は魔女に尋ねた。
「で魔女さんよ?」
「何かしら?」
「報酬は?」
「群生地に生えている全てのマンドラゴラの予想量はニ千五百グラムっ てところね。根こそぎ取れるとは思わないけど……五百グラムも採取し
てくれば依頼成功って事で多少色をつけてあげるわ」
「具体的に言うと、報酬は幾らだ?」
「百グラムで金貨一枚。五百グラムを採取して来れば成功報酬で別途金 貨五枚で……金貨十枚ってところね」
それってひよっとして、奴隸関連の面倒な事は全て終わるんじやねー か?
俺はゴクリとつばを呑んだ。
と、その時リーダー格の戦士の男が俺とリリスに鼻で笑いながらこう
^ 一一一口った。
「おい、クソガキ共?」
「何だ?」
「俺達は護衛依頼とは聞いていたが子守とは聞いちやいねえんだよ。 はっきり言ってしまえば不快だ……明日の朝に火山に出発するが、せい ぜい俺達の足を引っ張らないようになっー.」
ああ、なるほど。
どうやらゥザィ系の才ッサンだつたらしいな。
そこで俺とリリスは目を見合わせて肩をすくめた。
とはいえ、同行者がゥザかろうがなんだろうが、俺達は行くしかな
、o
V
「つまりだな、魔女さんよ? 成功すれば最低でも金貨十枚って事でい いんだよな?」
「そういう事になるわね」
「オーケー。了承だ。俺達は魔女さんの依頼を受けてやるよ」
こうなれば是も否もない。
この依頼一発で面倒な金稼ぎを終わらせてやる。
「何だよこの荷物は……? 尋常じやねーぞ?」
出発の日の朝。
俺とリリスは白鳳血盟の一団が泊まっている宿屋……っていうかこれ はマジでホテルだな。
豪華な建物の一階ロビーに呼び出され、山と形容してもいい程のうん ざりするような荷物の前に案内された。
「替えの武器防具に食料、水、野営道具。行って帰ってで二週間の長丁 場の四人分だぜ? ああ。お前等を合わせると六人分か? だったら、 そりやあ相当な量になるだろうがよ」
「全部俺らに運べと? だが、それは俺らの受けた依頼には入ってねー ぞ?」
「お前さんの言う通り、採取はお前等で討伐は俺らって事で当初の契約 内容であれば問題はない。だが、一つあの魔女は規約違反を起こしてい た」
「どういう事だ?」
「お前等は駆け出し中の駆け出し……Fランク級って話じやねーか? いくらなんでもそんな雑魚中の雑魚の護衛ってのは骨が折れる」
まあ世間一般的にはFランク級冒険者ってのは、そこらの農民のオッ サンよりはちよっと強い程度だ。
下手したら路地裏のチンピラに絡まれて負ける可能性すらある。 押し黙る俺にオッサンは言葉を続けた。
「そこで俺らは……あの魔女に契約の変更をニ点迫ったんだよ」
「契約の変更?」
「第一に、俺らはお前等を護衛はするが優先度は低い。不可抗力であれ ばお前等が死んでも構わないという話だな」
「それでもう一つは何だ?」
ニタリと才ッサンは笑つた。
「お前等を好きなようにコキ使っていいって話だ。俺らはFランク級の 従者……ってか下男でも雑用に雇おうと思ってたんだが手間が省けたっ
て奴だな」
あの魔女、結構食えねえ女だったみたいだな。
勝手にあれこれ決めやがって……。
そこでガハハと笑って俺の肩を乱暴にオッサンは叩いた。
「炊事に洗濯に風呂の用意に、期待してるからなルーキー」
「ところで、この荷物は物理的にどうやって持つんだよ?」
全重量で恐らく二百キログラムを余裕で超えているだろう大荷物。 登山用リュックが五つに、人間が丸ごと入るようなズダ袋が幾つも あって、更に寝袋もある。
「とりあえずお前は背負えるだけ背負って、そして持てるだけ持てばい いんだよ」
言われる通りに俺は登山用リュックを背負い、ズダ袋をニつ両脇に挟
んだ。
「持てるだけ持ったが……残りはどうするんだ?」
「残りは嬢ちゃんが持てるだけ持つ。それでも余った荷物は……」
オッサンは、すぐ近くのテーブルで紅茶を飲んでいる細身の眼鏡-----------------
二十代半ばの男を指さした。
「白鳳血盟が誇る、魔術師殿のアイテムボックスに収納する」
「おいおい、アイテムボックス持ちがいるなら……わざわざ荷物なんて 持たせる必要がねーだろ?」
「アイテムボックスにはスキルレベルによって容量があるんだよ」 そんな事も知らないのかという風にオッサンは溜息をついた。 「なるほど、これだけの荷物の全ては収納しきれない訳か」
「いいや? 我らが魔術師殿を舐めちやあいけない。この容量の二倍ま でなら余裕で入る。なんせ、スキルレベルは5だからな」
うんうんと紅茶のカップを優雅な仕草でロに運びながら魔術師は頷い た。
「じやあどうして俺達が持たなくちやいけねーんだ?」
「お前等は新米冒険者だ。高ランク冒険者に同行するという事がどうい う事か....身をもって知るんだな」
ああ、なるほど。
要は新人ィジメがしたいだけか。
そこでオッサンは少しだけ優し気に笑った。
「なあに、俺らも昔は先輩らに散々いじめられたもんだ。だが、だから こそ今の俺達があるんだ。『いつかはこいつらみたいに高ランク冒険者 になってやる』ってな。そういう気持ちが強くなるための原動力にな る。要らない節介かもしれないが……若いうちの苦労は買ってでもし ろって言うだろ?」
本当に要らない節介だ。
しかも悪気が無さそうだから救えない。
何ていうか、体育会系のダメな所が全部出てるみたいな感じだなこ 才ッサン。
そこでオッサンがリリスに向けて声をかけた。
「おい嬢ちゃん? お前も持てるだけ荷物を持つんだ」
「……分かった」

頷くと同時にリリスは自前のアイテムボックスを出現させて、次々に 荷物を入れていく。
そこでオッサンは呆けた表情を作った。
「え...? アイテムボックス? Fランク級冒険者が...........?」
俺もリリスの出したアイテムボックスに、持っている荷物を収納して ぃく。
全ての荷物の収納を終えて、リリスは無表情で眩いた。
「……道中……たくさんの魔物を狩ると思ぅ。死骸……素材も持ち帰る と思ぅ。そちらの魔術師のアイテムボックスの容量が限界に達した
ら...私が保存できる」
「嬢ちやん……アイテムボックスの容量は?」
しばし考えリリスは言った。
「……この程度の荷物なら十倍は入る」
その言葉を聞くと同時、飲んでた紅茶を魔術師はその場で吹き出し た0
数日の後、俺達は火山の近くのバジリスクの棲む森へと到着した。 森の中は昼間だというのに薄暗く、見るからに魔性の者がひしめいて いるという風な感じの不気味な森だった。
で、実際にバジリスクとは一時間に一度位の頻度で遭遇した。
大体が一体だが、時折ニ体や三体の複数とも遭遇する。
「へぇ..」
流石はパーティーでAランクを誇る集団だ。
森に潜むバジリスクの数は相当なものだが、Bランク下位の魔物なん て何の障害にもならないとばかりに蹴散らしていく。
バジリスクっていうのは、頭がニヮトリで尻尾は蛇の化け物だ。 大きさは丁度相撲取りか、あるいは大型のプロレスラーがー人分って 所だな。
地球では石化能力を持っていたり、あるいは猛毒を持っていたりとい う風な特殊能力がデフォだ。
が、こっちでは普通にクチバシでつついてくる脳筋系となっている。 ついさっき討伐したバジリスクの死体のトサ力——討伐部位を切り取 りながら俺はオッサンに尋ねた。
「おい才ッサン、これはちよっとおかしくねーか?」
「オッサンってお前は……誰に向かってロを利いているんだっー.」
また始まったよ.....と俺は肩をすくめる。
俺は三度目の人生で特殊なんだよ。実年齢なら余裕でお前より年上 だ。
まあ、今の肉体は十五歳だから、見た目で舐められるのはしやあねー んだけどな。
「そんな事はどうでもいいから、こいつらのサイズ……おかしくねー か?」
「どうでもいいとは何事だ! そもそもバジリスクみたいなレアモンス
ターの討伐なんぞ俺達は初めてだっー.」
やっぱり気付いていないんじやなくて、そもそもバジリスクを見た事 がなかったのか。
本来はこの生物は魔界や極地の奥深くに生息し、人間の勢力圏内では 滅多にお目にかかれない。
そもそもそんな生物がここにいる事がおかしいのだが、それ以上にお かしい点がある。
脳筋連中は気付いていないがバジリスクの体が大きい。
いや、デ力過ぎるのだ。
相撲取りクラスの大きさのバジリスクとばかり遭遇しているが、本 来、バジリスクって奴の身長は百五十センチ前後だ。
出会ったバジリスクの全てがデ力いので、発育の良い個体にたまたま 遭遇したというセンもない。
これは、群れ全体の個体の能力が上がっている事を示している。
で、そういう場合には群れの中で特に力の強い個体が進化して、上位
種となっていてもおかしくはない。
で、バジリスクの上位個体って言ぅと...........。
「討伐難度Sランクの下位……キマイラか」
この連中では荷が重過ぎるな。
いや、文字通り太刀打ちできないといぅか、話にすらならないだろ
Aっ。
半ば確信に近い予感があったので、俺はスキルを行使して周囲の索敵 を開始した。
半径五十メートル内にはキマイラの姿は確認できない。
そこで Sランク級以上の魔物にタ^—ゲットを絞り周囲五百メ^—ト ル圏内まで索敵範囲を拡げる。
ビンゴだな。才マケにキマイラもこつちを標的にしているみたいだ。 俺はリリスに耳打ちをした。
「リリス?」
「..何?」
「俺は少しこの場所から離れる」
「..どぅして?」
「人間の活動領域でこんなのに出くわすとは思わなかった。オッサン連 中じや、ちょっとしんどい魔物が近くまで来ているんだ。俺が出向いて 先に叩き潰す」
「……了承した」
「十分で戻る」
そうして俺はその場からこつそりとフエードアウトした。
リユートが森の奥に消えてから五分程が経過した
炸裂音やら、大木の伐採音やら、あるいは音速戦闘の証拠である衝撃 波の発生音やらが物凄い勢いで遠方から聞こえてくる。
それはもうとんでもない戦闘音だが...............今はそれどころではな
、o
V
「なんでこんなところに討伐難度Aランク上位……マンテイコアがいや がるんだっ!」
一団のリーダーである戦士の大男が青ざめながらそう叫んだ。
彼の言葉通り、その視線の先五十メートルには異形の怪物が佇んでい た。
大きさはライオン程度で、胴体もライオンのような形で皮膚は赤い。 人間の顔とサソリの尾を持つ人喰らいの怪物——それがマンテイコ
ァ。
マンテイコアと屈強な男達は互いに様子を窺うように睨み合ってい る。
「マンテイコアが出るなんて聞いてね^ぞ? どうするリ^—ダ^— ?」
「是非もねーよ。撤退に決まってる」
こちらはパ^—ティ^—としての戦カであれば八ランクなのだヵら戦お うと思えば戦えない事はないだろう。
要は安全マージンが取れていないという話で、戦略的撤退という事ら しぃ。
これは遊びや訓練ではなく、簡単に人が死ぬ戦場なのだ。
だから、その判断は正しいと私も思う。
まあ、それは良い。
今現在、この場で私が最も弱く、最も死に近い。この連中がどこまで 私を守ってくれるかも分からない。
リユートと合流するのが最も安全だろう。
が、しかし、遠方の大規模戦闘音を聞く限り、あちらはあちらで相当 にお取込み中のようだ。
何よりも距離がかなりある。
さて、どうするか......と、考える暇もなく私は首根っこを掴まれて持
ち上げられた。
「へへ、こんなガキでも圆には役に立つ」
見ると、私を持ち上げている槍使いの男が下卑た笑みを浮かべてい た。
「おい、お前っ!何して---------」
リーダー格の戦士の男の制止も聞かずに、槍使いの男に投げられた私 は宙を舞っていた。
そして、投げられた方角にはマンティコアが所在する。
「さあ、ガキが喰われている間にとっととズラかるぞリーダー? って か、脳筋の戦士をリーダーにするなんて俺は反対だったんだよ。ガセ情 報掴まされてこのザマだ」
「しかし、幾ら何でもあんな子供を圆に……」
一団が何やら揉め始めているよぅだ。
しかし、私は既にマンティコアに向かって宙を舞っている訳だ。 どぅせ揉めるなら是非とも圆に使われる前に揉めてほしかった。
と、そこで私は落下し、ズザザっと地面を滑っていく。転がりながら 勢いが徐々に消えていき、やがて止まった。
見る限り、現在の場所は一団とマンティコアの丁度中間地点。
さて、本当に困った。
マンティコアは戦闘態勢に入ったようで、涎を垂れ流しながら猛烈な 速度でこちらに駆けてきている。
こんなちんちくりんの……肉付きの悪い痩せた子供を食べても、美味 しくないと思うから是非とも止めてもらいたい。
が、そうは問屋が卸してくれそうにない訳だ。
「..フレア」
「……ウインドエッジ」
「..ライトニングアロ ■—」
先日、行使が可能になった上位魔法を連打するも相手はAランク上位 の魔物だ。
ダメージは全く通らず、足止め程度の効果しかない。
迫りくるマンテイコア。距離差は五メートルを切った。
マンテイコアが大口を開き、無数の牙が眼前に見える。どうやら頭か ら丸のみにするつもりらしい。
「.....ここで終わりか」
まあ、それも仕方がない。
リユートについていくと決めた時点で、野垂れ死にや戦闘での死亡の 覚悟は既にできている。
と、その時-----
---私は脇腹に衝撃を受けた。
いや、それは衝撃と言うような生易しいものではなく、まるで脇腹が 爆発したかのようなシロモノだった。
「手荒い真似ですまねえな、お嬢ちゃん?」
too-noy 2016-7-31 11:12
私は横合いに蹴り飛ばされた形となり、マンテイコアの嚙みつき攻撃
を避ける寧ができた。
そして私の代わりに戦士の大男が、大楣を前面に押し出してマンティ コアの突進を受け止めていたのだ。
「..どういう事?」
仲間達は全員逃げ出したようで、リーダー格である彼がたった一人こ の場に残ったようだ。
マンティコアとの力比べを行いながら、決死の形相で大男が叫んだ。 「俺がお前等に偉そうにしてたのは俺が強いからだ……そして強さには 覚悟と責任が伴うっ!」
「..責任?」
「そうだ。弱者保護の責任があるんだよ。それが強者としての責任 だっ!」
「……責任と言っても、それは貴方の自己満足の話で……誰にも強制さ れた訳ではないはず。それで命をなげうつなんて……とても理解できる ものではない」
大男の全身の筋肉が膨張し、マンティコアが押し返されていく。
「まあ、そりやあそうなんだが……この世に生まれて三十五年っ! 今
更---この生き方は変えられね^ —のょっ!ここは俺に任せてお嬉ちゃ
んはとつとと逃げろつー.」
大楣でマンティコアを押し飛ばした大男。
彼は大楣をその場に捨てると、背中の剣を抜いた。
「かかってこいやっ!」
討伐難易度Aランク上位の魔物。
単独の実力ではBランク級上位であるこの男が、狩れる道理はない。 私はフラフラとその場で起き上がる。
脇腹に鋭い痛みが走り、苦笑した。
多分、さっき助けてもらった時の職りで肋骨にヒビが入っている。
「自分でやっておいて、この状態で逃げろとは全く無茶を言ぅ..............フレ
ァ」
マンティコアの脇腹に炎の華が咲いた。
ダメージを与える事はできないが、気をそらせて隙をつくる程度の事 はできるはず。
「お嬢ちやん?」
「……私も手伝う。マンテイコアに勝てとは言わない。少しだけ……時 間を稼いでくれればそれでいい」
既に遠方からの戦闘音は、もう伝わっては来ない。
そうであるのならば、ほんの少しの時間だけ粘ればこちらの勝ちだ。 と、そこで私は眼前に繰り広げられた光景に頭を抱えた。
時間を稼ぐどころか、一瞬の間に大男はマンテイコアに組み伏せられ てしまつたのだ。
何が起きたかと言うと、力比べでは分が悪いと悟ったマンテイコア はスピ^—ドでかき乱す作戦に出たようだ。
何度か大男の周囲を回り、スピードに戦士がついてこれていない事を 確認したところで背後から飛び付いて馬乗りの体勢になった。
そうして戦士は一瞬で詰んでしまったと........そういう状況だ。
「ぐがっ....」
マンテイコアが大男の胴体に喰らいつく。装甲がひしやげ、肉が裂け
て鮮血が舞う。
ー嚙みで内臓がぐちやぐちや……とまではいかないようだが、少なく とも大男は既に戦闘に耐えられる状態ではないだろう。
「……フレア」
「……ウインドエッジ」
「..ライトニングアロ1」
矢継ぎ早に魔法を放つが、まるで効いてはいない。
私は歯ぎしりしながらも更に魔法を放ち続ける。
「……フレア」
「……ウインドエッジ」
「..ライトニングアロ1」
やはり、効いていない。
私の攻撃を無視してマンテイコアは再度大口を開いて大男の脇腹に喰 らい付こうとする。
既に装甲はひしやげて、防具の体をなしていない。
そこに被せて二回目の攻撃、恐らくは死に至る可能性が高い。
「……どうして私はこんなにも……無力」
怒りにも似た、あるいは寂しさにも似た、それともこれは悲しみ…… なのだろうか。
いや、これは悔しいという感情だ。
それも違う……と私は首を左右に振った。
これは自分の無力に対する怒りだ。
初めて覚える激情に任せて、ただただ私は魔法をマンティコアに向け て放つ。
どうにもならない力の壁……これがAランク級上位の魔物。
リユートはこの更に上の領域で、ここニ年間、ずっと死闘を繰り広げ てきたはずだ。
「.....本当に私が、ごく近い将来に……こんな領域の魔物が闊歩す
るような世界に足を踏み入れる事ができるの?」
圧倒的な無力感の中、ただただひたすらに魔法を放っていく。
マンティコアの大口が大男の脇腹を粉砕しようとしたその時-------------突風
が吹いた。
私の瞳が一瞬だけ、猛烈な速度で長剣を振るう少年を捉える。
そして、次の瞬間にはマンティコアの首が明後日の方向に飛んでいっ た。
正にそれは瞬きの間。
けれどそれはリユ—マクレーンにとっては、全てを終わらせるに 十分な時間。
「でかしたぞオッサン。よくリリスを守ってくれた」
リユートは油紙で剣に付着した血糊を拭いながらそう言った。
「リリス? 回復魔法は使えるな? オッサンの応急手当を頼む」
私は頷き、大男へと早歩きで移動する。
大男は苦痛に顔を歪め、けれども驚愕の表情でリユートに尋ねた。 「一撃……だと? お前……何者だ?」
「……俺か?」
しばし考え、リユートはニヤリと笑つてこう言つた。
「俺は——世界最強の村人だ」
その日の夜。
リリスの回復魔法の甲斐もあって、オッサンは普通に飯が食えるまで になっていた。
「おいオッサン? ロは堅いか?」
スープの中に白パンの端っこを浸しながらそぅ言った。
オッサンが作ってくれた料理だが、具材は鴨肉の燻製か?
どうやら燻製時に香辛料も使われているみたいだ。
さすがはAランク級のパーティーだけあっていい物喰ってる。 「どういう事.....でしょうか?」
ってか、さっきからオッサンの口調が変わっていて気持ち悪い。
ゲンキンな野郎と言うか何と言うか。
「乗り掛かった船だ。オッサンには事情を全部説明してやるって事だ。 再度聞くがロは堅いか?」
「はて……? まあ、約束の類は違えた事はありやせんが……」
もう見られてるし、他の連中にもバレたらバレたで……仕方ない部分 もあるだろう。
「単刀直入に言うと、俺の実力は冒険者ギルドで換算するとSランク級 の上位程だ」
しばしのフリーズ。
才ッサンはその場で固まりロをパクパクとさせている。
「.................エつ、エつ......Sランク? ど、ど、どぅ
してそんなお方が?」
「理由があって目立ってもいけねーんだょな」
「なるほど、だから低ランク冒険者のフリをしていた訳でやすね?」 フリじやなくて、リアルにギルドの序列上は低ランク冒険者なんだが な。
「そんなところだ。で、俺はリリスのレベル上げもしなくちやいけねー
んだが....道すがら手伝ってもらぅからな?」
ここまで来れば旅は道連れってなもんだ。
ここいらにはBランク下位のバジリスクが大量発生しているし、リリ スのレべリングに丁度いい。
いや、人間の活動領域でここ以上にレべリングに適した場所はないと 断言できるレベルだ。
「ところでリュ^トさん?.」
敬語だけじやなく、ついに『さん』付けで呼ばれちやったょ。
本当に分かりやすい奴だな。
「お嬢ちやんのレベルアップが目的なので? 見たところ、お嬢ちやん は魔術師ですよね?」
「ああ、そうなるな」
「さっきの戦闘では上位魔法を扱ってやしたが……Bランク下位の魔物 であるバジリスクにアレでは有効打は与えられないと思うんです が...」
「有効打ではないにしろ、ダメージは通るだろ?」
「そりやあまあそうだと思いやすが..........MP枯渴が問題になります」
ああ、その事か。
まあ、ただひたすらに魔法連打をして全てを直撃させたとして、バジ リスク一体を狩るのに今のリリスだとMPがー回で空になるだろう。
「リリスには夜魔の指輪を装備させている」
「いやあ本当にリユ^—トさんにはかないやせんですわ」
「ん? どうした?」
「普通の会話にサラっと伝説級のアーテイファクトの名前が挙がるんだ
から....そりやあ驚きますって話ですよ」
まあ、わざわざそれを取りに行くためにニか月も古代遺跡に通ってた からな。
おかげさまで俺の計画は巻きで進行しなくちやならなくなってはいる が、それだけの効果はあるアイテムのはずだ。
「しかしリュ^—トさん? 夜魔の指輪って言うとエナジ^ —ドレインです か?」
「エナジ^ —ドレインはエナジ^ —ドレインなんだが...........」
「ふむ?」
「夜魔の指輪には二種類ある。HP……生命力を吸うのはメジャーな方 だが、これは生命力ではなくMPを吸う効果のヤツだ。んでもって変換 効率は九割ってところだな」
「なるほど……でも、バジリスクは脳筋型の魔物でM Pは少ないでや す。更にお嬢ちやんの戦闘技能はBランクの領域には達していない……
失礼ですがエナジードレィンを仕掛ける寧ができるかどうか.................」
「ハァ? リリスにバジリスクからMPを吸わせるなんて、そんな危険 な事ができるかよ」
「どういう事でございやしようか?」
「要は味方から吸えばいいって話だよ」
「味方から? 私は戦士でリユートさんは剣士。二人共に近接職でMP は...」
はてな……と才ッサンは首を傾げ、コーヒーカップに口をつける。 「ああ、その事な? 色々あって、俺のMPは30000近い」
そこでオッサンは飲んでたコ^~~ヒ^~~を吹き出した
「コホつ—• コホぃZ...... コホぃノ —• コホコホコホつ—•」
しばしの間オッサンはせき込んだ。
いや、それはせき込むというには生易しいシロモノで……どうにも気 管にコ^―ヒ^―が入つたらしい
「ゲホつI• ゲホリI• ゲホッI• ゲヒつ.............. ゼッ.......
.ノ 一ぐ,•••••• H. .ノ 一 X、 \ •••••• n. -1— •••••• - . .ノ 一 X、 \ •••••• H. .ノ 一 い X ♦♦♦♦♦♦! ♦
フゥー....!」
まあ、そりやあ驚くわ。
近接職だとMPは身体能力強化程度しか使わないから、Sランク冒険 者でも1000もあれば多い方だろう。
その三十倍だ。
それはつまり、俺はMP的な意味でのスタミナ切れは絶対に起こさな いという事だ。
まあ、だからこそ俺は単独で魔物の巣窟を渡り歩く事ができたんだけ どな。
「って事で、そろそろ寝ょうか。リリスのレベル上げの最中にオッサン にやってもらいたい事はあるが、それは現場で指示をするから」
「そうしやしょうか。ああ、後、リユ—^さんはニンニクは苦手で?」 「いや、むしろ好物だが?」
「お嬢ちやんはどうだい?」
ああ、リリスにはタメロなのね。本当にゲンキンな野郎だな。
「……嫌いではない。肉に合う」
「で、リユー.^さんは朝から重たい食事は大丈夫でございやしょう か?」
「十五歳の育ち盛りだからな。人間のゾンビ以外は何でも食えるぞ」
「お嬢ちゃんは?」
「……カビの生えている黒パン以外なら、大抵のものは食べられると思 う」
そこでオッサンは頷いて満面の笑みと共にこう言った。
「明日はバジリスク肉を赤ワインでフランべしたものを用意しやしよ う。いやはや、バジリスクの肉は知る人ぞ知る隠れグルメ食材でやして ね……」
「オッサンってひょっとして料理が得意なのか?」
「これでも駆け出しのころは食事の用意はあっしが全部していたもの で……評判も凄い良かったんですよ? それこそ、その時はコックの道
を本気で考えたもんです」
ゴクリと俺とリリスは唾を呑んだ。
そして俺とリリスは目を合わせて頷き合う。アイコンタクトによる と、どうにもリリスも俺と同意見らしい。
意外に役に立ちそうじやねえかこのオッサン。
翌日。
オッサンの料理の腕は確かだった。
肉好きのリリスは無言でステーキを三度もおかわりして胃袋の限界ま で食い物を詰め込んだようだ。
その喰いっぷりと言えば中々に強烈で、見ているだけでお腹いっぱい になるようなシロモノだった。
まあ、俺も四回おかわりしたんだけどな。
何だかんだで成長期の食欲は凄いなと、我ながら苦笑モノだ。
キャンプを撤収して、大森林を行く俺らだったが、ほどなく一体のバ ジリスクと出くわした。
「リリス?」
「..何?」
「俺がバジリスクの相手をする」
「.....それで?」
「これからお前のレベル上げをするんだよ」
そこでリリスは首をフルフルと左右に振った。
「……昨日から思っていたが……私ではバジリスクの相手はできない。 遠距離魔法で狙い撃つにもレベル差がありすぎて……あの高速移動を捉 えきる事はできない」
ご意見はごもっともだ。
今のリリスはCランク級の下位程度。
よぅやくベテラン冒険者と肩を並べる程度のステータスで、遠距離か らではマグレ当たり程度しかバジリスクに魔法を直撃させる事は難し
「そんな事は分かっている。範囲魔法で俺を巻き込んでいいから、Mp が尽きるまでバジリスクを攻撃しろ」
「..え? どういう事?」
「バジリスクの行動は俺が制限してやる。俺が一定範囲内にバジリスク を追い込むから、俺もろとも、その範囲に攻撃を続けろって事だ」
「..しかしそれではリユートが傷付いてしまう」
「お前の魔法はBランク下位のバジリスクにギリギリでダメージを通す 事ができる程度だ。馬鹿げた魔力から生まれる魔術耐性とHPを持って いる俺からすれば……屁でもねえ」
まあ、それでもとんでもなく痛いだろう。
普通はできるもんじやねーが、それでも俺にはスキル:不屈がある。 圧倒的な近接戦闘能力と、圧倒的な魔力による魔術耐性、そして圧倒 的なHPとスキル:不屈。
この全てが揃ってようやくできる手法で、このレべリングの方法は俺
にしかできねーだろうな。
それはリリスも分かっているようで、呆れたように大口を開いた。
「……本当に........無茶苦茶な発想……」
「だが、効果は抜群だろ?」
納得いかないという風な表情だったが、リリスは首を縦に振った。 「オッサンはリリスの警護を頼む。他の魔物が現れた時は俺が何とかす
るから五秒でいいから時間を稼いでくれ-----------って寧だから、リリスは余
計な事は考えずに全力で攻撃魔法をぶっ放し続けろ!」
俺は剣を片手にバジリスクに歩みを進めた。
ヒユッとエクスカリバーを一閃。
まずは、片足の腱を切り取らせてもらう。
パチュンっと軽い音と共に、バジリスクの足の腱は破壊された。
Bランク下位の魔物であり、それなりの強者として知られている魔物 だが、ここ一年で俺が相手にしてきた連中に比べると非常に可愛らし
「さてスピ^^ドの八割はこれで奪ったか」
もう片方の足の腱を切ってもいいが、それだとリリスに経験値が全く 入らない可能性がある。
この世界での集団戦では、経験値はその戦闘での貢献度によって分配 されるという非常にゲ^ム的なシステムとなつている
俺が単独でバジリスクを無力化してしまった後に、一方的にリリスが バジリスクを袋叩きにしてしまつても、あまり意味はないのだ。
「リリス! やれっ!」
「..サンダーストーム」
「痛っ...電撃か....」
稲光が光り、周囲十メートル程度の範囲に無数の雷鳴が轟いた。
当然、俺とバジリスクは両方共に直撃で雷に打たれた。
ピリピリと四肢が若干痺れる……っていうか、滅茶苦茶痛い。
命に別状が全くなくても、やはり痛い物は痛いんだな。
んでもって、バジリスクは雷撃を喰らって全力で逃げようとするが、
そうは問屋が……つていうか、俺が卸さない。
逃走方向を俺が阻む。
バジリスクは別の方角から逃げようとするが、更に進行方向に回り込 んだ俺が阻む。
と、そこでニ発目が来た。
「..サンダース^-----」
やっぱり滅茶苦茶痛い。
つていうか痛いなんてモンじやねえぞこれは。
一発ニ発ならシラフでもどうにかなるだろうが、スキル:不屈がない と度重なる連撃に耐える事は絶対に無理だ。
と、三発目が来た。
「..サンダース^-----C5」
ああ、クソ……痛いなオイ。
「..サンダ^スト^—ム.....サンダ^~スト^—ム」
間をおかずに連撃で来やがった。
「痛っ……」
「..サンダース-----^..サンダース------CJ.サンダース-----CJ」
三連撃。
どうやらリリスは最初は加減をしていた.........というか様子見をしてい
たらしい。
そして俺が大丈夫そうと思ったところで全力で魔法連打の方向に方針 を切り替えたらしい。
「..サンダース-----^..サンダース------CJ.サンダース-----CJ」
アヒユつと俺のロから変な声が漏れる。
流石に……キツィ。
魔術耐性が物凄い事になっている俺ですらこれだ。
バジリスクに至っては、筋肉のかなりの部分が電撃に焼かれてオシャ 力になったようで、その場に崩れ落ちた。
痙攣しながら白目をむいたバジリスクを見て俺は安堵の溜息をつい た0
そのまま俺は攻撃魔法の範囲圏外に離脱する。
そしてリリスがこのまま遠距離魔法でトドメを刺せばいい。
痛い思いはとりあえずこれで終了だ。
「良しリリス! 上出来だ! 俺はこのまま離脱-----------」
「..サンダース------」
「ウギつ....!」
完全に油断していたところへの雷撃。
再度変な声が出た。
「おいリリス!?どういう事だ? どうしてサンダース^------------に俺を卷
き込む?」
「..コ^^デリアHオ^—ルストンの関係で私の怨念は少なからず溜
まつている」
「怨念って……お前……」
「……そして魔法の巻き添えでリユートはさつき変な声を出した」 「どういう事だ?」
「……リユートの変な声が、私の怨念と化学融合を果たした。その結 果、何故だか私は……なんだか楽しくなってきたという事」
「楽しくなってきたってお前……」
「……つまりは、これは幼馴染の勇者が女だとは聞いていなかった事に 対しての……抗議的な意味での——サンダーストーム」
そう言いながらリリスは再度、俺とバジリスクに雷撃を放った。
バジリスクは絶命し、俺の手足に強烈な痺れが走る。
「だから止めろってリリスっー.」
そこまで言ってリリスはニコリと狂気じみた笑いを浮かべた。
「……それに……中指の指輪の恨みも私は忘れていない」
「中指の指輪? 夜魔の指輪がどうかしたのか?」
「......サンダース------cj」
「うぎやあああああああああああっ! バジリスクはもう死んでんだ ろっ!?」
「..うるさい黙れ-------サンダ^ —スト^—ム」
しかし、魔法は発動しなかった。
そこでリリスはフラフラとその場に倒れ、忌々し気に眩いた。
「……ああ、リユートの苦痛の表情……何故だろう。凄く気持ちが良 い。だが、残念な事に……MP切れ」
おぼつかない足取りでリリスは俺に近づき、夜魔の指輪を装着してい る左手で俺の首を掴んだ。
見た目的には首絞めの格好になるのだが、これはエナジードレィ ン……MP補給に必要な動作だ。
しかし、何故かリリスはマジで俺の首を絞めているような気がする。 いや、近接戦闘能力に違いがありすぎて、その辺りの微妙な力加減は 本当に認識が難しいんだが。
「……さっきも言ったが、幼馴染の勇者が……女だとは聞いていない」 「もうその話はいいだろうがよ……いい加減にしてくれよ……」
「.....ついさつき……私は何かに目覚めてしまつたのかもしれな
い。込み上げた色んな感情が……抑えられない。こんな事は初めて」
「とりあえずM P補充は終わつたみたいだから手を放してくれるか?」
「……了承した」
と、まあそんな感じでバジリスクの一体目を見事に俺達は撃破したの だった。
名前 種族 職業 年齢 状態
レベル
HP
リリス ヒユーマン
魔術師 十五歳
魅了 (重度)-►ヤンデレ(軽度)
8 1 6 J7
11 00 00 ^ 11 00 00 11 ox- 11
M p : 4420\442 o —4 6 o o\ 攻撃力:3 2 3—3 4 o 防御力:3 61晷3 9 2 魔 力:1o 5 4晷114 o 回避:6 3 5晷6 5 4 強化スキル
【身体能カ強化:レべル10(MAX)】 通常スキル
【初級護身術:レべル10(2八><)】 魔法スキル
【魔カ操作:レべル10(MAX)】 【生活魔法:レべル10(3八><)】 【初歩攻撃魔法:レべル10(MAX)】 【初歩回復魔法:レべル10(MAX)】 【中級攻撃魔法:レべル10(“八><)】
【中級回復魔法:レべル10(MAX)】
【上位攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【上位回復魔法:レべル10(MAX)】
【最上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【龍魔術:レベル7 (種族及びステータス制限により一部を除き使 用不可)】
特殊スキル
【ァィテムボックス:レべル10(MAX)】
【神龍の守護霊:レべル10(MAX)】
「あの坂を登ればマンドラゴラの群生地です」 「おぅ」
あの後、俺達は三体程のバジリスクを狩った。
つまりは既に四回もM Pを吸われている事になるが、順調にリリスは レベルアップを重ねている。
電撃地獄を味わっている俺の精神的疲労をおいておくと、今のところ は旅路は物凄く順調に進んでいる訳だ。
で、俺達の前方には延々と続く岩肌と砂利の坂道。
みたところ直線距離で七キロ メートル程、高さで言ぅと五百メートル 程はあるんじやなかろぅか。
そして背後を振り返ると……高所恐怖症の気がある俺には、いささか 厳しい光景が広がっていた。
半径二百メートルの、樹木生い茂る円形の陸の孤島。
孤島を囲む、幅五十メートルはある断崖絶壁。
そして、崖と陸地を繫ぐつり橋が都合ニ本。
つり橋の幅はともに五メートル程で、そして長さもまた共に五十メー トル0
「しかし生きた心地がしなかったな」
ここに着くまで、ニ本のつり橋を渡ってきたんだが、俺の精神衛生上 あまりよろしいものではなかつた。
「......Sランク級の男にも怖いものがある」
クスクスと笑いながらリリスはそう言つた。
「昔から高所は苦手なんだよ。この崖……下まで三百メートル位はある んじゃねーか? 底はトゲトゲの岩が無数にあるみてーだし、落ちれば 普通は串刺しで即死だろうよ」
しかし……と俺はその場で立ち止まった。
「リユ^-トさん?. どうしたんです力?.」
「ちよっと待ってくれ.......この地理条件だと........」
索敵スキルを発動させて、崖に囲まれて陸の孤島状態となっている半 径二百メートル圏内を調べる。
やはり....いる。
バジリスクが総数五十体程度は確認できた。
「リリス? アィテムボックス内の油は? 野営の時の火付け用にオッ サン達の荷物に相当な量があっただろう?」
突然の俺の問い掛けに、訝し気な表情でリリスは応じた。
「五リットル程度……まあ、確かに相当な量がある」
「ふむ...使い方によっては十分に森林火災は起こせるな」
はてな、とリリスと才ッサンはクエスチョンマークを瞳に浮かべた。 「ああ、説明が必要だよな。まず、片方の橋を落とすんだよ」
「..橋を落とす?」
「あそこの地形は森に覆われている。焼き払えば逃げざるを得ない。周 囲の崖に落ちれば命はないし……そうなると逃げ道はつり橋の一本道に なる」
「..それでどうするつもり?」
「橋の幅は五メートルだぜ?」
「..だから、どういう事かと聞いている」
「俺がこちらの陸地には一体たりとも上陸させねえ。で、数体も俺が一
撃で屠ればこの道から逃げょぅとする奴はいなくなる。生きも地獄で帰 りも地獄ってなもんで、つり橋の上で奴らは右往左往って訳だ」
「……それで結局……何を私にさせるつもり?」
俺は肩をすくめてこぅ言った。
「放火の後、橋の上を逃げ惑うバジリスク達に……直線状に作用する範 囲魔法を一方的に連打し続けろ」
そしてニ時間後。
「こりやあ……圧巻ですねぇ」
オッサンの言葉の通りに、大森林はとんでもない事になっていた。 眼前で大規模森林火災が起きていて、濛々と火と煙が上がっている。 そしてつり橋の上で右往左往する無数のバジリスク達。
「……シルフィーズキッス」
一列に並んだ五十体程度のバジリスク達に、無数の風の刃が叩き付け
られる。
「……シルフィーズキッス」
バジリスク達の後ろは炎で、前には俺。
「..シルフィーズキッス」
つり橋にそのまま留まれば風の刃にきり刻まれる。
「……シルフィーズキッス」
あるバジリスクの個体は、無謀にも俺に突撃を仕掛けて一刀のもとに 両断される
そしてそれが牽制になり、バジリスク達はそれ以上こちらには来られ なぃ。
「..シルフィーズキッス」
そしてある者は風の刃に追われて崖の下----------奈落へと転落する。
「……シルフィーズキッス」
幾度目の魔法の発動だろぅか。
途中、リリスにMPを吸われて……まあ、とりあえずとんでもない数
の魔法の発動が行われたのは間違いない。
俺に斬られた連中や、崖に転落した連中も含めて、かなりのダメージ をリリスが与えている。
風魔法の威力も戦闘途中で目に見えて上がっているし、今回のレベル アップは相当なものだろぅ。
「……シルフィーズキッス」
全身から血を垂れ流しながらも、最後まで耐えていた大型のバジリス クが倒れた。
これでつり橋を占拠していた魔物の群れの全てを屠った事になる。 ステータスプレートを眺めながら、リリスは軽く溜息をついた。
「……本当にとんでもない事になった。リユートと再会する前の私はレ べル38……ここ数日でこんな事になるなんて……」
俺は剣をしまい、そしてパンパンと掌を叩いた。
「って事で....そろそろマンドラゴラの採取に向かおぅか?」
名 前:リリス 種族:ヒユーマン 職業:魔術師 年齢:十五歳 状態:ヤンデレ(軽度)
レべル:71—10 2
H P : 2010\2 01 o 晷3 250\ 3250
M P : 4600\ 460 o 晷6 200\6 200
攻撃力:3 4 o —5 6 9
防御力:3 9 2 —5 4 o
•IM力"11 4 o X _ 7 6 0
回 避:6 5 4 —9 6 o
強化スキル
【身体能カ強化:レべル10(MAX)】
通常スキル
【初級護身術:レべル10(MAX)】
魔法スキル
【魔カ操作:レべル10(MAX)】
【生活魔法:レべル10(MAX)】
【初歩攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【初歩回復魔法:レべル10(MAX)】
【中級攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【中級回復魔法:レべル10(MAX)】
【上位攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【上位回復魔法:レべル10(MAX)】
【最上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【龍魔術:レベル7 (種族及びステータス制限により一部を除き使
用不可)】
特殊スキル
【ァィテムボックス:レべル10(:2八><)】 【神龍の守護霊:レべル10(2八><)】
職業スキル 【多重詠唱】
アラケス火山。
紆余曲折の末、遂にマンドラゴラの群生地が存在する山のふもとに迪 り着いた訳だ。
オッサン日く、延々と続くこの砂利の坂道を登り切ればカルデラ地形 のよぅに盆地が拡がっているとの事だ。
そこには岩肌と砂利以外にカルデラ湖があって、その周囲には少しの
森林が存在し、そこにマンドラゴラの群生地があるらしい。
普通の冒険者は、大森林に生息するバジリスクを恐れて近づかない。 そのために長らくマンドラゴラの群生地が発見されずにすんでいたと の話だ。
「そろそろか....」
坂道の終焉と共に、急に視界が拡がった。
と--そこで俺は絶句した。
「何てこった……」
俺と同じく絶句したリリスも大口を開いた。
「..これは」
呆然と立ち尽くす俺達に、オッサンは天を見上げながら言った。 「火山活動が活発化したみたい……ですね」
赤々としたマグマの大河が遠くに見えて、沸騰するカルデラ湖が見え た。
森林は既に燃え尽きていて木炭を残すばかりとなっている。
「おいリリス?」
「..何?」
「マンドラゴラ....生えてると思うか?」
「..どう見ても全ては燃え尽きた後」
俺達はガックリとうなだれた。
ってか、リリスに残された期間は残り二週間ちょっとだ。
今までギルドで依頼の張り紙を散々に見てきたが、俺らのランクで怪 しまれずに受ける事ができる依頼で、今回のこれ以上の依頼はない。 「仕方ないな」
俺は溜息と共に指をニ本立たせてリリスに言った。
「ギリギリになるだろうが、二週間待っていてくれ。俺は別のルートで マンドラゴラを採取してくる」
「……二週間?」
「ああ、修行途中に立ち寄った場所に……Sランク級の賞金首の一団の アジトがあったんだ。確か奴らはマンドラゴラの自生地をわざわざ選ん
で居を構えていたはずで......」
「……なるほど」
「とりあえず、すぐに街に戻るぞ? バジリスクの圏内を抜けたら俺は すぐに走って行ってくるから……リリスとオツサンは、近場の安全な場 所で経験値稼ぎをしておいてくれ」
その言葉にリリスとオツサンは首肯した。
茶色を基調とした木製の内装のギルド内の喫茶店。 コーヒーの香ばしい香りが鼻先をくすぐる。
俺とリリスの対面の魔女は驚いた表情で言った。
「群生地が役に立たないっていう情報は別ルートから聞いてたんだけ
ど...どうやってこれだけの量のマンドラゴラを?」
布製のズダ袋を指さしながら、魔女がうさんくさげな表情で尋ねてき た。
「採取場所は秘密だ」
なんせAランク級程度の冒険者でも決して近づけない、秘境の奥地だ からな。
採取場所を明かせばとんでもない事になる。
「出所は気になるところだけれど、まあ、お姉さんとしてはマンドラゴ ラを入手できるなら本当にありがたい話ね」
ニコニコと笑いながら魔女は続ける。
「今回の場合はむしろ使い物にならない群生地に派遣させたって事 で……むしろこちらが違約金を払わなければならないレベルの落ち度 だったのに」
「まあ、とりあえず.....これで幾らになるんだ?」
魔女はズダ袋のロ紐を解き、中身の検分を始めた。
大量のマンドラゴラの一苗を取り出し、そして魔女は大きく目を見開 ぃた。
いや、それどころか見る間に魔女の顔色がどんどん蒼ざめていく。 訝し気に俺が見ていると、そのまま魔女はへナヘナとその場で、机に 突っ伏す形で崩れ落ちた。
「どうしたんだよ?」
微かに頭を上げて、魔女は言った。
「お姉さんは……魔法大学院の主任教授なのよね。それも二十代半ばで この地位に就いて……まあ、錬金術の分野では天才っていう自負はある わ」
「ん? どうしたんだ急に?」
「だからお姉さんは大抵の事では驚かない...........んだけど」
「だからどうしたんだ?.」
「このマンドラゴラを本当に譲ってくれるの?」
「ああ、そういう依頼だろ?」
魔女はズダ袋を手に取り、抱え込むように膝の上に載せた。
そして、ギラギラとした瞳で更に尋ねて来た。
「後でやっぱりナシとかそういうのは絶対にナシだからね? お姉さん と坊やの約束よ? 本当の本当に譲ってくれるのね?」
「だから譲ってやるって言ってんだろ」
言葉を聞いて、魔女はその場で狂ったかのように何度もその場で頭を 下げた。
「ありがとう! 本当にありがとう! 何度お礼を言っても足りない
わ! 本当に.....本当にありがとう!」
「どうしたんだよ.....?」
「お姉さんが個人的にやっている薬学と毒学の基礎研究……これ、本当 にとんでもない事になるわよ?」
「だからどういう事なんだよ」
「これはマンドラゴラじやないのよっー.秘境の極一部にしか生息しな
い---エクス•マンドラゴラー.」
「..?」
「とんでもないレア素材で、これだけの量があればお姉さんの分野の研 究に、相当な技術革新が行われる事は確実よっ!はは……こりや あ……お姉さんの名声は学会に轟いちやうわね!」
「なんだかわからねーが……報酬を貰いたいんだが」
魔女は懐の財布に手を伸ばし、そのまま俺に寄こした。
「この依頼のお金の出所は……元々魔法大学院なのよ。そして坊や達は 結果的にマンドラゴラは取ってこれなかった。だから魔法大学院との依 頼は失敗。そして……エクス•マンドラゴラはお姉さんが個人的に買い 取ります」
「ん? どういう事だ?」
「即金なら大銀貨一枚。家に帰ってお金を搔き集めて明日に金貨五枚。 更に土地家屋を売っばらって更に金貨六十枚は用意するわ。それでも不 足だとは思うけど……後は出世払いって事で金貨四十枚の借用書を用意
する」
一億……かよ。
話が大きくなってきたが、問題はそこではない。
「すまねーが、俺は一週間後に金貨十枚が必要なんだ。土地家屋の売却 までにどれだけ時間がかかる?」
「不動産ってのは……売り買いが難しいからね。少なくとも一週間では 無理だと思うわ」
「どうしても即金が必要なんだ。エクス•マンドラゴラだったか? そ れだけ高価なものなんだったらお前に譲らずに質屋か何かで売却した ら...」
と、そこまで言って俺は気づいた。
とんでもない麻薬成分も持つような代物なんだから、研究機関や研究 者相手は別として、通常の商取引で売却できる訳もない。
「で、どうするの?」
「とりあえず金貨五枚はすぐに用意してくれ」
「商談成立って事ね。それじゃあ家財道具一式を売ってお金を作るか
ら...そうね。明日の夕方にこの場所に来てもらえるかしら?」
「ああ、分かったよ」
ズダ袋を持って、鼻歌交じりで魔女は帰路についた。
上機嫌な魔女に対して、俺とリリスの顔色は非常に暗い。
「くそ...これじゃあ間に合わねえ」
「……とりあえず依頼募集掲示板を見よう」
俺達は立ち上がるとすぐにギルドロビーに向かい、依頼の張り紙と睨 めつこを始める。
何を見ても安価な依頼ばかりだ。
つというか……俺は愕然とした。
「Bランク級以上の討伐依頼すらねーじゃねーか? 今までは必ずいく つかあったのに……」
Bランク級以上の冒険者がこんな地方都市にいるだけで珍しいみたい な話を、これまで何度か聞いた事がある。
となれば、Bランク級以上の冒険者向けの依頼が出されている事自体 が珍しい事なのかもしれない。
どれだけ稼いでも日当で銀貨数枚がいいところ……といった風な張り 紙の群れに、いよいよ俺とリリスは絶望した。
最終手段として、俺がAランク級以上の依頼を受けてしまうというも のもあったが……これではそれもできそうにない。
「不味いなこれは......」
「..どうする?」
状況は八方塞がりだ。
ぶつちやけ、どうしようもない。
大貴族の家にでも押し入り強盗でもするしかねーか……いや、流石に それはダメだ。
どうすりやいいんだー•
と、俺が泣きそうになっている時、脳天気な声色がギルド内に響い た0
「あリュ^—トさんじやないですか! これはどぅもこんにちは!」 挨拶してきたのは、マンドラゴラ採取に同行した戦士のオッサンだ。 柔和な笑顔を湛えながら、こちらに向けてゆっくりと進んでくる。 「おお、オッサン……悪いが話をしている時間もあんまりないんだ。用 事があるなら手短に済ましてくれ」
「はいはい、そりやあもぅすぐ終わりやすせ」
才ッサンは懐をゴソゴソと漁り始めた。
「これ、この前のバジリスクやマンティコアの報奨金でやす。リュート さんの代わりに受け取っていたのでここで精算しときやすね」
「金貨……十五枚?」
「Aランクの魔物も交じってますしね。正当な報酬だと思いやすよ? 便宜上ややこしくなるので討伐者はあっしって事になってます。何か申 し訳ないっすね……手柄を横取りしたみたいで」
ぃゃぃゃぃゃぃゃ。
グッジョブ過ぎんだろオッサン。
「……リユート……提案がある」
リリスもまた、俺と同じ事を思っているのだろう。
「こうなつちまったら.......このオッサンを矢面に立たせて稼ぎまくる
か」
「はて? どういう事で?」
「なあ才ッサン?」
「はい、何でしようか?」
「一か月....俺らを専属のホ^—タ^—で雇ってくれ」
「どういう事でしようか?」
「ギルドに対する表向きの手柄は全てオッサンだ。金は二割やる。獲物 はリリスのレべリングを行いながら俺が狩る。具体的に言うと、まず、
ここから一番近い大都市........サム^—クまで早馬を飛ばすそしてそこ
のギルドで高難易度の討伐依頼を上から順に引き受けていく」
そこでようやくオッサンは状況を理解したらしい。
「サムークですと……極ごく稀にSランク級の討伐依頼もありやす
が...その場合は?」
「俺がいるから大丈夫だ。っていぅかその場合は俺のレベル上げにな る」
「なるほど。報酬の二割も.......本当にいただけるんですか? それに実
績はあっしで……本当に良いので? 猛速度でそんな依頼を片付けて いっちまったら……あっしはすぐに功績が認められてAランクになっち まいやすぜ?」
「ああ、それでいい。で、一か月でリリスのパヮーレべリングを終え て、更に十分な金もこっちは得る事ができるって訳だ。お互いにメリッ トもある事だし……協力してはくれねーか?」
「いやいやいや、こっちとしては願ってもない幸運でやすょ。是非とも 御同行をお願いしやす」
「良し、交渉成立だな」
ォッサンと固い握手を交わしながら、早くも俺は財布の中身の皮算用 を始めた。
今回の件で金のありがたみは痛感した。
あつて困るものでもないし、やはり稼げるときに稼いでおいたほぅが
リリスのレべリングがてら……そうだな。
とりあえず一か月で金貨五百枚は貯めてやろうか。
時系列はリリスの奴隸紋が金貨十一枚と引き換えに消去された日付と ほぼ同じ。
場所は雪山-----高度五千メートルを誇るその場所は、年中一面の雪と
氷に覆われ外部からの訪問を易々と許す事はない。
---ラマダ寺院
この世界の中でも特殊な宗教を崇拝しており、地球で例えるならソレ はチベット密教の建物や僧侶の風習に近い。
そして視点はコーデリア=オールストンに移る。
寒い……そして暗い。
光一つない空間で、水だけを摂取しながら既に二週間。
私——コーデリアHォールストンは、完全な暗室と化した堂内で座禅 を組んでいた。
長らく暗闇の中にいるせいで、眠りと覚醒の境界が曖昧になつてい
る。
空腹と倦怠感がアクセントを利かせてくれて、いい具合に分泌された 脳内麻薬が、頭の中身をトロけさせる。
と、そんな感じで今、私は荒行をしているんだけど、その理由はニつ ある。
一つは今までの自分を振り返り自省する事だ。
厄災にも数えられる邪龍:アマンタ。
純粋に肉体を退けるだけであれば、討伐難度はAランク下位程度だ。
が、邪法によって半ば精神生命体になっていたために、邪神の一柱に も数えられる。
その魔物と対峙した際、私はただの村人に助けられるといぅ失態を犯 した。
私がリユートに抱く個人的な好意は完全に別にして、それは勇者とし ては絶対にあってはならない事だ。
私とリユートは同い年で、勇者と村人では戦闘における才能が桁外れ に違ぅ。
リユートがどれだけ力を望んだとして、どれだけ努力したとして、私 を超える事は本来は絶対に叶わない事なのだ。
けれど、それは起こつてしまつた。
それは一つの結論へと到達する。
---つまりは、私の怠惰だと。
歴代勇者の中でも稀代の天才と呼ばれる西の勇者:オルステッドH ョーグステンは十三歳でAランク級冒険者に、そして十五歳でSランク 級冒険者になつたという。
それはオルステッドが、今の私と同じ年齢でアマンタを簡単に一人で 退ける力を持つていたという事を意味する。
今の私はせいぜいがBランク級冒険者の上位程度の力しかない。
同じ勇者であるのにこの差……これが怠慢でなくて、それ以外の何だ と言うのだろう。
この寺に来て、飲まず食わずで暗闇の中、ただひたすらに今までの自 分を振り返ってみてその事が分かった。
決して、私は鍛錬において手を抜いていた訳ではなかった。
が、そこに命を賭すような鬼気迫るような気持ちや覚悟は無かったよ うに思う。
まあ、そりやあそうだろう。
今まで私が命を落とし掛けた経験は、子供の時のゴブリン千匹襲撃の 事件の時と、邪龍:アマンタの事件の時だけだ。
そして、その両方を共にリユートに助けて貰っている。
要は、私は心のどこかでリユートに甘えていたのだ。
それはリユ^—トと白馬の王子様とのイメ^—ジが被ってしまう程に 「我ながら……情けない話よね」
と、そこでフラっと上半身が大きく揺れ、鈍い頭痛が襲ってきた。 栄養失調による体調不良だろう。
「ともかく、少なくともリユートと肩を並べる事ができる程度にはなら
ないとね。村人がそんだけ頑張ったってのに.............勇者としてカッコ
つかないじやん」
結局、邪龍アマンタの件はお偉いさん達の間では、私の魔力暴走の一 言で片付けられてしまった。
そしてそれが、私がここに来た目的の二つ目にして本命の理由とな る。
魔力暴走というのは、体に秘めている潜在能力を上手く扱えずに暴走 させてしまうっていう状態で、勇者や賢者等の特殊適性を持つ者の幼年 期に起こりやすいとされている。
要は潜在能力の百パーセントを、生存本能やらの原初的欲求を引き金 として解放•暴走させてしまう状態って訳ね。
魔力暴走に陥った者は理性のタガが外れ、餓えた獣に近い状態とな
る。
生存欲求が暴走の引き金となったような場合、目につく者を酷い時に は敵味方の見境もなく皆殺しにしてしまう事もあるから狂戦士と呼ばれ
る事もある。
で、ゴブリンの時も調査報告書には、魔力暴走や狂戦士という言葉が 記載されていた。
と、まあ、お偉いさんを初めとした事情通の間では必然的に、私は精 神的にかなりアレな人という扱いを受けている。
「人呼んで鮮血姫……か。全くもって不名誉極まりないわね」
まあ、同い年の村人のリユートが事件を解決したっていうのを、頭の 固いオジサン連中が信じる訳もないから仕方ないっちやあ仕方ないんだ けど。
と、そこで堂の入口の引き戸が開かれた。
刺すような光が堂内に入ってきて、眩しさで目が痛い。
昼夜の感覚が希薄になっていたが、どうやら外は昼の様子だ。
「水を運んできたぞ。鬼子折伏の行。いよいよ……今日じやな」
齢八十の腰の曲がった髭だらけの老僧。
この人は、大陸……つまりは私達が常識とする魔法体系とはまた違っ
た体系の秘術の数々を修めていると言う。
積雪の中で、麻布一枚を加工した僧服を身に着けて涼し気な表情をし ている事からも只者ではない。
「導師様……?」
「なんじや?.」
「これから一体何が起こるんでしよう?」
「..コーデリア殿よ。お主の目的は魔力暴走を意図的に引きおこし、
その状態を完全に理性による制御下に置く事じやな?」
「はい。その通りです」
今の私の実力はBランク級上位と言ったところだ。
もしもバーサーカーとなっている状態を、理性の制御下に置く事がで きるとすると、Aランク級上位レベル……あるいはそれ以上の領域の力 を引き出す事ができる。
肉体をリミッターカットで酷使する訳だから、当然……かなりタィト な時間制限はあるだろうけどね。
「時にコーデリア殿よ。お主は我々の教義については理解しておる か?」
「人はいつか死に土に還る。どうせ何も残らないのだから、土に還る道 中に……つまりはこの世に生きる上で如何に成功しようがあるいは失敗 しようが、金持ちになろうが貧乏になろうが意味はない……という事で すよね?」
「そのとおりじや。欲に振り回されるが故に、人は苦しみを感じる。し かし、人はいつか死に土に還る。道中がどうあろうが、結局……全ては 塵芥と変わらぬ」
「端的に言うと、美味しい物を食べたいという欲求があるから、普通の 物では満足できずに人は苦しむという事。本来は素食で栄養さえ足りて いれば、それで必要十分なのに……と」
私の言葉に大きく導師は頷いた。
「すなわち、この世における苦しみからの救済とは、人が持つ煩悩の全 てを断ち切る事じや。そしてこの荒行はその第一歩」
「業を断ち切るための行......なのですよね?」
「うむ。これからお主が行うのは自らの煩悩と向き合い、煩悩を捨 て……初期の段階の悟りを開いてもらう事じや。そしてそれがコーデリ ア殿が求めている魔力暴走への対抗手段となる」
魔力暴走は非常に原始的な欲求がトリガーとなつて発動される。
一番ポピユラーなのが生存欲求で、命の危険を感じた時に潜在能力の 全てを解放して生き残ろうとする具合だ。
「この寺院で禁忌とされる根源の七大欲。この荒行でその全てを理性の 制御下に置けるつて話ですよね?」
「うむ。自らの欲求を自在に.......そして完全にコントロールできるので
あれば、理屈上はお主は魔力の暴走を制御下に置く事ができる。ただ し、本来であれば初期の悟りとは言え……数年から十数年の時間をかけ て開くようなものじや。早急に強制的に行うのであれば、やはり脳に影 響する魔術の類を扱うしかない」
導師はしばし押し黙る。
「脳に負担がかかるし、先例を紐解けば、折伏に失敗した挙句に廃人と なった者も多い。覚悟は本当におありかな?」
too-noy 2016-7-31 11:06
頷く私に導師は目を細めた。
「それで具体的には何が起こるんでしようか?」
「……それは己の目で確かめるのじやな」
「..?」
不満そうな私を見て導師は困ったように笑った。
「精神世界の有り様の話じやからな。人によって……試練……七大欲の 折伏の方法が異なるのじやよ。ここでヮシが何かを言えばコーデリア殿 に要らぬ混乱を与えるだけじや」
導師は暗闇の堂内を歩き回り、四隅に置かれている香炉を焚いてい
軽い麻薬成分の混じっているもので、瞑想によるトランス状態を促進 させるものという話だ。
「それじやあの」
導師が出ていってからどれほどの時間が流れたのかは分からない。 ただ、香の甘ったるい香りが妙に鼻にまとわり付く。
一呼吸するたびに平衡感覚が狂っていくのが分かる。
天井がグルグルと回り、床がウネウネとうねる。
もしも今強力な魔物に襲われでもしたら、一たまりもないだろう。 暗闇の中、上下左右の感覚も怪しくなってくる。
自分が無明の闇の最中、永遠に落ちていくような、あるいは浮遊して いくような
世界が回り、あるいは私が回るような……。
そこで——堂内の床に淡い光が灯った。
光は線となり、床の上を縦撗無尽に走っていく。
一本一本の線では意味をなさないが幾何学的な文様を作り出した時に それは初めて意味をなす。
——魔法陣。
これは脳と精神に干渉する系統の魔術で..........と、そこまで考えたとこ
ろで瞼が重たくなつてきた。
表現するのは凄く難しいんだけど、私の中身が空気に溶け出した…… みたいな。
どこからが私でどこからが私でないモノなのか、全てが曖昧になつて ぃく。
頭の中身は既にドロドロでぐちやぐちやで、そしてくちゅくちゅ で...そぅして-----私の意識は夢のまどろみへと溶けていつた。
そして気付けば私は全面が白色の謎の空間に佇んでいて……七人の私 に囲まれていた。
私は掌をじっと見つめてグーとパーを作る動作を繰り返す。
次に頰をつねってみる。
---ぅん きちんと痛い
そぅして見える範囲での、自分自身の姿を確認する。
愛剣は腰に挿さっているし、鎧もいつもの装備だ。
座禅を組んでいる時は全身白色の宗教的な衣装だったから……。 「なるほど。これは私の精神世界……ってヮヶか」
その言葉と同時、私を囲む七人の私の内の一人がこちらに進みょって きた。
「ねえオリジナルのコ^ —デリアHオ^—ルストン?」
「オリジナル……ね。で、何?」
「七人の私達が何を意味するのか分かる?」
私が私に問い掛けてくる。
非常に不思議で不気味でそして不愉快だ 率直に述べてしまぅと、気持ち悪い事この上ない
「大体察しはつくけど、まあ.........教えてもらえれば助かるわね」
「七大欲……高慢、物欲、嫉妬、憤怒、色欲、貪食、怠惰をそれぞれが 表しているわ」
「なるほど。まあ、そんなところでしようね」
この鬼子折伏の行は強欲の七大欲……_らの欲望を直視し、自らの精 神の全てを、自らの理性のアンダーコントロールに置く事を目的とす
る。
「私達七人はそれぞれの面での貴方を表している。例えば……色欲を司 る私であれば、貴方があの人にどれほど恋い焦がれていると思っている
のかを知っている.......って言う風に」
クスクスと笑いながら私が私に言う。
もう一回言うけど、はっきり言って不快だ。
っていうか……物凄いゥザい。そんな事は今更言われなくても私自身 が一番分かってるっつーの。
そこで七人の内の色欲とは別の……もう一人の私が歩を進めてきた。 「嫉妬を司る私であれば、貴方が……あの女とあの人との関係を気にし て、どれほど毎晚胸を焦がしているかを知っている」
だから、そんな事はアンタ等に言われなくても分かってるって。 「憤怒を司る私は、そこで貴方が逆恨みをして、あの女とあの人にどれ ほどの怒りを覚えているかを知っている」
そこでヶラヶラと高笑いと共に七人の内の一人が言った。
「神託を受けた勇者だなんて崇められているけど、一皮剥けば……ただ の女じやん? 小娘じやん?」
こいつは高慢を司る私……なのかな?
私は挙をボキボキと鳴らし、胸を張ってこう言った。
「ええ、そのとおりょ」
色欲と嫉妬。
正に女の醜い部分をさらけ出したょうな..........間違いなくこいつらは私
の一面なのだ。
私は聖人ではないのだから、そんな感情を持つ事は当たり前だ。
--そして、私は決して聖人になど、なりたくはない。
私は勇者だ。
けれど普通の女の子であり、そして普通の人間だ。
眠たい時は眠たいし、食べたい時は食べたい。勝ち目のない戦いで無 駄に死にたくもないし、その気もない。
自分の身を守るためなら、時には何かを、そして誰かを犠牲にする事 も仕方ないと思う。
あるいは、戦略的撤退という言葉が分からない程にガキでもない。 敢えて他人を傷付けようという程に悪趣味ではないけれど、私の守れ る範囲に限界はあって、自己犠牲の精神で何が何でも世界を守護すると いう程にはお人好しでもない。
「もういいじやん。諦めちやおうよ? 二週間の絶食で胃液吐くまで頑
張って……これまでもずっとずっと魔物を倒して返り血を浴びて。ケガ をしたのも一度や二度じやない」
こいつは恐らくは怠惰。
彼女達の言う事は全て分かる。
何しろ、全て私が思っている事を、そのまま具体的に言葉にしてリ ピートされてるだけなんだからね。
「ええ、そうかもね。私がここで全てを投げて……色んな事にバンザィ しちやっても、多分リユートが全部やってくれるでしようね。そしてそ の上でリユートは私に優しく……してくれるでしようね。確かに……逃 げるのは簡単よ。でも、戦う前に逃げるなんて事は私にはできない の」
「どうして?」
怠惰が、理解ができないという風に尋ねてきた。
「ここで私が逃げちやえば、私は二度とアィツと対等な位置に登る事が できなくなるから」
私は腰の愛剣を鞘から抜いた。
これは七大欲を振り払う試練。
で、あれば……私から切り離すという意味で全員を斬り捨てるのが正 解なのだろう。
「そう、私は勇者:コーデリア=オールストンっー.村人ごときに...........
勇者の背負うべき重荷を……背負ってもらう訳にはいかないのっ!」
私はその場に剣を打ち捨て、両手を前にして挙を構えた。
殴り合いの格闘術を使うなんて……どれ程ぶりなのだろうか。
ムカつく寧にこいつらは全員--------確かに私だ。
そう、こいつらは全員が全員私なのだ。
確かに、私はリユートの事が好き。
確かに、私は水色の髪を持つあの女に嫉妬している。
確かに、私はリユートと一緒に美味しい物を食べたい。

確かに、私はリユートと一緒に、何も考えずに呑気に……あるいは怠 惰に暮らしていきたい。
分かる。
全て分かる。
なんせ、私は実際にそう思っているんだから。
でも、これらの感情はそれこそ私の一部で……決して切り離していい 物ではない。
全ての欲望を捨てるような、そんな悟りを開く程には私は老成しちや ぃなぃ。
「かかってきなさい七人のコ^"デリアHオ^—ルストンっ! 私自身が私
自身の挙で....私自身の性根を叩きなおして見せるっー.」
話し合いが通じる相手じやないのは私が一番分かってる。
何しろこいつらは私自身なんだから、とびっきりの脳味噌までが筋肉 ——大馬鹿揃いだってのは私自身がよく分かっている。
だから私は……こいつらが私であるということを認めたうえで----------
——拳で無理矢理に叩き伏せて、捻じ伏せる。
---そして翌日。
コーデリアは魔力暴走を完全に理性の制御下に置く事に成功し、ラマ ダ寺院を後にした。
一週間の旅を経て、王都に戻ったコーデリアは王の前で自らの力を示 し、一人前の勇者として認められる事になる。
こうして、彼女は陽炎の塔に保管されている、神託の聖剣を受領する 許可を得る事になつた。
標高は千メートルと少し-------山岳地帯の岩場。
砂礫に覆われた世界に、所々に草と藪が見える。
雲一つない大空に舞ぅ体長三メートル程の飛龍。
ドラゴンの頭にコウモリの翼、そして蛇の尾を持つ怪物で俗にワイ バーンと呼ばれている魔物だ。
岩場に大きな影を落とすその魔物に、リリスは杖を構えた。
「..クリムゾンスフイア」
半径五メートルの巨大な炎球が出現し、猛烈な速度でワイバーンに向 かい、一呑みにしてしまった。
汎用魔法の中では最上位魔法だけあって、その球体内では鉄をも溶か す高熱が満ちている。
更にリリスは杖を天に向ける。 r..グラビテイ」
言葉と同時にワイバーンは炎球を纏いながら地面に落ちてきた。 爆音と共に地面にクレーターが形成される。
続けざま、リリスは再度杖をワイバーンに向ける。 r……サゥザンド•エッジ」
無数の真空刃がワイバーンに放たれる。
「……トルネード」
竜巻が発生し、真空刃とワイバーンを同時に呑み込んだ。
現在、竜巻内は高温と真空刃と重力干渉を受け、それはもぅエグい状 態になつている。
ボトボトボト。
焼け焦げた肉片が周囲に飛び散り、一面が焼肉の香りに包まれた。
ってか、そろそろ昼時か。
昼飯はワィバーンの焼肉に塩コショゥとガーリックパゥダーでも振ろ ぅかなっと。
「お見事」
俺の言葉を無視して、リリスは不機嫌そぅに懐からステータスプレー トを取り出した。
「..やはり伸び悩んでいる」
ステータスプレートを眺め、リリスはアヒルロを作った。
そしてそのままリリスはステ^ —タスフレ^ —トを俺に差し出してきた
名 前:リリス
種族:ヒユーマン 職業:魔術師 年齢:十五歳 状態:ヤンデレ(軽度)
レベル:14 5 —14 6
H P : 4430/4430 晷4 460 \ 4460 M P - 9440/9440 ^9 5 10/ 951 攻撃力:7 4 317 5 o 防御力:7 4 9晷7 5 3 寳 力:2 4 8 5喜2 4 9 5 回 辟:13 5 o喜13 6 2 強化スキル
【身体能カ強化:レべル10(MAX)】
通常スキル
【初級護身術:レべル10(MAX)】
0
魔法スキル
【魔カ操作:レべル10(MAX)】
【生活魔法:レべル10(MAX)】
【初歩攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【初歩回復魔法:レべル10(MAX)】
【中級攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【中級回復魔法:レべル10(MAX)】
【上位攻撃魔法:レべル10(MAX)】
【上位回復魔法:レべル10(MAX)】
【最上位攻撃魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【最上位回復魔法:レべル10(ステータス制限により使用不可)】 【龍魔術:レベル7 (種族及びステータス制限により一部を除き使 用不可)】
特殊スキル
【アィテムボックス:レべル10(MAX)】
【神龍の守護霊:レべル10(2八><)】 職業スキル 【多重詠唱】
ステ^—タスフレ^ —トをリリスに戻す。
「ぅーん。ステータス的にはBランク級の下位ってところだな。って か、このヤンデレってのは何だ?」
「..私にも分からない」
少し前までCランク級の下位レベルだった事を考えると、とんでもな い成長だ。
まあ、それはさておき、ワィバーンもまたBランク級の最下位の魔物 といつたところだろぅか。
重力干渉魔法との相性が最悪なので簡単に殲滅できたが、本来であれ
ばリリスと同格である。
しかし----ここから先が長い。
格下をいくら狩ったところで取得できる経験値は知れている。
俺が短期間でここまでレベルアップを果たせたのも、毎回命掛けで無 茶苦茶をしてきたからだ。
一般的には安全マージンを取りながら、パーティー単位で動いて極力 危険を排除しながらレべリングに励むのだが……。
「まあこのレベル枠になってくると……そもそも経験値になる魔物の発 見すら難しいからな」
「ここは小国とは言え、一国の首都だといぅ話。だが、一か月もかから ずに高ランクの魔物はいなくなってしまった」
今更オークだのを狩ったところでリリスには何の益もない。
Bランクの討伐依頼だと.......リリスをAランク級のレベルまで叩き上
げるには時間がかかり過ぎる。
AランクやSランクの依頼を求めて世界中の大都市を回るってのも移
動時間が馬鹿にならない。
---ボチボチ....外の世界に連れ出す頃合いかな。
まあ、その前に塔に登らなきゃいけねーんだけど。
「しかし全部リュ■トさんのおかげでやすよ!Aランクの討伐依頼を 四つこなしたところであつしは……ついに念願のAランク級冒険者にな れやしたしね!」
実力的にはオッサンが一人でこなせる訳のないような超高難度依頼の 数々。
それを次々に最短ぺースで片付けていったのだから受付嬢も目を白黒 させていた。
「って事で、Bランク以上の依頼は全て片付けた。これから街に帰って 夜まではオフだ」
「..リュ^-トはどうするの?.」
「ちよっと今後の事を考えようかな……と思っててな。部屋に籠るよ」
「……それじゃあ私は闇市で魔導書の類を漁ってくる」
泥棒市とも呼ばれる場所で、その名の通りに盗品を扱う巨大市場だ。
真贋及び玉石混淆のラィンナップだが、まあリリスが魔導書関連で贋 作を掴まされる事は有りえないだろう。
「ってか、魔導書って言うとなんでだ?」
「……固有魔法の習得。ステータス的には私はBランクかも知れないが 汎用魔法しか使えない。ワィバーンも重力干渉という最大の弱点を突い たうえで、更に合わせ技で本来以上の魔法のポテンシャルを引き出し て……ようやく討伐できた」
言葉通り、今のリリスの実際の戦闘能力はCランク級の最上級と言っ たところだろう。
「確か場所は旧市街のスラム街だろ? 危ないんじやねーか?」
「.....流石に少し私を舐め過ぎだと思う。そこらのチンピラなら挙
だけでどうとでもなる」
「まあ確かに過保護もよくねーな。でも........気を付けろよ?」
「..承知している」
ごった返す人の中、青空市場には様々なものが売られていた。
泥棒市とは良く言ったもので、売られているものの半分程度は盗品だ と言ぅ。
偽物か盗品しかないと言われる貴金属の露天商の一角を抜け、私は古 本の露店エリアへと足を踏み入れた。
少し探せば固有魔法の魔導書の類は見つかった。そして、その値は尋 常ではない。
何しろ、金貨数枚以上の値段がつけられているのだ。そもそも固有魔 法の魔導書は門外不出のシロモノであり一般に出回るのであれば盗品で
あるなどの特殊事情がある訳だ。
希少価値が物凄いものなので、銀貨数枚という風な中途半端な値段に してしまうと、自ら偽物ですと宣言するようなものだ。
そう言った意味ではこの強気な値段設定も納得できるものである。 その全ての魔導書を手に取り、描かれている魔術式にさっと目を通 し、そして本を元の場所に戻す。
既に十冊以上漁っているが、全てが贋作。
魔法学院の初年度生ですら騙せないような代物が七割で、三割はそ
れっぽく見せてはいるが......まあ、良く見れば贋作だとは分かる。
「……龍王の大図書館で……人間の扱う事のできる固有魔法を習得して おけば...I
私の頭の中に刻み込んだ龍魔術は確かに強力だ。
だが、それは龍の魔法であり、人の魔法ではない。
「……今の私ではBランク以上の領域ではとても通用しない」
実際、どれだけレベルを上げてもワィバーンより格上の魔物を狩る事
はできないだろう。
純粋に、それだけの魔物に有効打を与えうる威力の魔法を扱えないか らだ。しかもレベルも伸び悩んでいると来ているので状態は最悪だ。 溜息をついたところで、私はあつと息を呑んだ。
「……あいつは……いつぞやの大貴族……」
目と目が合つた。
でつぶりと肥えて、似合いもしないのに無駄に豪奢な赤一色に着飾つ た中年男。
確かメリッサとかいうBランク級の冒険者を従えていた男で、今回も 数人の冒険者を引きつれている。
「..何でこんなところに」
そういえばこの近くには奴隸のブラックマーケットもあるんだつた か。どちらにしてもロクな目的でない事は確かだ。
大貴族はまずは私の足元から頭天までを睨み付けるような視線で舐め まわした。
私の周囲に視線を動かして……何かを確認している。
そしてニヤリと下卑た笑みを浮かべると、取り巻き数名に指示を出 す。
リユートが近くにいない。そして相手もそれに気付いた。
だからこそ、あの男は醜悪な笑みを浮かべたのだ。
一か月と少し前、あの時、あの男は私を見た瞬間に手籠めにしよぅと した訳で……。
「••::不味い」
こちらに向かつてくる高ランク冒険者。
最低でもCランク級中位以上の近接職だろう。
一刻も早くこの場から離脱する必要がある。
私は足早に人込みの中を縫っていき、数分歩き人込みを抜けた。
更に歩いて人通りは皆無——スラムの路地裏に出たところで、私は振 り返った。
「わざわざ人のいないところに誘い込んで……何が狙いだ?」
男達の人数は都合四人。
「……逃げきれる事はできたかもしれないが、勝てる相手にそれをする のは趣味ではない。そして、迎撃するには最悪な場所だった。ただ、そ れだけ」
「小娘が何を言ってやがる?」
「……人込みの中で魔法をぶっ放す訳にもいかない——クリムゾンス フィァ」
半径五メートルの巨大な炎球が出現し、男達の内の一人を一呑みにし てしまつた。
「街中で……最上位魔法!?いや、こちらの用件も聞かないで……いき なりぶっ放しやがった? 重大な法律違反だぞ!?」
紅蓮に焼かれた冒険者は一撃で戦闘不能となる。
「……用件も聞かず? この状態だと拉致監禁及び強姦以外にぁりえな い。故に正当防衛が成立し、違法性は相殺される——サンダーストー
ム」
雷撃に一人が打たれてその場に倒れる。
残る二人は散開しながらこちらに向かつてくる。
「..ウインドショット」
空気の塊をニつ作って男達に放つ。
共に頭部に命中し、男達は後方に吹き飛んでいく。
「……これで終わり」
安堵の溜息をついた時、背後から男の声が聞こえた。
「はい、そこまでだ」
咄嗟に振り返る。
そこには見覚えのある……色黒の格闘家。
「..Bランク級冒険者......メリッサ? 何故貴方が? リユートに完
全降伏したはずで……」
「俺がビビつているのはお前ではなく、お前のツレに対してだからな」 ニコリと笑ぅとメリッサの左フックが私の顎を掠めた。
私はその場に膝をつき、そこで大貴族が現れた。
「ふはは!ここであったが百年目! 高貴なる血族を馬鹿にした連中
に...思い知らせてやる!」
高笑いと共に大貴族はそう言った。
見ると下腹部……股間が盛り上がっている。
やはり、目的は私の予想通りに拉致監禁と強姦だろう。
肩ロにメリツサからの蹴りを受ける。
横殴りに倒されて、地面を転がり、大貴族の足元で停止した。
先程の打撃で脳が揺さぶられ、満足に動きが取れない。
いや、動けない。立ち上がる事ができない。
そんな私の状態を確認し、大貴族はニンマリと大口を開いて笑う。
大貴族は、転がる私の両スネを両手で持った。
足を無理矢理に広げ、スヵートの中に大貴族が顔を突っ込んでくる。 ふくらはぎと太ももを頰で撫でられる不快な感触。
幸いな事にまだ、股間はまさぐられてはいない。
が……時を待たずに下着を剥ぎ取られて舐めまわされるだろう。 想像するだけで全身に粟肌が立つ。
——全く、完全な油断だ。
こんなスラム街で出くわす相手で私をどうこうできる者などいるは ずがない……と。
あるいは、この状態から大貴族に抗う事はできるかもしれない。
が、大貴族を制しても、結局のところはメリッサがいるので、私には どうしようもない。
同じく Bランク級相当だが、まず、メリッサは近接職だ。このレンジ まで詰められていると対処が難しい。
更に極め付けには、私は本来Bランク級レベル以上の魔法職が扱える はずの、固有魔法が使えない。
反抗したとして、返り討ちに遭って、余計に酷い目にあう事は明白 だ。
自分の無力感に打ちひしがれ、視界が涙で滲んでいく。
これで……私の初めてをリユートに捧げるという夢は永遠に叶わない 事になる。
傍観の思いの中、思う。
これから、ひとしきり下腹部を舐められるだろう。
私の上に乗ったこの男が視界に入るのは、たまらなく不快だろう。 なので……横を向いてスラムの路地の壁のシミでも数えていようか。 私のスカートの中に頭を突っ込んでいる、大貴族の鼻息を下着越しに 下腹部に感じる。
いよいよかと全身に粟肌が立ち、全てを諦め掛けたその時……空から 何かが降ってきた。
「ゴブフつ!」
スラムの路地。
路地と言う位だから、必然的に壁と壁に挟まれた通路を指す。
壁があるという事は建物があるという事で……建物には屋上、あるい は屋根が存在する。
そしてそこから飛び降りてきて、ピンポィントで私のスヵートの中に 頭を突っ込んでいる男の背中を、死なない程度に手加減を施してまで踏 んだ男。
「心配だったから駆け付けてみればこのザマだ。全く……だから気を付
けろつて言ったじやねーかリリス...............」
リユ■—ト=マクレ^ —ンが呆れたように笑つていた。
リリスを助けた夕方。
俺達は宿で夕食を取っていた。
今日はリリスの好きな豚の肩ロースの香草焼きで
でも、リリスは無言でナイフとフオークを繰るだけだ 一言も発しないし、無表情を貫き通している。
「どうしたんだよリリス?.」
食器を繰る音だけが鳴り、リリスは何かをじっと考えているようだ。 「だからどうしたんだよ?.」
「..ねえリユート?」
「だから何だって聞いてんだろ?」
「……私は強くなった?」
「ああ、強くなったよ」
「……でも、Bランク級冒険者にかなわない」
ああ、さつきボッコボコにした連中の中にメリッサとかいう才ッサン がいたな。
あいつは確かBランク級だったか。
「だから何なんだよ?」
「..これから更に......私にはすぐに伸びる要素はある?」
「すぐにかどうかは分からないが、伸びる要素がある事は保証する」
リリスは溜息と共に言った。
「……レベルは上がるかもしれない。だが、私がリユートの役に立てる とは思えない」
「どういう事だ?」
「使える魔法は……すぐには増えない。ここから先、力を求めるなら固 有魔法を習得しなければならない。でも……私は固有魔法を扱えない」
「ああ、そうかもな」
「この一か月と少し、私は少しは強くなった。けれど……成長もここで
伸び悩む....私は必要? 今のままの私でリユ^—トの役に立てる? 邪
魔にならない?」
「役に立つかどうかは正直なところ分からない。ただ、俺はお前の希望 通りに一緒に旅をしようと思つているし、だからこそ時間を割いてこん なことをやつている」
「..もう一度聞く。私は........邪魔?」
「今のままのお前で俺の邪魔にならないかと言われると...............正直に言う
と邪魔だ」
目尻に涙を浮かべ、儍げな表情をリリスを浮かべる。
「..うん。私もそう思う」
消沈したように、リリスはまつ毛を伏せた。
「だから強くなれ。役に立たないと思うなら……強くなればいいじや ねーか。それに、お前のアィテムボックスのスキルは本当に俺には必要 なんだせ?」
「..本当に.....色々とすまない」
そして涙をにじませ、声色を震わせながら言葉を続けた。
「……なるから……強くなるから……見捨てないで欲しい」 「気にするな」
リリスの頭を優しく撫でると、彼女は申し訳なさそぅに微笑を浮かべ
た。
と、そこで背後から酔っ払いの言葉が聞こえてきた。
「fcvfc前聞Vた力?」
「何をだよ?」
「勇者:コーデリアHオールストン様が……神託の聖剣の試練……陽炎 の塔に挑戦するためにこの街に逗留するって話だ」
「リユ•—ト? こんな時間にどうするつもり?」
リリスが困惑顔で俺にそう尋ねてきた。
まあ、実際、リリスが不審に思う程度には、既に夕陽が落ちて大分と
時間が経つ訳だ。
夜歩きなんてリリスとは初めての経験だし、驚きも無理はないだろ
Aっ。
「コーデリアがどうして陽炎の塔に挑戦するかは知っているか?」
「……神託の聖剣」
「そのとおりだ。所有者がいない状態の聖剣は常に塔の最上部の台座に 収められている」
「...というより突き刺さつているという話」
「まあどっちでもいいけどさ。で……今回この街に俺たちが立ち寄って るのもその塔に近いってのもあるんだ」
「どういう事?」
「塔は三十階建てで中にはトラップや、土塊でできた魔術仕掛けのガー ディアンがひしめいてる」
「...うん。それで?」
「開放されているダンジョンではあるんだが、冒険者としては美味しく
ないんだ。トラップを抜けて敵を倒しても、持ち帰ることが可能なのは ガーディアンの土位だからな」
「..聖剣は?」
「国家連合に所有権が帰属しているものだぞ? そんなもんを盗み出し たら一撃で晒し首だ」
少し考えてリリスは頷いた。
「..なるほど」
「しかも攻略難度はAランク……まあ、Aランク相当と認められない限 りは、勇者の場合は挑戦そのものが認められないらしいんだけどな。 で……勇者以外の誰が、実入りもないのにそんな馬鹿げた難易度のダン ジョンを攻略すると思ぅ?」
「……そんな奴はいない」
「そして陽炎の塔は夏にしか出現しないよぅなレアダンジョンだ」
「..リユート? 何が言いたい?」
「つまり、陽炎の塔は勇者の試練専用と化している。逆に言えば、ほと
んど調査されていないダンジョンでもある」
「……なるほど。そういう事か。で、何が隠されていると?」
「勇者の聖剣のエネルギーを補充するために、適切な程特殊な霊気が満 ちている場所だからな。そりやあそれなりのモノはあるんだよ。結論か ら言うと、最深部と言われている聖剣の台座の間の奥に隠し通路があ る」
「..それで?」
「今度は地下に潜っていく訳だ。そうして塔の地下空間には……魔剣が 眠っている。そして、これこそが塔全体を包む霊気の発信源でもある」
「..魔剣?」
「人類最強の一角に数えられるロリババァから直接聞いた情報だ。大図 書館でも複数の記述があったし……多分ガセって事はない」
「……私が聞いているのは……魔剣とは何か? という事」
「ともかく....その魔剣を手にする寧ができれば生物としてのランクが
一つ上がると言われている」
「..生物としてのランク?」
と、俺はそこで立ち止まつた。
リリスが周囲を見渡して尋ねてきた。
「……それはそぅとして、何故にリユートの隠密スキルを駆使してま
で...私達はこんなところにいるの?」
この場所は騎士団の寄宿舎で、それも客人用の一番上等な部屋。 状況によっては王族を招待できそぅなくらいだ。
「..そもそもこの部屋は何?」
「ん? ああ、この部屋な……コーデリアの部屋だよ。忍び込むために 俺達はここまでやつてきた」
「..え?」
一言で言えば贅沢な部屋だった。
天蓋付きのキングサイズのベッドに個人用プールが併設されたパルコ
ニ■—付き
1LDKという形容が恐らく一番近いが、リビングで三十畳、寝室で 十五畳程はある。
壁には高そうな絵画が幾点か並べられ、リビングのテーブルには新鮮 な果実が数種類。
まあどこぞの南国のリソ^—トホテルのスイ^~~トを思わせるようだ
---これが勇者の待遇か。ってか、こんな部屋で落ち着いて眠れん
ゎ。
そういえばコ^—デリアの神託が下ってからお隣さん.............オ-—ルストン
家はとんでもない勢いで田畑の買収に乗り出してたな。
家もどんどん増改築してたし、まあ、そういう事なんだろう。
「..これは何?」
「トレーニング用の器具だ」
絶句するリリスの視線の先は部屋の隅だ。
そこにはダンべルやバーベルの類、あるいは模擬剣に装着するための ウェィトが所狭しと並べられていた。
「……コーデリア=オールストンは……何故に筋肉の強化をしてい る? 純粋な筋力がステ^^タスに与える影響は微々たるものなは
この世界でモノを言うのはレベル........更に言うならステータスだ。
レベルアップによるステータス上昇で、それこそ冗談のように体は強 化されていく。
純粋な筋肉を鍛えたところでオリンピック選手で百メートル十秒弱
だ。
が、俺は音速を突破しているので百メートル走で言えば、コンマ以下 の世界の秒数で駆け抜ける。
それがステータスが肉体に作用する効力だ。
「コーデリアには、勇者の育成プログラムに従って常識的な範囲で行わ
れる全ての強化方法は試されている。だからあいつは十五歳でBランク 冒険者上位相当の力……いや、今はAランクになったのか。まあ、そう いう話だ」
戦略兵器としてのコーデリアを運用している連中は、彼女の強化方法 について格下を狩らせまくるという手法を選んだようだ
で、その結果コーデリアは、リリスと同じくレベルの上昇について伸 び悩んでいるはずだ。
何せ職業:勇者なんだからそれはもう慎重に慎重に……箱入り娘的に 育てざるを得ない。
格上相手の危険な討伐なんてもっての他だ。
「で、現状、伸びしろが少なくなってきたコーデリアは純粋な筋力ト レニングにまで手を出している状況つてわけだ」
その意図するところはリリスも分かつているようで、彼女は冷や汗と 共にロを開いた。
「やらないよりはマシ程度の……それでいて肉体的負担は非常に高い、
そんな自分が辛いだけの……非効率的な訓練をこれほどに真剣 に...?」
部屋にある器具の数々を見ていればコーデリアの本気度は誰が見ても 一瞬で分かる。
「まあ、こんなふうに勇者ですら地道な努力でやってんだよ。あいつが 神託を受けてから何年経っていると思っているんだ? お前もすぐに強 くなろうなんて思わないほうがいいぜ」
リリスの精神は強くはない。
実際、壁にぶちあたる度に、毎回毎回動揺して心を乱して焦燥に駆ら れてしまつているようだ。
生き急いでいると言うか何と言うか..........。
まあ、俺に喰らいついてこようと必死になっているのは分かるのだ が、妙に色々と深刻に考え過ぎなフシがある。
「しかし、何故に……?」
「何故って何が?」
「忍び込むような方法を取った?リユートがコーデリアHオールスト ンに頼めば……向こうも嫌とは言わないだろう」
龍王日くゴブリンの撃退を俺がやっちまったからコーデリアは弱体化 してしまつたとの話だ。
とりあえず、魔法学院に入学する辺りまでは直接的な接触は極力避け たいんだよな。
自分の事はある程度自分でやってもらえるようにならないと、俺の身 がもたない。
と、俺の返事を待たないまま、リリスは天蓋付きのベッドに視線を移 す。
そして何かに気付いたように息を呑むと、一直線にベッドに向かって 歩みを進めた。
よくよく見るとベッドの掛け布団はなんだかボコボコしている。
いや、むしろキルトの中に何かが潜んでいる風にも見える。
キルトを掴んだリリスは迷うことなく豪快にめくりあげて絶句した。
「..これは?」
ベッドの中には大小のぬいぐるみが所狭しと並べられていた。 ウサギとクマ率が高いが、変わつたところではカエルもある。 ちなみに、一番大きいクマのぬいぐるみは抱き枕用だろう。
「あいつは少女趣味なところがあるからな……」
「..もうすぐ十六歳になるというに...........コーデリア=オールストン
は...ウサギやクマに埋もれて寝ているというのか.............」
「しかし……」
部屋を見渡しながら思う。
ウサギやらクマのぬいぐるみがあるかと思えばバーベルやらダンべル の筋トレ用具。
この部屋の光景はいささかシユールに過ぎる。
次にリリスは、部屋の隅にある収納箪筒に向けて歩みを進めた。 そして一番上の引き出しに手をかける 「……この際だから恋敵の生態を頭に入れておこう」
「おいリリス! 勝手に開けるなょ!さすがにそこまで行くと泥棒と かわらねーからつ.......」
俺の言葉も聞かずにリリスは引き出しを開いて、再度驚愕の表情を 作った。
「……派手な下着」
「黒をベースに真紅の薔薇の刺繍入りか……しかも……大部分が透け透 けじやねーか」
そういえばあいつ、子供の時は寝る時はパンツ 一丁だったな。
それが今でも変わっていないとすると……。
「しかし、あいつ、普段からゥサギのぬいぐるみに囲まれながら派手な 下着で寝てる訳か……」
ゲンナリとしながら俺がそう言うとリリスはフルフルと首を左右に 振った。
「……他の下着を見るに、これだけが異常に派手に見える。つまり、こ れは普段仕様の下着ではない」
「おいリリス? そりやあまたどういう事なんだ?」
コクリと頷きリリスは断言した。
「……恐らくは勝負用と思われる」
「勝負用?」
「……これは明らかに対リユートを想定した勝負用だと思われる」
忌々し気に言い捨てるリリス。
「……そして私も持つている」
「持つているつつーと何を?」
「……勝負用を持っている」
「勝負用? お前も持っているのか?」
コクリとリリスは頷いた。
「というか、私は普段から勝負用を身に着けている」
そしてリリスはスヵートの裾に両手をかけた。
「……我常在戦場」
何故に中国語風なのかはおいといて、リリスのスヵートをたくしあげ
る速度は速かった。
つまりは....俺の視界にはリリスの言う勝負用下着が目に入らざるを
得ない。
そして俺は驚愕のあまりに大口をあんぐりと開いた。
「なんてこった……っ!白を基調にした青の水玉……だ....................
と? お前……もう……十五歳だろ?」
「……そう。私のょうなタィプは子供っぽい下着のを身に着けた方 が...男ゥヶが良いはず」
こいつは、自分が小柄で可愛らしい容姿である事を最大限に理解し、 そして利用しているって事だ。
ってか、全てを分かった上でやってやがるって事か。
あざとい。
なんてあざとい奴なんだ。
更にリリスは言葉を続けた。
「……ちなみに私は持っている」
「何を持っているって言うんだ?」
しばし押し黙り、リリスはドヤ顔でこう言った。
「.........青と白のストライプも持っているという事。もちろん
コットン百パーセント」
縞パンだと……?
本当にあざといなコイツ。正直、軽く引くレベルだ。
「……更に言うなら、それぞれ、青でなくピンクのバージョンも持って いる」
ふふんとリリスは勝ち誇ったょうに、ない乳で胸を張った。
それはいいとして……と俺はリリスの頭にゲンコツを降ろした。 「お前みたいなちんちくりんの下着になんか興味はねーから……とっと とスヵートを降ろせ」
と、そこで俺の耳に部屋の外の廊下から物音が響いた。
「おいっ!?不味いぞ!?ってか、リリス……こっちに来いっー.」 慌てて俺はリリスの腕を引っ張り部屋の隅のゥォ^―クインクロ^―
ゼットに引っ込んだ。
ってか、クローゼットだけで十畳近くある。服は箪筒に収まっている 分だけで、何もないのでガランとしているが……それはさておき。
「……急にどうした? 一体……何が……?」
「いいから黙れっー.」
リリスのロを右掌で押さえる。
と、その時、部屋の出入り口の扉が開く音が聞こえてきた。
クローゼットと部屋は板で仕切られていて、板と板の間から室内の様 子を窺い知ることはできる。
で、誰が室内に入ってきたかと言うと、そんなものは決まっている。 部屋の主であるコーデリアと、その付き人と思われる女だ。
この街の重鎮に晩餐会にでも招かれていたのだろう、仄かに酒気を帯 びているようで頰が軽く赤く染まっている。
「しかしコ' —デリア様......」
眉をへの字にした二十代後半の女がコーデリアに何かを言い掛ける
がコ^—デリアは手で女を制した。
「二人でいる時は様つてのは止めてもらいたいんですけど……私よりも 十歳も年上ですよね? 貴方は聖騎士として……冒険者ギルドランクも Bランク級上位ですよね? 実力も……地位も立場もある方なんですか ら...」
「それでは言い直しましよう。コーデリアさん?」
「はい、何でしようか?」
「確かに貴方はバ^^サ^^カ^^状態を制するスキルを身に付けました。今
の貴方の力量は......お目付け役である私を遥かに超えているでしよう」
「まあ、そうでしようね」
「貴方こそ、地位も実力もある貴人なのですから............発言には気を付け
てもらいたいのです」
面倒そうに コ^—デリアは肩をすくめた 「晩餐会で話題に出たゴブリンと邪龍アマンタの時の話?」
「そのとおりです」
「……私は事実を述べただけ」
「ですからそれは、コーデリアさんの精神が不安定になった結果の幻覚 と幻聴です。世間では貴方は何と呼ばれているかご存じですか?」
「鮮血姫でしたっけ?」
あっけらかんと言うコーデリアに、女は深い溜息で返答した。 「ともかく、既に貴方はバーサーカーを克服する術を身に付けました。 これ以上……自分で自分の評価を無駄に下げるような発言は控えていた だきたいのです」
「はいはい分かりましたよ」
「頼みますよ……本当に。それではまた明日」
そこまで言うと、女は踵を返して出入り口のドアへと向かって歩を進 め始めた。
が、数歩進んでコーデリアに振り返る。
「どうしたんですか?」
「いやね、一つ気になったんですよ」
「ん? 何がですか?」
「仮に、コーデリアさんを事あるごとに助けて、そして事あるごとに自 分勝手に消えていく……しかも女連れで現れて女連れで去っていった。 本当にそのような人がいたとして……再会すれば貴方はどうします か?」
コーデリアはしばし何かを考えて、部屋の中央のテーブルに向かう。 更に置かれたフルーツの盛り合わせの中からリンゴを手に取り、天井 キワキワまで放り投げる。
フルーツナイフと、取り分け用の皿を手に取り、そして空中で幾度も 閃光のようにナイフを振るう。
そして——コーデリアの持つ皿の上には、分断されたリンゴが綺麗に 盛り付けられていた。
「まあ、こうなるわね」
リンゴをひとかけらナイフで突き刺しロに運び、シャクリと阻嚼す
る。
口元は笑っているが目の奥は笑っていない。
その様子に女は呆れたように笑いながら、ドアへと向かった。
「貴方らしいですね。それでは明日」
ガチャリとドアの閉まる音。
「怖いな」
素直な感想を小声でリリスに伝える。
「..リユー卜?」
「何だ?」
「……悪い事は言わない。アレは止めておいたほうがいい。伴侶にした として、浮気でもしようものならナマス切りにされるのは必定。その 点……私なら……仮に浮気されたとしても……」
「お前ならどうするんだ?」
「……枕元にネズミの死体を置いたり、あるいは呪術とか……そういう 系でジワジワと仕返しをするだけ」
「どっちも嫌だな」
正直な感想だ。
つてか、俺の周囲の女はロクなのいねえな。
と、そこでコーデリアは服を脱ぎ散らかし、下着姿となつた。
白を基調にした清楚な印象を与えるような地味なモノだ。
ベッドに倒れ込むと、クマのぬいぐるみを天井に向けて高々と掲げ
る。
「まあ、実際には斬らないけどね。でも……殴るのは決定事項とし て...」
そこで----コーデリアは突然高笑いを始めた。
「殴る? 誰を殴るの?」
コーデリアはすぐさまに真剣な表情を作る。
「リユート.....リユート=マクレーンよ 決まつてるでしよ」
そうして、再度コーデリアは高笑いを始めた。
「リユートを? 貴方が殴る? 何で? どうして、何でなの?」
再度、コーデリアは真剣な表情……否、沈痛な面持ちを作る。
「何でって……そりゃあム力つくからだよ?」
コーデリアは再度破顔させ、室内に高笑いが響いた。
「ふははっ....ふはははっー.うん、確かにム力ついてるわよね? で
もリュ^―トに対する感情は憎しみは一割もないはずよね?」
と、そこでリリスが俺に問い掛けてきた 「……これは何? 腹話術でもないし……どうしてコーデリア=ォール ストンは自問自答を?」
そういえばさっきバ^―サ^―カ^―状態を制御下に置いたって話をして たな。
ってなると……コーデリアはつい最近、恐らくは相当な無茶をしたは ずだ。
「リリス? 鬼子折伏ってのを知ってるか?」
フルフルとリリスは首を左右に振る。
「頭の中に刃物を入れて脳みそを弄繰り回すってのを想像すればいい。 それを物理的にやるか、あるいは魔術的にやるかの違いだ。結果、精神
汚染術式に莫大な耐性を得ることができる」
人間には色んな側面があって、色んな顔がある。
言い換えるなら、状況や立場が違えば、人は仏にも鬼にでもなれるっ て事だな。
で、言うなれば自分の中に潜む、そんな色々な人格を無理矢理に切り 離すというのが鬼子折伏の常道。
そして更にその上位の折伏法として、全ての欲望……いや、人格を調 和させて受け入れるという方法もある。
受け入れるにしろ斬り伏せるにしろ、一時は自分自身の人格の一部を 切り離した上で処理する形になる。
精神的に不安定になるのも無理はなく、折伏した別人格と……今、 コーデリアは対話をしているという事なのだろう。
「要は……期間限定での後遺症だろう。本で似たような症例を見た事も ある」
「……なるほど。把握した」
リリスの視線の先のコーデリアが、嘲笑するように眩いた。
「ねえ、本当に……いつまで経っても強がりは直らないよね? どうし て殴るって発想になるの?」
「強がりって……リユートの話? でも、殴るのは当然じやん?」
「はは、本当に救えない馬鹿ね……今まで体を張って助けてもらった事 には感謝してるよね? 二回も命を助けてもらってるよね?」
バツが悪そうにコーデリアは顔をしかめる。
「うん...感謝してるよ?」
「だつたら、どうして……リユートを殴るとしか言わないの? 先にお 礼を言うのが筋じやないの?」
「まあ、向こうから素直に謝ってくれれば……」
「くれれば?」
「……許さない事も……ないけどね」
「そもそもね?」
「何よ?」
「許すも許さないも、いつから貴方はリユートの幼馴染以上の何かに なったの7.」
「リユートが貴方を置いていく事に、イライラする資格が貴方にある の?」
「そもそもどうして リユ•—トにそんなにイライラしているの?.」 「はいはい そうですよ アンタの言う通りよ」
「だからどうして リユ•—トにそんなにイライラしているの?.」
「.....だからよ」
「ん? 何て言ったの?」
小声過ぎて俺にも聞こえなかった。
だが、どうやらリリスには聞こえたようだ。
証拠に、リリスの顔色が蒼白に変わっている。
「何て言ったって? 貴方は私よね? だったら私がリユートにどんな
感情を抱いているかは……分かってるはずよね?」
「ええそうね。どうして素直になれないのかしらね?」
「素直って?」
「再会できた時、お礼を言って、そこから素直に気持ちをぶつけれ
ば...八割方は思いは叶うと思うわよ? それがどうして、とりあえず
一発殴るって話になるの?」
「今、私が強がる事を止めれば、私はリユートに庇護される事に満足し てしまう。私はリユートと対等な関係でありたい……本当の理由はそん なところなんじやないかな」
「ふーん……分かってはいることだけど、本当に面倒な性格してるね」 「うん。本当にね」
そうしてコーデリアは瞳を閉じた。
数十秒の後、彼女は静かに寝息を立て始めた。
昔からコーデリアは一度寝たら中々起きない。
後十分と少ししたら忍び足で退散といこうか。
「..ねえリユート?」
「何だ?」
「リユートにとつて、コーデリアHオールストンとは..............何?」
「大切な人だよ」
幼剔染ってか.....妹のようでもあり、家族のようでもあり。
少なくとも俺にとって大事な人間であることは間違いない。
昔っからこいつは勝ち気で向こう見ずでほっとけないというか危なっ かしいというか。
と、まあ、そんな感じで俺が昔を思い出し、優しさの色を混ぜた呆れ 笑いに、口元を緩めていたその時——
---リリスが唇を、血が滲む程に強く嚙みしめていることについて、
その時に俺は気付いてやることができなかった。
こうして、俺達のコーデリアのお部屋拝見ツアーを終えたのだった。
——コーデリアHォールストンのお宅拝見の翌日。
too-noy 2016-4-1 12:08
私は海鮮卸売市場を歩いていた。
何故かといぅと市場を抜けた先にある地方領主の館……その中庭で ちょっとした催し物が開かれるからだ。
リュートは『コーデリアとは会いたくない。あいつが魔法学院に入学 するまでは……俺はあいつとは極力関わらない』と言って、催し物の見 学にいかないつもりらしい。
まあ私としてはリュ^—トを奪おぅとする泥棒猫のチェックをしてお く必要がある。
将来的にコーデリアHオールストンは、間違いなく私の計画の最大の 障害になる。
「..邪魔はさせない」
そぅ。
私の壮大なる計画であるところの-------リユ^—トとラフラフ大作戦は、
絶対に誰にも邪魔させる訳にはいかないのだ。
決意を固めて挙をギュつと握る。
市場を抜け、大通りに終着地点である領主の館が見えた。
領主の館はお祭り騒ぎ。見物客で大盛況となっていた。
それもそのはずだ。
何しろこの街に滞在している勇者:コーデリア=オールストン、そし て帝都から呼ばれた剣聖:アルセンHブラギナの模範演武が行われると いう事になつているからだ。
まあ、身も蓋もない事を言ってしまえば、要は模擬戦だ。
更に話を分かりやすく言うと、Aランク級の実力を持つと言われるア ルセンと、若い勇者との力比べだ。
ロクな娯楽もない市井の者達にとっては、これ程のビッグイベントも なぃ。
館の門に到達したところで、懐から財布を取り出し銀貨を一枚、受付 に払い入場する。
領主もチヤッカリしたもので、このイベントで金を稼ぐ気はマンマン のようだ。
広大な庭の中には酒やら串焼きを売る屋台やらも出ていて、料金表を 見るにあからさまなボツタクリ価格となつている。
商魂たくましいと言うか何と言うか.............苦笑しながら私はオーク肉の
串焼き三本を手に持って観客席についた。
うん。美味しい。
甘辛い味付けで、値段に目をつぶれば普通にリピート買いも有りえる レベルだと思う。
特設リングは十五メートル四方と言ったところ。
しばらくすると、壇上に蒼い防具を身にまとった赤髪の女が現れた。 割れんばかりの歓声に、赤髪の女は手を挙げて応じる。
そして次に、細身で黒長髪の男が壇上に現れた。
白色の道衣と腰に帯びた剣。防具は左手の籠手程度しか見当たらな
、o
V
これは装備からして、間違いなく回避特化のスピードタィプだ。 相当に高名な剣士なんだろう。
勇者であるコ^~デリア=オ^—ルストンに負けず劣らずの歓声となって いる。
そうして二人は剣を抜いて向き合った。
客席の歓声を搔き消す勢いで、大きな音で試合開始の鐘が鳴った。 開幕早々、コーデリア=オールストンはアルセン=ブラギナに駆け寄 り大上段からのー擊を放つ
半歩だけ身を翻して剣撃を避けるアルセンHブラギナ。
更にコ^—デリア=オ^—ルストンは剣を繰り出していく
まさに、赤き閃光という形容がふさわしいょうな電光石火の------------勇者
の繰り出した無数の剣閃が空を切る。
猛烈な速度で剣を繰り出す、コーデリアHオールストンの剣技と速度 に舌を巻くが……それ以上に剣聖が凄い。
その見切りは完璧だ。
何しろダ^—ス単位で襲い掛かってくる コ^—デリアnオ^—ルストン の剣を最小限の動きで、危なげなく全て躱しているのだ。
観客は大いに沸き、私はその場で絶句する。
---正直....このような次元の攻防は見た寧がない
リユートの場合は、本気を出した時に攻撃そのものを私の視覚では捉 える事ができない。
故にどこまで凄いという事は分からない。ただ、とんでもなく凄いも のだとしか分からないのだ。
だが、この攻防は……私のレベルが上がった事もあるのだろうが、目 で追う事ができる。
だからこそ、凄さが実感として分かる。
とコ^—デリア=オ^~ルストンは苦笑しながらハックステッフで剣聖 と距離を取った。
「ハハっ……流石ですね剣聖アルセンさん。これでも私も真面目に剣技
は学んできたんですけど........まるで相手にならない」
「いえいえコーデリア様。わずか十五歳で……貴方は武という大きな山 の頂点....その六合目にまで脚を踏み入れている。その事にこそ私は驚
愕しますよ」
そこでコーデリア=オールストンはニコリと笑った。
「武の頂点で十合目。そして私で六合目ですか? 失礼ですがアルセン さんはどこまで到達していると?」
しばし考えアルセンは言った。
「八合目....といぅところですかね」
そこでコーデリアはニコリと笑った。
「貴方で八合目なら……私は少なくとも天井超え……十五合目に到達し ている人間を知っていますよ」
「...?」
いや、コーデリア=オールストン、それは間違いだ。
リユートは間違いなく十七合目程度には到達しているはずだ。
「っていぅ寧でアルセンさん? それでは.............こちらも本気を出させて
もらいますね」
ゾクリ……と私の全身に粟肌が立った。
コ^—デリア=オ^—ルストンの全身を荒々しい炎のような赤色の闘気が 包み、そして——その碧眼が朱色に変色していく。
私の見立てでは、あの闘気は体内の魔力を物理運動エネルギーに変換 させるために、爆発及び変換させた際に起きる現象。
そこで私は首を傾げた。
これは所謂••::魔力暴走と呼ばれる状態ではないのだろうかと。
つまりは班性を失い 目につくモノ全てを破壊するようなそんな状 態に陥るはずで……俗にバーサーカーと言われる状態。
「アンセルさんっー.流石に貴方相手では手加減はできませんから…… 初っ端から全力でいかせてもらいますっ!」
「これで十五歳……か。参ったね。まさか勇者オルステッド様以外 に……当代の勇者にこのレベルの麒麟児がもう一人現れるなんて……し かも女性ですか......」
満足げに頷き、アルセンは言った。
「--ならば こちらも本気を出さざるを得ないつ!」
と、その時。
コーデリア=オールストンが……消えた。
そして剣聖もまた、壇上から消えた。
時々聞こえて来る剣と剣がぶつかりあった金属音。
響き渡る足音と空気の振動。
ただ、それだけが二人が壇上で剣を合わせている事を物語っている。 これは……リユートと同じだ。
剣筋が見えないどころではない、姿が見えない。
いや、違ぅ。
リユートの場合は完全に見えないが、二人の場合は私でも目視で姿を 捉える事ができる瞬間がある。
そして二十秒程が経過した時、一際甲高い音が周囲に鳴り響いたと同 時に、一振りの剣が天に舞った。
剣が壇上に転がり、気が付けば——丸腰で床に膝をつく剣聖と、鞘に 剣を納めるコ一—デリア=オ^—ルストンの姿が見えた。
何がどうなってどうなったのかは分からないが、どうやら決着はつい たようだ。
「いやはや……感服いたしましたコーデリア様」
「いや、こちらこそありがとうございます。魔力暴走の制御..............この力
を手に入れてから初めて本気を出す寧ができる相手に出会えました」 そこで、コーデリア=オールストンに手を引かれて剣聖は立ち上が る。
「しかし....十五歳で私を制しますか。本当にとんでもない............」
「いや……ここでまだ私は満足しちやいけないんです。私はもっと強く ならなくちやいけないんです。それに、魔力暴走を制御下に置けるのは 今のところ一分と少しが限界でして……」
「なるほど。防御に徹していれば私にも勝機があったのですね」
「ええ、そういう寧です。それに........」
「それに?」
そして挙を握りしめてコ^—デリアは言葉を続けた
「今、私が背中を追い掛けている人の剣技は……こんなモノじやなかっ たから」
ハハっと呆れ剣聖は笑った。
「その方がどなたかは存じませんが……少なくとも、貴方が成人すれ ば、魔物に支配される世界において、人類の版図を少しは奪還できるか もしれませんね。大遠征のその時が来れば微力ながら私も御力添えをい たします」
「私が……戦力を必要とするその時は、貴方なら大歓迎です。その際は 本当によろしくお願いします」
剣聖アルセンと勇者コーデリアは互いの力量に敬意を示し合うよう に、互いに深々と頭を下げた。
大歓声が起き、試合終了の鐘が鳴る。
そこで私は、天を見上げて率直な意見を眩いた。
「……次元が……違う。リユートは愚か……私はあの女の領域にす ら...どう足搔いても到達できる気がしない」
勇者ですらも地道な努力をしているとリユートは言っていた。
でも、この差は違う。根本的に何かが違う。
同じ十五歳とはとても思えない。いや、同じ人間であることすらも信 じられない。
リユートだけが特別だと思っていた。リユートだけが特別な天才だと 思っていた。
が、世の中はそうでもないらしい。
「……勇者と、魔術師か」
乾いた笑いが出る。嫌な笑いが出る。
そして涙が出た。
——才能の壁というものを……生まれて初めて私が心の底から理解し た瞬間だった。
コーデリアと剣聖の模範試合が行われた、その日。
夕刻過ぎにリリスは青白い表情で宿に戻ってきた。
一言も言葉を発さずに何やら思いつめた表情の彼女はそのまま宿の自 室に戻った。
どうやら、食事も摂らずに風呂にも入らず、自室のベッドに転がり込 んで、ただ何やら思案しているようだ。
俺は飯を食った後、風呂に入って、そして自分の部屋に戻る前にリリ スの部屋に寄った。
コンコンとドアを叩くと、消え入りそうな声で『……入つて』との声 が聞こえた。
真っ暗な室内には、何と言うか……とんでもない負のオーラが漂って ぃた。
どんよりとした空気に覆われた暗闇の中で、闇に紛れたリリスに俺は 語り掛けた。
「どうしたんだよリリス?.」
しばしの無音の後、リリスの言葉が暗闇の中に響き渡る。
「……最近ずつと思つていた事がある」
「何だ?」
暗闇の中、再度の無音。
先程より相当に長い時間の後、消え入りそうな言葉が聞こえてきた。
「……龍の里に戻ろうと思う」
「それはまた、どうしてだ?」
「...コ '—デリア=オ^—ルストンの戦いを初めて見た」
「それで?」
「……とてもかなわない。逆立ちしても私が彼女の領域に到達する事は 不可能」
「.....そして彼女はリユートの幼馴染で……私よりも遥かに長い時
間をリユートと共有している。その関係に私が介入する余地も……どれ 程あるかも分からない」
「お前なぁ……」
「……私は結局……ただの部外者にすぎない」
俺は部屋の中に進み、ランタンに火を灯す。
「...これは思い付きではない。ずっと思って...............そして考えていた
事。それに、私の強化のためにこれ以上リユートを足止めさせる訳には V力ない」
ベッドの上で、首から下をシーツに包んで三角座り。
——リリスは声を殺して泣いていた。
リリスだって子供じやないし、自分の力量不足にずっと悩んでいた事 は俺も知っている。
だから、俺はリリスにこぅ尋ねた。
「ああ、分かったょ。でも、本当にそれでいいんだな?」
「……変に引き止めてくれなくて助かる。これ以上引き止められて も……ただ……惨めなだけ」
「ただ……最後に一回だけ付き合ってくれ。陽炎の塔ではどぅしてもお 前のアィテムボックスが必要になる。で……登り終えた後にお前を龍の 里に送り届ける」
リリスは顔から枕を外さずに声を発した。
「……了承した」
摂氏四十度近い気温。
湿度は低く乾燥している大砂漠。
そんな砂漠に悠然とそびえる——陽炎の塔。
日く、それは遥か古代の時代に作られた建造物とのことだ。
何故に陽炎の塔と呼ばれているかと言うと、別に塔の所在地が砂漠に
ある力ら....というような単純な班由ではない
この塔の座標は基本的には異次元に存在する。
説明をすると非常に長くなるし、分かりにくい。何よりも、色んな書 物に目を通したが俺も理屈は良く分からんかつた。
端的に言うとこの塔には不思議な力が働いていて、聖剣の安置場所と して霊的エネルギーの補充に丁度良い力場が形成されている。
そして不思議な力場が形成されているが故に、限られた期間内にしか 現世に姿を現さないという寸法だ。
「いつでもこの場所にある訳でもなく、存在そのものが揺らいでいるよ
うなもの……更におあっらえ向きに所在地が砂漠のド真ん中だ……故 に、陽炎の塔と呼ばれている」
「……なるほど」
と、まあそんなこんなで俺達は今、勇者の試練場として世界的に有名 な陽炎の塔の門の前にいる訳だ。
「……神託の聖剣を抜く事ができるのは勇者だけ。そして……リユート は既に聖剣よりも遥かに性能の良い武器を持っている」
「ああ、俺のエクスカリバーの方が性能はニ〜三ランク程度上だ。まあ これはほとんど反則級の武器だからな」
「……前にも聞いた事があるが、リユートの目的は聖剣ではない……と いうことだった」
「そういう事だ。龍王の大図書館で散々にその手の伝承を読みふけった んだが……実はその先があるんだよ」
「...聖剣の突き刺さった台座の奥?」
「そうだ。本来は神託の聖剣が塔の最上階の最終階層という事になって
いるんだが……隠し通路と地下に続く螺旋階段が隠されているはずだ」
「...ところでどうしてこの人が?」
リリスが訝し気な表情で筋骨隆々のオッサンを指さした。
「俺の爺さんが一度この塔を攻略したことがあるんだ……お嬢ちやん。 まあ、ガィドみたいなもんだと思ってくれ」
「才ッサンが……どうしてもついてきたいってうるさかったんだよな。 短い間とは言え、同じ釜の飯を食った仲だし……まあ塔の中には詳しい らしいし、役に立ちそうだから連れてきた」
どうやらオッサンは俺が大好きみたいだからな。
っていうか、オッサンは魔物の討伐の手柄を横取りしたっていう意識 があるらしく、俺らに多大なる恩を感じているようだ。
実際問題、俺らはー財産を築いたし、普通にギブ&ティクな関係なん だが……まあ、オッサンは義理堅い性格のようで。
『必ず役に立ちますから連れていってください!』
と、酒場で絶叫されてしまうと連れてこない訳にもいかない訳だ。
で、言うまでもないが塔は勇者の試練の儀でもある。
必然的に並の冒険者パーティーでは到底攻略は不可能だ。
で、今回の俺達の攻略メンバーは俺とリリスと、そしてオッサン。 「オッサン? 分かってるな?」
「それはもう、あっしはお嬢ちやんの盾になりやすんで」
とりあえず、リリスと才ッサンはセットだ。
リリスはオッサンの背後にぴったりとついてもらって、危険は全て オッサンに被ってもらう。
まだまだリリスの実力は心もとなく、オッサンの護衛がないと俺も安 心はできない。
そういう条件でついてきてもらったという打算もある。
..ぶっちやけた話をするとリリスをここに連れてきたのは彼女のア
ィテムボックスが必要ってのが理由ではない。
確かにこれから先の遠征では、そのスキルは必要だ。
けれど、今回に限ってはその限りにはないのだ。
リリスが何を考えて、何を思って、龍の里に帰るという結論を下した のか。
その気持ちは俺には凄く分かる。
それは俺も前回の人生の時に、俺がコーデリアを見て思った事とほと んど同じ事なんだろう。
だから、リリスの気持ちは痛い程に分かる。
でも、あの時の俺と今のリリスでは事情が少し違う。
確かに才能はコーデリアに比べると足下に及ばないかもしれない。 でも、リリスは村人ではない。魔術師という普通の職業だ。
絶大なバッドステータス耐性やステータスを大幅に増加させる神龍の 守護霊という成長補正のスキルも持っているし、更に言えば、リリスは 頭が良い上に努力をする才能がある。
そして、リリスには俺がついている。
そしてこの塔の最深部には『生物としてのグレード』を一ランクあげ るよぅな『何か』があるはずだ。
あるいは....ここでリリスに自信を取り戻させる事ができるかもしれ
なぃ。
ギユッと挙を握って、俺は眼前にそびえる塔を睨み付けた。
「さて、とりあえず、最上階まで上がる必要がある。面倒だが……俺ら も勇者の試練とやらを突破していこうか」
--第一階層。
半径百メートル程のだだっ広い部屋。
二百メートル先の対面には二階へと続く階段が見えて、その間の床に はアダマンタィトで成形されたタィルが敷き詰められている。
ここでドンパチが起きたとして、よほどの事が起きない事には傷一つ つかないだろぅ。
床と壁以外には何もない空間だが、中央に五メートル程度の身長の、 斧を持った巨人像がただ一体だけ仁王立ちになっている。
と、まあ、これが第一階層の構成だ。
「爺さんの残した日記によると……ここは即死級の罵がたくさんありや すから気を付けてくださいね」
「そういえば才ッサンのお爺さんは、どうしてこんな塔を攻略しよう と?」
「当時の勇者様の正式パ^^ティ^—としてゥチの爺さんがこの塔を登っ たんでやすよ」
「へえ、オッサンの家は実は名門だったりするのか?」
「いやいや、そんな事はないでやすよ」
勇者のお付きと言えば貴族の名家で才能に恵まれた者か、あるいは叩 き上げの高ランク冒険者と相場が決まっている。
貴族であれば武功をたてて宮廷でのしあがれるし、冒険者の場合でも 手柄次第では下級貴族の称号を得る事も珍しくない。
どちらにしても最低でも冒険者ギルド換算でBランク級上位以上の実 力が必要なので、狭き門である事は変わらない。
「そんな事ないつつーと?」
そこでオッサンは遠い目で天井を見上げた。
「勇者様がこの塔を攻略した瞬間……リストラにあっちやったんですよ ね」
「お……おぅ……」
「Bランク級冒険者として爺さんはそれなりの財を築きましたが................そ
こまででやす。貴族になってもいないし特権ももらっていないんでや す。と、それはともあれ........リユートさん気を付けてくださいね」
「気を付ける?」
「タイルを踏めば起動するタイフの罵が多くありやす。足元を良く見れ ば罵のタイルは色や質感が少しだけ違いやす。くれぐれも不用心に歩を 進める事は.....」
「ん? 何か言ったか?」
力チっとタイルが音を立てて少しだけ沈んだ。
右斜め前方から風切り音と共に猛烈なスピードで何かが飛んでくる。 「あぶねえな。俺じやなかったら死んでたぞ」
飛んできたのは矢だった。
ちなみに、速度は相当なモノでAランク級でも上位クラスじやないと 避けたりはできねーだろう。
「毒が塗ってあるな……それもかなり良くない部類のヤツだ」 そういえばコーデリアって脳筋だったよな……罵とかそういう類には 疎いはずだ。
「この罵はコーデリアには良くないな。あまり過保護に過ぎるのは良く ねーんだが.....」
どうしたもんかと考えていると手に持っていた矢が溶けていき、空気 と混じつて消えてしまつた。
「..?」
不思議そうに首を傾げる俺にリリスが補足説明をしてくれた。
「……塔に循環する魔力から、一時的に質量を伴った実体を形作ってい たものだと思われる」
「なるほど……」
もう一度罵を踏んでみる。
「リユ■—トさん!?」
思った通りに今度は矢が飛んではこなかった。
どうやら一発打ち止めという事らしい。
「リリス? 魔力から質量を作るには相当な時間がかかるよな?」
「……まあ数か月もあれば再装填は可能だと思う」
この塔が出現するのは一年に一回程度の期間限定だ。
逆に言えば、この塔の設備は一年に一度だけ使えればそれで良いとい う話でもある。
「過保護は良くねえが最低限の助けは必要だろうな。あの毒も併せて考 えると……この矢は即死級のトラップだしな」
「..どういう事?」
「この部屋のタィルは、コーデリアが来る前に俺が全部踏んでおくって 事だ」
流石に魔法学院入学前に、コーデリアが死亡してしまっては目もあて られない。
あんぐりとリリスはロを開いて、呆れたよぅに眩いた。
「……え? それは……過保護以外の……何物でも……」
そして寂し気な眼差しでリリスは遠くに視線を移し、引き攣った表情 を浮かべた。
「……まあ……これもまた愛情の形……か。既にレースから降りてし まっている私には関係のない話」
「何言ってんだよお前」
と、それはさておき、とりあえずは一階を突破しないといけない訳 だ。
俺達は慎重に歩を進めて部屋の中央に差し掛かった。
そこには斧を持った巨大な石像。
「リュ^—トさん! そっちに行っちやだめでやす! 明らかに怪しいで しょそれ!?ダメ! ダメ! 行っちやダメって……ああああああああ ああああああ!」
「どうしたんだよ?」
オッサンは俺の前方五メートル程にある巨人像を指さした。
「ガーディアンの稼働領域に……っ! 入っちやってますよっー.」
オッサンの言葉と同時に斧を持った大石像が動いた。
まあ、あからさまに怪しいよなこれは。
普通なら近づかないだろうがコーデリアは悪く言えば考えなしなとこ ろがある。
あいつならやりかねない……と、そういう気持ちもあったので先に俺 が危険に飛び込んだという訳だ。
「よつこいしよつと」
俺は巨人像に向けて飛び上がり、空中から大上段で剣を振り落とす。 巨人像は体に見合わぬ俊敏な動作で、斧を盾に剣撃を受けた。
「こいつ……俺のエクスカリバーの一撃を受けやがった……だと?」 着地した俺はバックステップで十メートル程距離を取る。
「リユートさん!このガーディアンは一定以上距離を取るとそれ以上 は襲ってきませんそのまま離れて!」
しばし石像を観察する。
なるほど、確かに今の距離では攻撃は仕掛けてこないよぅだ。
身体能力強化術を全発動。
そのまま俺は再度石像に駆け寄り--------音速を超えた速度に至り、その
まま全力で斬り付けた。
一回。
二回。
三回。
四回。
五回。
六回。
七回。
無数に分断された石像は地面に音を立てて転がっていく。
そしてしばらくすると石は土へと姿を変えていく。この石像もまたこ の塔に循環する魔力によって、土塊から仮初の生命を与えられて形成さ れたのだろう。
「..リユー卜?」
「どうした?」
「..何をしている? 何故、そこまで念入りに分断した?」
「いや、この石像……本気じやないとはいえ、俺の一撃を受けたんだ ぞ?」
「……見ていたから分かる。そして結果から言うと……距離を取って無 視すれば良かった」
「だが、コーデリアにとっては凄く危ないだろう? まともに対峙すれ ばあいつの力じや多分……大怪我じやすまない」
「.....そもそもがトラップ的な魔物で……普通は闘争ではなく逃走
を選ぶというような魔物のはず……過保護……」
まあ、危ないモノは危ないんだから仕方ねーだろ?
心配になっちやうんだからさ。
で、俺にジト目でそう言ったリリスだったが、首を左右に振った。
「……いや、私は龍の里に帰る……なら……これ以上は言っても意味は ないか。後は二人の好きにすればいい。私はもう……関係ない」
そこでオッサンがバンザィするように両手をあげてこう言った。
「いや……危ないどころか並の若い勇者ならガーディアンの手にかかる
と即死....それをナマスみたいに刻んじまうんだからやっぱりリユート
さんは半端ないでやすね」
終始そんな調子で、俺達は全ての罵をデストロィしながら塔を登る。 っていぅか、この塔って本当に何の目的で誰が作ったんだろぅ。 毒矢は魔術で無から有を作り出す形で再生産可能っぽいが、罵の中に
は俺が初めて引っ掛かったようなものもあった。
まあ、俺はしらみつぶしに罵をデストロイしてんだから、そういう事 もある訳だが……初回の罵は実体の伴った普通の毒矢だった。
リリス日く、ニ発目以降は毒矢は魔術で生産されるらしい。
何でそういう仕様にしてんのかイマイチ分からんかったが、深く考え ても仕方がない。
で、ようやく折り返し地点である第十五階層に迪り着いた。 「ここは?」
そこには本当に何も無かった。
だだっ広い空間にはツルツルとした床とツルツルとした壁があるだけ
だ。
「休憩場所です」
と、そこで俺はこの階層の違和感に気が付いた。
まず、次の階層に迪り着くまでの階段が存在しない。
それに天井が——高い。いや、高過ぎる。
「壁にはとっかかりも何もないが、どうやって次の階に進むんだ?」 「だからこそ、先程あっしはここは休憩所だと言いやした」
「どういうことだ?.」
オッサンは人差し指をピンと立たせた。
二日に一度……正午」
「ふむ」
オッサンは壁を指差し、そして円を描くようにその場で一回転した。 「塔の壁から螺旋階段が浮き出てくるという話です」
なるほど。
時限式で階段が飛び出してくるって訳だな。
「しかし、なんでそういう構造に?」
オッサンは困り顔で返答する。
「あっしに聞かれやしても.......」
まあ、そりゃそうだな。オッサンに分かったら逆に驚くわ。
で……昨日、十三階で一泊して、現在の時刻は午前十時となってい
「昼飯にはまだ早いな」
正直なところ、疲労もないしここで休憩する意味も薄い。
はてさてと考えて俺はボンと掌を叩いた。
「要は登ればいいんだろぅ?」
壁際まで歩く。
そしてエクスカリバーを取り出し、ズサリと壁に突き刺した。
「え?」
「..え?」
オッサンとリリスが同時に大口を開けた。
そして俺は壁からエクスカリバーを引き抜くと同時に指を入れる。 指で体を持ち上げて、先ほどよりも上方にエクスカリバーを突き刺 す。
これを繰り返し、足場……じやないな……よじ登るためのとつかかり を作つていく。
まあ、要はロッククラィミングだ。
十メートル程登ったところで下方に声をかける。
「良し、お前等もしばらくしたらついてこいよー」
俺がそう言うと同時、オッサンが驚愕の表情でこう尋ねてきた。
「この階層の材質はアダマンタィトどころか.............オリハルコンです!
絶対強度を誇って……穴どころか……かすり傷をつけることすら..................」
「ああ、そのことか」
俺は誇らしげにエクスカリバーを頭上に掲げた。
「俺の愛剣は、大体の物なら簡単にナマスに刻むことができる」
その言葉で納得したのかオッサンは一瞬頷きかけて——そして再度質 問を投げ掛けてきた。
「しかし……一時間ちょっとですよ? 大人しく待つという選択肢 は...」
「コ' —デリアだ」
「..と、おつしやいますと?」
「あいつは脳味噌まで筋肉なんだょ」
「...え?」
「で、あれば……時限式で階段が出てくるというルールに気付かない可 能性がある。そうなればあいつは……ここで引き返して聖剣をゲットで きない可能性があるんだ」
「...?」
納得いかない表情のオッサンとリリスだが、俺は更に説明を続ける。 「が、ロッククラィミングなら分かりやすい。あいつは喜んで登つてい くだろう」
これはオッサンとリリスにも分かりやすかつたらしく、何とも言えな い表情で二人は頷いた。
「リュ^-トさん?.」
「何だ?」
「相手は勇者様ご一行ですぜ? この塔に関する文献もちゃんとリサー チした上で万全の態勢で挑んできやすでしょう?」
「そりやあそうだろうな」
「要らぬお節介って……奴じやあありやせんか?」
「そういう考え方もできるが でも コ^—デリアならやりかねないんだ よ。あいつは五歳の時に自分でハチの巣をつついてエラい目にあった事 があるようなアホなんだぞ?」
何故だか分からないが、リリスとオッサンはダメだこりやという風 に、お互いを見やって肩をすくめた。
「……本当に過保護に過ぎる」
「お嬢ちやん、この場合は……仕方ないと割り切るしか……」
「何言ってんだよお前等?」
---そうして俺達は、こんな調子で罵の全てを破壊しながら、日が窘
れる前に第三十階層へと迪り着いた。
全面に毛の長い赤絨毯が敷き詰められている。
ご丁寧にも金刺繍の入ったクラシックな代物だ。壁にも彫刻や絵画の 類が飾られている。
俺にはィマィチ美術品の価値は分からないが、まあ……すっげえ高い んだろぅなって事は分かる。
シンとした冷たい——張りつめた空気。
この階層の雰囲気は荘厳といぅ言葉がふさわしい。
で、入口の向かいの壁の近くにある台座には突き刺さった聖剣が輝い ているって訳だ。
「まあ、今回は聖剣はスルーなんだがな。行くぞ?」
と、リリスに言った瞬間-------
「..リユート? どうしたの?」
俺はエクスカリバーを取り出してその場で構えた。
「オッサン……リリスを頼む。いつでも階下に避難できるようにしとい てくれ」
俺の言葉を受け、オッサンは一瞬だけ呆けた表情を作った。
が、腐っても歴戦の戦士だ。瞬時に状況を理解してリリスと俺の間に 割って入った。
「これである程度のリリスの防御は担保されたな……」
俺は前方を睨み付ける。
「やめといた方がいいと思うよ、坊や?」
開口一番に褐色の肌に銀髪ショートカットの女はそう言った。
年齢は二十代後半といったところ。
露出度の高い防具に身を包み、豊満な胸を揺らしながら彼女は首を左 右に振る。
「ここから先は、普通の人間が足を踏み入れていい領域ではないんだ」
「なあ、お姉さんよ? 俺が.........普通の人間に見えるか?」
「Sランク級最上位ってところかね? まあ、年齢にしては大したもん
だとは思うよ。で.......ふふ.....逆に聞くけど、私が普通の人間に見え
た?」
「見えねーから、こっちは冷や汗かいてんだろうがよ」
ゴクリと俺はつばを呑んだ。
ステータス隠蔽スキルを使っているのか、どうにも戦力差が読めな
、o
V
確かに強者のようには見えるし、実際に強者なのだろう。
そもそも、俺に一切の接近を感じさせずに会話ができる距離に突然出 現したのだ。
「私も余計な仕事は増やしたくないから、ここで退いてくれると助かる んだけどねえ......」
妖艷に微笑を浮かべると同時、俺の背中にゾクリと嫌な予感が走っ た。
「生憎……遠回りできるほどに時間を持て余しちやいねーんだよ」
「生き急いじやつてるわねえ.......まあ、ここから先は名前を出す事も
憚られるあの方の宝物が安置されている」
「あの方?」
「最下層まで迪りついちやったら……血で清算してもらぅしかない よ?」
女はウインクと共にこぅ言つた。
「警告はしたからね? だから……後で恨み事言われても知らない よ?」
そして---
「消えやがった……」
女は俺が注視している状態から……文字通りに消えたのだった。
聖剣の部屋の隠し通路を通り、俺達は延々と続く螺旋階段を降り始め た。
「ま、ここまでの到達難易度は冒険者ギルドで言うとAランク下位とい うところだな」
「……そして、この先には何が?」
「それは俺にも分からない」
「……しかし、リユートはどうしてそんな不確定な情報を……確実にあ るものとして扱つている?」
マーリンのロリババァが陽炎の塔の情報はガチって言ってたから、ま ず間違いないんだよな。
ただ、リリスには女の話題をするとめんどくさくなりそうな気がする ので黙っておこう。
そうして俺達は三十一階層分の階段を下りきった。
これで地下階層……という訳だ。
オリハルコン製の重厚なドアを開き、俺は独りごちた。
「さて、どうやら.....アレの事のようだな」
俺達の眼前には先ほどの聖剣の部屋とほぼ同じ構造……というかその まんまのコピーされたような空間が広がっていた。
台座もあれば絵画もあるし、剣もある。
ただし、その剣だけが違う。
それは白銀に輝く聖剣ではなく、禍々しいオーラを放つ漆黒の魔剣。
ドアを潜ったところで-------俺は大声で叫んだ。
「この部屋には俺以外入るな!」
オッサンはドアの外で動きを止めるが、リリスは既にドアを潜ってし
まつていて-----俺は舌打ちをした。
「..どうしたのリユート?」
「すまんドジ踏んじまったお前のフオロ^—まではできないかもしれ ん」
「リユ■—トさん? あつしはどうすれば.........?」
「オッサンは何があってもこの部屋に入るなっー.」
本能が、最大限の警告音を俺の頭の中に鳴り響かせている。
頭蓋骨内は正にアラームのオーケストラ状態だ。
おかげさまで、既に俺の全身は命の危険を感じて、絶賛臨戦態勢のス タンディングオペーションだ。
「これは間違いねーな……久しぶりのガチンコだ」
完全に誤算だ。
まさか人間の活動領域で、知り合い以外で俺よりも上位の存在に出会 うとは思わなかった。
先程のリピートのように突然に現れた褐色の女剣士を睨み付ける。 「警告したのに来ちやったんだね? この部屋に入った瞬間に坊や達 は……アポカリブスの試練に参加するっていう意思表示をしたことにな
る---私はエスリン。あんたに死を与える女の名前さ。良く覚えておく
がぃぃ」
「さっきは実力を読ませないように隠してたのか?」
「ああ、そういうことになるさね」
「理由を尋ねたい」
「理由?」
「警告をするなら……何故に最初は実力を読ませないようにした?」 「警告は仕事で、実際の始末は武人としての趣味……ということで理解 できる? 坊やみたいな上玉は本当に中々巡り合えないのさ」
さつきもあの方とか言つてたし、どうにもこいつには飼い主がいるら しぃ。
「いくつか質問をしてもいいか?」
肩をすくめて銀髪の女は応じた。
「構わないよ。何が何だか分からずに、意味も分からず死ぬのも嫌だろ うからさ」
「アレはなんだ?.」
俺は女の背後の台座に刺さつている漆黒の魔剣を指さした。
「魔剣アポカリブス」
「……アポカリブス? おとぎ話で聞いたことがある」
リリスの言葉に俺が続けた。
「そしてそれを引き抜けば……ヒトという種から一つ上の存在になれ るって話だが……どういう理屈だ?」
「この試練は非常に単純。要はね……この部屋で前回の達成者と殺し合 うんだ。で、負かすことができれば剣を抜くことができる。まあ、試練 に失敗すれば殺されるんだけどね」
「なるほど、代襲制って訳か。で、剣を抜けばどうなるんだ?」
「最適なスキルが与えられるんだよ。それも……とんでもないスキルが ね」
「スキル?」
「私もこの試練の達成者の一人さね。で……私で言えば短距離での瞬間 移動。元々、私は一撃必殺の鋼剣の使い手で知られていたんだけど…… いかんせん速度が足りなくてね」
そこで俺は背中に冷や汗をかいた。
「自ら手の内を最初から明かしやがった……だと? それはお前の ジョー力ーカードのはずだろう?」
「まあ明かして対処できるような生半可なスキルではないからね」 確かに、能力を明かされても対処のしようがない。
しかし瞬間移動か……よくよく考えなくてもとんでもないチートスキ ルだな。
「で、俺がアポカリブスを抜くには……いや、俺に最適なスキルを手に 入れるためにはお前を倒さなくちやならないと?」
「そういう事さね。まあ、実際には私を倒さなくてもスキルは得られる んだろうけど、私の目が黒い内はそうはさせないから、実質的にはそう いう事」
「一つ気になっていたんだが……それ程までに大きなスキルを得ること ができるんだ、試練突破だけで代償がないという事はないだろう?」
一瞬、はっとした表情をエスリンは作る。
しかし、すぐに余裕の笑みを作ってこう言った。
「中々に鋭い坊やだ。まあ、結論から言うと、寿命の全てが奪われるっ て事さね」
「寿命の……全て?」
色々と想定はしていたが、流石にそれは想定外だ。
「つてか、お前は生きてるだろ?」
「ああ、正確に言うとね? 一旦全ての魂があの方に奪われる」 「あの方ってのは……誰だ? お前程の力を持った奴が……誰に従って いるというんだ?.」
「所詮は私の足元にも及ばないあんたには関係のない話……だからノー コメントさね。で、一旦奪われた後、剣を元に戻す時にアポカリブスの
メンテナンス.....まあ、代襲制度の番人を任される代わりに、半分だけ
返してもらえるのさ」
「..半分?」
「残りの寿命」
「なるほど。そいつは中々にへヴィーだな」
「覚悟は十分って顔だね?」
「ああ、覚悟なら……前世でとっくに終わらせている」
俺はエクスカリバーを構え、エスリンは銀色に輝く長剣を構えた。 「かかってこいつ!」
戦闘が始まり既に四分程が経過している。
「くそつ!」
先程と全く同じ流れで、俺の肉が裂かれる。
致命傷にならないよぅに避けるだけで精いっぱいだ。
突然現れるエスリン相手に、一方的に攻撃を受ける事既に十数合。
全身に切り傷を受け、俺は出血多量でフラフラだ。
全身から血を垂れ流している状況で、最早どこが痛いのかすらも分か らない。
クリーンヒットをもらわずとも、後数撃も軽傷を喰らえば戦闘不能は 免れないだろう。
大雨の日にズブ濡れになった時のように、靴は血液でダボダボとな り、酸欠を補うために肩で息をせざるを得ない。
——ぶっちやけ最早満身創痍で、肉体構造的にいくらも持たない。
エスリンのステータスは所詮Aランク級上位程度だろう。
まともに打ちあえば三十秒以内で俺の勝利は確定する。
が……瞬間移動。これは厄介に過ぎる。
背後に殺気。
すぐさまに前方に飛んで攻撃を回避……しきれていない。
背中に走る鋭い痛み。
いや、痛みではなく------熱い。
深くはないが決して浅くはない。肉を数センチの深さで広範囲に一直 線に持っていかれた。
全速力でダッシュしてエスリンから距離を取る。
「しかし、本当に無茶苦茶な能力だな」
「お褒めに与り光栄だねぇ……まあ、冒険者ギルドランク換算で一ラン ク程度上までの相手なら簡単に仕留める事ができる能力さね」
そこで俺は含み笑いと共に言った。
「ただし、この能力は無敵って訳ではないよな」
「そうさね。このスキルはあくまでも瞬間移動であって、完全回避では ないからね。それが何か?」
エスリンの言葉通り、瞬間移動に対処法はある。
パっと思い付いた限りでいくつかあるが、とりあえず俺にできそうな 方法を試してみよう。
「余裕のニヤヶ面が……気に喰わねえな」
「あんたにソレができるとは到底思えないからね」
と、エスリンはこちらに向けて駆け出してきた。
瞬間移動に対処するのであれば、このタィミングから勝負は始まって ぃる。
すぐにエスリンは瞬間移動のスキルを行使して、俺の死角に回る。 続けざま、突然俺の死角に現れて攻撃を仕掛けてくるだろう。
なら、どうするか。
空間転移するような相手の、動きそのものに捉われちゃあ駄目だ。 言うなれば、エスリンがやっているのは挙銃のトリガーを引くような ものだ。
トリガーを引かれて、瞬間移動を終えてからでは、人間の反射神経で は追い付けない。
でも、スキルを仕掛ける前には必ず前兆がある。
何故なら、スキル発動後の出現座標を決定しなければならないから、
予備動作が必ず入る。
本当に微かな前兆だろぅが視線と表情、そして筋肉の動きが全てを雄 弁に語ってくれる。
で……俺がここまで防戦一方だったのも、全てはエスリンの予備動作 を観察するためだ。
エスリンの眼球が一瞬だけ、俺の後方に移る。
---ムフだっ!
予想通りのタィミングでエスリンが消えた。
俺はその場でくるりと一回転し、斜め後方を一気に薙ぎ払った。
ヵキィンっと金属音。
おつし、ドンピシャつー.
予想通りに攻撃は命中し、エスリンは自らの剣で防御の体勢を取っ
た0
「お前の剣じゃエクスカリバーは止められねえっー.」
エスリンの得物は恐らくはオリハルコン........あるいはアダマンタイト
製。
だが、エクスカリバーはその程度の金属であれば簡単に切断できる。 エスリンの剣を両断し、彼女はニの腕に深い傷を負った。
舌打ちと共に再度の瞬間移動。
「もうその技は見切ったっー.」
上空に向けて剣を一閃。
俺ならば大まかな出現座標までは読める。
エスリンは俺の予想どおりの出現座標に現れ、俺はその場所に吸い込 まれるように剣撃を放っていた。
「今度は剣で防御はできねーぜ? さあ、どうする?」
そこでエスリンはクスリと笑った。
「どうするって言われてもさ......」
エスリンが消えたと同時に、俺の全身の汗腺から嫌な汗が噴き出た。
「私の最強にして唯一の……」
今度は左斜め後方から声が聞こえる。当然のことながら、先刻上方に 向けて放った剣は空を切っている。
「武器は……」
今度は再度上方からの声。
「瞬間移動だからさ.....」
そして---俺の右斜め後ろから声が聞こえた
ああ、こりゃあダメだ。とても対応できない。
「これが私の本気——連続での瞬間移動」
ハハっ……と呆れ笑いと共に俺は率直な気持ちを口にした。
「こいつは参ったな……打つ手がねえ……」
俺が瞬間移動を見切る事ができるのはせいぜいが一回か二回程度。 瞬間移動のスキルを連莊で発動可能って……無茶苦茶じゃねーか。
「しかし、才能に恵まれない村人ごときが.........よくぞそこまで叩き上げ
たもんだね。だが、今回は相手が悪かった。私の絶対スキルの前には敗
北のニ文字しかありえないんだからね」
「へへ……少し聞きたい事があるんだ。冥土の土産って事で答えてくれ ねえかな?」
「なんだい?.」
「お前があの剣を引き抜いた時の試練の相手は?」
「元々がCランク級の冒険者だったかね? ステータスの底上げのスキ ルを取得してAランク級上位の力を身に着けていた程度の奴だったよ。 その意味では私はツィてて、お前さんはツィてなかったね」
と、そこでエスリンの斜め後ろの壁にかけられていた絵画が——落ち た。
エスリンは瞬間移動に頼らずとも音速に迫る速度で動けるし、俺は音 速を超えている。
そんな俺達の戦闘によって、留め具が馬鹿になったかは知らない。 ともかくバタンと盛大に音を立てて絵画は落ちたのだ。
「クソつ....」
それは俺が水面下で仕掛けていた作戦が無為に終わった事を意味す る。
エスリンは一瞬だけ後方を見て俺に視線を移す。そしてはっとした表 情を浮かべて再度後方をチラリと見る。
「あれはエクス....マンドラゴラの香?」
エスリンの後方数メートルの位置では濛々と煙が立っている。
無味無臭の、乾燥させたエクス•マンドラゴラの香だ。
凶悪に過ぎる麻薬成分を含んでいて、煙をまともに吸えば速攻でラ リっちまって戦闘どころではない。
いや、それどころではなく、致死量を吸い込んでそのまま死亡にょる 決着まであった。
まあ、要はエスリンの連続瞬間移動の合間を縫って、俺は罵を仕掛け ていたのだが……。
エクス•マンドラゴラを確認し、エスリンは瞬間移動で俺と香炉から 距離を取った。
「参ったな……なんでこのタィミングで……絵画が落ちるんだよ。これ で本当に打つ手がねえ」
俺は単独で旅をしていた都合上、状態異常の耐性スキルをいくつか 持っている。
エスリンがそれを持っているか否かは賭けだったが、驚愕の表情を見 るに……もしも上手く罵が作用していれば俺の勝利だったのだろぅ。
冷や汗を一筋垂らしながら、エスリンは引き攣った表情でロを開い た。
「悪あがきも過ぎると.....可愛くないよ?」
「生憎と、悪あがきは性分でね?」
言葉を終えるか終えないかで俺は駆け出した。
今現在この瞬間-----恐らくがラストチャンス。
「何度やっても同じだよ?」
スキルを仕掛ける前には……必ず前兆がある。
その前には必然的にスキルの発動後の出現座標を決定しなければなら
ないし、攻撃動作に入る前の微かな予備動作も必ず入る。
本当に微かな前兆だろぅが視線と表情、そして筋肉のこわばりを…… 見る。
「そこだつー•」
俺はその場で一回転し、斜め右方を一気に薙ぎ払った。
エスリンはやはり俺の思った座標に瞬間移動をしてきたが……そこか ら更に瞬間移動を重ねる。
「ははっ!無駄無駄無駄っ!ここから先の移動座標はお前さんには 読めないはずさね?」
斜め左方からエスリンの声。
「読めなくても構わないっー.」
エスリンのスキルは限定空間内の瞬間移動であって、決してこの空間 から消え去る訳ではない。
だから俺は、エクスカリバーを捨てて外套の中に手を突っ込む。
--これまでの階層で手に入れた--------宙に溶け出さなかった------猛毒
の塗られた矢を両手の指の間に、都合八本手に取った。
正直、これは賭けだ。
手での投擲という事も考慮して、恐らくは矢が着弾する確率は四割 弱……。
エスリンの表情に焦りの色が混じる。
too-noy 2016-4-1 12:06
そしてエスリンが消えて、出現して、また消えて、出現して------------
俺が全ての矢を放った後、エスリンは青ざめた表情でこう言った。 「あんた……喧嘩が上手だね? 今のは本当に危なかった」
クッソ……。
俺の放った矢の大部分は明後日の方角に飛んでいった。
そして、エスリンの出現座標にドンピシャに放たれたニ本の矢。 その内の一本はエスリンに手で掴まれ、そしてもう一本はギリギリの ところで皮膚をほんの少し掠めるに留まった。
「暄曄が上手……か。まあ、そうでなくちゃ村人でここまで来れちゃい ねえ」
「毒がちよつとだけ回って……フラつと来た。私をここまで追い込んだ のはあんたが初めてだ。誇っていいよ? もしもあんたの最適職業が村 人……生まれ持っての才能がゴミじゃなければ……もう少しだけでもス
テータスが高ければ------あんたが勝ってただろうね」
打つ手はもうない。
だが、俺の四肢は動くし意識もしっかりしている。
「坊や? まだ悪あがきをするつもりかい?」
悪あがきなら、前回にこの世界に生を享けた時から、俺の専売特許 だ。
「可愛くね^—かもしれね^—が付き合ってもらうぜ? 銀髪の女剣士さん よ。とは言っても......打つ手はもうね^—んだがな」
「だろうね。表情を見てれば分かるよ」
と、その時----部屋の隅から甲高い声が響いた。
「……境遇にめげない。決して折れない。与えられた手札で必死に考 え、そして行動する。強くなる道が分からなければ、調べてそして自分 で考え模索する。強くなる方法が険しいのであれば努力と気合いで乗り 越える。そして、決して勝てない相手でも……折れずに勝機を探り続け る」
「リリス?」
いつの間にか、アポカリブスの台座にリリスが立っていた。
「..それこそがリユ^—ト=マクレ^ —ンの本質」
彼女の手に握られているのは漆黒の魔剣。
「あの小娘……アポカリブスを……抜いているだって?」
絶句するエスリンに向けて、リリスは頷いた。
「……そぅ。リユートは決して身体的な才能には恵まれていない。 リユートは努力の秀才であり、そして悪あがきの鬼才なだけ。彼の歩ん
できた道は誰にでも……リスクにさえ目をつぶれば……それこそ本当 は……覚悟の天才でさえあれば、村人にでもできる道だった」
努力の秀才ってのはスキル:不屈のおかげだけどな。
まあ、悪あがきの鬼才ってのは認めんこともない。
自嘲気味に、リリスは傻げに笑った。
「……所詮は凡人の域を出ない私が、そんなリユートの領域にリスク無 しで至ろうなんて……どれ程ムシのいい甘ったれた話だったのだろう か」
あの剣を抜くと寿命を引き換えに、生物としての次元が一ランク上が るようなスキルが与えられるという。
エスリンはAランク級冒険者としての実力のままで、瞬間移動のスキ ルを与えられたために俺を圧倒する実力を身に着けた。
与えられるスキルはその者が強くなるために最適なスキルであるとい
Aっ。
つまり....と考えると同時、リリスに変化が起きた。
リリスの額がヒクヒクと動く。
その皮が裂けギヨロリと爬虫類のよぅな眼球が現れた。
「第三の瞳……か。まあ、リリスの強化のために最適なスキルならソレ しかねーわな」
その瞳は人間のソレではなく爬虫類特有の瞳孔が縦長のソレ。
神龍の守護霊を身に宿し、そして龍の魔法の大部分を脳内に習得して いる彼女。
そんな彼女が強くなるために最もふさわしいスキル。それはつま
——龍人化だ。
秘境や魔界を巡り、ッテの全てを迪つて、どぅにかして俺はリリスを この状態にもつていこぅと思つていた。
が、まさかこのタィミングだとは思わなかつた。
これで彼女は人でありながら身に宿す神龍の力の一部と、そして龍の 秘術を行使することができる。
俺は現況を再認識し、そして戦況を再計算する。
導き出された答えは------
「でかしたリリス.....これで勝てる!勝率は九割.........いや、それ以上
だ!」
ただ一つ、アポカリブスを引き抜いた代償。
リリスの寿命については気に掛かるが.........今はエスリンの撃滅が最重
要事項だ。
俺はエスリンにファックサインを作りこう言った。
「そういえばさっき好き放題に言ってくれたよな? 才能がない? そ んな事は知ってるよ。なんせこっちはただの村人だ。絶対スキル? あ あ、そうだろうよ。はっきり言ってお手上げだ。歯がたたねえ。認める よ...手も足も出ねえ」
俺はリリスにアイコンタクトを取る。
「だが、俺には仲間がいるっー.」
リリスも、俺が何をしろと言っているのかを正確に理解している。 そりやあそうだ。
この状況でぶっ放す魔法と言えばアレしかない。
エスリンは止まる事のない冷や汗を、先程から流している。
自身もチートスキルで格上の俺を圧倒していた訳だから、アポカリプ スのもたらすスキルの危険性を重々承知しているのだろう。
「何故に何の躊躇もなく……アポカリブスを引き抜ける? そしてそ のスキルは……何だ? 小娘……お前は……お前は一体……何者だ?」 リリスは小首を傾げ、そして無表情でこう言った。
「............魔術師ですが……何か?」
そして俺はリリスの魔法の発動を促すように叫んだ。
「さあリリス!お前の持っている最強の魔法を……ぶちかませっーこ
リリスは魔力の練成を始める。
初めて発動する魔術とは思えない程に淀みなく術式が形成されてい
その魔法は本質的に『村人の怒り』と全く同じものだ。
MPの全てを消費して対象にダメ^—ジを与えるという至極分かりや すい攻撃。
ただし、エネルギー効率が全く違う。かたや、村人のレベルアップ ボーナスの……世間一般でも馬鹿にされるようなゴミスキル。
そしてかたや、人間には扱う事のできない、龍の里に伝わる秘術中の 秘術だ。
今現在のリリスのステータスは冒険者ギルド換算でBランク級の下位 程度。
更に龍人化でBランク級上位となる。
MPの全てを解放する龍魔術の捨て身の一撃ということで更に底上げ され——瞬間的な攻撃力はSランク級冒険者の大規模魔術の一撃と比べ
ても遜色ない。
そして、その魔法は全方位爆撃だ。
俺の実力はSランク級冒険者の最上位であり、そして魔術耐性に至つ ては近接戦闘職では桁違いを誇る。
けれど、エスリンはどこまでいつてもAランク級冒険者の近接職。
「……我が父……金色の地龍の名において……我が魔術の源泉を全て龍 の咆哮に変換する……」
一呼吸置いて、リリスは締めの文言を紡いだ。
ドラグズ.ジH ノサイド
「——金色咆哮」
フロアー全体をリリスの全MPが変換された暴力の光が支配した。
「あ...ァ...あああああああああああああああああっー.」
エスリンの悲鳴が鳴り響く。
どこに逃げようとしてもフロア^ —の全てを攻擊しているのだから逃げ 場もない。
「ぐっァ....ああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああっ!」
延々と続くエスリンの悲鳴。
十秒と少しが経過し、光が収まった後肩で息をしながらエスリンは
^ 一一一口った。
「私はもうボロボロさね……だが……瞬間移動のスキルは衰えちやいな い……!今の魔法は全てのMPと引き換えに渾身の一撃を叩き込む技 のはず……だったら今の猛攻を耐えきった私の勝ちさねっー.」
その言葉にリリスが無表情で応じた。
「..どうするつもり? まさか.........私達に險つつもり? リユートは
言った。先ほど……勝率九割以上だと」
「はっ? 勝率九割? 笑わせてくれるね? 小娘................お前のMPは今
はゼロ。つまりは全方位魔法も打ち止め……そして私の瞬間移動スキル は消えちやないー.だったら……お前等に勝機なんてないのさっー.」 最後の気力を振り絞り、俺は音速を突破してリリスに駆け寄る。 エスリンの意識は既にリリスに集中していて、簡単にリリスの下に迪 り着くことができた。
——これで勝率は百パーセントだ。
呆れ笑いと共にリリスに問い掛ける。
「全く……無茶してくれるな」
「……リユートにだけは無茶だと言われたくない」
「まあ、そりやあそぅだ」
リリスの杖を俺が右手で持つ。
リリスは左手で俺の右手を握った。
「リリス?」
「..何?」
「俺のMPは30000近い。お前のマックスMPは10000弱-----------------
一発が限度だ。確実に仕留めろ」
「……委細承知」
俺とリリスは頷き合う。
そして俺は左手でファックサインを作り、エスリンに言った。
「生憎だがこれで終わりだ」
「……エナジードレイン」
右手から猛スピードでMPが吸われていく。
そこで、ようやくエスリンは俺達の会話の内容と意図を理解したらし
>
エスリンは諦めたかのように肩をすくめて笑った。
「---お見事さね。悪あがきも……ここまで来るとむしろ清々しい」
俺とリリスは杖を高々と掲げ、そして二人の声色が重なり、一面に響 き渡った。
「金色 胞哮 っ!」
一発目。
破滅の閃光が収束した後、エスリンはその場に片膝をついた。
そしてニ発目。
終末の審判と見まがぅ程の圧倒的な光の奔流。
そこで決着がついた。
光が収まった後——そこにはエスリンが痙攣しながら倒れている光景 が拡がっていた。
俺とリリスの疲労も限界に達した。
へナヘナと折り重なって俺達はその場に崩れ落ちた。
疲労困憊で息も絶え絶えといぅ風にリリスは俺に尋ねる。
「..ねえリユート?」
「なんだ?」
「……私……リユートの役に立てたかな?」
「ああ。役に立ったよ。お前がいなけりや俺は生きてはいない」
素直な感想だ。
リリスがいなければ俺は間違いなく敗北していた。
「..ねえリユート?」
「なんだ?」
「……私……頑張った?」
「ああ、頑張った。勇気を出して.........頑張ってくれたと思うよ」
これも本当だ。残り寿命が半分。冷静に考えれば眩暈がするような事 態だ。
でも...それも込み込みでリリスは全てをなげうって俺を助けるため
にやってくれた。
「..ねえリユー卜?」
「なんだ?」
「……お願いがある」
「ん?」
「……ご褒美が欲しい」
「褒美?」
頰を染めながら、リリスは申し訳無さそうにまつ毛を伏せる
「..あの....その...」
「何だよ。早く言えよ」
「……頭を……撫でて欲しい」
「........ああ、分かったよ」
俺はリリスの頭を掴み、ワシワシと無遠慮に撫でまわした。 絹のような質感の水色の髪が揺れる。
「頑張ったな。リリス」
リリスは一瞬だけとろけた様な表情を浮かべる。
が、すぐに首を左右に振ってこう言った。
「..足りない?」
「..撫でられるよりも、ギユッとされる方が良い」
「お前なぁ……」
何を言い出すかと思えば…でも、確かにこいつは頑張った。
「今回だけだからな」
「..うん」
そうして俺はリリスを強く抱きすくめる。
そして類を真っ赤に染めながら目尻に少しだけ涙を溜めて-----------------リリ
スは満面の笑みで笑った。
「……うん。私は今回……本当に頑張ったと思う」
正直に言おう。
リリスがこの時作った表情はこの世の物とは思えない程に愛らしい笑 みで——その一瞬だけ、俺の心臓は確かに鷲掴みにされてしまった。
「……しかし……私の寿命は半分に縮んでしまった」
助けてもらったのは俺だ。
で、俺だけがノーリスクでリリスに重荷だけを背負わせると?
もしもそれをしたら今後、俺は誰かを守るとか何かをなすだとか、あ るいは誰かに上から目線で高説をかますだとか……そんな資格を完全に 失うだろう。
「なあ、リリスよ?.」
「..何?」
「確か、剣を抜いた瞬間に全ての寿命を奪われて、そして剣を台座に戻 す時……次の挑戦者が現れた際の儀式を行う代理人を了承して半分の寿 命を返して貰える……って話だったか?」
「..そう聞いている」
「もしも……重荷を二人で分かち合う事ができるなら?」 r..何を言っている?」
俺は台座に転がった漆黒の魔剣に向けて歩みを進めた。
「どうなるか分からない。が••••••この世界の平均寿命は五十歳だ。で、
リリスは十五歳……残り三十五年間の寿命とすれば本来はお前ひとりで 十七年程の寿命を取られて、三十歳と少しで死ぬことになる。でも…… 二人で割れば八年か九年位だよな? それなら俺らは四十ちよっとまで は生きる事ができる目算だ。だから、さっき魔法を二人で使った時みた いに二人で剣を握って二人で台座に戻そう。俺にはそれ位しかできな
い」
しばしリリスは押し黙る。
「...リユー卜?」
「何だ?」
「...リユートにとって私って何?」
「何って言われても……」
「……私はリユートと一緒にいたい。貴方の進む道を共に歩きたい」
「……ただのお荷物ではいたくない。私はあくまでもリユートと対等な 関係で……一緒にいたい」
俺はやはり、しばらく押し黙る事しかできない。
そして色々考えた後にロを開く。
「なあ リリス?」
「..何?」
「これからも、一緒に……強くなつていこぅな。誰よりも強く、大事な
モノを守れるように......」
「..うん」
そうして俺達は二人で剣を拾い上げる。
そして二人で台座に進み、元々突き刺さっていた穴に剣を突き刺し た。
と、その時-----その場に拍手が鳴り響いた。
「いやあ、中々に面白い茶番劇でしたね。本当に面白い。で……二人で
分かち合えるなら......でしたっけ?」
少年なのか少女なのか良くわからない甲高い笑い声。
見た目は十代前半の、燃えるような赤い瞳に黒髪。
中性的な顔立ちの恐ろしいまでに美形がいつの間にかそこにいた。 服装は黒を基調とし、燕尾服をまとった執事のような。
いや黒のシルクハットを被っている寧力ら執寧とはまた違う力 ともかく、見た目から立ち振る舞いから、全てが完璧に過ぎる。 あるいはそれは見ているだけで怖くなるような不安になるようなシ
ロモノですらある。
——完璧な美。
コーデリアも息を呑むような美人だが、こいつは次元が違う。
同じ人間とはとても信じられない……いや、まあ、間違いなく人間 じやねーわな。
そんな、冗談のような美しさを持つ者が、笑い涙を携えて、若干の鼻 水を垂らしながら一面に大笑の音響を響き渡らせる。
「ハハつー.ハハハハハッー.本当によろしいのですか? 根拠も何も ありませんが……? 二人まとめて寿命を半分にされちやつたらこのお 馬鹿さん達はどうするんでしようか? 全く……勢いだけでやつちやい ましたね? 私も長年、神様をやつておりますけれど、貴方達程のク レィジーは中々お目にかかれるものではありません……フハハつー.無 茶苦茶も良いところではありませんかつーこ
こいつが何者なのかは分からない。
ただ、これだけは分かる。
---今の俺ではいかなる悪あがきをしようが絶対に勝てる存在では
ない。いや、傷すらつけられない……違うな。俺の装備では傷をつける 事はあるいはできるかもしれないが、俺の技量の問題でこいつにエクス 力リバーの斬撃を加える事ができない。
マーリンのロリババァの全力の大規模魔法がモロに入ったとして、恐 らく柱の角に頭をぶつけた程度のダメージは与える事はできる。
龍王は実力を見せないから分からないが……あいつが本気出したら、 あるいは、数秒間は勝負の形になるような気がする。
だが、今の俺にはそれすらも絶対に無理だ。
床に倒れるエスリンを一瞥し、俺は肩をすくめた。
「こいつの言うあの方……ってのはお前の事か?」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。分かりやすく説明するのであれ ば——私はアポカリブスに宿っている精霊みたいなものだと思ってくれ ればよろしくってよ?」
分かったような、分からないような感じだな。
「で、アポカリブスってのは結局何なんだ?」
「私は暇を持て余しておりましてね?」
「暇?」
「唯一の趣味は人間観察なのです。アポカリブスを目の前にして、寿命 半分と力を天秤にかけて、悩み苦しむ貴方達人間の姿を見るのが最近の マイフ^ —ムなのでございますの」
「..?」
「まあ、与えるスキルは私を楽しませてもらう代わりのプレゼントで しようか? だから、惜しみなく冒険者ランクで最低は一ランクは上が るような……そんな特別なギフトを差しあげておりますの」
「..つまり?」
「例えば、そこの姫君であれば龍人化でー択ですね? で、貴方の場合
は...う----ん。貴方自身にとって有用なのは既にご自身で大体取得し
ておりますね。これはこれは……いやはや……正直、プレゼントに…… 函りますの」
「まあそうだろうな。取るべきスキルに困つたからこんなところにまで 来ている訳だからな。で……再度尋ねるがアポカリブスってのは何なん だ? さっきのは回答になっちやいないぞ?」
「ああ、その事ですの? 要は……アポカリブスは……私が現世に出現 するための依代なんですの」
「依代?」
「超高位霊的……いや、精神生命体である私が現世に受肉するのでござ いましてょ? 大規模な召喚術式や、あるいは依代がなくてどうして現 世に現出できるとおつしやるのでしょうか?」
ああ、と俺はここで納得した。
「本当に地上の人間にとっては大迷惑だから……お前等みたいなのが現
世に干渉するなよ……で、お前は何もんだ? ガブリエルか? シヴァ か? ゼゥスか? 天照大御神か?」
ちなみに地球でも、この世界でも神話に出てくる大物連中は全く同じ
だ。
そして多分、それらの言葉が指す連中は同一のモノを指しているのだ ろう。
思うに、そういった霊的質量は次元や宇宙を超えて、どこにでも存在 していて、あるいは……どこにでもいない存在と言えるのかもしれな
、o
V
俺の質問に、ニコリと笑って少女だか少年だか分からない奴が応じ た。
「この説明だけで、そこまでアタリをつけられたのは初めてですの。そ う私の名前はルシファー……究極の暇人なのです。何しろ本体は無間地 獄の最下層コキュートスに幽閉中ですからね」
オホホと笑うルシファーに、俺は呆れ笑いを浮かべた。
「なるほど、マジで大物だな……」
いや、本当にとんでもない大物だ。これ以上となるとちよっと思い浮 かばない。
同格でサタンとかミカエルとかのレベルだからな。
「後、後学のためにお伝えしますが、ロの利き方を……少しでいいから 理解したほうがよろしくってよ?」
「ん?•」
「私はルシファ^—でございます魔王としては第一位にあり魔神とし ても最高位クラスにありますの。セラフとしてもかつては第一位に居た 事もありましてですね……。つまりはSランク級冒険者程度の力しかな
い分際で……あまり調子にのるなこの下郎が—...................っと、ま
あ そうレう寧てこさVます」
「ああ、そりゃあ……正直すまんかったな」
「ははっ....それでもタメロですの?」
「生憎と性分でな」
そこでルシファーは本当に嬉しそうに口元を吊り上げた。
「なるほどこれは面白い……特別に許可しましよう。タメロでよろし くってよ? で、私には聞きたい事がありますの」
「何をだ?」
「貴方達は魂の契約について、勢いだけで言っちやっている部分はある んでしようけれど……その本当のところの……本心をお伺いしたいんで すの。本当に寿命を半分捧げる覚悟がおありでしたの?」
俺は少し考え、素直に思うところを言った。
「仮に寿命が半分になったとして、時間はそれなりにあるはずだ。俺が 守ってやれなくても……守らなくちやいけない女が、最低でも単独で生 き残れる事ができるように俺が仕込んでやれるだけの時間は……多分あ る。だからそれでいい。どの道……数年位か? 寿命が半分になってそ んな時間すらないんだったら、元々俺の寿命は極端に短いって事なんだ ろうしさ」
「で、そこの姫君はどう思われますの?」
問い掛けられたリリスもまた、少し考えてこう言った。
「..リユ■—トのいない世界で長く生きても仕方がない。リユ■—トのい
ない人生を無駄に長く生きる位なら……私の命で何かができるなら。私 は……リユートのために喜んで死ぬ」
そこで堰を切ったょうにルシファーは笑い始めた。
笑い過ぎで腹筋が痙攣したのだろう。笑い声もおかしくなり、その場 でルシファーは床に崩れ落ちてのたうち回り始めた。
「クハつー.クハハつー.フつ……フつ……ハハハハハハハつー.ウハ ハハハハハハハハハっ—.」
「いくらなんでも笑い過ぎだろ……」
呆れ顔の俺に、笑い涙を浮かべながらルシファーは言った。
「ハハっー.ハハハハハッー.これはまた面白いですの!見事な覚悟
ですっ!. 時に.....そこの村人さん?」
「何だ?」
「中々に面白い境遇と道を歩んできていますね?」
「なるほど。お前もまた事情通の一人……か」
「..そりやあまあ、見れば分かります。最上級神ですから」
記憶を読まれるなんて何年ぶりだよオィ。
俺の魔力数値ですら障壁として完全に意味をなさねーか……。
本気でハンパねーな。
「ああ、一つ訂正しておきましようか。私、記憶は5ますけど、それ だけじやあなくつてよ? 私、ずっと貴方を注視しておりましたの」 「どういう事だ?」
「いつかはここを訪れるとは思つておりましてね……まあ、ここを貴方 が素通りする訳もないでしようと」
「釈迦の掌の上って奴か」
「まあ、私からすればお猿さんも村人さんも大して変わりませんね」 「西遊記を知ってるってか……」
「まあ、暇人ですから。それで私が今回気にしていたのは、貴方がそこ の姫君をどう扱うかということでしたの。もしも私を楽しませてくれる
のなら多少のサ^~~ビスもしてあげようかなとも思つていたところでし てね」
「で、お前が見た俺の……結果は?」
「いや、だから私は今、心の底から笑いましたでしよう?」
「そうだな」
「うん。実に面白いですの。こんなに笑ったのは久しぶりで……全 く...見ていて飽きないです」
「無理なら別にいいが……寿命を奪うのはやめてくれねーか?」 単刀直入に言ってみた。
こういう輩には腹芸は通用しないし、素直に聞いた方が成功率も高い だろう。
「あ? 寿命? 今回は免除にしましよう。所詮は……試練の挑戦者に 対するただの嫌がらせで暇つぶしなだけに過ぎないんですから。葛藤に 悩む虫けらというものは中々に面白いですが」
なるほど。
相当に素敵な性格をしているようだ。
伊達に熾天使最上位でありながら、唯一神相手に反旗を翻しちやいね えな。
「非常にありがたい事なんだが、なんで俺らには免除なんだ?」
あっけらかんとした表情でルシファーはこう言った。
「貴方達なら長生きしてもらった方が余程面白いモノを見させてもらえ そうだからですかね。ああ、後、さっき二人で剣を戻しましたよね?」
「ああ」
「その関係で貴方達の魂は一部溶け合ってしまいました。本来であれば 貴方の予想と全く異なり、普通に二人ともきっちり寿命が半分となり、 年齢として三十〜四十歳位で死ぬ予定でしたが……まあ、今回はそこは 気にしなくてもよろしゆうございます」
「一部が溶け合った? どういう事だ?」
「具体的に言うと貴方達の霊的能力の分野……M Pと魔力、そして魔術 式を現世に具現化する際の高次元への接続チャンネルが統合されます
の」
「サッパリわからん」
「まあ、要はそちらの姫君……リリスちやんは貴方のM Pを使用して魔 法を今の何倍も撃てて、そして貴方はリリスちやんの脳味噌で魔術の演 算をアウトソ^—シングしていただいて普通に高度な魔法を扱えるよう になれるって訳ですの」
何故にリリスがちやん付けなのだろうという疑問はあるが、なるほど それはすごく分かりやすい。
っていうか、それって……と、俺はここから先の一年間の修行方針を 瞬時に書き換えていく。
とりあえず、仙人……劉海のクソジジィのところにダッシュして仙 術を覚えるところから始めようか。
「へへ、そういう話なら俺は村人の中で最強じやなくて、本当に全人類 の中で最強になれるかもしれねーな」
「ところで本題に入ってよろしいですの?」
「本題?」
「貴方は何のスキルが御所望でしようか?」
「おい、まさかお前……俺に選ばせてくれるのか?」
絶句する俺に、ルシファーはニコリと頷いた。
「私にすら、貴方に最適なスキルは分かりません。ならば、現存するス キルの中で貴方の望むスキルを与えるのが一番早いでしように?」
マジかよおい。
現存する全てのスキルときましたか。
正直、出来過ぎた話だが俺は即答した。
「神喰らいのスキルだ」
「ふむ。スキル強奪でも経験値十倍でもなく、あるいはステータス三倍 でもなく……神喰らいでいいのでしようか?」
「スキル強奪って言っても雑魚スキルをどんだけ盗んでも意味はねえ。 経験値十倍も、俺と同じ領域の存在がいなくなれば経験値自体が手に入 らなくなる。そしてステータス三倍……これは少し魅力的だがな」
「なるほど。これから先も無茶な道を歩む気なようですね。貴方にスキ ルを与えてしまうと、近い将来……私も喰らわれてしまうかもしれませ ん」
「最強を目指してるもんでな。とりあえず向こう一年で下級神を狩りま くる。当面の最終目標はベルゼブブにしておくよ」
「はは、上位魔王の一角べルゼブブでとりあえず……ですの」
そしてルシフアーは手をパンと叩いて言葉を続けた。
「せいぜい、貴方に同化されないように私も気を付けましよう。いやは や、貴方と話ができて本当に良かったですわ」
---そぅして俺は『神喰らい』のスキルを得る事になつた
数日後。
陽炎の塔を攻略する一人の若き勇者がいた。
そのダンジョンは攻略難易度はAに認定されており、勇者の試練とも 言われる高難易度ダンジョンだ。
高ランク冒険者を引き連れて、彼女はまるで無人の野を行くかのごと く、物凄い勢いで塔を攻略していく。
その速度と言えば本当にとんでもないもので、歴代の勇者の中でも ぶっちぎりの最速記録だ。
それもそのはず、そのダンジョンの罵は全て解除されており、無機物
で糖成される魔道生物------ガーディアンも軒並み破壊された後だったの
だ。
困惑した表情で彼女は聖剣の間へと迪り着く。
聖剣を握り、狼狽を隠せない風に眩いた。
「……本当に……これ聖剣:••••? ってか……試練が何もな
い...? 一体全体.....どういうコト?」
そのまま聖剣を引き抜いた彼女は天井を見上げる。
そしてやるせない気持ちを天井にぶつけるように大きな声で叫んだ。
「これじやあ....バ^—サ^—カ^—モ^—ドを習得した意味がないじやないの
おおおぢおおおおおおお------------
そんなこんなで——
——戦こ女の、何とも言えない怒りの咆哮が陽炎の塔に鳴り響いたの だった。
幕間〜図書館の司書の独白後編〜
あれから----
黒髪の少年と水色の髪の少女は、私に龍王の大図書館への就職を斡旋 してくれた。
これが私が図書館の司書へと就職した経緯だ。
別に冒険者稼業を辞めなくても良かったのかもしれない。
けれど...リリス----あの少女の純粋な睦を見て思った事がある
——女ながらに剣術道場に通い始めたあの時。
最初は純粋に強くなりたいから剣を習い始めた。
で、いつしか私は強くなった。
後輩や弟子。
守るべきものもできて、更に腕を磨く理由もできた。
私の師匠はかつてAランク級上位の剣聖だったが、当時は既に高齢 で、実質的には私が主席師範として道場最強だった。
そんな時に現れたのが、Sランク級の賞金首である東方の侍だ。
力を求めるあまりに、魔物であろうと人間であろうと構わずに、経験 値を求めるために大虐殺を行う……そんな奴だった。
道場破りでみんなが殺されて……。
元々、奴が狙っていたのは師匠だった。
私が一番強い事は奴は知らなかったょうで……奴の太刀筋を見た瞬間 に、敵わないと悟った私は弱者を演じ、相手の油断を誘って致命傷を避 けた。
結果、私は虫の息の状態で助かり、一命をとりとめた。
兄弟子や後輩、教え子達。全てが血の海の中に転がっていて——その 後、私が剣を取る理由は憎悪と怒りに押しつぶされた。
もう二度とあんな思いをしたくないから、私は更なる力を求めた。
陽炎の塔に挑戦し、絶対的な力を得た。
復謦も、果たした。
それからも私は力を求めて強者を屠り続けてきた。
何故なら、あんな思いは絶対にしたくないから。道半ばで消えてし まつたみんなの分も、誰よりも強くならなくちやならなかつたから。 そして私は青臭い程に純粋な瞳の輝きを持つ、少年と少女に敗れた。 彼と彼女を見ていて思った事がある。
--------あの日0
「まあ、お前にも色々と事情があつたんだな」
地面に這いつくばる私に、少年がそぅ言葉を浴びせた。
「結局、最強を目指す事が、擬態を使ってまで生き延びた……私なりの 師匠やみんなへの償い……だったのかねえ……? でも、今はその方法 は間違いだったような気もするよ」
「だったらさ、違う形で償えばいいんじやないか?」
「違う形? それはどういう形なんだい?」
そこで少年は首を左右に振った。
「それは俺の考えるこっちやねーだろ? お前がこれから先に考えてい く事だ」
「まあ、そりやあそうなんだろうね」
そこで水色の髪の少女が私にこう言ったのだ。
「……償いや弔いの方法なら本に書いてる。一番……貴方が適切だと思 う方法の記載を探してみればいい。驚くくらいに暇だから……時間はあ る」
--------と、そんな感じで私は図書館に就職する事になった。
今日も今日とて、本を読む傍らに、図書館の中庭で剣の腕を磨く日々
だ。
「お嬢ちやんの言うように本当に暇で……時間も大いにある」
これから先、何をするにしても一度自分を見つめなおすために、こう いう時間は絶対に必要だったんだろうとは思う。
里を訪れた時から金線が五本の服も貰い 一か月前の祭------------トーナメ
ントでは龍王に負けて決勝敗退。
おかげさまで国賓待遇で迎えられているし、居心地も悪くない。 そうして、私は今日も龍王の大図書館で司書として受付席に座ってい る。
陽炎の塔の事件から、いかほどの時間が経過したのだろうか。
--聞くところによると水色の髪の少女はリユ^~~ト=マクレ^ —ンと
共に、龍魔術を行使して八面六臂の活躍を見せているらしい。
そんな彼らの情報を伝える書物が入荷するたび、何故だか我が事のよ ぅに笑みが止まらない。
まあ私を負かした女が世間に認められていくサマを見るのは--------------------
——気分が悪いものではない
エヒロ Iグ
時刻は夕暮れ。
一面の朱色に、若干の藍色が混じり生ぬるい風が吹いた。
草原に東西に延びる長い長い一本道。
この街道は北西の港町と大陸内部を結んでいて、海路経由の交易品 や、あるいはサバやサーモンなんかの海産物の燻製などの運搬に使用さ れる。
逢魔が時とは良く言ったもので、陽が沈むここから先の時間は盗賊や 魔物が闊歩する時間だ。
行商人は早々に宿場街に腰を落ち着けていて、街道に人通りは皆無。 こんな時間にぅろつき回る人間は、よほどの強者か、あるいは盗賊以 外にありえない。
「..勇者:コーデリアHオールストンとお見受けする」
「ん? いかにも......そうだけど?」
コーデリアは訝し気に質問に応じた。
まあ、怪訝に思うのも無理はない。
何しろ、質問してきた黒のローブを身にまとった少女は鼻から上と頰 を隠す、アゲハ蝶みたいな形の仮面を被っていたのだから。
そこで仮面の少女-------リリスはコ^—デリアにこう尋ねた
「..私と手合わせ願えないだろうか?」
「ハァ?」
コーデリアの反応ももっともだ。
何しろ昨日、リリスに言われた時は俺も全く同じ反応をしたんだから な。
---自分の力を試してみたい。
そんな事をリリスが言い出したのは陽炎の塔から宿に戻って数日後、
つまりは昨日の出来事だった。
陽炎の塔で自信を得たのだろう。
まあ、やりたいって言うんだから特に止める必要もない。
今のリリスならコーデリアの相手としても遜色がないから、コーデリ アの強化という意味では有益だろう。
そこで俺が提案したのが身バレを防ぐための仮面という訳だ。
前回の邪龍討伐時にリリスとコーデリアの面通しは終わっちまってる から、まあ、これは仕方ない。
「手合わせね……また売名の類?」
「……違う。これは自分自身に対する……試験」
「ふーん。まあ結局はアンタも自分の名前を上げたいだけの命知らずな んでしよ? 悪いケド……アンタみたいな手合いが絡んでくるのは私の 日常なのよね。正直、付き合いきれないよ? 話し合いで解決できな ぃ?」
コーデリアが肩をすくめ、そしてリリスは口元に笑みを浮かべた。
「……やはり、甘い。戦闘を開始するのに貴方の了承など……必要ない といぅのに」
「え? 何を言って......?」
コーデリアの背後に百近い炎の球が浮かんでいた。
リリスは無数の汎用攻撃魔法をいつの間にか展開させていたのだ。 「汎用の中では上位魔法……それぞれは大したことはないけど……この 数は尋常じやないわね」
コーデリアは剣を鞘から抜いた。
と、同時にリリスは指をパチリと鳴らした。
すると一斉にリリスの展開させていた魔法がコーデリアに襲い掛かっ てぃく。
コーデリアは背後に振り向き、数回----------宙に向かって剣を振り回す。
そこで、リリス......だけじやなく俺も絶句した。
なんせ、一振りで数十といぅ単位の魔法術式が接き消される。それが 数回行われ、リリスの仕掛けた百近い魔法は簡単に全て消されてしまっ
たのだから
「私はガチガチの近接職。だからこそ……遠距離魔法対策が必要なの よ。それが故の……神託の聖剣。効果は魔封じ」
「なるほど。聖剣は伊達ではない……か」
まあ、要は剣を振った方向に展開されている魔術式をある程度無効に してしまうというアーティファクトだ
本の知識では知っていたが、実際に見ると想像以上だった。
これまたチートな性能だな……と思うが勇者の聖剣なんだからこれ位 は当たり前か。
ぶっちやけ、サブゥエボンとしては有効っぽいので一振り欲しくなっ た。
「多少は腕に覚えがあるみたいだけど、まあ、見ての通りにアンタに勝 ち目はないから」
そこでリリスは再度口元に笑みを浮かべた。
「……先ほど甘いと指摘したはず。何故に自分が優位だと思い油断す
る? 何故にこれに気付かない?」
「どういうコト?」
「..足元がお留守ということ」
地中から白色に輝く光のワームが飛び出してくる。
そしてコーデリアの両足に絡み付き、彼女の足の自由を奪う。 バランスを崩したコーデリアは地面に倒れ、そして更に光のワームが 地面から飛び出してきた。
足の次はコーデリアの両手に絡み付き、手錠のように束縛を完了させ
た。
「ちよつと!?何よ! 何なのよコレつ!?」
これは本当にコーデリアの対応がお粗末だ。
リリスはこれを仕掛けるために煙幕として百の魔法を展開させてい
た。
そして、それと同時に地中に束縛のワームを放つていたのだ。
これはバィンドと呼ばれる魔法で、汎用魔法の一種だが、一般には知
られていない。
と言うよりは正確に言うのであればロスト•マジックに分類されるシ ロモノで、魔法大学院の図書館の奥深くであれば名前だけは記されてい る書物もあるかもしれない。
まあ、要は龍の里の図書館でも保存状態が解読ギリギリになっていた ような古い魔術書に載っていたような……古代に失われた魔法だ。
「くつそ....フンつ!」
とはいえ、コーデリアは脳筋中の脳筋だ。
解呪もクソもなく、ただ腕力で光の束縛を引きちぎった。
「さすがにちよつと油断した..........つて....えつ?」
コ^—デリアの周囲を身長百五十センチ程度の土塊の塊----------------ゴ^^レムが
三十体程囲んでいた。
これも当然、リリスが作り出した魔道生物だ。
「駆け出し冒険者ですら話にならないような低レベルのゴーレムを大量 生成して.....どういうつもり? 何か狙いでもあるの? まさか、それ
で私の足止めでもさせようってんなら、とんだお笑い種ね?」
「……驚いた」
「驚いた?」
「..無数のゴーレムに足止めをさせようとしていたことを、貴方のよ
うな脳筋に見抜かれるとは」
「アンタ……本気で言ってるの? あれだけの数の魔法を展開させるこ
とができるような実力者が.......本当にそんなコ^~レムで私をどうこうで
きると思ったの? つていうかアンタ.........本気出してないよね?」
「..ふふ。まあ確かに私は全力を出してはいない。何故なら--------------私
はこれから一年程度、私以上の相手に囲まれる生活となる。圧倒的戦力 差の上でどう立ち回るか本気を出さない上で貴方と戦いそして制 す。それ位の事ができなければ……自分を試すための試験にはならな ぃ」
そこでリリスは右手の掌を突き出し、ジャンケンで言うところのパー を作った。
r...5....4....3....j
一本一本、数が減る度に、開いた掌の指も一本一本折って減ってい 「カウントダウン? 何のつもり?」
「……2……1……アウト。ゴーレムの展開当初から私が貴方に何かを 仕掛けよぅとしていたのは知っての通り。そぅであれば取るべき行動 は……開幕当初から全力で剣撃によるラッシュ。それで一気に押し切 る----ただそれだけ」
「ちよつとアンタ、さつきから訳わからない.................こ.......と........
ば.......か.....り.......ア........レ....?」
力クンとコ^ —デリアは膝をついた
r何……n.............レ.......j
リリスはコーデリアの背後を指さした。
そこには香炉が置かれており、無色無臭のガスが発生していた。
「...エクス•マンドラゴラ」
そこで俺の背中にゾクリと汗が走る。
開幕早々の舌戦と術式展開。そしてロスト•マジック。見掛け倒しの ゴーレムから始まる、意図的な時間稼ぎの無駄話。
それらすべてがフェィク。
で---本命はコレだ。
コィツ……本気で暄曄が上手いつ!
正直、俺も驚いた。
戦法自体は俺のバクリではあるが、そこに至るまでの過程が……とん でもない。
全ての行動がそこにつなげるためだけの布石。
龍魔術も使わずにリリスがここまでコーデリアを圧倒するとは夢にも 思わなかつた。
「……これで生殺の与奪は私に委ねられた。やはり凡人でも……戦い方 次第では勇者相手でも一本は取れる。あるいはSランクのその先の領域 でも……立ち回り次第では……何とか……」
が、そこでコーデリアが最後の意地を見せる。
彼女の瞳に朱色の炎が灯った。
「..バ^—サ^—カ^—モ^—ド...まさかこんなところで使う寧になろうと
はね? っていうか、欲望を折伏できる……いや、脳内麻薬の分泌を自 在に操れる私にマンドラゴラなんて通用しないつー.」
おいおいコ■—デリア.....マジかよ。
それって禁術じやねーか……。よっぽどの状況じやなければ人間相手 に使っていい物じやねーだろうに。
いや、事情を知らないコーデリアからすれば、今は命の危機か。
「私の全てを貴方にぶつけてあげるわ。タィムリミットは一分! 音速
剣舞....受けきれるものなら受けきってみなさいっー.」
コ^―デリアは立ち上がり ロレツもしつかりとしている どうやらエクス•マンドラゴラの効果も打ち消されたようだ。
まあ、そりやあそうだ。
コーデリアの使用している技は、そもそも精神の乱れの全てを制御下
に置いて、魔力を暴走させてなおかつ無理矢理に制御させるといぅ術な んだからな。
幻覚成分によるトリップもまた、脳内麻薬やらの結果によって起きる モノではそれも当然にして制御下に入る。
そこでリリスは杖を高々と構える。
「..コ^~デリア=オ^~ルストン私もまた貴方に全てをぶつけたく
なった」
リリスの額に第三の瞳が開く。
龍人化だ。
瞬時にリリスの杖に高密度のエネルギーが集積されていく。
「何……コレ……? 何なのこの魔力密度……? 馬鹿げている……こ の周辺にSランク級の冒険者……あるいは討伐難易度Sみたいな魔物は 存在しないはず……」
見る間にコーデリアの表情が蒼ざめる。
全MPを引き換えにするリリスの極大魔法だ。
今のコーデリアではまともに喰らえば、下手すれば即死する可能性す らあって、この一撃だけを言うならSランク級冒険者でも十分に通用す るだろう。
「これじゃあ私も手加減してらんないわね……できれば四肢欠損位でと どめたいけど……最悪……死んでも恨まないでね?」
「……それはこちらのセリフ。勇者相手に手加減できる道理はない。私
の全力を.....受け止めてみせろ-------コ^—デリアHオ^—ルストンっ!」
どうやら二人とも試合ではなく死合いをやる気マンマンのようだ。
ってかリリス......。
「このバカ……金色咆哮をぶっ放す気かよ!ってか、どっちか死ぬ勢 いだろこれ!?ちよっと待てお前等っ--------------」
全力で俺は駆け出した。
音速を突破し、まずはリリスの背後に回る。そして延髄に手刀を一
撃。
リリスはその場に糸の切れたマリオネットのよぅに崩れ落ちた。
そして次に、俺はコーデリアの背後に回ろぅとして---------------コーデリアは
俺が背後に回ると同時に、後方に向き直った。
くつそ、さすがに近接職だな。
俺のスピードをギリギリに目で追えて、対応までできるみたいだ。 突然の乱入者にコーデリアは警戒心を持って剣を構えるが、彼女は俺 の顔を確認し、すぐさまに弛緩した空気に包まれた。
「えつ? リユ......トっ....そげぶつ!」
更にもぅ一度、ステップを踏んで背後に回り延髄に手刀を一撃。 「戦闘中に油断するなよ馬鹿野郎つ!」
そして俺は頭を抱える。
とんでもないレベルの美形の戦こ女二人が地面に倒れている。
二人とも、俺が殴り倒した訳で.............なんだか俺が凄く悪いみたい
だ。
「それもこれも全部……こんな街道で殺し合いを始めようとしたお前等 が悪い」
自分への言い訳にも似た言葉を吐いて、俺は肩をすくめた。
そt力ら----
俺はコーデリアを宿場街まで運び、宿屋の兄ちやんに金を握らせて個
室のベッドまで運ばせた。
そしてリリスを背負ったまま数時間歩き、別の宿場街で眠りについ
た。
そして翌日。
朝食を終えた俺達は宿を出る。
「..さあ行こうリユ—貴方は次に私をどこへ連れて行ってくれ
る?」
「そういえば……お前は龍の里に帰るんじやなかったのか?」
フルフルとリリスは首を左右に振る。
「……いや、私は行く。貴方と共にこの道を行く」
「しかしお前……実は暄曄が上手かったのな?」
そこでリリスは心外だという風に露骨に顔をしかめた。
「……あれは喧嘩が上手い……ではなく、事前に作戦を立てていただ
けリュ^—トから聞いていたコ^—デリア=オ^—ルストンの人となりそ
して私の知っているコ^—デリア=オ^—ルストンの戦力.............色んなことを
考えた上での作戦。そしてそれがハマっただけ」
「なるほどな」
「……そして、それはリュートが龍の里に現れる前からずっとずっ と……強くなるためにしていた事のはず。現状を分析し、方法を模索し、 そして覚悟を決めて突き進む。ただそれだけの事」
「未来は定められてはいない。生まれながらに与えられた境遇や才能、 そして能力。そこにはやはり格差はあって、それは絶望的な差でもあ る。でも、それでも……やり方によっては……本当にそれは難しい事か もしれないけれど、でも……やり方さえ間違えなければ、必ず絶望的な 未来を変える事はできる。リユートを見ていてそれを私は学んだ」
「別に俺は大した事はしてねーぜ?」
「ただの村人がSランク級に到達し、その更に上の領域を当然の如くに
視野に入れている。これを才能を持たぬ私達の、目指すべき稀有なる成 功例以外の何物であると捉えれば良いのだろう?」
しばし考え、俺は微笑と共に頷いた。
リリスの言う通りだ。
実際に俺は未来を変えている。
前回の、あの時、モーゼズに殺されると定められていた未来は変え た。
あるいはコーデリアの背中を追いかけるだけの未来を変えて……俺は 今、ここにいる。
「ああ、そうだな」
「……レベルでも龍人化でも龍の秘術でもなく、一番大切なのはその心 構えと……覚悟。そういう意味では私は図書館で籠っていた時の私とは 違う」
「うん、そうだな」
「..感謝している。そのことに気付かせてもらえたことに」
そこでリリスはしばし押し黙った。
「..私の扱う魔法とそして知っている常識は全て本から学習したも
の。だが、感謝の気持ちを伝える術は……どの本にも書いていないの で……残念ながら私は持ち合わせていない……不器用ですまないと思 う」
そう言って、リリスはこの世のものとは思えない程に愛らしい表情で 笑った。
「..リユ1ト.....ありがとう」
「どういたしまして」
「..うん」
「後な、リリス?」
「何?」
「感謝の気持ちはちゃんと伝わったぞ」
「..うん」
俺達の前に広がるのは地平線まで続く一本道。
リリスは頰を染めながら俺に手を差し出してくる。
「……行こう。一緒に」
「そうだな」
そうして俺はリリスの差し出す手を取った。
しばらく歩くと、陽気な風が彼女の水色の髪をさらりと撫でる。 愛らしく、そして可憐な彼女の笑顔に負けないように、街道に咲くコ スモスが満開の花を咲かせていた。
あとがき
筆者の白石新と申します。今回は完全描き下ろしです。ネットには 載ってません。
おかげさまで小説1巻の売り上げも好調のよぅです。
KAD〇KAWA様の漫画月刊誌であるドラゴンエィジ様で漫画連載 も始まりました
思えば、昨年の2月にネットに小説を投稿した際にはここまでトント ン拍子に話が進むとは夢にも思わなかったです。全てはネット版から応 援してくれている読者様、そして書店で手に取ってくださった読者様の おかげです。
本当にありがとぅございます。
さて、2巻の内容です。
ズバリ、そして再度言いますと、ネット版は完全に無視で完全描き下 ろしです。お得です。
身も蓋も無い言い方をしますと、買っていただけると長期シリーズ化 する可能性も高まりますので是非ともお願いします。複数買いもオッ ケー、いや是非とも……おいちょっと担当編集何するやめろ
........コホン。と、半ば冗談半ば本気のアレコレはおいといて、
そんな感じで、ネット版のエピソードを極々一部流用していますが全体 の95パー以上の描き下ろしとなります。お得です。
ネット版では既にリユートは笑える位に最強になっていますが、2巻 時点では人類最上位クラス程度です。ネット版では完全にカットとなっ ていた、如何にしてリユートがぶっちぎりの最強になったのか……とい ぅ辺りがメインエヒソ^~ドとなつています
前巻と同じく、悪•即•ス力っと……斬!
コ^—デリアとリリスのダブルヒロインでの、すったもんだもあったり しますが基本的にはその流れでいきます
最後に謝辞です。
ィラスト担当の白蘇ふぁみ様。今回も美麗なィラストありがとうござ います
担当編集のo様。いつもこちらの無茶振りを可能な限り実現してくれ てありがとうございます。
本当に色んな事まで何から何まで、オッケーであれば言う事聞いてく ださってありがとうございます。そしてダメなら一蹴で、そして瞬間で ダメって言って下さるあたりも素敵です
そして何より読者の皆様方。
おかげさまで2卷ないし3巻での早期打ち切りの心配はしないですみ そうです
全ては皆様のおかげです。ありがとうございました。
G C ノベルズ
村人ですが何か? 2
著者以51ぁ!^?
イラスト白蘇ふあみ 装丁 横尾清隆
発行株式会社マイクロマガジン社
〒1o 4-0 o 41 東京都中央区新富1-3-7ヨドコウビル 編集部tel03-3551-9563\fax0 3-3297-01 8 0
販売部tel03-3206-1641\fax0 3-3551-1 0 8
UF L http://mlcromagazlne.net/
著作権 ©2017 Shi— Arata
2
当ファィルは、GC ノベルズ『村人ですが何か? 2』 (2017年3 月3日初版発行)に基づいて作成しております。
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本書は小説投稿サィト「小説家になろぅ」(http://syosetu.com/)に掲載されていたものを、加筆の上書 籍化したものです。
この物語はフィクシヨンであり、実在の人物、団体、地名などとは一切関係ありません。
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too-noy 2016-3-31 12:59
そしてエスリンが消えて、出現して、また消えて、出現して------------
俺が全ての矢を放った後、エスリンは青ざめた表情でこう言った。 「あんた……喧嘩が上手だね? 今のは本当に危なかった」
クッソ……。
俺の放った矢の大部分は明後日の方角に飛んでいった。
そして、エスリンの出現座標にドンピシャに放たれたニ本の矢。 その内の一本はエスリンに手で掴まれ、そしてもう一本はギリギリの ところで皮膚をほんの少し掠めるに留まった。
「暄曄が上手……か。まあ、そうでなくちゃ村人でここまで来れちゃい ねえ」
「毒がちよつとだけ回って……フラつと来た。私をここまで追い込んだ のはあんたが初めてだ。誇っていいよ? もしもあんたの最適職業が村 人……生まれ持っての才能がゴミじゃなければ……もう少しだけでもス
テータスが高ければ------あんたが勝ってただろうね」
打つ手はもうない。
だが、俺の四肢は動くし意識もしっかりしている。
「坊や? まだ悪あがきをするつもりかい?」
悪あがきなら、前回にこの世界に生を享けた時から、俺の専売特許 だ。
「可愛くね^—かもしれね^—が付き合ってもらうぜ? 銀髪の女剣士さん よ。とは言っても......打つ手はもうね^—んだがな」
「だろうね。表情を見てれば分かるよ」
と、その時----部屋の隅から甲高い声が響いた。
「……境遇にめげない。決して折れない。与えられた手札で必死に考 え、そして行動する。強くなる道が分からなければ、調べてそして自分 で考え模索する。強くなる方法が険しいのであれば努力と気合いで乗り 越える。そして、決して勝てない相手でも……折れずに勝機を探り続け る」
「リリス?」
いつの間にか、アポカリブスの台座にリリスが立っていた。
「..それこそがリユ^—ト=マクレ^ —ンの本質」
彼女の手に握られているのは漆黒の魔剣。
「あの小娘……アポカリブスを……抜いているだって?」
絶句するエスリンに向けて、リリスは頷いた。
「……そぅ。リユートは決して身体的な才能には恵まれていない。 リユートは努力の秀才であり、そして悪あがきの鬼才なだけ。彼の歩ん
できた道は誰にでも……リスクにさえ目をつぶれば……それこそ本当 は……覚悟の天才でさえあれば、村人にでもできる道だった」
努力の秀才ってのはスキル:不屈のおかげだけどな。
まあ、悪あがきの鬼才ってのは認めんこともない。
自嘲気味に、リリスは傻げに笑った。
「……所詮は凡人の域を出ない私が、そんなリユートの領域にリスク無 しで至ろうなんて……どれ程ムシのいい甘ったれた話だったのだろう か」
あの剣を抜くと寿命を引き換えに、生物としての次元が一ランク上が るようなスキルが与えられるという。
エスリンはAランク級冒険者としての実力のままで、瞬間移動のスキ ルを与えられたために俺を圧倒する実力を身に着けた。
与えられるスキルはその者が強くなるために最適なスキルであるとい
Aっ。
つまり....と考えると同時、リリスに変化が起きた。
リリスの額がヒクヒクと動く。
その皮が裂けギヨロリと爬虫類のよぅな眼球が現れた。
「第三の瞳……か。まあ、リリスの強化のために最適なスキルならソレ しかねーわな」
その瞳は人間のソレではなく爬虫類特有の瞳孔が縦長のソレ。
神龍の守護霊を身に宿し、そして龍の魔法の大部分を脳内に習得して いる彼女。
そんな彼女が強くなるために最もふさわしいスキル。それはつま
——龍人化だ。
秘境や魔界を巡り、ッテの全てを迪つて、どぅにかして俺はリリスを この状態にもつていこぅと思つていた。
が、まさかこのタィミングだとは思わなかつた。
これで彼女は人でありながら身に宿す神龍の力の一部と、そして龍の 秘術を行使することができる。
俺は現況を再認識し、そして戦況を再計算する。
導き出された答えは------
「でかしたリリス.....これで勝てる!勝率は九割.........いや、それ以上
だ!」
ただ一つ、アポカリブスを引き抜いた代償。
リリスの寿命については気に掛かるが.........今はエスリンの撃滅が最重
要事項だ。
俺はエスリンにファックサインを作りこう言った。
「そういえばさっき好き放題に言ってくれたよな? 才能がない? そ んな事は知ってるよ。なんせこっちはただの村人だ。絶対スキル? あ あ、そうだろうよ。はっきり言ってお手上げだ。歯がたたねえ。認める よ...手も足も出ねえ」
俺はリリスにアイコンタクトを取る。
「だが、俺には仲間がいるっー.」
リリスも、俺が何をしろと言っているのかを正確に理解している。 そりやあそうだ。
この状況でぶっ放す魔法と言えばアレしかない。
エスリンは止まる事のない冷や汗を、先程から流している。
自身もチートスキルで格上の俺を圧倒していた訳だから、アポカリプ スのもたらすスキルの危険性を重々承知しているのだろう。
「何故に何の躊躇もなく……アポカリブスを引き抜ける? そしてそ のスキルは……何だ? 小娘……お前は……お前は一体……何者だ?」 リリスは小首を傾げ、そして無表情でこう言った。
「............魔術師ですが……何か?」
そして俺はリリスの魔法の発動を促すように叫んだ。
「さあリリス!お前の持っている最強の魔法を……ぶちかませっーこ
リリスは魔力の練成を始める。
初めて発動する魔術とは思えない程に淀みなく術式が形成されてい
その魔法は本質的に『村人の怒り』と全く同じものだ。
MPの全てを消費して対象にダメ^—ジを与えるという至極分かりや すい攻撃。
ただし、エネルギー効率が全く違う。かたや、村人のレベルアップ ボーナスの……世間一般でも馬鹿にされるようなゴミスキル。
そしてかたや、人間には扱う事のできない、龍の里に伝わる秘術中の 秘術だ。
今現在のリリスのステータスは冒険者ギルド換算でBランク級の下位 程度。
更に龍人化でBランク級上位となる。
MPの全てを解放する龍魔術の捨て身の一撃ということで更に底上げ され——瞬間的な攻撃力はSランク級冒険者の大規模魔術の一撃と比べ
ても遜色ない。
そして、その魔法は全方位爆撃だ。
俺の実力はSランク級冒険者の最上位であり、そして魔術耐性に至つ ては近接戦闘職では桁違いを誇る。
けれど、エスリンはどこまでいつてもAランク級冒険者の近接職。
「……我が父……金色の地龍の名において……我が魔術の源泉を全て龍 の咆哮に変換する……」
一呼吸置いて、リリスは締めの文言を紡いだ。
ドラグズ.ジH ノサイド
「——金色咆哮」
フロアー全体をリリスの全MPが変換された暴力の光が支配した。
「あ...ァ...あああああああああああああああああっー.」
エスリンの悲鳴が鳴り響く。
どこに逃げようとしてもフロア^ —の全てを攻擊しているのだから逃げ 場もない。
「ぐっァ....ああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああっ!」
延々と続くエスリンの悲鳴。
十秒と少しが経過し、光が収まった後肩で息をしながらエスリンは
^ 一一一口った。
「私はもうボロボロさね……だが……瞬間移動のスキルは衰えちやいな い……!今の魔法は全てのMPと引き換えに渾身の一撃を叩き込む技 のはず……だったら今の猛攻を耐えきった私の勝ちさねっー.」
その言葉にリリスが無表情で応じた。
「..どうするつもり? まさか.........私達に險つつもり? リユートは
言った。先ほど……勝率九割以上だと」
「はっ? 勝率九割? 笑わせてくれるね? 小娘................お前のMPは今
はゼロ。つまりは全方位魔法も打ち止め……そして私の瞬間移動スキル は消えちやないー.だったら……お前等に勝機なんてないのさっー.」 最後の気力を振り絞り、俺は音速を突破してリリスに駆け寄る。 エスリンの意識は既にリリスに集中していて、簡単にリリスの下に迪 り着くことができた。
——これで勝率は百パーセントだ。
呆れ笑いと共にリリスに問い掛ける。
「全く……無茶してくれるな」
「……リユートにだけは無茶だと言われたくない」
「まあ、そりやあそぅだ」
リリスの杖を俺が右手で持つ。
リリスは左手で俺の右手を握った。
「リリス?」
「..何?」
「俺のMPは30000近い。お前のマックスMPは10000弱-----------------
一発が限度だ。確実に仕留めろ」
「……委細承知」
俺とリリスは頷き合う。
そして俺は左手でファックサインを作り、エスリンに言った。
「生憎だがこれで終わりだ」
「……エナジードレイン」
右手から猛スピードでMPが吸われていく。
そこで、ようやくエスリンは俺達の会話の内容と意図を理解したらし
>
エスリンは諦めたかのように肩をすくめて笑った。
「---お見事さね。悪あがきも……ここまで来るとむしろ清々しい」
俺とリリスは杖を高々と掲げ、そして二人の声色が重なり、一面に響 き渡った。
「金色 胞哮 っ!」
一発目。
破滅の閃光が収束した後、エスリンはその場に片膝をついた。
そしてニ発目。
終末の審判と見まがぅ程の圧倒的な光の奔流。
そこで決着がついた。
光が収まった後——そこにはエスリンが痙攣しながら倒れている光景 が拡がっていた。
俺とリリスの疲労も限界に達した。
へナヘナと折り重なって俺達はその場に崩れ落ちた。
疲労困憊で息も絶え絶えといぅ風にリリスは俺に尋ねる。
「..ねえリユート?」
「なんだ?」
「……私……リユートの役に立てたかな?」
「ああ。役に立ったよ。お前がいなけりや俺は生きてはいない」
素直な感想だ。
リリスがいなければ俺は間違いなく敗北していた。
「..ねえリユート?」
「なんだ?」
「……私……頑張った?」
「ああ、頑張った。勇気を出して.........頑張ってくれたと思うよ」
これも本当だ。残り寿命が半分。冷静に考えれば眩暈がするような事 態だ。
でも...それも込み込みでリリスは全てをなげうって俺を助けるため
にやってくれた。
「..ねえリユー卜?」
「なんだ?」
「……お願いがある」
「ん?」
「……ご褒美が欲しい」
「褒美?」
頰を染めながら、リリスは申し訳無さそうにまつ毛を伏せる
「..あの....その...」
「何だよ。早く言えよ」
「……頭を……撫でて欲しい」
「........ああ、分かったよ」
俺はリリスの頭を掴み、ワシワシと無遠慮に撫でまわした。 絹のような質感の水色の髪が揺れる。
「頑張ったな。リリス」
リリスは一瞬だけとろけた様な表情を浮かべる。
が、すぐに首を左右に振ってこう言った。
「..足りない?」
「..撫でられるよりも、ギユッとされる方が良い」
「お前なぁ……」
何を言い出すかと思えば…でも、確かにこいつは頑張った。
「今回だけだからな」
「..うん」
そうして俺はリリスを強く抱きすくめる。
そして類を真っ赤に染めながら目尻に少しだけ涙を溜めて-----------------リリ
スは満面の笑みで笑った。
「……うん。私は今回……本当に頑張ったと思う」
正直に言おう。
リリスがこの時作った表情はこの世の物とは思えない程に愛らしい笑 みで——その一瞬だけ、俺の心臓は確かに鷲掴みにされてしまった。
「……しかし……私の寿命は半分に縮んでしまった」
助けてもらったのは俺だ。
で、俺だけがノーリスクでリリスに重荷だけを背負わせると?
もしもそれをしたら今後、俺は誰かを守るとか何かをなすだとか、あ るいは誰かに上から目線で高説をかますだとか……そんな資格を完全に 失うだろう。
「なあ、リリスよ?.」
「..何?」
「確か、剣を抜いた瞬間に全ての寿命を奪われて、そして剣を台座に戻 す時……次の挑戦者が現れた際の儀式を行う代理人を了承して半分の寿 命を返して貰える……って話だったか?」
「..そう聞いている」
「もしも……重荷を二人で分かち合う事ができるなら?」 r..何を言っている?」
俺は台座に転がった漆黒の魔剣に向けて歩みを進めた。
「どうなるか分からない。が••••••この世界の平均寿命は五十歳だ。で、
リリスは十五歳……残り三十五年間の寿命とすれば本来はお前ひとりで 十七年程の寿命を取られて、三十歳と少しで死ぬことになる。でも…… 二人で割れば八年か九年位だよな? それなら俺らは四十ちよっとまで は生きる事ができる目算だ。だから、さっき魔法を二人で使った時みた いに二人で剣を握って二人で台座に戻そう。俺にはそれ位しかできな
い」
しばしリリスは押し黙る。
「...リユー卜?」
「何だ?」
「...リユートにとって私って何?」
「何って言われても……」
「……私はリユートと一緒にいたい。貴方の進む道を共に歩きたい」
「……ただのお荷物ではいたくない。私はあくまでもリユートと対等な 関係で……一緒にいたい」
俺はやはり、しばらく押し黙る事しかできない。
そして色々考えた後にロを開く。
「なあ リリス?」
「..何?」
「これからも、一緒に……強くなつていこぅな。誰よりも強く、大事な
モノを守れるように......」
「..うん」
そうして俺達は二人で剣を拾い上げる。
そして二人で台座に進み、元々突き刺さっていた穴に剣を突き刺し た。
と、その時-----その場に拍手が鳴り響いた。
「いやあ、中々に面白い茶番劇でしたね。本当に面白い。で……二人で
分かち合えるなら......でしたっけ?」
少年なのか少女なのか良くわからない甲高い笑い声。
見た目は十代前半の、燃えるような赤い瞳に黒髪。
中性的な顔立ちの恐ろしいまでに美形がいつの間にかそこにいた。 服装は黒を基調とし、燕尾服をまとった執事のような。
いや黒のシルクハットを被っている寧力ら執寧とはまた違う力 ともかく、見た目から立ち振る舞いから、全てが完璧に過ぎる。 あるいはそれは見ているだけで怖くなるような不安になるようなシ
ロモノですらある。
——完璧な美。
コーデリアも息を呑むような美人だが、こいつは次元が違う。
同じ人間とはとても信じられない……いや、まあ、間違いなく人間 じやねーわな。
そんな、冗談のような美しさを持つ者が、笑い涙を携えて、若干の鼻 水を垂らしながら一面に大笑の音響を響き渡らせる。
「ハハつー.ハハハハハッー.本当によろしいのですか? 根拠も何も ありませんが……? 二人まとめて寿命を半分にされちやつたらこのお 馬鹿さん達はどうするんでしようか? 全く……勢いだけでやつちやい ましたね? 私も長年、神様をやつておりますけれど、貴方達程のク レィジーは中々お目にかかれるものではありません……フハハつー.無 茶苦茶も良いところではありませんかつーこ
こいつが何者なのかは分からない。
ただ、これだけは分かる。
---今の俺ではいかなる悪あがきをしようが絶対に勝てる存在では
ない。いや、傷すらつけられない……違うな。俺の装備では傷をつける 事はあるいはできるかもしれないが、俺の技量の問題でこいつにエクス 力リバーの斬撃を加える事ができない。
マーリンのロリババァの全力の大規模魔法がモロに入ったとして、恐 らく柱の角に頭をぶつけた程度のダメージは与える事はできる。
龍王は実力を見せないから分からないが……あいつが本気出したら、 あるいは、数秒間は勝負の形になるような気がする。
だが、今の俺にはそれすらも絶対に無理だ。
床に倒れるエスリンを一瞥し、俺は肩をすくめた。
「こいつの言うあの方……ってのはお前の事か?」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。分かりやすく説明するのであれ ば——私はアポカリブスに宿っている精霊みたいなものだと思ってくれ ればよろしくってよ?」
分かったような、分からないような感じだな。
「で、アポカリブスってのは結局何なんだ?」
「私は暇を持て余しておりましてね?」
「暇?」
「唯一の趣味は人間観察なのです。アポカリブスを目の前にして、寿命 半分と力を天秤にかけて、悩み苦しむ貴方達人間の姿を見るのが最近の マイフ^ —ムなのでございますの」
「..?」
「まあ、与えるスキルは私を楽しませてもらう代わりのプレゼントで しようか? だから、惜しみなく冒険者ランクで最低は一ランクは上が るような……そんな特別なギフトを差しあげておりますの」
「..つまり?」
「例えば、そこの姫君であれば龍人化でー択ですね? で、貴方の場合
は...う----ん。貴方自身にとって有用なのは既にご自身で大体取得し
ておりますね。これはこれは……いやはや……正直、プレゼントに…… 函りますの」
「まあそうだろうな。取るべきスキルに困つたからこんなところにまで 来ている訳だからな。で……再度尋ねるがアポカリブスってのは何なん だ? さっきのは回答になっちやいないぞ?」
「ああ、その事ですの? 要は……アポカリブスは……私が現世に出現 するための依代なんですの」
「依代?」
「超高位霊的……いや、精神生命体である私が現世に受肉するのでござ いましてょ? 大規模な召喚術式や、あるいは依代がなくてどうして現 世に現出できるとおつしやるのでしょうか?」
ああ、と俺はここで納得した。
「本当に地上の人間にとっては大迷惑だから……お前等みたいなのが現
世に干渉するなよ……で、お前は何もんだ? ガブリエルか? シヴァ か? ゼゥスか? 天照大御神か?」
ちなみに地球でも、この世界でも神話に出てくる大物連中は全く同じ
だ。
そして多分、それらの言葉が指す連中は同一のモノを指しているのだ ろう。
思うに、そういった霊的質量は次元や宇宙を超えて、どこにでも存在 していて、あるいは……どこにでもいない存在と言えるのかもしれな
、o
V
俺の質問に、ニコリと笑って少女だか少年だか分からない奴が応じ た。
「この説明だけで、そこまでアタリをつけられたのは初めてですの。そ う私の名前はルシファー……究極の暇人なのです。何しろ本体は無間地 獄の最下層コキュートスに幽閉中ですからね」
オホホと笑うルシファーに、俺は呆れ笑いを浮かべた。
「なるほど、マジで大物だな……」
いや、本当にとんでもない大物だ。これ以上となるとちよっと思い浮 かばない。
同格でサタンとかミカエルとかのレベルだからな。
「後、後学のためにお伝えしますが、ロの利き方を……少しでいいから 理解したほうがよろしくってよ?」
「ん?•」
「私はルシファ^—でございます魔王としては第一位にあり魔神とし ても最高位クラスにありますの。セラフとしてもかつては第一位に居た 事もありましてですね……。つまりはSランク級冒険者程度の力しかな
い分際で……あまり調子にのるなこの下郎が—...................っと、ま
あ そうレう寧てこさVます」
「ああ、そりゃあ……正直すまんかったな」
「ははっ....それでもタメロですの?」
「生憎と性分でな」
そこでルシファーは本当に嬉しそうに口元を吊り上げた。
「なるほどこれは面白い……特別に許可しましよう。タメロでよろし くってよ? で、私には聞きたい事がありますの」
「何をだ?」
「貴方達は魂の契約について、勢いだけで言っちやっている部分はある んでしようけれど……その本当のところの……本心をお伺いしたいんで すの。本当に寿命を半分捧げる覚悟がおありでしたの?」
俺は少し考え、素直に思うところを言った。
「仮に寿命が半分になったとして、時間はそれなりにあるはずだ。俺が 守ってやれなくても……守らなくちやいけない女が、最低でも単独で生 き残れる事ができるように俺が仕込んでやれるだけの時間は……多分あ る。だからそれでいい。どの道……数年位か? 寿命が半分になってそ んな時間すらないんだったら、元々俺の寿命は極端に短いって事なんだ ろうしさ」
「で、そこの姫君はどう思われますの?」
問い掛けられたリリスもまた、少し考えてこう言った。
「..リユ■—トのいない世界で長く生きても仕方がない。リユ■—トのい
ない人生を無駄に長く生きる位なら……私の命で何かができるなら。私 は……リユートのために喜んで死ぬ」
そこで堰を切ったょうにルシファーは笑い始めた。
笑い過ぎで腹筋が痙攣したのだろう。笑い声もおかしくなり、その場 でルシファーは床に崩れ落ちてのたうち回り始めた。
「クハつー.クハハつー.フつ……フつ……ハハハハハハハつー.ウハ ハハハハハハハハハっ—.」
「いくらなんでも笑い過ぎだろ……」
呆れ顔の俺に、笑い涙を浮かべながらルシファーは言った。
「ハハっー.ハハハハハッー.これはまた面白いですの!見事な覚悟
ですっ!. 時に.....そこの村人さん?」
「何だ?」
「中々に面白い境遇と道を歩んできていますね?」
「なるほど。お前もまた事情通の一人……か」
「..そりやあまあ、見れば分かります。最上級神ですから」
記憶を読まれるなんて何年ぶりだよオィ。
俺の魔力数値ですら障壁として完全に意味をなさねーか……。
本気でハンパねーな。
「ああ、一つ訂正しておきましようか。私、記憶は5ますけど、それ だけじやあなくつてよ? 私、ずっと貴方を注視しておりましたの」 「どういう事だ?」
「いつかはここを訪れるとは思つておりましてね……まあ、ここを貴方 が素通りする訳もないでしようと」
「釈迦の掌の上って奴か」
「まあ、私からすればお猿さんも村人さんも大して変わりませんね」 「西遊記を知ってるってか……」
「まあ、暇人ですから。それで私が今回気にしていたのは、貴方がそこ の姫君をどう扱うかということでしたの。もしも私を楽しませてくれる
のなら多少のサ^~~ビスもしてあげようかなとも思つていたところでし てね」
「で、お前が見た俺の……結果は?」
「いや、だから私は今、心の底から笑いましたでしよう?」
「そうだな」
「うん。実に面白いですの。こんなに笑ったのは久しぶりで……全 く...見ていて飽きないです」
「無理なら別にいいが……寿命を奪うのはやめてくれねーか?」 単刀直入に言ってみた。
こういう輩には腹芸は通用しないし、素直に聞いた方が成功率も高い だろう。
「あ? 寿命? 今回は免除にしましよう。所詮は……試練の挑戦者に 対するただの嫌がらせで暇つぶしなだけに過ぎないんですから。葛藤に 悩む虫けらというものは中々に面白いですが」
なるほど。
相当に素敵な性格をしているようだ。
伊達に熾天使最上位でありながら、唯一神相手に反旗を翻しちやいね えな。
「非常にありがたい事なんだが、なんで俺らには免除なんだ?」
あっけらかんとした表情でルシファーはこう言った。
「貴方達なら長生きしてもらった方が余程面白いモノを見させてもらえ そうだからですかね。ああ、後、さっき二人で剣を戻しましたよね?」
「ああ」
「その関係で貴方達の魂は一部溶け合ってしまいました。本来であれば 貴方の予想と全く異なり、普通に二人ともきっちり寿命が半分となり、 年齢として三十〜四十歳位で死ぬ予定でしたが……まあ、今回はそこは 気にしなくてもよろしゆうございます」
「一部が溶け合った? どういう事だ?」
「具体的に言うと貴方達の霊的能力の分野……M Pと魔力、そして魔術 式を現世に具現化する際の高次元への接続チャンネルが統合されます
の」
「サッパリわからん」
「まあ、要はそちらの姫君……リリスちやんは貴方のM Pを使用して魔 法を今の何倍も撃てて、そして貴方はリリスちやんの脳味噌で魔術の演 算をアウトソ^—シングしていただいて普通に高度な魔法を扱えるよう になれるって訳ですの」
何故にリリスがちやん付けなのだろうという疑問はあるが、なるほど それはすごく分かりやすい。
っていうか、それって……と、俺はここから先の一年間の修行方針を 瞬時に書き換えていく。
とりあえず、仙人……劉海のクソジジィのところにダッシュして仙 術を覚えるところから始めようか。
「へへ、そういう話なら俺は村人の中で最強じやなくて、本当に全人類 の中で最強になれるかもしれねーな」
「ところで本題に入ってよろしいですの?」
「本題?」
「貴方は何のスキルが御所望でしようか?」
「おい、まさかお前……俺に選ばせてくれるのか?」
絶句する俺に、ルシファーはニコリと頷いた。
「私にすら、貴方に最適なスキルは分かりません。ならば、現存するス キルの中で貴方の望むスキルを与えるのが一番早いでしように?」
マジかよおい。
現存する全てのスキルときましたか。
正直、出来過ぎた話だが俺は即答した。
「神喰らいのスキルだ」
「ふむ。スキル強奪でも経験値十倍でもなく、あるいはステータス三倍 でもなく……神喰らいでいいのでしようか?」
「スキル強奪って言っても雑魚スキルをどんだけ盗んでも意味はねえ。 経験値十倍も、俺と同じ領域の存在がいなくなれば経験値自体が手に入 らなくなる。そしてステータス三倍……これは少し魅力的だがな」
「なるほど。これから先も無茶な道を歩む気なようですね。貴方にスキ ルを与えてしまうと、近い将来……私も喰らわれてしまうかもしれませ ん」
「最強を目指してるもんでな。とりあえず向こう一年で下級神を狩りま くる。当面の最終目標はベルゼブブにしておくよ」
「はは、上位魔王の一角べルゼブブでとりあえず……ですの」
そしてルシフアーは手をパンと叩いて言葉を続けた。
「せいぜい、貴方に同化されないように私も気を付けましよう。いやは や、貴方と話ができて本当に良かったですわ」
---そぅして俺は『神喰らい』のスキルを得る事になつた
数日後。
陽炎の塔を攻略する一人の若き勇者がいた。
そのダンジョンは攻略難易度はAに認定されており、勇者の試練とも 言われる高難易度ダンジョンだ。
高ランク冒険者を引き連れて、彼女はまるで無人の野を行くかのごと く、物凄い勢いで塔を攻略していく。
その速度と言えば本当にとんでもないもので、歴代の勇者の中でも ぶっちぎりの最速記録だ。
それもそのはず、そのダンジョンの罵は全て解除されており、無機物
で糖成される魔道生物------ガーディアンも軒並み破壊された後だったの
だ。
困惑した表情で彼女は聖剣の間へと迪り着く。
聖剣を握り、狼狽を隠せない風に眩いた。
「……本当に……これ聖剣:••••? ってか……試練が何もな
い...? 一体全体.....どういうコト?」
そのまま聖剣を引き抜いた彼女は天井を見上げる。
そしてやるせない気持ちを天井にぶつけるように大きな声で叫んだ。
「これじやあ....バ^—サ^—カ^—モ^—ドを習得した意味がないじやないの
おおおぢおおおおおおお------------
そんなこんなで——
——戦こ女の、何とも言えない怒りの咆哮が陽炎の塔に鳴り響いたの だった。
幕間〜図書館の司書の独白後編〜
あれから----
黒髪の少年と水色の髪の少女は、私に龍王の大図書館への就職を斡旋 してくれた。
これが私が図書館の司書へと就職した経緯だ。
別に冒険者稼業を辞めなくても良かったのかもしれない。
けれど...リリス----あの少女の純粋な睦を見て思った事がある
——女ながらに剣術道場に通い始めたあの時。
最初は純粋に強くなりたいから剣を習い始めた。
で、いつしか私は強くなった。
後輩や弟子。
守るべきものもできて、更に腕を磨く理由もできた。
私の師匠はかつてAランク級上位の剣聖だったが、当時は既に高齢 で、実質的には私が主席師範として道場最強だった。
そんな時に現れたのが、Sランク級の賞金首である東方の侍だ。
力を求めるあまりに、魔物であろうと人間であろうと構わずに、経験 値を求めるために大虐殺を行う……そんな奴だった。
道場破りでみんなが殺されて……。
元々、奴が狙っていたのは師匠だった。
私が一番強い事は奴は知らなかったょうで……奴の太刀筋を見た瞬間 に、敵わないと悟った私は弱者を演じ、相手の油断を誘って致命傷を避 けた。
結果、私は虫の息の状態で助かり、一命をとりとめた。
兄弟子や後輩、教え子達。全てが血の海の中に転がっていて——その 後、私が剣を取る理由は憎悪と怒りに押しつぶされた。
もう二度とあんな思いをしたくないから、私は更なる力を求めた。
陽炎の塔に挑戦し、絶対的な力を得た。
復謦も、果たした。
それからも私は力を求めて強者を屠り続けてきた。
何故なら、あんな思いは絶対にしたくないから。道半ばで消えてし まつたみんなの分も、誰よりも強くならなくちやならなかつたから。 そして私は青臭い程に純粋な瞳の輝きを持つ、少年と少女に敗れた。 彼と彼女を見ていて思った事がある。
--------あの日0
「まあ、お前にも色々と事情があつたんだな」
地面に這いつくばる私に、少年がそぅ言葉を浴びせた。
「結局、最強を目指す事が、擬態を使ってまで生き延びた……私なりの 師匠やみんなへの償い……だったのかねえ……? でも、今はその方法 は間違いだったような気もするよ」
「だったらさ、違う形で償えばいいんじやないか?」
「違う形? それはどういう形なんだい?」
そこで少年は首を左右に振った。
「それは俺の考えるこっちやねーだろ? お前がこれから先に考えてい く事だ」
「まあ、そりやあそうなんだろうね」
そこで水色の髪の少女が私にこう言ったのだ。
「……償いや弔いの方法なら本に書いてる。一番……貴方が適切だと思 う方法の記載を探してみればいい。驚くくらいに暇だから……時間はあ る」
--------と、そんな感じで私は図書館に就職する事になった。
今日も今日とて、本を読む傍らに、図書館の中庭で剣の腕を磨く日々
だ。
「お嬢ちやんの言うように本当に暇で……時間も大いにある」
これから先、何をするにしても一度自分を見つめなおすために、こう いう時間は絶対に必要だったんだろうとは思う。
里を訪れた時から金線が五本の服も貰い 一か月前の祭------------トーナメ
ントでは龍王に負けて決勝敗退。
おかげさまで国賓待遇で迎えられているし、居心地も悪くない。 そうして、私は今日も龍王の大図書館で司書として受付席に座ってい る。
陽炎の塔の事件から、いかほどの時間が経過したのだろうか。
--聞くところによると水色の髪の少女はリユ^~~ト=マクレ^ —ンと
共に、龍魔術を行使して八面六臂の活躍を見せているらしい。
そんな彼らの情報を伝える書物が入荷するたび、何故だか我が事のよ ぅに笑みが止まらない。
まあ私を負かした女が世間に認められていくサマを見るのは--------------------
——気分が悪いものではない
エヒロ Iグ
時刻は夕暮れ。
一面の朱色に、若干の藍色が混じり生ぬるい風が吹いた。
草原に東西に延びる長い長い一本道。
この街道は北西の港町と大陸内部を結んでいて、海路経由の交易品 や、あるいはサバやサーモンなんかの海産物の燻製などの運搬に使用さ れる。
逢魔が時とは良く言ったもので、陽が沈むここから先の時間は盗賊や 魔物が闊歩する時間だ。
行商人は早々に宿場街に腰を落ち着けていて、街道に人通りは皆無。 こんな時間にぅろつき回る人間は、よほどの強者か、あるいは盗賊以 外にありえない。
「..勇者:コーデリアHオールストンとお見受けする」
「ん? いかにも......そうだけど?」
コーデリアは訝し気に質問に応じた。
まあ、怪訝に思うのも無理はない。
何しろ、質問してきた黒のローブを身にまとった少女は鼻から上と頰 を隠す、アゲハ蝶みたいな形の仮面を被っていたのだから。
そこで仮面の少女-------リリスはコ^—デリアにこう尋ねた
「..私と手合わせ願えないだろうか?」
「ハァ?」
コーデリアの反応ももっともだ。
何しろ昨日、リリスに言われた時は俺も全く同じ反応をしたんだから な。
---自分の力を試してみたい。
そんな事をリリスが言い出したのは陽炎の塔から宿に戻って数日後、
つまりは昨日の出来事だった。
陽炎の塔で自信を得たのだろう。
まあ、やりたいって言うんだから特に止める必要もない。
今のリリスならコーデリアの相手としても遜色がないから、コーデリ アの強化という意味では有益だろう。
そこで俺が提案したのが身バレを防ぐための仮面という訳だ。
前回の邪龍討伐時にリリスとコーデリアの面通しは終わっちまってる から、まあ、これは仕方ない。
「手合わせね……また売名の類?」
「……違う。これは自分自身に対する……試験」
「ふーん。まあ結局はアンタも自分の名前を上げたいだけの命知らずな んでしよ? 悪いケド……アンタみたいな手合いが絡んでくるのは私の 日常なのよね。正直、付き合いきれないよ? 話し合いで解決できな ぃ?」
コーデリアが肩をすくめ、そしてリリスは口元に笑みを浮かべた。
「……やはり、甘い。戦闘を開始するのに貴方の了承など……必要ない といぅのに」
「え? 何を言って......?」
コーデリアの背後に百近い炎の球が浮かんでいた。
リリスは無数の汎用攻撃魔法をいつの間にか展開させていたのだ。 「汎用の中では上位魔法……それぞれは大したことはないけど……この 数は尋常じやないわね」
コーデリアは剣を鞘から抜いた。
と、同時にリリスは指をパチリと鳴らした。
すると一斉にリリスの展開させていた魔法がコーデリアに襲い掛かっ てぃく。
コーデリアは背後に振り向き、数回----------宙に向かって剣を振り回す。
そこで、リリス......だけじやなく俺も絶句した。
なんせ、一振りで数十といぅ単位の魔法術式が接き消される。それが 数回行われ、リリスの仕掛けた百近い魔法は簡単に全て消されてしまっ
たのだから
「私はガチガチの近接職。だからこそ……遠距離魔法対策が必要なの よ。それが故の……神託の聖剣。効果は魔封じ」
「なるほど。聖剣は伊達ではない……か」
まあ、要は剣を振った方向に展開されている魔術式をある程度無効に してしまうというアーティファクトだ
本の知識では知っていたが、実際に見ると想像以上だった。
これまたチートな性能だな……と思うが勇者の聖剣なんだからこれ位 は当たり前か。
ぶっちやけ、サブゥエボンとしては有効っぽいので一振り欲しくなっ た。
「多少は腕に覚えがあるみたいだけど、まあ、見ての通りにアンタに勝 ち目はないから」
そこでリリスは再度口元に笑みを浮かべた。
「……先ほど甘いと指摘したはず。何故に自分が優位だと思い油断す
る? 何故にこれに気付かない?」
「どういうコト?」
「..足元がお留守ということ」
地中から白色に輝く光のワームが飛び出してくる。
そしてコーデリアの両足に絡み付き、彼女の足の自由を奪う。 バランスを崩したコーデリアは地面に倒れ、そして更に光のワームが 地面から飛び出してきた。
足の次はコーデリアの両手に絡み付き、手錠のように束縛を完了させ
た。
「ちよつと!?何よ! 何なのよコレつ!?」
これは本当にコーデリアの対応がお粗末だ。
リリスはこれを仕掛けるために煙幕として百の魔法を展開させてい
た。
そして、それと同時に地中に束縛のワームを放つていたのだ。
これはバィンドと呼ばれる魔法で、汎用魔法の一種だが、一般には知
られていない。
と言うよりは正確に言うのであればロスト•マジックに分類されるシ ロモノで、魔法大学院の図書館の奥深くであれば名前だけは記されてい る書物もあるかもしれない。
まあ、要は龍の里の図書館でも保存状態が解読ギリギリになっていた ような古い魔術書に載っていたような……古代に失われた魔法だ。
「くつそ....フンつ!」
とはいえ、コーデリアは脳筋中の脳筋だ。
解呪もクソもなく、ただ腕力で光の束縛を引きちぎった。
「さすがにちよつと油断した..........つて....えつ?」
コ^—デリアの周囲を身長百五十センチ程度の土塊の塊----------------ゴ^^レムが
三十体程囲んでいた。
これも当然、リリスが作り出した魔道生物だ。
「駆け出し冒険者ですら話にならないような低レベルのゴーレムを大量 生成して.....どういうつもり? 何か狙いでもあるの? まさか、それ
で私の足止めでもさせようってんなら、とんだお笑い種ね?」
「……驚いた」
「驚いた?」
「..無数のゴーレムに足止めをさせようとしていたことを、貴方のよ
うな脳筋に見抜かれるとは」
「アンタ……本気で言ってるの? あれだけの数の魔法を展開させるこ
とができるような実力者が.......本当にそんなコ^~レムで私をどうこうで
きると思ったの? つていうかアンタ.........本気出してないよね?」
「..ふふ。まあ確かに私は全力を出してはいない。何故なら--------------私
はこれから一年程度、私以上の相手に囲まれる生活となる。圧倒的戦力 差の上でどう立ち回るか本気を出さない上で貴方と戦いそして制 す。それ位の事ができなければ……自分を試すための試験にはならな ぃ」
そこでリリスは右手の掌を突き出し、ジャンケンで言うところのパー を作った。
r...5....4....3....j
一本一本、数が減る度に、開いた掌の指も一本一本折って減ってい 「カウントダウン? 何のつもり?」
「……2……1……アウト。ゴーレムの展開当初から私が貴方に何かを 仕掛けよぅとしていたのは知っての通り。そぅであれば取るべき行動 は……開幕当初から全力で剣撃によるラッシュ。それで一気に押し切 る----ただそれだけ」
「ちよつとアンタ、さつきから訳わからない.................こ.......と........
ば.......か.....り.......ア........レ....?」
力クンとコ^ —デリアは膝をついた
r何……n.............レ.......j
リリスはコーデリアの背後を指さした。
そこには香炉が置かれており、無色無臭のガスが発生していた。
「...エクス•マンドラゴラ」
そこで俺の背中にゾクリと汗が走る。
開幕早々の舌戦と術式展開。そしてロスト•マジック。見掛け倒しの ゴーレムから始まる、意図的な時間稼ぎの無駄話。
それらすべてがフェィク。
で---本命はコレだ。
コィツ……本気で暄曄が上手いつ!
正直、俺も驚いた。
戦法自体は俺のバクリではあるが、そこに至るまでの過程が……とん でもない。
全ての行動がそこにつなげるためだけの布石。
龍魔術も使わずにリリスがここまでコーデリアを圧倒するとは夢にも 思わなかつた。
「……これで生殺の与奪は私に委ねられた。やはり凡人でも……戦い方 次第では勇者相手でも一本は取れる。あるいはSランクのその先の領域 でも……立ち回り次第では……何とか……」
が、そこでコーデリアが最後の意地を見せる。
彼女の瞳に朱色の炎が灯った。
「..バ^—サ^—カ^—モ^—ド...まさかこんなところで使う寧になろうと
はね? っていうか、欲望を折伏できる……いや、脳内麻薬の分泌を自 在に操れる私にマンドラゴラなんて通用しないつー.」
おいおいコ■—デリア.....マジかよ。
それって禁術じやねーか……。よっぽどの状況じやなければ人間相手 に使っていい物じやねーだろうに。
いや、事情を知らないコーデリアからすれば、今は命の危機か。
「私の全てを貴方にぶつけてあげるわ。タィムリミットは一分! 音速
剣舞....受けきれるものなら受けきってみなさいっー.」
コ^―デリアは立ち上がり ロレツもしつかりとしている どうやらエクス•マンドラゴラの効果も打ち消されたようだ。
まあ、そりやあそうだ。
コーデリアの使用している技は、そもそも精神の乱れの全てを制御下
に置いて、魔力を暴走させてなおかつ無理矢理に制御させるといぅ術な んだからな。
幻覚成分によるトリップもまた、脳内麻薬やらの結果によって起きる モノではそれも当然にして制御下に入る。
そこでリリスは杖を高々と構える。
「..コ^~デリア=オ^~ルストン私もまた貴方に全てをぶつけたく
なった」
リリスの額に第三の瞳が開く。
龍人化だ。
瞬時にリリスの杖に高密度のエネルギーが集積されていく。
「何……コレ……? 何なのこの魔力密度……? 馬鹿げている……こ の周辺にSランク級の冒険者……あるいは討伐難易度Sみたいな魔物は 存在しないはず……」
見る間にコーデリアの表情が蒼ざめる。
全MPを引き換えにするリリスの極大魔法だ。
今のコーデリアではまともに喰らえば、下手すれば即死する可能性す らあって、この一撃だけを言うならSランク級冒険者でも十分に通用す るだろう。
「これじゃあ私も手加減してらんないわね……できれば四肢欠損位でと どめたいけど……最悪……死んでも恨まないでね?」
「……それはこちらのセリフ。勇者相手に手加減できる道理はない。私
の全力を.....受け止めてみせろ-------コ^—デリアHオ^—ルストンっ!」
どうやら二人とも試合ではなく死合いをやる気マンマンのようだ。
ってかリリス......。
「このバカ……金色咆哮をぶっ放す気かよ!ってか、どっちか死ぬ勢 いだろこれ!?ちよっと待てお前等っ--------------」
全力で俺は駆け出した。
音速を突破し、まずはリリスの背後に回る。そして延髄に手刀を一
撃。
リリスはその場に糸の切れたマリオネットのよぅに崩れ落ちた。
そして次に、俺はコーデリアの背後に回ろぅとして---------------コーデリアは
俺が背後に回ると同時に、後方に向き直った。
くつそ、さすがに近接職だな。
俺のスピードをギリギリに目で追えて、対応までできるみたいだ。 突然の乱入者にコーデリアは警戒心を持って剣を構えるが、彼女は俺 の顔を確認し、すぐさまに弛緩した空気に包まれた。
「えつ? リユ......トっ....そげぶつ!」
更にもぅ一度、ステップを踏んで背後に回り延髄に手刀を一撃。 「戦闘中に油断するなよ馬鹿野郎つ!」
そして俺は頭を抱える。
とんでもないレベルの美形の戦こ女二人が地面に倒れている。
二人とも、俺が殴り倒した訳で.............なんだか俺が凄く悪いみたい
だ。
「それもこれも全部……こんな街道で殺し合いを始めようとしたお前等 が悪い」
自分への言い訳にも似た言葉を吐いて、俺は肩をすくめた。
そt力ら----
俺はコーデリアを宿場街まで運び、宿屋の兄ちやんに金を握らせて個
室のベッドまで運ばせた。
そしてリリスを背負ったまま数時間歩き、別の宿場街で眠りについ
た。
そして翌日。
朝食を終えた俺達は宿を出る。
「..さあ行こうリユ—貴方は次に私をどこへ連れて行ってくれ
る?」
「そういえば……お前は龍の里に帰るんじやなかったのか?」
フルフルとリリスは首を左右に振る。
「……いや、私は行く。貴方と共にこの道を行く」
「しかしお前……実は暄曄が上手かったのな?」
そこでリリスは心外だという風に露骨に顔をしかめた。
「……あれは喧嘩が上手い……ではなく、事前に作戦を立てていただ
けリュ^—トから聞いていたコ^—デリア=オ^—ルストンの人となりそ
して私の知っているコ^—デリア=オ^—ルストンの戦力.............色んなことを
考えた上での作戦。そしてそれがハマっただけ」
「なるほどな」
「……そして、それはリュートが龍の里に現れる前からずっとずっ と……強くなるためにしていた事のはず。現状を分析し、方法を模索し、 そして覚悟を決めて突き進む。ただそれだけの事」
「未来は定められてはいない。生まれながらに与えられた境遇や才能、 そして能力。そこにはやはり格差はあって、それは絶望的な差でもあ る。でも、それでも……やり方によっては……本当にそれは難しい事か もしれないけれど、でも……やり方さえ間違えなければ、必ず絶望的な 未来を変える事はできる。リユートを見ていてそれを私は学んだ」
「別に俺は大した事はしてねーぜ?」
「ただの村人がSランク級に到達し、その更に上の領域を当然の如くに
視野に入れている。これを才能を持たぬ私達の、目指すべき稀有なる成 功例以外の何物であると捉えれば良いのだろう?」
しばし考え、俺は微笑と共に頷いた。
リリスの言う通りだ。
実際に俺は未来を変えている。
前回の、あの時、モーゼズに殺されると定められていた未来は変え た。
あるいはコーデリアの背中を追いかけるだけの未来を変えて……俺は 今、ここにいる。
「ああ、そうだな」
「……レベルでも龍人化でも龍の秘術でもなく、一番大切なのはその心 構えと……覚悟。そういう意味では私は図書館で籠っていた時の私とは 違う」
「うん、そうだな」
「..感謝している。そのことに気付かせてもらえたことに」
そこでリリスはしばし押し黙った。
「..私の扱う魔法とそして知っている常識は全て本から学習したも
の。だが、感謝の気持ちを伝える術は……どの本にも書いていないの で……残念ながら私は持ち合わせていない……不器用ですまないと思 う」
そう言って、リリスはこの世のものとは思えない程に愛らしい表情で 笑った。
「..リユ1ト.....ありがとう」
「どういたしまして」
「..うん」
「後な、リリス?」
「何?」
「感謝の気持ちはちゃんと伝わったぞ」
「..うん」
俺達の前に広がるのは地平線まで続く一本道。
リリスは頰を染めながら俺に手を差し出してくる。
「……行こう。一緒に」
「そうだな」
そうして俺はリリスの差し出す手を取った。
しばらく歩くと、陽気な風が彼女の水色の髪をさらりと撫でる。 愛らしく、そして可憐な彼女の笑顔に負けないように、街道に咲くコ スモスが満開の花を咲かせていた。
あとがき
筆者の白石新と申します。今回は完全描き下ろしです。ネットには 載ってません。
おかげさまで小説1巻の売り上げも好調のよぅです。
KAD〇KAWA様の漫画月刊誌であるドラゴンエィジ様で漫画連載 も始まりました
思えば、昨年の2月にネットに小説を投稿した際にはここまでトント ン拍子に話が進むとは夢にも思わなかったです。全てはネット版から応 援してくれている読者様、そして書店で手に取ってくださった読者様の おかげです。
本当にありがとぅございます。
さて、2巻の内容です。
ズバリ、そして再度言いますと、ネット版は完全に無視で完全描き下 ろしです。お得です。
身も蓋も無い言い方をしますと、買っていただけると長期シリーズ化 する可能性も高まりますので是非ともお願いします。複数買いもオッ ケー、いや是非とも……おいちょっと担当編集何するやめろ
........コホン。と、半ば冗談半ば本気のアレコレはおいといて、
そんな感じで、ネット版のエピソードを極々一部流用していますが全体 の95パー以上の描き下ろしとなります。お得です。
ネット版では既にリユートは笑える位に最強になっていますが、2巻 時点では人類最上位クラス程度です。ネット版では完全にカットとなっ ていた、如何にしてリユートがぶっちぎりの最強になったのか……とい ぅ辺りがメインエヒソ^~ドとなつています
前巻と同じく、悪•即•ス力っと……斬!
コ^—デリアとリリスのダブルヒロインでの、すったもんだもあったり しますが基本的にはその流れでいきます
最後に謝辞です。
ィラスト担当の白蘇ふぁみ様。今回も美麗なィラストありがとうござ います
担当編集のo様。いつもこちらの無茶振りを可能な限り実現してくれ てありがとうございます。
本当に色んな事まで何から何まで、オッケーであれば言う事聞いてく ださってありがとうございます。そしてダメなら一蹴で、そして瞬間で ダメって言って下さるあたりも素敵です
そして何より読者の皆様方。
おかげさまで2卷ないし3巻での早期打ち切りの心配はしないですみ そうです
全ては皆様のおかげです。ありがとうございました。
G C ノベルズ
村人ですが何か? 2
著者以51ぁ!^?
イラスト白蘇ふあみ 装丁 横尾清隆
発行株式会社マイクロマガジン社
〒1o 4-0 o 41 東京都中央区新富1-3-7ヨドコウビル 編集部tel03-3551-9563\fax0 3-3297-01 8 0
販売部tel03-3206-1641\fax0 3-3551-1 0 8
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著作権 ©2017 Shi— Arata
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当ファィルは、GC ノベルズ『村人ですが何か? 2』 (2017年3 月3日初版発行)に基づいて作成しております。
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本書は小説投稿サィト「小説家になろぅ」(http://syosetu.com/)に掲載されていたものを、加筆の上書 籍化したものです。
この物語はフィクシヨンであり、実在の人物、団体、地名などとは一切関係ありません。
※本作品の全部あるいは一部を無断で複製•転栽.配信•送信したり、ホームぺージ上に転栽する ことを禁止します。本作品の内容を無断で改変、改ざん等行ぅことも禁止します。また、有償.無 償にかかわらず本作品を第三者に譲渡することはできません。
too-noy 2016-3-31 12:58
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